霞が関通信

応急処置等の範囲拡大と250時間教育

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 4:2 7号 65-66, 1991)


応急処置範囲の拡大

(1)救命率向上のための方策について検討を行っていた救急業務研究会(会長 大塚敏文日本医科大学付属病院長)の基本報告(平成2年11月26日)を受け、自治省消防庁は、救急隊員の行う応急処置の範囲を大幅に拡大することとし、平成3年8月5日、一連の告示、通達を改正し、各都道府県知事に通知したところである。

 その主な内容は、1応急処置の範囲、内容等を定めた「救急隊員の行う応急処置等の基準」の改正、2消防職員に対して実施すべき教育訓練の内容等を定めた「消防学校の教育訓練の基準」の改正、3市町村の消防機関が行う救急業務の実施体制等について定めた「救急業務実施基準」の改正、となっている。

 また、救急救命士法施行令をはじめ救急救命士制度に関する一連の政省令、告示等が、平成 3年8月14日に公布、翌15日から施行されることとなり、ここに応急処置の範囲の拡大に関する制度的な準備は一応整ったことになる。

(2)さて、今般拡大された応急処置は、一定の教育訓練を修了して行うべきであるとされたいわゆる 9項目と救急救命士の国家資格を取得して行うこととされたいわゆる3項目から構成される。3項目については別の機会にゆずり、今回は9項目の応急処置を実施するために必要な教育訓練の方法等について紹介する。

 

教育訓練の基準の改正

(1)救急業務研究会における検討の結果、いわゆる9項目の応急処置を実施するためには、消防法施行規則第 50条に定めるいわゆる救急隊員資格取得講習(以下135時間講習という。)を含め、250 時間程度の教育訓練が必要であるとされたことから、「消防学校の教育訓練の基準」を改正し、消防職員に対する専科教育である「救急科」に新たに「救急標準課程」を加えることにした。

 また、現在既に135時間講習を修了している救急隊員については、教育内容の重複を避け、新たに 115時間の教育訓練を修了することにより9項目の応急処置が実施できることとし、これを「救急II課程」として加えることとした。

 なお、従来の135時間講習については、名称を改め「救急I課程」としたが、その内容については従来のものと同一である。

(2)250時間講習を「救急標準課程」とし、従来の135時間講習を「救急I課程」、115時間講習を「救急II課程」としたのは、次のような理由による。

 自治省消防庁としては、9項目までの応急処置については、すべての救急隊員に実施できるようにしてもらいたいと考えており、そのため「救急業務実施基準」に新たな条項を加え、「消防長は救急救命士の資格を有する隊員及び 250時間の講習を修了した隊員をもって救急隊を編成するようつとめる」ものとした。(同基準第 6条)

 したがって、既に135時間を修了した救急隊員の存在する現在においては、 115時間の追加講習を急ぐ一方、これから救急隊員の資格を取得しようとする消防職員に対しては、最初から 250時間講習を実施することが望ましいと考えている。また、将来的には、 115時間の追加講習が普及し、資格講習の切り換えに見通しが立った時点で、「救急I課程」及び「救急II課程」はこれを廃止し、救急隊員の資格取得講習としての「救急標準課程」のみとしたいと考えているところである。

(3)「消防学校の教育訓練の基準」に定めるこれらの講習は、救急救命士の国家資格を取得する際の受験資格の一部ともなっている。

 救急救命士法第34条第1項第4号においては、救急救命士国家試験を受けようとする救急隊員は、

  1. 厚生省令で定める一定の講習を修了していること、

  2. 5年間以上(または、2,000時間以上の救急出動)の救急業務に従事していること、

  3. 指定された救急救命土養成所において6月以上必要な教育訓練を受けたこと、

 が要件とされている。

1の要件については、厚生省令において 表1 2 のとおり科目及び時間数が定められているが、これは、次に示すとおり表現について差異はあるものの、救急標準課程と実質的には同じ内容となっている。

 

教育訓練の実施体制

(1)115時間の追加講習及び250時間講習は、基本的には各都道府県の消防学校において実施されるものである(当面、救急振興財団の救急救命中央研修所においても実施することとしている。)が、この講習を円滑に実施するためには、消防学校の側において新たな講師の確保、教育訓練用資器材等の整備が必要となる一方、研修生を派遣する市町村の消防機関側においても研修期間中の交替要員の確保、 9項目の応急処置に対応した応急処置用資器材の整備、救急隊編成の変更等が必要となる。

(2)115時間の追加講習及び250時間講習の実施については、各都道府県も積極的に取り組んでおり、少なくとも、 115時間講習については大部分の都道府県が平成3年度中に教育訓練を開始したいとしている。

 早急に実施すべきであるとされた9項目の応急処置に対応するためには、とりあえず、135時間講習を終えた救急隊員に対する追加講習を優先することとなるが、全国 48, 787人(平成 3年 4月 1日現在)の救急隊員すべてが講習を修了するには、かなりの時間を要することになると思われる。

 各都道府県消防学校及び市町村消防機関は、それぞれの地域の実情を踏まえ、教育訓練に関する中長期的計画を策定し、計画的、効率的な養成に務める必要がある。

(3)自治省消防庁としては、今回の応急処置の範囲の拡大措置に対応し、教育訓練の実施体制の整備、消防機関側において必要となる要員の確保、救急用資器材の整備等に要する経費について所要の財政措置を行うとともに、救急事故例別応急処置の方法(プロトコール)の作成、応急処置用資器材の研究等に務め、今回の措置の円滑な実施を期したいと考えている。

 

 

表1 「消防学校の教育訓練の基準」(救急標準課程)

教  科  目

時間数

救急業務及び救急医学の基礎

50時間以上

応急処置の総論

73  〃

病態別応急処置

67  〃

特殊病態別応急処置

25  〃

実習及び行事

35  〃

250  〃

 

表2「救急救命士法施行規則」 別表(第14条関係)

科         目

時間数

医学概論

解剖・生理学

社会保障・社会福祉

患者搬送

5

30

5

15

臨床救急医学総論

観察

検査

処置総論

処置各論

救急医療

災害医療

30

10

10

25

10

3

 

 

別 

心肺停止

ショック・循環不全

意識障害

出血

一般外傷

頭部・頸椎損傷

熱傷・電撃症

中毒

溺水

気道異物・消化管異物

20

5

5

5

30

5

3

3

3

3

小児・新生児疾患

高齢者疾患

産婦人科疾患・周産期疾患

精神障害

創傷等

5

5

5

5

5 

総        計

250