霞が関通信

平成6年度消防ヘリコプター救急搬送試験事業の実施結果の概要

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 8:1 15号 81-86, 1995)


はじめに

 プレホスピタル・ケアの充実に対する国民の要請の高まりに対応するためには、高度な応急処置を早期に実施するとともに、傷病者の医療機関への搬送時間の短縮を図る必要がある。

 そのため、消防・防災ヘリコプターによる傷病者の搬送の普及促進を図ることが強く求められているが、現状では各自治体の保有する消防・防災ヘリコプターの救急搬送への利用は一部の地域を除いて必ずしも積極的には行われていないため、消防・防災ヘリコプターを救急搬送に利用した場合の効果、課題および最適の利用方法については必ずしも明確になっていない。

 このような状況にあって、消防・防災ヘリコプターによる救急搬送の普及を図る観点から消防ヘリコプターを傷病者の搬送に利用した場合の効果、課題および最適の利用方法等の必要な知見を得るため、平成3年度から財団法人救急振興財団により試験事業を実施しているところである。過去の事業概要については、 表1 に示すとおりで、平成3年度および平成4年度は医師が搭乗する方式、平成5年度は医師は搭乗せず、救急隊員(II課程修了者)により活動を実施する方式で実施した。今年度は過去3回の成果を踏まえ、平成5年度と同様ヘリコプターに原則として医師は搭乗せず、救急救命士のみを搭乗させた条件下において、試験事業を行うことにより、消防ヘリコプターによる救急搬送の利用促進のための具体的な提言を得ることとした。以下その概要を紹介する。

 

1 事業概要

(1)実施期間

平成6年7月25日(月)から平成6年8月24日(水)までの土曜、日曜を含む1カ月間

(2)実施時間

8時45分から17時15分

(3)使用ヘリコプターおよび搭乗員

ア ヘリコプター 札幌市消防局が保有する消防ヘリコプター

イ 搭乗員    札幌市消防局航空隊員および救急救命士

(4)実施区域

札幌丘珠空港(札幌市消防局の消防ヘリコプター基地)から概ね100Km圏内に所在する81市町村

〔北海道地域医療計画に基づく第3次保健医療圏(道央圏)〕

(5) 搬送先医療機関

搬送先の医療機関は、次の3病院とした。

1 札幌医科大学医学部附属病院

2 北海道立小児総合保健センター

3 苫小牧市立総合病院

 実際の搬送については、傷病者をこれらの医療機関に搬送することが決定した時点で、救急車により搬送するのか、ヘリコプターにより搬送するのかを検討することとした。

 また、これらの3病院については、過去の傷病者搬送状況や離着陸場の整備状況等を勘案し、決定したものである。

(6)主要実施項目

ア 傷病者の搬送

・災害現場から医療機関への搬送

・高次医療機関への転院搬送

・救急救命士による救急救命処置

イ 関係医療機関、関係消防本部等との連携

ウ 傷病者搬送に係る各種医療データや医療用機器の操作性およぴデータの収集

(7)要請基準

 救急隊員および医師がヘリコプターを要請する際の目安として 表2 に定める外傷指数を設定し、その基準を10点以上とした。

 この外傷指数についてはあくまでも参考として用いることとし、現場に出動した救急隊や医療機関の医師が傷病者を上記(5)に示す医療機関に搬送することを決定した時点で、従来の救急車により搬送するよりもヘリコプターにより搬送するほうが有効と認めた場合に要請することとした。

(8)ヘリコプターの装備

 今回の試験事業においては、救急救命士が搭乗し、活動を行うことから機内にヘリコプター専用の救急処置台を準備し各種救急用資器材とストレッチャ一等を搭載した。

 

2 結果概要

(1)出動件数等

 期間中に11件の出動要請があり、事例の概要は 表3 のとおりである。

 11件の内訳については、転院搬送7件、労働災害事故2件、交通事故2件となっており、労働災害事故と・交通事故の計4件は事故現場への直接出動事例である。

(2)所要時間

  表3 「現場〜病院到着所要時間」に示すとおり、各事例の救急発生現場から医療機関までの距離は、最短の事例4で約15Km、最長の事例5で約132Kmとなっている。所要時間については、最短の事例8で9分(距離約30Km)、最長の事例7で58分(距離約125Km)となっている。

 

3 救急救命士の活動

 搭乗した救急救命士による機内での処置としては、酸素吸入、血圧測定、血中酸素飽和度測定が主なものであった。

 各事例の概要は 表3 のとおりである。例えば事例4および事例8については、心肺停止状態の傷病者を機内へ収容し、ただちに心電図を医療機関へ伝送する(事例8)とともに医師の指示に基づきツーウェイチューブによる気道確保を実施したのち、心肺蘇生法を開始した。飛行中は、医師引き継ぎまで心肺蘇生法を継続した。

 また事例11においては、事故発生の状況、腹部皮下血腫等、傷病者の観察結果から腹腔内損傷を疑い、事前に現場より医療機関の医師に伝達した。医療機関では救急救命士からの情報により、受け入れ体制を整えることができたため、早期に適切な治療を開始することが可能となった。

