43号 p83

「救急業務高度化推進委員会報告について」

総務省消防庁救急救助課 関根 幸一


救急業務高度化推進委員会は、救急救命士による新たな救急業務の運用等救急業務の高度化の推進に伴い対応が必要な諸問題についての研究・検討を行うために設置された委員会であり、平成12年度は「適切なメディカルコントロール体制の構築のあり方」について検討し、今般、この検討結果が取りまとまったのでここに報告する。

※プレホスピタル・ケア(傷病者搬送途上における応急処置等)におけるメディカルコントロールとは、医学的観点から救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置等の質を保障することを指す。 1 報告書の要旨 傷病者搬送途上における救命効果の向上を目指し、救急救命士を含む救急隊員が行う応急処置の質を向上させ、救急救命士の処置範囲の拡大等救急業務のさらなる高度化を図るため、救急救命士に対する医師の指示体制、救急救命士を含む救急隊員に対する指導・助言体制の高度化、救急活動の医学的観点からの事後検証体制の充実及び救急救命士の再教育体制の充実を図ることが適切であり、これら3つを主眼においた環境整備を早期に進める必要がある。 2 報告書の概要 (1)救急救命士を含む救急隊員の行う救急業務の現状

○救急救命士に対する指示や救急救命士を含む救急隊員に対する指導・助言については、必ずしも迅速かつ適切な指示及び指導・助言体制が整えられているわけではないと考えられる。

○救急活動の事後検証については、制度的な基準が示されていないので、一部の地域を除いては、活動内容を医学的観点から検証する体制にはなっていないものと考えられる。

○救急救命士の再教育については、制度的な基準が示されていないので、先進的な消防本部では医療機関での実習を実施しているが、そうでない消防本部では医療機関での実習を実施していない。

2)メディカルコントロール体制の構築

@ 常時かつ迅速・適切な指示、指導・助言体制の構築

○救急救命士に対する指示、救急救命士を含む救急隊員に対する指導・助言を行う医療機関は原則として救命救急センター等地域の中核的な救急医療機関とし、都道府県の協議会で定める区域毎に、指示、指導・助言体制を広域的に構築すべきである。

○常時の指示体制、指導・助言体制を構築できていない消防本部は、現在指示を受けている医療機関に常時の指示、指導・助言を要請するとともに、当該医療機関で応需が困難な場合については、地域の救命救急センター等に補完的に指示、指導・助言に協力する体制を構築するよう要請すべきである。

A救急活動の事後検証体制の構築

○救急活動を医学的観点から検証する医師については、地域の中核的な救急医療機関の救急専門部門の責任者及びそのスタッフが担うべきである。

○将来的には、救急業務に精通した消防機関の指導者が、まず、救急活動の全般について、事後検証を実施することが望まれる。

○医学的覿点からの事後検証に資するため、当面、現行の救急活動記録の項目について必要な見直しを行うとともに、検証票の導入を図ることが望ましい。

○救急活動の医学的覿点からの事後検証を行うため、対象となる救急活動記録(検証票)を検証医師に対し、定期的に送付し、検証を受けるべきである。

○ 救急活動の検証結果については、消防本部及び救急救命士を含む救急隊員に対しフイードバックされる体制を構築する必要がある。また、救急救命士を含む救急隊員の再教育や事例研究、症例研究等の場で検証例として活用され、必要に応じ、当該検証結果に関し医師による直接の指導等が行われる体制を構築することが望ましい。

B救急救命士の再教育体制の充実

○救急救命士の再教育については、将来的には、救急業務に精通した消防機関の指導者による教育を実施するとともに、研修可能な医療機関において病院実習を実施すべきである。

○当面は、研修可能な医療機関において病院実習を実施する必要があり、この場合、救急業務に従事している救急救命士は2年間に128時間以上の病院実習を受けることが望ましい。なお、全国の救急救命士のうち約3割が年間平均72時間の病院実習を受けている。

○また、救急救命士が真に実効性のある病院実習が受けられるために、「就業前教育実施要領」に準じた内容を、救急救命士が実際に実のあるものとして体験、実施できる体制を構築すべきである。具体的には、救急救命士の実習意識及び実習受け入れ医療機関の意識を高めるよう、実習を受ける救急救命士はもちろん、受け入れる医療機関も努力すべきである。

○救急救命土を含む救急隊員は、事例研究・症例研究等の研修の場に、月に1回程度参加することが望ましく、その場合、個人的な形ではなく組織として積極的に推進することが望ましい。

○各種学会、シンポジウム等への参加は、救急救命士の再教育の一貫として有用であり、各消防機関は、救急救命士を含む救急隊員に対し、積極的な参画を促すとともに、救急救命士を含む救急隊員が発表・参画できるよう配慮をすべきである。

