霞が関通信

乳幼児突然死症候群(SIDS)について

厚生省児童家庭局母子保険課

(プレホスピタルケア 11:4 30号 68-71, 1998)


乳幼児突然死症候群(SIDS)対策に関する検討会報告(平成10年6月1日)

1 はじめに

 乳幼児突然死症候群(SIDS)は、乳幼児に何の予兆、既往歴もないまま突然の死をもたらす疾患であり、古くよりその存在が知られていた。

 我が国においても、昭和40年代より厚生科学研究の中で乳幼児突然死全般の研究が開始された。その後、昭和50年度からは厚生省心身障害研究において研究班が組織され、主として本疾患の疫学的、病理学的検討がなされてきた。このような研究の歴史の中で本疾患の概念の定義、病因・病態の究明、発症予防へ向けての基礎的知見等数々の有益な成果が挙げられてきた。また、国外においても本疾患発症の危険因子がいくつか提唱されるようになり、複数の国でそれら危険因子を育児環境から排除するキャンペーンを行ったところ死亡率が減少したとの報告もなされるようになった。本邦においても研究班において、これら危険因子についての検討がなされたが、SIDSにより死亡した児の把握方法の問題等から、調査研究は部分地域的なものとならざるを得ず、危険因子に関する疫学的考察を行うために全国的な実態調査の実施が望まれていた。

 このような中、我が国の人口動態統計においては、世界保健機関(WHO)が採択した第10回国際疾病分類を平成7年1月より適用し、それに基づいて疾病、障害及び死因に関する分類を改正した。それに伴い、今まで統計上部分的にしか捉えられなかった本疾患の死亡数が把握できるようになった。このため、平成9年度心身障害研究「乳幼児死亡の防止に関する研究」においてはじめて全国規模の実態調査が行われ、今般研究報告が取りまとめられた。

2 我が国におけるSIDSの現状

(1)定義

 平成6年度厚生省心身障害研究「小児の心身障害予防、治療システムに関する研究」によると、「それまでの健康状態および既往歴からその死亡が予測できず、しかも死亡状況および剖検によってもその原因が不詳である、乳幼児に突然の死をもたらした症候群」とされている。

(2)疫学(平成8年)

・死亡数は、526人(男児317人、女児209人)

・死亡率は、出生1,000対0.44人

・当疾患による死亡の約9割が乳児期に発生(乳児死亡原因の第3位)

参考 平成8年の全乳児死亡数4,546人

   (以下 乳児死亡原因の内訳)

1位

先天奇形、変形及び染色体異常

1,615人(35.5%)

2位

周産期に特異的な呼吸障害及び心血管障害

757人(16.7%)

3位

乳幼児突然死症候群

477人(10.5%)

4位

不慮の事故

269人( 5.9%)

(3)原因等

 本疾患は、窒息等の事故によるものとは異なり、その原因については、脳における呼吸循環調節機能不全が考えられてはいるが、単一の原因で起こるかどうかの点も含め、未だに不明である。

(4)危険因子等

 本疾患は国や地域によって発症率が異なることが知られており、その違いは育児環境の差異が関係しているのではないかとの説もある。

 育児環境の中でも、今まで国内外の研究において危険因子の可能性が疑われているものとしては、1)うつ伏せ寝2)人工栄養哺育3)保護者等の習慣的喫煙等が挙げられている。

 平成9年度心身障害研究「乳幼児死亡の防止に関する研究」において全国規模の調査研究を実施した。

 これによると、SIDSの発症に対して、それぞれの要因が相対的にどれだけ危険であるかを知るために、オッズ比を求め、有意性の検討を行った結果、「うつ伏せ寝」は「仰向け寝」に比して約3.0倍程度、「人工栄養」は「母乳栄養」に比して約4.8倍程度、「父母共に習慣的喫煙あり」は「父母共に習慣的喫煙なし」に比して約4.7倍程度それぞれSIDS発症のリスクが高まることが示唆された。

3 諸外国の状況

 厚生省心身障害研究において国内外のSIDSに関する文献を検索した結果、いくつかの国において育児環境に関する介入(キャンペーン)を行ったところ、SIDSの発生頻度が下がったとの報告があることがわかった。

 具体的には、1)仰向け寝で育てる2)妊娠中、出産後を通じて妊婦および周囲での喫煙を止める3)母乳で育てる、等の項目をそれぞれの国で勧奨したとのことであるが、中でも、うつ伏せ寝を止めることが発生頻度の低下に最も大きな影響を与え、次に禁煙も発生頻度低下に関与しているとの報告がなされている。

4 今後のSIDS対策について

(1)総論

 平成9年度心身障害研究班による全国実態調査の結果、SIDSについては、その発症1)うつ伏せ寝2)非母乳哺育3)保護者等の習慣的喫煙の各因子との関連が本邦においても示唆された。

 このためSIDSを予防するために、未熟児等の医療現場等特珠な例を除き、一般的には、児を仰向けに寝かせること、できるだけ母乳哺育を行うこと、妊娠期間を含めて保護者等は禁煙することについて勧奨するものである。

