霞が関通信

応急手当の救命効果について

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 9:2 20号 84-85, 1996)


1 はじめに

 傷病者が発生したとき、119番通報から救急隊が現場に到着するまでの間の「空白の時間」(平成6年中の全国平均は5.8分)に、その現場近くにいる住民等が応急手当を実施すれば、傷病者の症状の悪化を防ぐことができ、救命効果も大いに向上することになる。このため、住民に対し、心肺蘇生法をはじめ応急手当の手法を普及啓発していくことが極めて重要である。

 応急手当の普及啓発については、消防機関をはじめ各関係機関等により積極的に推進されているところであるが、消防庁としては、昭和57年に制定された「救急の日」及び「救急医療週間」を中心に応急手当に関する講習会や救急フェア等を開催し、応急手当の普及啓発に努めている。さらに、平成5年には「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱」を制定し、救命講習及びその指導員等の養成を図っているところである。

 そこで、平成6年中の応急手当普及啓発活動の概況について紹介するとともに、このほどまとまった「応急手当の救命効果」に関する初めての全国集計について報告することとする。

 

2 応急手当普及啓発活動状況

 消防機関によって行われる地域住民に対する応急手当普及啓発活動については、平成6年中で全国で普通救命講習が9,560回開催され24万6,356人が受講し、上級救命講習が518回開催され1万680人が受講している。また、応急手当普及員は4,646人、応急手当指導員は2万887人となっている(表1)。

 

表1 応急手当普及啓発活動状況

普通救命講習
受講者数

上級救命講習
受講者数

応急手当
普及員数

応急手当
指導員数

平成6年中

246,356人

10,680人

4,646人

20,887人

累計

294,183人

14,725人

5,983人

30,525人

                   「救急活動状況調」

表2 心肺停止傷病者数の合計

心肺停止傷病者数

1カ月後の生存者数

1カ月後の生存率

応急手当あり

9,232人

364人

3.9%

応急手当なし

59,907人

1,409人

2.4%

全数

69,139人

1,773人

2.6%

* 応急手当とは、救急隊到着前に市民等により心肺蘇生法ま

 たは、心取マッサージ・人工呼吸のどちらかが実施されてい

 ることをいう。

 

 このように、受講者数は急激に増加し、確実に普及していることから、応急手当が実施できる住民が増加することによる傷病者の救命効果の向上が期待されているところである。

 

3 応急手当の救命効果

 応急手当の救命効果については、消防庁において平成6年7月から調査を実施しており、このたび調査開始後1年間の集計がされたところである。

 平成6年7月から平成7年6月までの対象期間(1年間)で救急隊が澱送した心肺停止傷病者は全国で6万9,139人であり、そのうち家族や友人等によって応急手当が実施されていた傷病者は9,232人で、応急手当実施割合は13.4%であった。一方、応急手当が実施されなかった傷病者は5万9,907人で、86.6%であった(表2)。

 これらの傷病者のうち、1カ月後の生存者数(入院中・退院した者の合計)は、1,773人であり2・6%の傷病者が生存していた。このうち、応急手当が行われていた傷病者では364人(3.9%)が生存していたが、応急手当が行われていなかった傷病者では1カ月後の生存者数(入院中・退院した者の合計)が1,409人(2.4%)となっていた。心肺停止傷病者の搬送に関する調査は、不確定要素も多いためさらなる検討が必要ではあるが、この調査では、家族や友人等により応急手当が行われた場合は、行われなかった場合に比ベ1.5ポイント、約1.6倍の救命効果の向上がみられたと推測することができる。

 

4 おわりに

 傷病者の救命のためには、1住民による速やかな応急手当、2救急隊員による適切な応急処置・救命処置、3医療機関での高度な医療処置の3つの要素が大変重要である。今回の調査では、心肺停止傷病者に対して住民による応急手当が実施されたのは、全体の約13%であり、応急手当が実施された場合は約1.6倍の救命効果の向上が認められた。救急隊到着までの「空白の時間」に住民による応急手当が積極的に実施され、不可欠な3要素からなる「救命リレー」がより強固に構築されることにより、より多くの命を救うことができるため、これからも住民への応急手当の普及啓発を努める必要がある。