・消防機関の行なう救急業務に関する答申

                   昭和三十七年五月四日
                  消防庁長官あて 消防審議会会長

  昭和三十六年十月二十三日付諮問に基づき、消防機関の行なう救急業
 務について別紙のとおり答申いたします。

 (別 紙)
  本審議会は、消防庁長官の諮問に応じ、消防機関の行なう救急業務の
 あり方について慎重に検討し、審議を重ねてきた結果、次の構想に基づ
 く救急体制の確立が現下の急務であるという結論に達したので、ここに
 これを答申する。

  よつて、消防庁においては、この構想に基づき、すみやかに消防機関
 の行なう救急業務の大網について法制化をはかり、かつ、所要の財政措
 置を講ずる等この構想の具体的実現に努められるよう要望する。

    消防機関の行なう救急業務の整備に関する構想

 第一 趣旨
   およそ国民の生命及び身体をその危険から救護する業務には、火災
  その他の災害の場合におけるものと災害以外の事故の場合におけるも
  のとの両者が考えられる。
   前者については、消防法の規定による消防固有の業務に属するもの
  であることはいうまでもないが、後者については、それが市町村の業
  務であることは明らかであるとしても、消防固有の業務に属するかど
  うかについては未だ必ずしも明らかとはいえない。

   しかしながら、消防機関の特殊な業務の体制と機能とに基づき、歴
  史的になんらかの程度、態様において、これら災害以外の事故につい
  ても、事実上消防機関がその業務を担当し、今日までに相当の実績を
  あげてきた事実は、否定しえない。

   このような実態にかんがみ、人命尊重の本義に従い、この自然発生
  的な義務に一定の基準を与えてこれを制度化することにより、その円
  滑な発展をはかることが現下の急務であると考えられるものである。

 第二 基本的方針

  1 国民の生命及び身体をその危険から救護する業務には、災害又は
   その他の事故に際し、要救護者を安全な場所に救出する業務
   (Rescue Service)と要救護者を医療機関に搬送する業務
   (Ambulance Service)
   とがあるが、ここでは当面、後者の業務(以下「救急業
   務」という。)のみを取り扱おうとするものであること。

  2 消防機閑の行なう救急業務について整備をはかるものであって、
   他の諸機関、団体等が任意に行なう救急業務について、あえてこれ
   を排除しようとするものではないこと。

  3 救急業務の対象となる事故の範囲については、一応公共的な場所
   等におけるものに限定すること。ただし、その他の私的な場所等に
   おけるものは、市町村の事情により、例外的に採り上げることのあ
   ることを必ずしも否定するものではないこと。

  4 救急業務は、その性質上すべての市町村において実施されるべき
   ものであることはいうまでもない。ただし、ここでは一定の装備を
   有する救急隊によって行なわれる救急業務を採り上げる関係上、こ
   のような意味における救急業務を行なうべき市町村の規模並びに設
   置すべき救急隊の数及び装備等については、消防力の基準に見合う
   装備等の充実も未だ十分でない現段階において、一挙に理想的なも
   のを目指すことは必ずしも適当でないこと。

  5 救急業務に従事する職員については、業務の性質上人命尊重の見
   地から、十分に厳選し、かつ、訓練により所要の能力をふ与する等
   慎重な配慮が必要であると考えられること。

  6 救急業務に要する経費については、国において相当の財政上の措
   置が必要であると考えられること。

  7 救急業務を円滑に行なうため、関係市町村間、同一市町村内の関
   係機関、団体間の相互援助及び総合的運営について、特別の措置を
   講ずる必要があること。

 第三 要領

  1 救急業務の定義

   イ 救急業務とは、火災その他の災害又は屋外、公衆の出入する場
    所若しくは多数の者の勤務する場所において生じた事故(以下
    「救急事故」という。)による傷病者を医療機関へ救急自動車その
    他により搬送する業務をいうものとすること。

   ロ 前号の事故以外の事故についても、市町村長が必要と認めた場
    合においては、救急業務の対象とすることができるものとするこ
    と。

  2 救急業務の実施

   イ 消防本部及び消防署を設置する市町村のうち、人口おおむね十
    万人以上のものは、3ないし5に定めるところに従って、救急業
    務を実施しなければならないものとすること。

   ロ イの市町村以外の市町村で、その区域内に消防カの基準(昭和
    三十六年八月一日消防庁告示第二号)第二条第一号の市街地を有
    するものは、3ないし5に定めるところに従つて、救急業務の実
    施に努めなければならないものとすること。

   ハ イ及びロの市町村以外の市町村は、当該市町村内における救急
    事故の発生の状況に応じて、出来る限り救急業務の実施に努める
    ことが望ましいものとすること。ただし、この場合においては、
    3ないし5に定める基準の一部を下回り、又は自ら救急隊を設置
    することに代えて、救急自動車等を保有する他の市町村又は機
    関、団体等との間の協定、契約等により、その業務を実施するこ
    とを妨げないものとすること。

 ニ  市町村の行なう救急業務は、市町村の消防長(消防長を置かな
   い市町村においては市町村長をいう。以下同じ)が執行するもの
   とすること。

 3 救急隊

  イ 救急業務を実施する市町村は、当該市町村内における救急事故
   の発生の状況に応じ、一定の基準に従い、1又は2以上の救急隊
   を設置するものとすること。

  ロ 救急隊は、所要の装備を有する救急自動車一台及び所要の救急
   隊員をもって編成するものとすること。

  ハ 救急隊員は、一定の資格を有する者でなければならないものと
   すること。

 4 搬送等

  イ 救急隊員は、傷病の状況によつて必要と認めたときは、応急手
   当を施すことができるものとすること。

  ロ 傷病者の搬送先たる医療機関については、出来る限り当該傷病
   者の希望を尊重することが望ましいものとすること。

  ハ 消防長は、所定の要件を備えた医療機関と傷病者の搬送につい
   てあらかじめ協定しておくことができるものとすること。

 5 相互援助その他

  イ 救急業務を実施する市町村は、協定により、相互に援助するこ
   とができるものとすること。

  ロ 救急業務を実施する市町村は、協定により、救急業務を実施し
   ていない隣接市町村の要請に応じ、当該市町村の区域に対して救
   急業務を提供することができるものとすること。

  ハ 救急業務を実施する消防機関は、当該消防機関を設置する市町
   村の区域内の他の機関又は団体で救急業務を行なうものに対し、
   その援助を要請することができるものとすること。

  ニ 救急業務を実施する市町村、関係機関及び団体は、救急業務の
   実施について、相互に情報を交換し、常時密接な連路をとるもの
   とすること。

 6 警察との連絡

   交通事故等現場保存を必要とする事故にあつては、警察当局と密
  接な連路をとるものとすること。

 7 費用等

  イ 救急業務に用した費用は、徴収しないものとすること。

  ロ 救急業務に要する経費について、国は所要の財政措置を講ずる
   ものとすること。


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