45号 p85

「救命効果検証委員会報告書の概要」

総務省消防庁救急救助課


1 救命効果検証委員会について

救命効果検証委員会は、救急救命士制度の導入効果を検証するため、救急隊が関与した心肺停止傷病者について社会復帰までの詳細な追跡調査を行うことおよび消防庁が実施している救急蘇生指標の見直し等を目的として、財団法人救急振興財団と協力して平成9年度から4年計画で調査・研究を行った委員会である。今般、「救命効果検証委員会中間報告書(平成12年3月)」に引き続き、退院後1年までの調査結果および救急蘇生指標の見直しに関する最終報告書が取りまとまったところである。 2 救命効果調査括果について(退院後1年までの調査結果) (1)ウツタイン様式に準拠した諸比較

心原性症例でバイスタンダーが心肺停止を目撃した症例のうち、初期調律が心室細動または心室性頻拍の症例についてみると、生存退院は18/158(11.4%:心室細動のみ16/154;10.4%)となっている。各国都市と比較すると、我が国は、米国の一部の地域と遜色ないものとなっているが、Bonn(ドイツ)、Kingcounty(米国、ワシントン州)、Helsinki(フィンランド)などの地域より低い傾向にある(表1)。

(2)バイスタンダーCPRの救命効果

心原性症例のうちバイスタンダーが心肺停止を目撃し、かつ初期調律が心室細動の症例について、バイスタンダーCPRの有無別に退院後1年生存をみると、バイスタンダーCPRあり10/49(20・4%)、バイスタンダーCPRなし5/105(4.8%)となっており、バイスタンダーCPRありの症例で退院後1年生存が高い傾向となっている(表2)。

心原性症例において、バイスタンダーCPRありの症例の生存退院、退院後1年生存は、バイスタンダーCPRなし症例より顕著に高い傾向にあり、バイスタンダーCPRは救命効果の向上に重要である(表3、4)。

(3)プレホスピクルケアにおける救命効果

@ 病院到着前後別心拍再開例

心原性症例でバイスタンダーが心肺停止を目撃した症例のうち、病院到着前に心拍再開した症例は、集中治療室入室、生存退院、退院後1年生存ともに病院到着後心拍再開した症例よりも高く、病院到着前に心拍再開することは救命効果の向上に重要である。 心原性疾患の心肺停止傷病者の救命効果を向上させるためには、病院到着前における応急処置の向上が重要である(表5)。

A 件の編成にみた救命効果

隊の編成別に退院後1年生存を比較すると、心肺停止傷病者の生存が最も高い傾向にあるのはドクターカー(医師および救急救命士等が搭乗)、次に救急救命士隊、救急T・U課程(標準課程〉隊の順になっている。この傾向は、心原性疾患において特に顕著となっている(表6)。

なお、本調査におけるドクターカーは、消防機関の救急システムの中で、救急隊とほぼ同様に運用されているのが特徴である。すなわち本調査におけるドクターカーでは、ほとんどの場合、救急現場に到着し傷病者を搬送中の救急隊と搬送途中にドッキングしており、ドクターカー以外の隊編成と比較して、医師による救命処置がより早く行われている。 心肺停止傷病者に対するドクターカーにおける処置と救急救命士隊の処置との違いは、ドクターカーにおいては早期に気管内挿管が実施できることおよびエピネフリン等の薬剤投与ができることにある。

3 救急蘇生指標の改訂について

救命効果調査の調査票を基に、救急蘇生指標に用いるべきウツタイン様式に準拠した調査票の検討を行った。この結果、別図のCPA傷病者記入票に基づき調査を行うことが適当であるとされた。

(1)調査票の特徴

・ウツタイン様式に準拠していること
・対象者の定義等を明確化したこと
・時系列に係る項目を設けたこと
・特定行為に係る項目を設けたこと
・バイスタンダーCPRの項目を設けたこと
・傷病者の転帰について発症後1か月、3か月、1年を設けたこと
・医師の診断した最終診断名を明記することとしたこと
など

(2)調査の目的

@ 地域の救急システムの検証
・効率的な搬送体制に関する検証
・特定行為による救命効果の検証
・救急搬送に係る各種プロトコール等の策定、検証および修正

A 救命効果に関する地域比較、国際比較

B 応急手当に関する救命効果の検証

(3)調査の集計等

CPA傷病者記入票のうち、ウツタイン様式の中核となるデータ(傷病者記入票の太線の枠)を全国レベルで集計すべきである。ウツタイン様式の中核となるデータ以外の部分については、地域の実情に応じ集計すべきである。

(4)転機に関する評価指標

短期的な評価指標としては、生存率を評価指標とし、期間は発症後3か月とすることが望ましい。また、長期的な評価指標としては、生存率を評価指標とし、期間は発症後1年とすることが望ましい。

4 救急体制の高度化に向けて

○ ウツタイン様式の転帰に関する推奨様式としては、「発症後1か月生存」、「発症後3か月生存」、「発症後1年生存」としたが、アメリカ心臓協会の推奨する「生存退院」「退院後1年生存」とは整合性がとれていない。

「生存退院」「退院後1年生存」については、調査の問題点等があることからアメリカ心臓協会等に対し、定義変更等の必要性を提案する必要がある。

○ 救急体制に関してさまざまな観点からの解析、分析に耐え得るよう、将来的には、救急蘇生指標の調査対象を拡大し、地域における救急体制の詳細な検証が可能となる調査を実施すべきである。また、その際には、電子媒体によるデータの保管と各種の検証がデータ上でチェックできるような体制が構築されることが効率的なデータ集計の観点から望まれる。

○ 転帰に関する調査に当たっては、消防機関と医療機関が協力して調査を実施することが重要であり、消防機関にとどまらず医療機関等においても調査主体としての十分な認識を有することが望まれる。

○ 調査を円滑に実施するための方策として、地域の協議会等において、消防機関、医療機関および関係成体等が十分に協議し、当該地域の救急体制の効率化、高度化に向け、調査協力や役割分担を定めることが必要である。


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