霞が関通信

消防・防災ヘリコプターと救急業務

石川 亘(自治省消防庁救急救助課救急専門官兼理事官)

(プレホスピタルケア 6:2 11号 70-72, 1993)


1 ヘリコプターの必要性と現況

 ヘリコプターは高速で飛行できることに加え、空中停止(ホバリング)や小さな旋回、垂直離着陸が可能であるなど機動性の面で優れた特性を有しているため、林野火災に対する空中消火、災害時の情報収集、遭難者の救助、離島、山村等からの救急患者の搬送など、消防防災分野全般について有効性が指摘されている。そのために、昭和42年4月に東京消防庁に初めてヘリコプターが整備されてから、政令指定都市の消防局を中心に次々に航空隊が発足し、平成5年3月末現在では、消防ヘリコプター(消防活動に活用するヘリコプターをいう。以下同じ。)は13の消防機関(東京消防庁及び全政令指定都市)で計23機整備されており、防災ヘリコプター(防災活動に活用するヘリコプターをいう。以下同じ。)は7道県で7機整備されるようになった。

 この結果、合計30機のヘリコプターが15都道府県に配備されているところである。

2 救急搬送へのヘリコプター活用の有効性

ヘリコプターを救急搬送へ活用することについては、次のような点から、とりわけその有効性が指摘されており、既に欧米諸外国でも広く実用化されている。

(1)広域遠方をカバーできること。

ヘリコプターは高速でしかも直線飛行が可能なため、救急自動車に比べてはるかに短時間に広域遠方をカバーできる。

(2)搬送時間の短縮化を図ることができること。

 救急自動車が平均時速50〜60kmであるのに対し、ヘリコプターは平均時速200〜230km、しかも道路状況に左右されることなく直線飛行が可能であるため搬送時間が著しく短縮される。このことは、現在搬送に長時間を必要としている地域においてより顕著な効果をもたらすことができる。

(3)治療開始までの時間を短縮できること。

 救急傷病者の搬送時間の短縮により、治療開始までの時間が短縮される。

また、ヘリコプターに医師が同乗するならば、さらに治療開始までの時間が短縮でき、救急患者の救命率・治癒率の向上、治療期間の短縮につながる。

(4)治療の継続性を確保することができること。

医師が搭乗する場合、救急患者発生現場から医療機関に収容するまで、医師の手による治療が継続され、救命率の向上を図ることができる。

(5)安静な状態で患者の搬送が可能になること。

 ヘリコプターは救急自動車に比べて振動が少なく、安静な状態で患者を搬送できる。

(6)災害時に機動力を発揮することができること。

 大災害時に医師団を災害発生現場に、また、災害現場から患者を医療機関に搬送する等の要請があった場合でも対応できる。

我が国でも消防機関や都道府県の所有する消防・防災ヘリコプターが救急搬送に使用されているが、その実績は平成4年中に約200件を超えるに過ぎず、しかもそのほとんどが東京消防庁による伊豆諸島等の島しょ部からの離島搬送である。

3 消防庁の取組み

 消防庁としても、平成元年3月の消防審議会「消防におけるヘリコプターの活用とその整備のあり方に関する答申」等を踏まえ、ヘリコプターの消防活動への活用について調査研究を重ねるとともに、地方公共団体における消防・防災ヘリコプターの整備の推進に努めてきたところであるが、今般、各都道府県において「航空消防防災体制整備計画」を今年度中に作成するように指導することとしている。今後は、それに基づいて、すべての都道府県の区域内に消防・防災ヘリコプターが早期に配備されるよう、ヘリコプター未整備県におけるヘリコプターの整備を計画的かつ積極的に進めるとともに、配備されたヘリコプターについて、その機能を発揮した機動的かつ広域的な消防防災活動、救急搬送活動等への一層の活用促進を図ることとしている。

ところで、ヘリコプターの購入には膨大な経費を要し、また、人件費、保険料、整備費等維持管理費もかなりの高額にのぼるため、これまでは、財政規模の大きい政令指定都市等でなければヘリコプターを整備することが困難であるとの指摘があった。

