霞が関通信

消防の広域応援体制

(消防組織法第24条の3の一部改正の概要)

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 9:1 19号 60-63, 1996)


1 はじめに

 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は、死者約5,500人、住家被害は全壊が10万棟を超えるなど戦後最大の人的・物的被害をもたらした。被災地の消防活動のために、地元消防本部、消防団はもとより、消防庁から全国41都道府県に対し出動要請が行われ、これを受けて451消防本部から延ベ32,400人の消防職員が広域消防応援活動を実施し、消火、救急、救助活動に従事した。

 地震等の大規模災害時においては、被災地や国がその被害状況を的確に把握し、迅速かつ効果的な広域消防応援活動を行うことが必要であるが、今回の阪神・淡路大震災は、我が国の広域消防応援活動体制についても大きな教訓を残したところである。

 これを踏まえ消防庁では、消防の応援に関する緊急時の特例を創設するため、消防組織法の一部を改正する法律案を第134回国会に提出し、同法案は平成7年10月20日に成立し、同月27日に公布された。

 今回は、この消防組織法改正の概要にあわせて、我が国の広域消防応援体制の沿革について述べる。なお、文中括弧内の条・項等はすべて今回の法改正後のものである。

 

2 協定による市町村間相互の消防応援

(消防組織法制定当時の広域応援体制)

 戦前の消防は、町火消を前身とする消防組(昭和14年に警防団に改組)が主な主体であり、官設の常備消防は警察制度の一部門として、軍事、経済および政治上重要な一部の都市で実施されていたにすぎなかった。

 戦後、徹底した民主化および地方分権の方針に基づいて、昭和22年4月には、警防団が新たに自主的民主的な消防団に改組されたが、これに引き続き、消防制度を警察制度から分離するとともに、消防の組織および運営の基本について定めるために、消防組織法(以下「法」という)が昭和22年12月に制定された。

 これにより、消防の任務はすべて市町村の責任に移された。すなわち、市町村は、当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任を有し(法第6条)、その管理は市町村長が行うものとされた(法第7条)。また、この責任を遂行するために、市町村に消防本部、消防署、消防団等の消防機関を設けることとされ(法第9条)、全国の市町村に消防体制が常備されることとなった。

 このように、消防が個々の市町村の責任に属することとなった結果、大規模な災害や特殊な態様の災害が発生した際に、個々の市町村単独の消防カのみでは十分に対処することができない場合も想定されることとなる。そのような場合のために、消防の管理者である市町村長の間で、消防の相互応援に関して協定を締結することができるものとされた(法第21条第2項)。

 また、地震、台風、水火災等の非常事態の場合における災害防ぎょ措置を適切に実施するために、消防庁(当時は国家消防庁)、警察庁(当時は国家地方警察)、都道府県警察、都道府県知事および市町村長の相互間においてあらかじめ協定することができるものとされた(法第24条第2項)。

 

3 都道府県知事の指示による都道府県内市町村の消防応援

 都道府県が広域の地方公共団体として、管内の市町村に関する連絡調整を行うのに適していることから、都道府県の消防関係事務に関する規定を整備して、都道府県知事に一定の権限を付与することにより、消防体制の強化拡充を図ることを主な目的とした法改正が昭和27年に行われた。この一環として、地震、台風、水火災等の非常事態においては、都道府県知事が、市町村長等に対し災害防ぎょ措置について必要な指示を与えることができることとする規定が新たに創設された(法第24条の2)。

 大規模な災害や特殊な態様の災害で、特に範囲が広域にわたるものなどについては、被災市町村が一体となり、他の市町村の応援を得て、災害の防ぎょを実施する必要があるが、法第21条に定める市町村の相互応援だけではこれに十分対処できない場合もあり得る。このような場合に、都道府県が市町村に関する連絡調整を行う地位にあることから、緊急の必要があるときは、都道府県知事が当該都道府県内の市町村長や消防長等に対し、第24条第2項の規定による協定(上記2参照)の実施等の災害の防ぎょについて必要な指示をすることができることとされた。また、指示を受けた市町村長等は、これに従う義務があると解されている。

 

4 市町村の消防に関する相互応援努力義務

 昭和34年9月に中部地方を襲った伊勢湾台風は、死者約4,700人、被害総額7,000億円と甚大な人的・物的被害をもたらした。これを契機として、防災行政を総合化、体系化するため、防災に関する一般法である災害対策基本法が昭和37年に施行された。

 これに伴い、消防についても、防災における最も基礎的な地方公共団体である市町村の防災機関として、その役割が一段と重要性を加えるとの観点から、昭和38年に法改正を行い、従来から実施されてきた市町村の消防に関する相互応援を特に推進するために、市町村は消防に関して相互に応援する努力義務がある旨が明記された(法第21条第1項)。

