霞ヶ関通信35号 p59

「日本救急医学会救急隊員部会学術総会の経緯及び第27回学術総会の概要について」

自治省消防庁救急救助課 救急企画課長 茂呂浩光


はじめに

 日本救急医学会救急隊員部会学術総会は、本年開催された第27回救急隊員部会学術総会終了をもってその役目を終えた。そこで日本救急医学会に救急隊員部会学術総会が開催されることとなった経緯と、11月10日(水)から12日(金)までの3日間にわたり朝日生命ホール他東京都新宿区)において開催された第27回日本救急医学会救急隊員部会学術総会の主なプログラム内容を紹介するとともに、今後の救急隊員の学術研究発表について紹介することとする。 日本救急医学会救急隊員部会学術総会開催の経緯  日本救急医学会は、救急医学に関する研究はもとより救急の制度や運営等について、救急医、関係者、救急業務従事者及び一般国民がとも検討し、より良い救急医療体制の確立を目指て昭和48年に設立された。日本救急医学会当初から救急隊員の受け入れに積極的である消防機関も発足時から協力会員として日本急医学会に加入した。

 第1回総会は日本救急医学会の主催により神戸において開催され、仙台市消防局、名護市消防本部による研究発表が行われた。第5回総会において救急医療におけるパラメデイカル部門の重要性 が指摘されたことにより、パラメディカル設立小委員会が設立された。その結果第6回総会からは「パラメディカルセクション」が全国消防長会後援により設立されるとともに、自治省消防庁が共催することとなった。第10回総会からは「救急隊員部会学術総会」と名称が変更されるとともに、全国消防長会が共催することとなった。第14回総会からは救急隊員の資質の向上を目的として広く救急隊員の参加を求めるため、日本救急医学会、全国消防長会及び自治省消防庁が共催し、全国救急隊員学術研究会として開催することとなった。以後参加者数を増やすとともに多くの発表が行われ、年々充実したものとして発展を遂げてきた。

第27回日本救急医学会救急隊員部会学術総会の概要について  第27回日本救急医学会救急隊員部会学術総会は平成11年11月10日(水)から11月12日(金)までの間、東京都新宿区の朝日生命ホール及び朝日生命5階大会議室において参加者897名を集めて開催された。

 「1日目」初日は、第27回日本救急医学会会長で東京大学医学部救急医学教授の前川和彦先生の挨拶により開会された。引き続き自治省消防庁長官(代理)、全国消防長会会長、東京都知事(代理)により開会式の挨拶があった。その後、パネルディスカッション、教育講演、及び一般演題23題の発表が行われた。

○パネルデイスカッション

 まず「次世紀に期待されるプレホスピクルケアのあり方」と題して、市立札幌病院救命救急センターの松原泉先生を司会にパネルディスカッションが行われた。ここでは、現在の救急業務が抱える問題点等を中心に様々な話題を取り上げ、県立広島病院救命救急センターの石原晋先生、民間救急事業者である全目救患者輸送株式会社の工藤千枝社長、救急患者搬送における民間ヘリコプター事業者である中日本航空の福富英行取締役、NHKの吉村秀賓解説員、札幌市消防局の上杉茂仁救急課長による発表の後、21世紀のプレホスピタルケアについて、救急需要増大対策としての民間患者搬送事業者の活路、救急業務広域化の必要性、救急医は充足しているのか、などについてディスカッションが行われた。

○教育講演

 また、「循環器救急のポイント」と題し、済生会熊本病院循環器科部長の本田喬先生により、循環器救急における観察、重症度判断要領について教育講演が行われた。

○−般演題

 また、応急手当の普及啓発、119番要請時のCPR口頭指導等における、各消防本部の積極的な取組みと検討結果、及び救急活動における事例発表と研究結果について発表が行われた。 「2日目」2日日は、5題の教育講演と、一般演題40題の発表が行われた。

○教育講演

 都立荏原病院感染症科の角田隆文先生は「新感染症予防法と消防機関の対応について」と題し、感染症の可能性を念頭に置き、患者の状況、容態から具体的感染症を想定し、感染経路の遮断に努め、自らの安全を図るとともに、自らが媒介となって感染症を蔓延させることがないように心がけてほしいと講演された。

