38号 p87

「地域保健対策の推進に関する基本的な指針の一部を改正する告示について」

 厚生省保健医療局地域保険・健康増進栄養課 地域保険推進専門官 中村 顕


はじめに 今般、地域保健法(昭和22年法律第101号)第4条第4項の規定に基づき、平成12年3月厚生省告示第143号をもって、地域保健対策の推進に関する基本的な指針の一部を改正する告示が行われた。この中で、地域保健対策の推進の基本的な方向として、「地域における健康危機管理体制の確保」に関する事項が追加された。本稿では、今般の改正の概要について、医療機関や消防機関等の救急業務、災害対策業務と深く関係する本事項を中心に解説したい。 改正の趣旨 平成6年に保健所法の改正により成立した地域保健法に基づき、同年12月に地域保健対策の推進に関する基本的な指針(平成6年12月厚生省告示第374号。以下「基本指針」という。)が定められ、これに基づき地域保健対策の推進が図られてきた。

しかし基本指針の告示後、阪神・淡路大震災等、地域住民の生命、健康の安全に影響を及ぼす恐れのある事態(いわゆる「健康危機」)が頻発して、地域の保健衛生部門による健康危機管理のあり方が問題となったこと、障害者への対応を含め、より豊かな社会を求める住民のニーズが高度化あるいは多様化してきたこと、平成12年度から施行された介護保険制度が円滑に実施されるために地域保健部門の取り組むべき役割が問題となったこと等、地域保健対策を巡る状況は著しく変化した。そのためこうした状況に対応した地域保健対策の基本的なあり方を示すため、基本指針について必要な改正を行つたものである。

地域における健康危機管理体制の確保 今回の改正の最も大きな理由の一つが、健康危機管理体制の確保である。健康危機とは、医薬品、化学物質、毒劇物、食中毒、感染症、飲料水、その他の原因により生じた国民(住民)の生命健康を脅かす事態のことをいう。そして、健康危機管理とは、このような健康危機に対して行われる健康被害の発生予防、治療、拡大防止に関する業務のことをいう。

従来より、地域の保健衛生サービスに関して、保健所、保健センター、地方衛生研究所及び都道府県や市町村の衛生主管部局は、直接、間接に住民の健康に責任を負ってきた。

しかしながら、近年の健康危機事例を見ると、阪神・淡路大震災や有珠山噴火のような自然災害、地下鉄サリン事件や和歌山市毒物混入カレー事件のような犯罪、東海村臨界事故のような大規模事故といった具合に、従来の地域保健の枠では収まりにくい事例が頻発している。今回の改正は、こうした場面においても、国民の健康と安全の確保、被害者救済等の観点から、保健所等の役割を明確に位置づけることとしたものである。

主な内容は、以下のとおりである。

(1)都道府県及び市町村等の保健衛生部局が担う役割
都道府県及び市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、健康危機発生時における保健衛生部門の役割をあらかじめ明確化するとともに、他の地方公共団体の保健衛生部門との連携はもとより、警察、消防等のその他の部門、民間を含むその他の関係機関及び関係団体との連携、調整等を行うこととしている。

また、健康危機情報は一元的に管理し、健康危機管理体制の管理費任者に対して迅速かつ適切に伝達されるとともに、指示は迅速かつ適切に伝達されるように体制確保に取り組むことを求めている。

そして地域における健康危機管理体制の管理責任者には、健康問題についての専門家であり、かつ地域の保健医療に精通した保健所長がふさわしいとしている。 さらに、健康危機発生時の管理体制について定めた手引書を整備するとともに、手引書の有効性を検証するための訓練、適切に健康危機管理を行うことができる人材の育成、必要な機器及び機材の整備等も必要であるとしている。

(2)保健所の整備及び運営
従来から保健所は、その管内における健康危機の発生及び拡大防止など事前管理に重点をおいた活動を行ってきた。今回、保健所の地域における健康危機管理拠点としての機能を強化するため、次の基本事項を追加した。

まず、健康危機の発生に備え、保健所は地域の保健医療の管理機関として、従来から行っている法令に基づく監視業務等を着実に行うことにより、健康危機の発生防止に一層努めることは大前提である。それに加え、広域災害・救急医療情報システム等を活用し、平常時から地域医療、とりわけ救急医療の量的及び質的な提供状況を把握・評価するとともに、地域の医師会及び消防機関等の救急医療に係る関係機関と調整を行い、地域における医療提供体制の確保に努めることが必要としている。特に保健医療情報の集約及びそれに基づく対応方策の総合調整を行う体制の確保は極めて重要なこととしている。

さらに健康危機は、日時、場所を問わず突然発生しうる性質のものであるので、保健所は休日及び夜間を含め適切な対応を行う体制の整備を図ることも必要であるとしている。そして健康危機発生時には、広域・災害救急医療情報システム等を活用し、患者の診療情報等の患者の生命に係る情報の収集及び提供、健康被害者に対する適切な医療の確保のための支援措置、関係機関が連携した行動を行うための総合調整等を行うこととしている。

また、健康危機事例発生後は、関係機関等と調整の上、健康危機発生時の対応及び結果に関し、科学的根拠に基づく評価を行い、公表するとともに、医療計画及び障害者計画等の改定にあたって、その成果を将来の施策に反映させることとしている。さらに、健康危機による被害者及び健康危機管理の業務に従事した者は精神的なケアを必要とすることが多いので、これらの対策を講じることも必要としている。

3)地方衛生研究所の機能強化
地方衛生研究所は、地域の健康危機管理にあたって、科学的技術的側面から支援を行うこととしている。そのために必要な病原体や毒劇物についての迅速な検査体制及び検査機能の充実、知見の集積等を図ることとしている。また、国立試験研究機関及び他の地方衛生研究所等の関係機関との閏の連携体制の構築を図る等の取り組みも必要としている。

おわりに

本指針に沿って、地域における保健衛生部門において、それぞれの地域にあった適切な地域保健対策が推進されることが望まれる。医療機関、消防機関をはじめとする関係機関、関係団体におかれても、本指針の趣旨をご理解いただき、ご協力をお願いしたい。そして、今後一層地域住民の健康の保持及び増進並びに地域住民が安心して暮らせる保健医療体制が確保されることを願っている。
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