 

5 都道府県の区域を越えた広域消防応援体制

 昭和39年6月に発生した新潟地震の際に、石油タンク施設等においても火災が発生し、この鎮圧のために化学消防車、消防ポンプ自動車、化学消火薬剤等の資機材が大量に必要となる状態が生じた。しかし、被災市町村である新潟市には化学消防車は1台もなく、火災の発生した石油精製会社に2台あっただけであり、消火薬剤の在庫量も少なかった。新潟県内の市町村からは、消防団を含め多数の消防ポンプ自動車が応援出動したが、化学消防車については、消防庁を通じ、東京消防庁等の消防機関が応援出動した。

 このような大規模災害の場合には、都道府県知事は、法第24条の2の規定により、管内の市町村の消防カを集約してこれに対処することができるが、これによってもなお当該災害に対応できない事態については、市町村長や都道府県知事が、他に消防の応援を要請しなければならない場合も考えられる。

 しかし、市町村長や都道府県知事が、他の都道府県のどこに応援を求めたからよいか分からないような場合に、消防庁等の国の行政機関がその仲介に立つということが法律上不備であるという問題があったことから、これを契機として、昭和40年に法改正が行われ、都道府県知事の要請に基づき、消防庁長官および都道府県知事が消防の応援のために必要な措置を要求するという広域消防応援体制が整備された。

 すなわち、地震、台風、水火災等の非常災害または石油コンビナート等の特殊災害等に際して、災害発生市町村の属する都道府県の知事から消防庁長官へ消防の応援の要請がなされた場合は、消防庁長官がこれを受けて他の都道府県の知事に対し、災害発生市町村の消防の応援のため必要な措置をとることを求めることができるとものとされた(法第24条の3)。

 なお、消防庁長官が措置を求める相手方は、都道府県知事であって、消防を管理する地位にある市町村長ではないが、これは、都道府県内の消防力を組織的かつ大量に動員する必要があることから、管内の消防事情に詳しい都道府県知事に一括して応援を求める方が実情に適するためと考えられたためである。

 また、都道府県知事は、消防庁長官の求めに応じて消防の応援のため必要な措置をとる場合において、その区域内の市町村の長に対し、消防機関の職員の応援出動等の措置をとることを求めることができるものとされた(法第24条の3第3項)。

 

6 消防の応接に関する緊急時の特例

 先の阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、消防庁においては、国内で発生した地震等の大規模災害時における人命救助等をより効果的かつ充実したものとするために、全国の消防機関相互による迅速な広域消防応援体制である緊急消防援助隊の整備を推進するなど、災害時の初動体制の確立が進められているところである。

 しかし、阪神・淡路大震災のような大規模災害が発生した場合には、通信の途絶などにより知事からの応援要請が迅速に行われない場合もありえないわけではなく、要請がないからといって応援出動が遅れることは、人命救助の観点から問題であり、緊急消防援助隊も有効に機能しないことになりかねない。

 また、内閣総理大臣の私的諮問機関である防災問題懇談会の提言が平成7年9月に提出され、消防の広域応援についても、「被災都道府県の中枢機能に支障が生じ、速やかな応援要請が行えないような場合等においても、迅速な応援出動を確保するため、国型の都道府県または特に緊急を要する場合には直接市町村に応援の要請をするといった法的システムを整備する必要がある」としているところである。

 今回の法改正は、このような防災問題懇談会の提言に基づく政府の災害対策の見直しの一環として行われるもので、法第24条の3を一部改正し、消防の応援に関する緊急時の特例を創設したものであり、その概要は以下のとおりである。

(1) 消防庁長官は、災害の規模等に照らし緊急を要し、都道府県知事からの要請を待ついとまがないと認められるときは、要請を待たないで、災害発生市町村のため、他の都道府県知事に対し、消防の応援のため必要な措置をとることを求めることができるものとされた(法第24条の3第2項)。

(2)消防庁長官は、都道府県知事から要請がある場合および災害の規模等に照らし緊急を要しその要請を待ついとまがない場合のいずれについても、人命の救助等のために特に緊急を要し、かつ、広域的に消防機関の職員の応援出動等の措置を的確かつ迅速にとる必要があると認められるときは、災害発生市町村のため、他の市町村の長に対し、応援出動等の措置をとることを自ら求めることができるものとされた(法第24条の3第4項)。

なお、(1)、(2)いずれについても、消防庁長官は、関係都道府県の知事に対して速やかに上記の措置をとった旨を通知するものとされている。