・救急医療体制検討会小委員会報告


                         (平成二年十二月五日)
1 はじめに

  本委員会は、本年八月十三日にとりまとめられた「救急医療体制検
 討会中間報告(救急患者の救命率向上のために−DOA患者を中心に
 緊急に取り組むべき方策について−)」の中で、今後の検討課題とさ
 れた「救急隊員の行う応急手当の範囲の拡大及び救急医療に係る新た
 な資格制度」について検討するために、去る十月一日に設置された。

  本委員会は、その後五回にわたり精力的に審議を重ね、今般、以下
 の通り検討結果をとりまとめた。

2 救急現場・搬送途上における医療の確保

  わが国においては、初期、二次、三次の救急医療体制は概ね整備さ
 れたところであるが、救急現場・搬送途上(以下「搬送途上等」とい
 う。)の医療は、医師等医療関係者が関与することは少なく、搬送途上
 等における医療の確保や救急隊員の応急手当の範囲の拡大を図ること
 が緊急の課題となつている。

  救命率向上のために搬送途上等において必要な医療の内容として
 は、血圧測定、心電図検査、器具の使用による異物除去等、さらに
 は、除細動、輪液、気管内挿管等の高度の応急処置が考えられるが、
 これらの処置には総合的な医学的知識・技能や各種の医学的判断を要
 するなど高度なものもあり、基本的には医師が関与していくことが最
 も望ましく、これらの処置を搬送途上等においても提供できるような
 体制の整備が必要である。

  このため、中間報告において、医師や看護婦・士が直接救急現場に
 出動できるようなドクターカー制度の整備・充実が提言されたところ
 である。

  ドクターカー制度を円滑かつ効果的に運用し、搬送途上等の医療を
 充実させるためには、救急医療に携わる医師、看護婦・士を十分に養
 成・確保することが最も重要である。しかし、搬送途上で医師が十分
 な医療行為をなすためには診療補助を行う者の存在も不可欠であるの
 で、救急医療に関する専門的な教育訓練を受けた診療の補助を行う者
 を養成していくことも必要である。これにより、医師が直接処置を行
 えない場合には、これら専門的な教育訓練を受けた者が、ホットライ
 ン等を活用して、医師と一体となつて救急医療の充実を図つていくこ
 とも可能となる。

3 救急隊員の行う応急手当の範囲の拡大

  救急隊員の応急手当については、現在、百三十五時間の救急業務に
 関する講習を前提に昭和五十三年の消防庁告示により、比較的簡単で
 短時間に行うことができ、かつ、復雑な検査や器具の操作を必要とし
 ない範囲で行われているところである。

  しかし、国民の疾病構造の変化等を反映して、搬送途上等において
 呼吸・循環不全に陥る患者が増大してきており、交通事故等の増大に
 より今後ますます救急需要が高まつてくると見込まれるが、現行の応
 急手当の範囲ではそれらすべてに対応することは困難な状況にある。
 このため、最近の医療機器等の進歩を踏まえ、手当を行つても生命に
 重大な危険を及ばすことのないようなものに限定して、応急手当の範
 囲を拡大する必要がある。

  その場合、現在の救急業務に関する講習に加え、相当程度の教育訓
 練を行うことが必要であり、こうした教育訓練を受けた救急隊員に限
 つて、できる限りホットライン等の活用による、医師の指導・助言の
 下で、別紙1の応急手当を追加して行うことが必要である。

4 新たな資格制度の創設

 (1) 新たな資格制度の必要性

  心肺停止状態患者の救命率の向上のために必要性の高い除細動、輪
 液、気道確保の高度の応急処置については、各種の医学的判断を要
 し、かつ、処置による二次的障害発生の危険性もあり、総合的な医学
 的知識及び技能が要求されるものであることから、新たな国家資格制
 度として救急救命士制度を創設し、この資格制度による厚生大臣の免
 許を受けたものが医師の指示の下に実施する必要がある。

 (2) 新たな資格制度の概要

   @ 救急救命士の業務
    ア 救急救命士は、救急救命士の名称を用いて、医師の指示の下
     に、救急現場から医療機関に搬送するまでの間に、救急救命処
     置を行う。
    イ 救急救命処置のうち、別紙二の処置については、心肺停止状
     態にある患者に限定して行う。
    ウ 救急救命士でなければ、救急救命士という名称を用いてはな
     らないこととする。

   A 免許
     免許は、国家試験(以下「試験」という。)に合格した者に対
    し、厚生大臣が与える。

   B 試験
    ア 試験は、救急救命士として必要な知識及び技能について厚生
     大臣が行う。
    イ 試験の受験資格は、高校卒業者であつて、学校又は養成所に
     おいて二年以上救急救命士として必要な知識及び技能を修得し
     たものを基本とする。

5 おわりに

  搬送途上等における医療を充実するためには、ドクターカー制度に
 より医師が直接関与することが最も重要であるが、医師の確保等の問
 題もあり、その対応策として、本委員会では相当程度の教育訓練を前
 提とした救急隊員の応急手当の範囲の拡大と新たな国家資格制度の創
 設について検討してきたところである。本検討結果を踏まえて、厚生
 省をはじめ関係行政機関においては、これらの実現に向けて早急に法
 的整備等の措置を講じることが必要である。

  また、併せて中間報告に盛り込まれた国民に対する基礎的な応急手
 当の普及等、緊急に取り組むべき方策についても積極的に取り組むこ
 とを改めて提言する。

別紙1
 (1) 聴診器の使用による心音、呼吸音の聴取
 (2) 血圧計の使用による血圧の測定
 (3) 心電計の使用による心拍動の観察及び心電図伝送
 (4) 鉗子、吸引器による咽頭、喉頭部の異物の除去
 (5) 経鼻エアウェイによる気道確保
  (追加して検討すべき事項)
 ・パルスオキシメーターの使用による血中酸素飽和度の測定
 ・ショックパンツの使用による血圧の保持及び下肢の固定
 ・自動式心マッサージ器の使用による体外式胸骨圧迫心マッサージの
  施行
 ・鼻カテーテル、フェイスマスク、ベンチユリーマスクによる酸素投
  与など
別紙2
 (1) 気道確保
  下記の器具を使用して、有効な気道の確保を行う。
  @ Safarのエアウェイ
  A ラリンゲアル・マスク
  B 食道閉鎖式エアウェイ など

 (2) 呼吸管理
  下記の方法により、気道確保を行つた器具を通じて酸素の投与、呼
  吸管理を行う。
  @ バッグ・チューブ法
  A レスピレーター
 (3) 循環管理
  心室細動状態の時、半自動式除細動器を使用することにより心室細
  動を除去し正常のリズムに戻す。
 (4) 静脈路確保
  下記の静脈に、静脈内留置針を使用して末梢静脈を確保し、輪液を
  行う。
  (上肢)@手背静脈 A橈側皮静脈 B尺側皮静脈 C肘正中皮静脈
  (下肢)@大伏在静脈 F足背静脈


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