 兵庫医科大学救急部講師の吉永和正先生は「急性中毒の初期対応について」と題し、急性中毒医療においては、現場の状況を実際に見聞きできる救急隊員の情報収集の適否が、診断の信頼性を左右することから、救急隊員には適切な情報を収集し、これを医療機関に伝達する能力が求められると講演された。

 防衛庁統合幕僚会議事務局第4幕僚室の山田憲彦2等空佐は、「瓦礫の下の医学」と題し、崩壊した建築物等瓦礫の下からの救出・救助活動においては医療との連携が必要であると講演された。

 杏林大学医学部救急医学講師の田中秀治先生は、「脳死と臓器移植について」と遺し、今後脳死体からの臓器移植が普及するためには、意思表示カードのさらなる普及に加えて、救急施設が積極的に移植医療に係わっていけるような行政側の支援体制づくりが急務であると講演された。

 久留米大学医学部救急医学講座の坂本照夫助教授は「受傷機転から見た躯幹(胸腹部)外傷」と題して、現場において外傷の受傷機転を確認することにより、外傷部位と重症度の把握が可能になると講演された。

○一般演題

 その他救急業務、救急活動、救急隊員の教育訓練、応急手当の普及啓発について、各消防本部の救急隊員等から40題の発表が行われ、諸先生方から有意義な助言や指導をいただいた。 「3日目」3日日は、教育講演、シンポジウムが行われた。

○教育講演

 川崎医科大学救急医学教授の鈴木幸一郎先生は、「なぜ乳酸加リンゲル液なのか」と題し、救急隊員に最もなじみの深い乳酸加リンゲル液について詳しく講演された。

○シンポジウム

 シンポジウムでは、呼吸管理について、医療側から2題、消防本部から3題の演題の発表後、フロアを交えて活発な討議が行われ、3日間の締めくくりにふさわしい充実した内容で終了した。

 閉会式は、第27回日本救急医学会総会会長の閉会宣言により終了した。これをもつて救急隊員の資質の向上と救急業務の発展のために実施されてきた救急隊員部会学術総会は終了した。

今後の救急隊員の学術研究発表  今後の救急隊員の学術研究発表については、日本臨床救急医学会において行われることとなつている。日本臨床救急医学会では発表者が今までとは異なる。医学会は、本来会員のみを対象とし、会員のみに発表の場が与えられ、会員の理解を助けるべく一般に知識に長けた会員が司会やアドバイスを務める。日本臨床救急医学会もこれに準じた仕組みとなっており、原則として会員のみが発表、司会等を行えることとなっており、会員ではない者は学会当日の聴講だけとなる。このため、会員でない救急隊員等の研究発表が行われるために、「事前登録制」という制度が設けられている。事前登録制とは、消防機関が事前に人数分の会費を納めて登録することにより、正会員に近い資格を得ることができる制度である。この制度により、登録人員に応じて学会誌や他の学会情報を得られること、登録人員に応じて学会発表への応募、司会等ができることとなっている。事前登録の時期は随時であるが、発表、司会等を行う場合は、演題締め切り日までの登録が必要となる。なお、発表者、司会者等は事前登録会費とは別に当日の参加費は必要となる。

 なお、日本救急医学会の地方会に関しては従来どおりの扱いであり、日本救急医学会総会も消防職員の聴講を妨げるものではない。

おわりに  昭和48年から、27年の永きに亘り救急業務の高度化の一役を担ってきた日本救急医学会救急隊員部会学術総会は本年で最後となり、図らずも2000年をもって救急隊員の学術研究発表等の中心は、日本臨床救急医学会へとその舞台を移す。この新たな舞台が、全国の救急業務に携わる方々が一堂に会し、救急業務の発展のため活発な意見交換が行われることや、救急隊員に必要な医学的知識、技能の研鋳等、生涯学習充実の場として、これまで以上に活用されることを期待するとともに、これからの救急業務のさらなる高度化を願う。
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