 また、今後、家庭、医療機関、児童福祉施設、及び行政機関等に対し、これらの情報の普及が重要であり、種々の機会を利用して広く啓発活動を行うとともにキャンペーン実施後の効果についても併せて評価する必要がある。

(2)各論

 本検討会の議論を踏まえ以下の方向でキャンペーン等対策を行っていくこととする。

  1. 医療関係団体、児童福祉施設、関係行政機関、その他関連団体などからなる「SIDS対策に関する連絡会議」を開催し、情報の共有化を図る。
  2. 一般家庭に対しては、妊産婦・乳幼児健康診査等の機会や母子健康手帳へ情報の記載、ポスター、パンフレット等による普及・啓発等を行う。
  3. 1で述べた関係機関、団体等に対しては、発生予防を含めたSIDSに関する正しい知識について情報提供を行うとともに、これらの知識の普及・啓発活動への協力を要請する。
  4. 家族の会等の関連団体との連携を図り、SIDSでお子さんを亡くされた家庭からの相談等に対応する。
  5. これらの普及・啓発活動を広く、また強力に展開していくため、マスメディアを通じた情報提供が行われるよう、関係者の理解と協力を求める必要がある。

 

SIDSに関する普及・啓発活動について

 以上の検討会報告を受けて、同年6月24日に「乳幼児突然死症候群(SIDS)対策に関する連絡会議」を開催し、消防庁救急救助課を含めた関係機関、関係団体の間で本疾患に関する情報の共有化を図るとともに、今後のSIDS対策の普及・啓発方法等について意見交換を行った。また、これら検討会及び連絡会議での意見を踏まえ、疾患としてのSIDSに関する知識と併せ、本疾患発症の危険性を可能な限り減少させるための留意点等をとりまとめ、健康診査等母子保健事業の機会を利用して知識の普及・啓発を行うとともに、乳児院、保育所等の児童福祉施設、医療関係施設や認可外保育施設等の関係施設に対する周知徹底が図られるよう関係部局、管下市町村及び関係団体等に対しての周知をお願いしたところである。

 なお、国においては、ポスター、パンフレット等を活用した知識の普及・啓発を行うこととし、母子健康手帳への情報記載についても検討中である。

 

おわりに

 乳幼児突然死症候群(SIDS)は、年間500人余りの乳幼児に死をもたらす疾患であり、特に1歳未満の乳児期の死亡原因の第3位と高い位置を占めている。

 その発症原因は不明であるが、いくつかの育児環境因子が発症に関連することを示唆する研究が諸外国でなされ、また、それらの国において、これら危険因子を除くキャンペーンを行ったところ、SIDSの死亡率が低下したとの報告がなされた。

 本邦においては、本疾患による死亡率はこれらの国々と比較して低率ではあるが、今般全国規模の実態調査を行ったところ、危険因子について、ほぼ諸外国と同様の結果が得られたため、今後さらに死亡率を低下させるべく広く知識の普及・啓発を行うこととなったものである。

 この中で、これら予防対策上の留意点のほか、疾患としてのSIDSの知識の普及も重要と考えられる。特に、職務上、本疾患に関わる可能性のある全ての人々に対して、「両親等への配慮」を含めた適切な対応を行うための正しい知識の普及が望まれている。

 最後に、SIDSでお子さんを亡くされた遺族等からなるボランティア組織である「SIDS家族の会」が、本疾患に遭遇した人々への心のサポートのガイドラインとして提言し、まとめた冊子の中から救急隊員向けの部分を同会のご厚意により参考までに抜粋提示させて頂き、本稿を終えることとする。

 


〔参考〕SIDS家族の会編「あなたがSIDSに出会ったら 心のサポートのためのガイドライン』(抜粋)

 

 この冊子では、亡くなった、あるいは危険な状態にある赤ちやんに対する医学的な措置(蘇生など)については、あまり触れていません。こうしたことは、専門家の方々が持っている、豊富な知識と技術によつて対応が可能です。ここで述へているのは、むしろ遺族、とりわけ赤ちやんの両親にどう接すればよいかということです。

(中略)

 本冊子はオーストラリアで作成されたものをへ一スに、日本版として修正・加筆したものです。そのため、日本の実状にそぐわない点もあるかと思います。更に実用的な内容にしていくために、各分野の専門職の方々からのこ意見をいただければ幸いです。(「この冊子を読まれるにあたって」より)

救急隊隊員へのガイドライン

 わが国では、救急隊員の任務は、蘇生処置を施しつつ一刻も早く医師にもとへ搬送することに主眼が置かれています。また、病名等の診断を下すことは、救急隊員の職務範囲外の行為にあたります。したがってSIDSであることを前提とした行動のガイドラインを示すことはここでは差し控え、救急隊員の職務の中で可能と思われる一般的な事柄に限定して述へます。

照会先:SIDS家族の会 総合窓口

   電話 03−3499−3111  http://www.hi-ho.ne.jp/hotta/sids.html

 

(※本参考資料は、本年6月24日の「乳幼児突然死症候群(SIDS)対策に関する連絡会議」において同会より配布されたものである。)