 従来から、ヘリコプター(昭和41年度〜)、ヘリコプター附帯施設(昭和56年度〜)、ヘリコプターテレビ電送システム(昭和62年度〜)、ヘリコプター離着陸場(平成3年度〜)の国庫補助制度のほか、消防・防災ヘリコプターの維持管理費について一部地方交付税措置を行ってきたところであるが、平成5年度からは、大幅な拡充を図るとともに、ヘリコプター及び関連資機材の整備費についても地方交付税措置を行うこととしている。また、これと併せて、ヘリコプターの離着陸場の単独整備についても、防災まちづくり事業の対象とし、その整備を支援することとした。

また、消防庁として、ヘリコプターのより高度な活用を促進するための調査研究や活動事例の収集を行っているが、救急搬送へのヘリコプター活用に関する試験事業については、次項で説明する。

4 消防ヘリコプター救急搬送試験事業

 ヘリコプターによる救急搬送については、平成3年度から(財)救急振興財団が行う「消防ヘリコプター救急搬送試験事業」に協力し、今後の救急ヘリコプターのあり方について、消防機関や医療関係者等から提言等を頂いているところである。

 この試験事業は、平成3年度は広島市において、ヘリコプターの基地に医師を常駐させ、出動の際に医師をヘリコプターに同乗させる方式(空港待機方式)で行い、平成4年度は名古屋市において、救急現場への出動の途中に、医師が待機する病院で医師を乗せ、救急現場へ向かう方式(病院待機方式)で行った。

これらの試験事業を通して、ヘリコプター搭載医療機器、医薬品、搭乗員体制等ヘリコプターによる救急搬送実施に当たっての具体的な細目についての検討事項の把握を行うとともに、高次医療機関への搬送時間の面で、救急自動車と比べて、搬送時間は大幅に短縮されること等、ヘリコプターを活用した救急搬送の様々な効果に関する試験結果と、今後の実用化に向けてのいくつかの検討課題が明らかになるなどの成果をあげることができた。

特に、ヘリコプター内で医療行為を行った医師からは、搬送中の動揺が救急自動車に比べて非常に少なく、とくに救急自動車のような発進時・停車時の前後方向の激しい揺れがないことが安静を必要としている傷病者の管理上極めて重要な長所となっていることが指摘されるなど、実際に試験事業に参加された医療関係者からは、概ね好感をもって受けとめられ、今後のヘリコプター救急搬送の一層の普及促進に強い期待が持たれている。

他方、試験事業を通じて、救急ヘリコプターを有効に活用していくための課題として指摘された点は、緊急離着陸場(特に、中核医療機関における)の整備であった。消防ヘリコプターは、人命救助活動等で例外的に、運輸大臣の許可なくして飛行場以外の場所に臨時離着陸することができるが、散水や保安警戒等の準備の負担が軽減されるので、専用の離着陸場を整備することが望ましく、また、医師のピックアップ及び患者の直接搬入による搬送時間短縮の観点から、中核医療機関には離着陸場の整備が必要である。

上述の防災まちづくり事業(消防庁)、救命救急センターヘリポート整備事業(厚生省)等の活用による早急かつ積極的な離着陸場の整備が期待されるところである。

5 最後に

生活大国を目指す現在の我が国において、その基礎的条件である生活の安全の確保はますます重要となってきている。こうした中で傷病者の救命率の向上を求める国民の期待にこたえていくためには、救急業務の高度化と併せて、ヘリコプターを活用しての救急体制の整備を図る必要がある。

消防庁としては、今後とも消防ヘリコプターを活用した救急搬送試験事業に様々なかたちで引き続き実施協力していくことにより情報の蓄積等に努めるとともに、問題点の解決方策の検討を通して、ヘリコプターを活用した救急搬送の全国的な普及に努めていくこととし、今年度も、神戸市消防局のヘリコプターを利用して試験事業を実施する予定である。

読者諸兄におかれても、今後の消防・防災ヘリコプターの整備やその活用促進に向けて積極的な眼を向けて下さるようお願いする。