霞が関通信

医療法の改正案と救急医療体制の見直し

厚生省健康政策局指導課

(プレホスピタルケア 10:2 24号 82-85, 1997)


1 はじめに

 医療法は、医療提供に関する理念、病院・診療所、医療計画、医療法人等に関し規定する、我が国の医療提供体制に関する基本的な法規である。今般、高齢化の進展等に伴い高齢者介護が大きな社会問題となっている状況を踏まえ、医療法の改正案が第140回通常国会に提出されているが、同法案では、あわせて、これまでの医療法改正を受け、さらに医療施設の体系化、類型化を進めるなど、医療を提供する体制についての見直し等を行っている。同法案の中においては、医療計画の必要的記載事項への救急医療の確保の位置づけ、地域医療支援病院制度の創設という救急医療に関連する事項があることから、本稿では、医療法の改正案の概要と救急医療体制の見直しについて解説することとする。

 

2 医療法改正の経緯

(1)医療法改正の経緯

 医療法は、昭和23年に制定され、昭和25年に医療法人に関する規定が設けられて以来、近年に至るまでその基本的な形は改正されずにきたが、昭和60年、平成4年に次のような改正が行われている。昭和60年改正においては、医療施設の量的整備が全国的にほぼ達成されたことに伴い、医療資源の地域的偏在の是正と医療施設の連携の推進を目指すため、医療計画制度を導入した。平成4年改正においては、国民に良質な医療を効率的に提供するため、医療提供に関する基本的理念を明示するとともに、医療施設機能の体系化の第一歩として、高度医療のための特定機能病院、長期療養患者のための療養型病床群を制度化した。

(2)今回の改正の背景

 高齢化の進展等に伴い高齢者介護が大きな社会問題となっている状況を踏まえ、要介護者についてその者の状況に応じた適切な保健、医療、福祉サービスを総合的・一体的に提供できるような介護保険制度の確立を図ることが重要な課題となっている。こうした状況の下、医療施設については、介護サービスの基盤整備の一環として人員配置・構造設備の面で介護体制の整った療養型病床群の整備を一層促進する必要があり、診療所においても療養型病床群を設置できることとすることが求められている。

 今回の医療法改正は、要介護者の増大への対応を直接の契機とするものであるが、あわせて、これまでの医療法改正を受け、さらに医療施設の体系化、類型化を進めるなど、医療を提供する体制について見直しを行い、患者の医療ニーズの多様化・高度化に応じた良質な医療を効率的に提供するとともに、患者の立場や選択に配慮した医療を碇供する体制の確立を図ることが求められている。

 このような状況を踏まえ、療養環境・介護体制の整備や地域医療の確保の観点から、医療提供施設に係る制度の見直しを行うとともに、医療計画制度の充実、医療法人の業務範囲の拡大を行うなど、国民に良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の整備を図るため必要な措置を講ずることとするのが今回の改正の趣旨である。

 医療法の一部を改正する法律案は、昨年11月29日に第139回国会に提出され、第140回国会に継続審議とされたところである。同法案は、介護保険関連法案として介護保険法、介護保険法施行法とともに国会に提出されたが、これは同法案が、

    1. 有床診療所にも療養型病床群を設置できることとすること

    2. 医療計画を見直し、療養型病床群の整備目標を明記すること

などの改正を行うことにより、介護保険制度の基盤整備の一環をなすものであることによるものである。

 

3 医療法の改正案の概要

(1)改正の目的

 改正の目的は、要介護者の増大に対応して療養環境の整った療養型病床群の整備を行い、日常生活圏において地域医療を完結するとともに、地域医療のシステム化を図るための医療提供体制の整備を行うことである。また、医療法人の附帯業務の拡大、患者の立場・選択を尊重した情報提供の推進を図るものである。

(2)改正の概要

 改正の要点は表1に示すとおりであるが、それぞれの項目について解説する。

 

表1 医療法改正の要点

1 医師等医療の担い手による医療を受ける者への説明の努力義務

2 療養型病床群制度の診療所への導入

3 地域医療支援病院制度の創設

4 医療計画の記載事項等の見直し

5 医療法人の業務範囲の拡大等

6 法定広告事項の追加

 

1 医師等医療の担い手による医療を受ける者への説明の努力義務

 医療の担い手は、医療を提供するにあたり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努める旨の努力規定を位置付ける。

2 療養型病床群制度の珍簾所への導入

 要介護者の増大に対応し、身近な医療機関である診療所を活用する観点から、療養型病床群を診療所にも設置できるものとする。この場合、患者の収容時間制限(48時間)を適用除外とし、診療所の療養型病床群は病床規制の対象とする。また、療養環境・介護体制を確保するため、必要な構造設備・人員配置基準を厚生省令で定める。