 試験事業実施後、関係医療機関の医師にアンケート調査を行い、今回の試験事業に救急救命士が搭乗し活動を実施したことに関しての評価を依頼したところ、傷病者の全身管理を行う上で有効であり、医師が同乗する際にもその存在が心強いという回答が寄せられた。このことからもヘリコプターに搭乗する救急救命士への期待感がうかがえる。

 

おわりに

 消防・防災ヘリコプターを救急搬送の手段として考えた場合、その機動性や行動範囲等から、その1日も早い普及が望まれる。今回の試験事業は、今後のあるべき姿と考えられる、救急救命士が搭乗した消防・防災ヘリコプターを救急搬送に活用したシステムを構築する上で重要な資料が得られたと考えられる。今回の試験事業により得られた内容については、さらに分析を重ね今年度未までに報告書として取りまとめる予定である。

 

 

表1  消防ヘリコプターによる救急搬送試験事業の比較

 

(財)救 急 振 興 財 団

平成3年度

広島市消防ヘリコプター

平成4年度

名古屋市消防ヘリコプター

平成5年度

神戸市消防ヘリコプター

平成6年度

札幌市消防ヘリコプター

調査実施期間

平成4年3月

(31日間)

平成4年9月〜10月

(30日間)

平成5年11月〜平成6年1月

(4日間)

平成6年7月〜8月

(30日間)

ヘリコプター

待機場所

広島空港広島市消防局

消防航空隊基地

名古屋市航空名古屋市

消防局消防航空隊基地

神戸市消防局

消防機動基地

丘珠空港札幌市消防局

消防航空隊基地

傷病者受入

医療機関

広島県内の中核医療機関(広島大学医学部附属病院他)

愛知県、岐阜県、三重県の中核医療機関

傷病者の症状に適した医療機関

北海道地域保健医療計画に基づく「第三次保健医療機関」(道中圏)

調査対象区域

広島県全域

愛知県全域、岐阜県・三重県の一部地域(名古屋空港から概ね80km圏内)

(原則として)兵庫県全域

北海道地域保健医療計画に基づく「第三次保健医療圏」(道中圏)

ヘリポート数

203ヵ所

各消防本部等の指定した場所

157ヶ所

82ヶ所

使用

ヘリコプター

ドーファンIIN(広島市消防局消防ヘリコプター)

ドーファンIIN(名古屋市消防局消防ヘリコプター)

BKI17A-4(神戸市消防局ヘリコプター)

ベル412SP(札幌市消防ヘリコプター)

ヘリコプター

搭乗員

操縦士2名、整備士1名、医師1名、救急隊員1名

操縦士2名、整備士2名、医師1〜2名、救急救命士1名

操縦士2名、整備士1名、救急隊員1名(救急II課程修了者)

操縦士2名、整備士1名、救急救命士1名、救急隊員1名

ヘリポート

待機人員

・救急隊員は3名1組で基地待機し、うち1名が搭乗

・広島大学医学部の医師が基地待機

・救急救命士は1名が基地もしくは愛知医大病院に待機

・医師は1〜2名が愛知医大病院に待機

全員基地待機

全員基地待機

ヘリコプターの

出動基準

1 救急事象発生場所に医師がいない場合は、通報を受けた消防機関が傷病者の症状の態様(呼吸不全、循環不全、四肢切断、熱傷、中毒等)および程度に応じ要請

2 救急事象発生場所に医師がいる場合は、中核医療機関と協議の上、地元消防機関を通じて要請

1 救急事象発生場所に医師がいない場合は、通報を受けた消防機関が傷病者の症状の態様(呼吸不全、循環不全、四肢切断、熱傷、中毒等)および程度に応じ要請

2 救急事象発生場所に医師がいる場合は、中核医療機関と協議の上、地元消防機関を通じて要請

1 救急事象発生場所に医師がいない場合は、原則として現場到着した地元消防機関の救急隊が傷病者の容態を確認し、ヘリコプターによる搬送の必要性が認められたときに要請

2 救急事象発生場所に医師がいる場合は、中核医療機関と協議の上、地元消防機関を通じて要請

1 救急事象発生場所に医師がいない場合は、原則として現場到着した地元消防機関の救急隊が傷病者の容態を確認し、ヘリコプターによる搬送の必要性が認められたときに要請

2 救急事象発生場所に医師がいる場合は、中核医療機関と協議の上、地元消防機関を通じて要請 

出動実績

5件

(うち転院搬送3件)

3件

(うち転院搬送2件)

2件

(うち転院搬送2件)

11件

(うち転院搬送7件)

今後の課題

1 離着陸場の整備(特に医療機関側)

2 移動中のヘリと医療機関との通信手段の確保

3 消防ヘリによる救急搬送のとしての法令上の明確な裏付け

4 都道府県保有ヘリの活用促進

1 医療機関における緊急離着陸場の確保

2 搭乗人員の制限

3 転院搬送の場合の医療機関の連携

4 活動に要した費用負担の検討(全国市町村振興協会の交付枠の拡大)

