霞が関通信

マレーシアのビル倒壊災害に国際緊急援助隊出場

自治省消防庁救急救助課課長補佐

石川 節雄

(プレホスピタルケア 7:1 12号 65-68, 1994)


1 国際緊急援助隊の派遣

 平成5年12月11日14時40分(日本時間)頃発生したクアラルンプール近郊のビル倒壊事故により、多数の住民が瓦礫等の下敷きとなり、翌12日23時15分、マレーシア政府から国際緊急援助隊の派遣要請があった。消防庁では外務省と協議の上、筆者(総括官として)並びに東京消防庁、名古屋市及び北九州市消防局の救助隊員計11名をもって編成された国際消防救助隊を派遣することとし、一行は外務省、国際協力事業団(JICA)、警察救助隊とともに総員24名からなる国際緊急援助隊として13日13時15分成田から現地に向け出発した。

 国際緊急援助隊のうちの救助チームとしての派遣は、平成3年5月のバングラデイシュサイクロン災害以来の2年6か月ぶりであり、本誌と関連のある医療チームについては、今回の災害は限定されたものであることから派遣要請はなされなかったものである。

 

2 国際消防救助隊等の概要

 ここで若干、国際消防救助隊等の発足経緯について説明しておきたい。

 昭和61年、消防庁では、海外で大規模な災害が発生した場合に人道上及び国際協力の推進の観点から世界のトップレベルにある我が国の消防機関の救助隊を迅速に派遣する体制の整備を図ることとし、国際消防救助隊を発足させた。

 その後、政府においては外務省を中心に、特に発展途上にある海外の地域における大規模災害に対し、被災国政府の要請に応じ、緊急援助活動を行う人員を派遣する体制を整備することとし、昭和62年、派遣の根拠及び手続き等を定めた「国際緊急援助隊の派遣に関する法律」が制定された。

 国際消防救助隊は同法に基づく国際緊急援助隊の一部を構成するものであり、現在、40消防本部、501名の救助隊員が登録されている。これまでの国際消防救助隊の派遣は、6か国に及んでいる。

 

3 消防活動を取り巻く環境

(1)連日30度を超える暑さと80%は超えていると思われる湿度、さらには多数の報道機関等が見守るなかでの活動であった。

(2)倒壊した建物に隣接して建てられた建物も倒壊危険があり、数回救助活動を中止せざるを得ないなど極めて危険な緊迫した状況下での活動であった。

(3)倒壊した建物内は、日を増すごとに異臭が強くなるとともにコンクリート片や瓦礫等の崩落がいつ起きてもおかしくない状態であり、二次災害に配意しながらの活動であった。

 

4 救肋活動概要

(1)到着初日の活動は、地上に押しつぶされている棟の検索救助活動に着手し、車両数台を収容したものの生存者は発見されなかった。14日午後以降は、地上に倒壊し横たわっている棟の検索救助活動へと移行し、当初はマレーシア消防隊の支援を受けながら日本隊のみで活動を行っていたが、後半は日本隊、シンガポール隊そしてマレーシア消防隊によりそれぞれ役割分担、区域を定め、共同による人命検索救助活動に着手した。

(2)この役割分担に基づき各国救助隊とも、隣棟の倒壊危険により一時避難を繰り返すなど緊迫した状況の中で昼夜を分かたぬ救助活動を実施し、特に日本隊については次災害の発生に配意しながら各階層ごとにファイバースコープをはじめとし、レスキューツール、削岩機等を駆使した懸命の救助作業に従事した。

 更に地中音響探知機を使い再度の生存者の確認等検索漏れを防止するなどあらゆる資機材を使いながら救助活動を展開したものである。

(3)フランス隊を含め各国の懸命の救助活動にもかかわらず生存者の発見・救出等の状況は変化せず、最後の手段としてマレーシア消防隊により倒壊した建物の南側地下2〜3メートルの位置から鋼鉄製のパイプを打ち込み(横穴)救助路を確保しての生存者の確認を試みたが、多量の鉄筋、コンクリートに阻まれ掘削作業は遅々として進まず作業を断念せざるを得ない状況となった。これまでの活動として日本隊、シンガポール隊により遺体の一部を収容したものの生存者の発見救出には至らなかった。

*各国の活動概要についても紹介しなければならないものであるが誌面の都合上割愛させていただく。

 

5 今回の救援救助活動にあたって

 今回の救助活動は、地震等に伴う広域的な災害と異なり限定された災害であったことから、活動を行うにあたり最低限確保しなければならない救助資機材の搬送手段や保管場所、そして水、食料等の手配について大使館、JICA、在留法人、日本人会等多数の方々から支援を受け救助活動が円滑に行われたこと。

 隊員の健康管理については、前述したとおり30度を越す暑さ等の下で不眠不休に近い活動であり体調や疲労面に細心の注意を払う必要があった。この点については勤務シフトを設定し自己管理による疲労軽減の調整を図り、また十分とはいえないものの比較的、水、食料等の補給状況が良好であったこと等から一応の健康保持ができたのではないかと思われる。

 さらに健康管理とあわせ一番配意しなければならない安全管理面についても、いつ崩落等の二次災害が起きてもおかしくない状況下での活動であったことから、屋内進入に先立ち、建築用パイプを使用し崩落防止を施したり、パワーショベルのヘッドを利用して隊員の活動範囲を制限するなど安全策を講じた。

 今後の教訓としては、生存者の救出が期待できる時間は限られており、かつ災害の態様(大規模・広域災害)によっては当然交替要員も必要となってくる。また広域的で大規模な災害となれば自ら水、食料等を確保しなければならないことから兵たん部門の支援も含めた十分な人員をもって編成する必要がある。とともに携行する資機材等については定期的に点検を行うなど改めて事前にチェックをしておく必要がある。

 最後に、この度の派遣に際し日本隊の昼夜を分かたずの活動に対して多数のマレーシア国民から激励と感謝が寄せられたこと。更に救助資機材の供与や救助活動を通してマレーシア消防隊に救助技術の指導が伝えられたことなどマレーシア国との友好関係が一層築かれたものと思われる。

 そして疲労と闘いながら全力投球していただいた隊員の皆さんに対し、心から感謝を申し上げる次第である。