3 地域医療支援病院制度の創設

かかりつけ医、かかりつけ歯科医等を支援し、地域に必要な医療を確保する観点から、次の要件に該当する病院を「地域医療支援病院」として位置付ける(都道府県知事の承認)。

    1. 地域の医療機関による医療提供の支援(紹介患者への医療提供や、施設・設備の共同利用・オープン化等)
    2. 救急医療の実施
    3. 地域の医療従事者の研修
    4. 厚生省令で定める数以上の病床

 国、都道府県、市町村、特別医療法人等が開設する病院を対象とし、現行の名称独占としての総合病院制度は廃止する。

4 医療計画の記載事項等の見直し

日常生活圏(二次医療圏=全国344圏)で必要な医療を確保し、地域医療のシステム化を図る観点から、現行の必要的記載事項である医療圏の設定、必要病床数に関する事項に加え、次の事項を二次医療圏ごとに定めるものとする。

 

    1. 地域医療支援病院や療養型病床群の整備の目標等、機能を考慮した医療施設の整備の目標
    2. 設備、器械・器具の共同利用等、医療施設相互の機能の分担及び業務の連係
    3. 救急医療の確保
    4. へき地医療の確保
    5. 医師、歯科医師、薬剤師、看護婦等、医療従事者の確保

 

5 医寮法人の業務範囲の拡大等

 医療法人は、老人居宅介護事業等、第二種社会福祉事業のうち厚生大臣の定めるものを行うことができるものとする。また、特別医療法人(医療法人のうち、役員の構成、残余財産の帰属等に関する要件に該当するもの)は、その収益を医療機関の経営に充てることを目的として、収益業務を行うことができるものとする。

6 法定広告事項の追加

 療養型病床群の有無、紹介先の病院・診療所の名称を広告事項に追加する。

 なお、施行期日は、医療提供にあたっての説明及び医療法人の附帯業務の拡大(第二種社会福祉事業関係)については改正法の公布の日とし、療養型病床群の診療所設置、地域医療支援病院の制度化、医療計画の見直し、医療法人の附帯業務の拡大(収益業務閑係)、広告事項の追加については改正法の公布の日から1年以内の政令で定める日としている。

 

4 救急医療体制基本問題検討会の開催

 救急医療体制については、昭和39年に創設された救急病院・救急診療所の告示制度に加え、昭和52年度から整備が開始された初期・第二次・第三次の救急医療体制により、救急患者の受け入れ医療機関は概ね整備されてきたところである。平成3年度からは、救急救命士制度の創設等、救急現場及び搬送途上におけるケアの充実を図っており、さらに、平成8年度からは、災害時も対応できる広域災害・救急医療情報システムの整備を行ってきたところである。

 現在、上述したように、救急医療に関する事項の医療計画の必要的記載事項への位置づけ、地域医療支援病院の制度の創設等を内容とする医療法の改正案が国会へ提出されているところであり、今後、一層の救急医療体制の体系的整備が必要となる。

こうした状況を踏まえ、救急医療システムの望ましい在り方を検討するとともに、併せて救急医療に従事する者の教育研修、救急医療に関する普及啓発等の課題についても検討を行うものであり、第1回会議を平成9年2月に開催し、平成9年12月までに最終報告を取りまとめる予定となっている。

 

5 おわりに

 従来、救急医療体制は、消防法に基づく制度と国庫補助制度に基づく制度とで制度が二重化していた。今回、医療提供体制に関する基本的な法規である医療法に基づく医療計画に救急医療体制が位置づけられることを契機に、救急医療体制の見直しが行われている。この見直しを踏まえ、救急関係者と医療関係者とが連携して、住民に分かりやすく利用しやすい救急医療体制が確立することが望まれる。 

 


表2 救急医療体制基本問題検討会委員

石原 哲(白鬚橋病院院長)

大北 昭(社団法人大阪府医師会理事)

大頭孝三(社団法人日本歯科医師会常務理事)

大塚敏文(日本医科大学理事長)

後藤 武(兵庫県参事兼保健部次長)

小濱啓次(川崎医科大学救急医学教授)

佐藤文彦(仙台市消防局長)

高久史麿(自治医科大学学長)

高橋章子(大阪大学医学部保健学科成人・老人看護学教授)

豊田 馨(社団法人北海道医師会常任理事)

野田愛子(弁護士)

原田充善(川口市立医療センター院長)

辺見 弘(国立病院東京災害医療センター副院長)

前川和彦(東京大学医学部救急医学教授)

宮坂雄平(社団法人日本医師会常任理事)

山越芳男(財団法人日本消防設備安全センター理事長)

山中郁男(聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院救命救急センター長)

吉村秀實(日本放送協会解説主幹)

(五十音順)