5 関係消防機関との十分な連携確保

6 医師が確保できない場合の救急救命士の活用

7 積載医療用資機材等の整備

8 出動要請手続きの簡素化

9 都道府県保有ヘリの有効活用

1 出動基準の明確化

2 医師の管理下に置くまでの時間の短縮

3 救急救命士の積極的な活用

4 飛行中のヘリコプター内での傷病者、資機材に与える影響

5 出動を要請した医療機関の医師がヘリコプターに搭乗した場合の医師の帰路の確保

6 ヘリコプター飛行の安全性に対する不安の解消

7 離着陸場の整備

 

 

 

表2 外傷指数表

点数

1 外傷部位

四肢

腰背部

胸部

頭頚部または腹部

2 外傷機転

擦過傷

打撲傷

刺創

鈍的外傷または射創

3 心血管系

外出血

血圧60〜100

または脈拍100〜140

血圧60以下

または脈拍140以上

脈拍不触

または脈拍55以下

4 呼吸系

胸痛

呼吸困難

チアノーゼ

無呼吸

5 意識レベル

(3−3−9度方式)

20以下

30

100、200

300

1 外傷指数による計算例

1 外傷部位=>胸 部=>5点

2 外傷転機=>打撲傷=>3点

3 心血管系=>外出血=>1点

4 呼吸系 =>胸 痛=>1点

5 意識レベル=>30=>3点

2 ヘリコプターの要請の目安

・傷病者の外傷指数が合計10点以上あって、ヘリコプターにより搬送時間の短縮が可能な時。

・外傷指数の合計が10点以下の場合であっても、ヘリコプターによる搬送時間が、傷病者の予後に好結果をもたらすと予想される時。

 

 

表3 平成6年度消防ヘリコプター救急搬送試験事業出動事例一覧表

事例

番号

ヘリコプター

要請日時

事故概要

傷病者の

年齢・性別

ヘリコプター

出動要請場所

搬送先

医療機関名

現場〜病院

到着所要時間

8月1日(月)

11時52分

スキーリフトからの

転落事故

39歳 男性

札幌国際

スキー場

札幌医科大学

附属病院

15分(7分)

*約42Km

8月2日(火)

10時54分

馬に蹴られた事故

29歳 男性

静内川公園

サッカー場

苫小牧市立

総合病院

54分(22分)

*約70Km

8月2日(火)

16時41分

未熟児(490g)

0歳 女性

石見沢市東山

総合公園

道立小児総合

保健センター

25分(15分)

*約61Km

8月11日(木)

14時20分

交通事故

(車3台の衝突事故)

57歳 女性

石狩川左岸

河川敷

札幌医科大学

附属病院

10分(6分)

*約15Km

8月13日(土)

6時29分

急性膵炎

36歳 男性

寿都中学校

グラウンド

札幌医科大学

附属病院

42分(31分)

*約132Km

8月15日(月)

10時23分

馬に蹴られた事故

43歳 男性

三石町緑ケ丘

公園球場

苫小牧市立

総合病院

51分(28分)

*約105Km

8月16日(火)

6時29分

階段からの転落事故

20歳 女性

浦河町

潮見ヶ丘公園

苫小牧市立

総合病院

58分(28分)

*約125Km

8月17日

13時37分

ショベルカーのバケット

と堤防にはさまれた事故

44歳 男性

無意根山荘グラウンド(豊羽高山)

札幌医科大学

附属病院

9分(9分)

*約30Km

8月19日(金)

16時45分

解離性大動脈瘤

46歳 男性

苫小牧市

オーロラ球場

札幌医科大学

附属病院

22分(18分)

*約68Km

10

8月20日(土)

10時12分

落馬による事故

34歳 男性

門別町営多目的

グラウンド

札幌医科大学

附属病院

34分(25分)

*約92Km

11

8月23日(火)

17時45分

交通事故

(バイクの単独事故)

22歳 男性

当別町青山四番

川付近牧草地

札幌医科大学

附属病院

17分(17分)

*約74Km

注1)表中「現場〜病院到着所要時間」は、救急隊が傷病者を収容し、ヘリ臨着場(ヘリコプター出動要請所)へ出発する地点から病院到着までの所要時間であり、内訳は次のとおり。

・札幌医科大学附属病院および道立小児総合保健センターへ搬送の場合

救急車のヘリ臨着場までの搬送時間+救急車からヘリへの傷病者搬入時間+ ヘリ飛行時間

・苫小牧市立総合病院への搬送の場合

救急車のヘリ臨着場までの搬送時間+救急車からヘリへの傷病者搬入時間+ ヘリ飛行時間 +ヘリから救急車への傷病者搬入時間+救急車の病院到着までの搬送時間

注2)表中「()」はヘリ飛行時間、「*」は現場から病院までの距離