Cメディカルコントロール体制の構築に係る予算上の措置について

○各消防本部においては、救急救命士に対する常時の指示体制の構築、救急救命士を含む救急隊員に対する常時の指導・助言体制の構築のため、それに適した医療機関に対して協力要請を行うとともに、体制構築に係る医師に対する所要経費について、確実に予算上の措置を講ずるべきである。

○また、救急活動の事後検証、救急救命士の再教育や事例研究・症例研究の実施の際に伴う所要の経費について、必要な予算上の措置を講ずるべきである。

(3)救急業務における消防機関と医療機関の連携等に向けた環境整備について

○メディカルコントロールを担当する医療機関の選定及びそれに伴う担当範囲の区域割りを行う都道府県単位の協議会と、その下部組織として、メディカルコントロールを担当する医療機関の担当範囲毎に設けられるメディカルコントロールに関する調整機能を有する協議会を設置すべきである。

○都道府県単位の協議会の役割と都道府県内でメディカルコントロールを担当する医療機関の担当範囲毎に設けられる協議会の役割を明確に定め、その設置とそこでの実効ある協議が推進されるようにすべきである。

○メディカルコントロールを担当する医療機関の担当範囲の設定に当たっては、救命救急センター等中核的な医療機関を中心として行うものとし、その際には、二次医療圏又は複数の二次医療圏の単位により、その設定を行うこととすべきである。

○いずれの協議会においても、プレホスピタル・ケアの特性や実態を踏まえた協議が行われるようにするため、救命救急センター等に所属する救急医療に精通した複数の医師を構成員とすべきである。

○ いずれの協議会についても、都道府県が、積極的に都道府県内の関係機関の調整に当たるべきである。また、協議会の事務局の業務も、原則として都道府県が担うべきである。

(4)メディカルコントロール体制の構築に向けた今後の取り組みについて

@国が取り組むべき事項

○各地域におけるメディカルコントロール体制の構築状況を把握すべきである。

○メディカルコントロール体制の構築に向けて消防機関が措置する医師等への経費支弁に対して、所要の財政措置を講ずるべきである。

○救急活動が円滑に行われるよう応急処置、重症度判断等のプロトコールの作成に早急に着手すべきである。

○救急業務に精通した消防機関の指導者の研修課程を創設し、その養成を図る必要がある。

○メディカルコントロール体制の構築に当たり、指示、指導・助言を行う医師や救急活動の事後検証等を担う医師が不足していると考えられることから、厚生労働省においては、研修会等を実施することにより、これらの医師の養成を図るべきである。

○将来的には、二次医療圏等の範囲でメディカルコントロール体制が整えられるよう、救急医療に関する資源が不足する地域については、その体制づくりを積極的に支援すべきである。

A都道府県が取り組むべき事項

○現在、都道府県単位の協議会が設置されていない都道府県については、当該協議会を早急に立ち上げる必要がある。また、現在協議会が設置されている都道府県についても、協議会がメディカルコントロール体制の構築に係る実質的な協議の場となるよう、協議会の構成員、協議事項等について整備・高度化し、実効ある協議が行われるようにすべきである。

○都道府県内における医療機関の選定やメディカルコントロール担当範囲の区域割の決定については、その調整に非常に多くの労力を必要とすると考えられるので、都道府県は積極的にその調整の任に当たるべきである。

○都道府県内における救急救命士に対する指示体制、救急救命士を含む救急隊員に対する指導・助言体制の構築、救急活動の事後検証の制度化、救急救命士の再教育の実施等に当たり、都道府県内における各消防本部及び医療機関の調整を積極的に行うべきである。

○都道府県内におけるメディカルコントロール体制の構築に関して、その体制の構築に関する計画を策定するとともに、都道府県内における体制構築の状況を把握し、その結果を国に報告すべきである。

Hその他メディカルコントロール体制の構築に有効な方策

○ 研修先医療機関に救急自動車を配置し、救急救命士を含む救急隊員が病院実習を受けるとともに医師による救急自動車同乗研修を受、ける体制、いわゆるワークステーション方式も非常に有効な方策である。

○消防機関における救急業務は、消防組織の中で重要な位置を占めているので、救急業務に関して対外的な発言力、立場を強化し、救急業務の高度化を図るため、消防機関に救急専門の部課室を設置するなど、救急業務の専門性を担保しうる体制を整えるべきである。救急業務高度化推進委員会報告書の内容を紹介したが、本報告書については救急救命士制度創設以来の救急業務高度化の象徴ともいえる非常に重要な内容であるととらえており、今後、消防庁としては、本報告書の提言を踏まえ、厚生労働省や日本医師会と協力し、各都道府県に対するガイドラインの提示など本報告書の内容を具体化する施策について積極的に取り組むこととしている。


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