霞が関通信

消防法施行令の一部を改正する政令について

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 11:2 28号 58-62, 1998)


はじめに

 先般、消防法施行令の一部を改正する政令(平成10年政令第50号)が公布され、同日から施行されることになった。今回の改正は、回転翼航空機による救急搬送の需要等にかんがみ、回転翼航空機による救急隊の編成及び装備の基準を規定し、回転翼航空機による救急業務の推進を図ることとしたものである。

 

救急業務の変遷

 現行の消防法上の救急業務は、消防審議会答申(昭和37年)を受け、消防法の一部を改正する法律(昭和38年法律第88号)において法制化されたものである。これは、法制化以前においても、任意に消防機関により実施され、その実績を高く評価されていたが、必ずしも十分な体制により行われているとは言い難く、また交通事故を含む各種災害ないし事故の急激な増加もあって、人命尊重の見地からその制度の確立が急務となった。そこで、消防機関の行う救急業務を法律制度化し、救急体制を全国的に整備することとしたものである。

 同法においては、救急業務は救急隊によって行われるものであること(法第2条第9項)、救急業務を行う義務のある市町村の範囲(第35条の5)等が定められたが、救急隊の定義は規定されず、救急隊の編成及び装備の基準について、政令に率いて定めることとされた(第35条の9)。

 同法を受け、消防法施行令の一部を改正する政令(昭和38年政令第380号)が制定され、救急隊の編成及び装備の基準は、「救急隊は、救急自動車1台及び救急隊員3人以上をもって編成しなければならない。」(第44条第1項)、「前項の救急自動車には、傷病者を搬送するに適した設備をするとともに、救急業務を実施するために必要な器具及び材料を備えつけなければならない。」(同条第2項)とされたところである。

 

 消防法施行令の改正の背景等について

1 国における取組み(各種報告書等)

(1)消防におけるヘリコプターの活用とその整備のあり方に関する答申

(平成元年3月・消防審議会答申)

 消防ヘリコプターの整備を全国的に准進し、ヘリコプターを活用した消火、人命の救助、救急業務等いわゆる航空消防を積極的に展開していくことが、これからの消防にとって重要な課題であるといわなければならない。

(略)

 消防ヘリコプターは、各都道府県域に少なくとも1機以上配置されることを基本とし、21世紀初頭には、我が国全土にわたってこのような配置が整い、各地域において消防活動に積極的に活用される体制が確立されることを目標とするべきである。

 

(2)救急業務及び救急医療業務に関する行政監察結果報告書(抄)

(平成7年7月・総務庁行政監察局)

 自治省は、(略)重篤な傷病者の救命効果の向上を図るためのヘリコプターの導入・活用を推進する観点から、次の措置を請じる必要がある。

  1. 消防・防災の用途に使用するためその導入及び運航について財政支援措置を受けているヘリコプターの運航を他にゆだねている都道府県に対し、救急活動が消防機関により一貫して行われるよう指導すること。

    また、ヘリコプターを使用した救急業務における救急隊員の乗務の指針を示すこと。

  2. ヘリコプターの救急活動への活用を促進するため、傷病者の症状に応じ医師の代わりに救急救命士等を活用するよう都道府県及び消防本部を指導すること。
  3. ヘリコプターの導入を促進するため、ヘリコプターを導入していない都道府県に対し、ヘリコプターを保有する都道府県及び消防本部における施設整備、運航体制の整備及び維持管理などの各種ノウハウを提供する等により、ヘリコプターの導入条件の早期整備が図られるよう支援すること。

 

(3)交通事故における救急ヘリコプターの実用化に関する調査研究報告音(抄)

(平成8年3月・総務庁交通安全対策室)

 本調査研究においては、我が国における救急ヘリコプターの実用化に当たって、消防・防災ヘリコプターの活用が適切であると結論付けた。

 

2 地方公共団体の取組み

 地方公共団体においても、特に平成7年1月の阪神・淡路大震災の際にヘリコプターが重症患者の輸送、食料品等の物資輸送、救助隊員等の人員輸送、被害状況の調査・情報収集等に活用されたことから、その必要性が改めて認識され、航空消防防災体制の充実に向け、積極的な取組みがなされている。

(1)消防・防災ヘリコプターの配備の進展等

 各都道府県の区域に消防・防災ヘリコプターを当面少なくとも1機以上配備することを目標に(平成5年消防救第45号消防庁次長通知)、積極的に消防・防災ヘリコプターの配備が進められているところであり、平成9年度末現在で、全国に63機、40都道府県域をカバーするに至っている( 表1 )。

表1  消防・防災ヘリコプターの配備状  (各年度末現在)

平成

4年

 

5年

 

6年

 

7年

 

8年

 

9年

30機

15県域

35機

18県域

39機

22県域

50機

29県域

58機

35県域

63機

40県域

 

 

 

 

 

 

(注)県域とは都道府県域のこと。平成9年は、見込み。

 また、回転翼航空機による救急搬送件数についても増加の傾向にあり、平成8年は428件となっている( 表2 )。

表2  消防・防災ヘリコプターによる救急搬送件数

平成4年

5年

6年

7年

8年

205件

195件

269件

389件

428件

 

(2)全国航空消防防災協議会の設立

 平成8年1月には、消防・防災ヘリコプターに係る地方公共団体相互間の連絡調整の推進を図るため、全都道府県、12政令指定都市、東京消防庁、岡山市を構成員として全国消防防災協議会が設立されたところである。

 全国消防防災協議会においては、調査研究事業(各専門委員会の設置)の実施や研修会の開催等航空消防防災体制の充実強化に向けた取組みがなされている。

3 ヘリコプターによる救急システム検討委員会結果報告書(抄)(平成8年12月、消防庁)

 これらの国及び地方公共団体における取組み等を踏まえ、消防庁において消防・防災ヘリコプターの救急業務への活用及びそのシステムの構築のための必要な課題等について検討を行うため、「ヘリコプターによる救急システム検討委員会」が設置され、その報告書において、「ヘリコプターによる傷病者の救急搬送についても、標準的な救急業務として法令上も位置づける必要があるものと考える。」とされた。

 以上のように、回転翼航空機による救急搬送需要の増加、消防・防災ヘリコプターの配備の進展等国及び地方公共団体において航空消防防災体制の充実強化に向け積極的な取組みがなされているところである。

 そこでこのたび、令第44条を改正し、回転翼航空機による救急隊の編成及び装備の基準を示すことにより、回転翼航空機による救急隊を消防法上の救急隊として明確に位置づけ、消防法上認められている法的効果を享受できることを明確にするとともに、救急業務への回転翼航空機の活用の推進を図ることとしたものである。

<参考>消防法上の救急業務に認められている

法的効果

  1. 救急搬送中に行う応急の手当が法令に基づく正当業務行為となること(消防法第2条第9項)
  2. 救急隊員が現場にある者に対し、救急業務への協力要求をすることができること(同法第35条の7)
  3. 救急業務に協力した者に対し、災害補償の適用があること(同法第36条の3)
  4. 救急隊に関し緊急通行権が認められること(同法第35条の8)

 

政令改正の概要

1 政令改正の概要

 救急隊の編成及び装備の基準に、回転翼航空機1機及び救急隊員2人以上により編成されるものを加え、回転翼航空機には、傷病者を搬送するに適した設備をするとともに、救急業務を実施するために必要な器具及び材料を備え付けるものとした(令第44条第1項、第2項)。

2 救急隊の編成の基準(令第44条第1項)

 回転翼航空機による救急隊の編成基準については、「回転翼航空機1機及び救急隊員2人以上」と定められたわけであるが、「救急隊員2人以上」とされたのは、傷病者に心肺蘇生措置等を実施する場合や、傷病者に対し効率的で正確な観察を行うためには最低2人以上の救急隊員が必要であるからである。

3 救急隊の装備の基準(令第44条第2項)

 回転翼航空機による救急隊の装備の基準については、「回転翼航空機には、傷病者を搬送するに適した設備をするとともに、救急業務を実施するために必要な器具を備え付け」ることとされたが、原則として、高規格救急自動車に積載している救急資器材と同様のものを積載することを基本とするが、飛行環境の影響や限られた空間等の条件を考慮した救急資器材の選定を行う必要がある。消防法施行令の一部を改正する政令新旧対照条文を 表3 に示す。

表3  消防法施行令の一部を改正する政令新旧対照

改 正 後

改 正 前

(救急隊の編成及び装備の基準)

第44条 救急隊は、救急自動車1台及び救急隊員3人以上をもつて、又は回転翼航空機1機及び救急隊員2人以上をもつて編成しなければならない。

2 前項の救急自動車及び回転翼航空機には、傷病者を搬送するに通した設備をするとともに、救急業務を実施するために必要な器具及び材料を備え付けなければならない。

3(略)

(救急隊の編成及び装備の基準)

第44条 救急隊は、救急自動車1台及び救急隊員3人以上をもつて編成しなければならない。

2 前項の救急自動車には、傷病者を搬送するに適した設備をするとともに、救急業務を実施するために必要な器具及び材料を備えつけなければならない。

3(略)

(昭和36年政令第37号)

 

回転翼航空機による救急業務の留意事項

1 回転翼航空機による救急業務の出動基準について

 回転翼航空磯による救急業務の出動基準については、次の基準を参考に、地理的条件、医療機関の状況等その地域の特性に応じた判断基準を策定し、県内の各消防本部をはじめ周知を図る必要がある。

  1. 現場到着時間または医療機関への搬送時間を著しく短縮でき、傷病者の救命効果またはその後の回復に大きな影響を与えると判断した場合。
  2. 早期に医師・救急救命士等を災害現場に搬送することにより、救命効果が期待できると判断した場合。

2 回転翼航空機による救急業務の出動までの手順について

 上記の出動基準に照らし、出動が適切な場合に、迅速に出動を決定しさ出動体制を整え、実際に出動が行われるまでの手順を迅速に行う必要がある。

 なお、気象条件や臨時離着陸場の確保の問題等から、回転翼航空機が災害現場に到着できない場合も想定されるので、原則として救急自動車を同時出動させる必要がある。

3 回転翼航空機による救急業務実施体制の充実について

  1. 航空隊に常時2人以上の救急隊員を配置することが望ましいが、直ちに航空隊に2人以上の救急隊員を配置することが困難な場合においては、当面周辺の消防署と連携を図る等により対応する必要がある。
  2. 運航要員としての操縦士、整備士等は除き救急隊員2人を確保し、また飛行環境による傷病者への影響等を考えると、救急隊員のうち少なくとも1人は、救急救命士であることが望ましい。
  3. 回転翼航空機に搭乗する救急隊員については、回転翼航空機を運航するにあたり必要な基本的知識や飛行環境が傷病者に与える影響等について十分理解したうえで機内での救急活動ができるよう、救急訓練を実施する必要がある。

4 医療機関等関係機関との連携について

 回転翼航空機による救急業務については、搭乗する医師の確保や搬送先の病院の確保という観点から医療機関等との連携が特に重要となるため、都道府県ごとに、医師の搭乗システム、搬送先病院等について、医師会等関係医療機関と都道府県の衛生及び消防主管部局並びに市町村消防機関等が協議会を設置する等により、あらかじめ基本的事項について協議しておく必要がある。

5 臨時離着陸場等の確保について

 都道府県内におおむね1カ所基幹的機能を有するヘリポートを確保するとともに、各市町村ごとに少なくとも数カ所程度あらかじめ臨時離着陸場等を定めておく必要がある。

6 運航不能期間等について

 回転翼航空棟は、点検整備のため年間相当数の運航不能期間が生じることとなるので、防災情報システム等により近隣団体のヘリコプターの運航状況を把握する等相互補完体制を確立しておく必要がある。

 

おわりに

 現在、消防・防災ヘリコプターは、救急活動をはじめ情報収集、林野火災の消火、人命救助等様々な業務に活用されているところであるが、今後も住民のニーズを的確に捉え、住民福祉の向上のため積極的に活用していくことが求められている。

 わが国におけるヘリコプター救急はいまだ発展途上の段階である。今政令改正を契機に各地方公共団体において回転翼航空機による救急業務を積極的に実施するとともに、それぞれの地域の実情等を踏まえ、実効性のある回転翼航空機による救急業務実施体制を確立していくことが望まれる。