霞が関通信

救急業務研究会等の報告について

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 4:1 6号 45-48, 1991)


 昨年11月8日〜10日の3日間、日本救急医学会総会が岡山県倉敷市で開催されたが、救急隊員部会においても、救命率の向上の観点からその必要性が指摘されている救急隊員の応急処置の範囲拡大に伴う問題点を中心に討議がなされた。

(1) 救急隊員の応急処置範囲拡大は、どこまで必要か。

(2) 救急隊員の処置拡大に必要な教育時間はどの程度か。

(3) 処置拡大に伴うオーソライズの方法は如何にあるべきか。

等が議論されていたところであるが、自治省消防庁の救急業務研究会(会長・大塚敏文日本医科大学附属病院長)では、平成2年6月29日第1回会議以来、小委員会(委員長・三井香兒東京大学附属病院講師)を設け同様の問題を検討してきており、8月には、中間報告を取りまとめ公表、11月23日には、十数回の検討会議結果を踏まえ、基本報告を作成し、消防庁長官に提出した。

 基本報告は、我が国のプレホスピタル・ケアが未だ不十分な状態にあり、欧米諸国の救命率に比較して低いものとなっており、救命率の向上が現下の緊急課題であるとしている。

 これまでプレホスピタル・ケアに医師が関与することが少なく、また、救急隊員の行う応急処置が極く限られたものとなっていることから、救命率の向上のためには、ドクターカーの導入、救急隊員の行う応急処置範囲の拡大が考えられるが、ドクターカーは救急専門医の不足等の事情から、全国一律に導入するには無理があり、現実的・効果的な方策としては、救急隊員の行う応急処置範囲を拡大することであるとしている。

 また、応急処置の拡大範囲は、救命効果の高い、いわゆる3点セット(除細動・輸液・気道確保)を含むべきであり、教育訓練については、救急業務の実態を十分踏まえたものとするとともに、1,000時間程度とすること、拡大される処置のうち、高度専門的な3点セットについては、国家資格制度が創設されたならば、国家資格を取得して実施する必要があると報告された。

 厚生省では、消防庁の救急業務研究会と同様、救急医療体制検討会において、救急医療全般にわたって検討する中、救急現場及び搬送途上における救急医療のあり方を小委員会を設置して重点的に議論をし、12月5日小委員会報告を取りまとめ公表した。

 この報告では、救急現場に医療を届ける方策としてドクターカー等モデル事業を実施すること、新たな国家資格制度を導入することも検討に値するとして、新たな制度の確立を提言した。

 

救急救命士法について

 これまで、自治省消防庁と厚生省は、昨年5月25 >日設置した、救急対策連絡会議の場で種々意見交換してきていたところであるが、両省庁の研究会等での議論を踏まえ、新たな国家資格制度の創設を前提とし、救急隊員の応急処置範囲の拡大について両省庁間で引き続き協議が重ねられた。

 厚生省は、新たな国家資格として、救急救命士を創設することとし、「救急救命士法案」を今国会に提出することとして、消防庁をはじめ各省庁と協議に入り、本年1月閣議決定のうえ国会に提出した。

「救急救命士法」は、4月18日に成立し、4月23日公布の運びとなった。

 今後は、法律に基づく政省令の詰めがなされ施行されることとなるが、救急救命士法の概要は、別紙1のとおりである。

 

救急振興財団構想について

 一方、救急隊員の行う応急処置範囲の拡大に伴う教育については、これまで、救急隊員に対する教育が各都道府県等の消防学校で実施されてきたところから、一般的には消防学校で実施することとなる。しかし、拡大される処置のうち、特に除細動・輸液等国家資格を取得して実施する応急処置に関する教育訓練については、教育内容が高度・専門的なものであり講師となる救急専門医師の数が限られていること等から、各都道府県等の消防学校では困難な面がある。このため諸方式が検討されたが、各都道府県が共同して財団を設立し対応することとされた。

 財団構想については、別紙2のとおりであり、本年1月16日救急振興財団設立準備委員会が設けられた。現在5月中旬の財団設立に向けて準備作業が進められている。

 救急振興財団では、救急隊員の教育訓練のほか、救急に関する調査研究、地方公共団体が行う住民に対する応急手当の普及啓発活動を支援する事業を実施することとしている。

 

新たな国庫補助制度の創設について

 次に、自治省消防庁では、平成3年度国家予算として、新しく救急高度化推進整備事業を国庫補助事業として創設し、高規格救急自動車の導入、最新救急資器材の積載、心電図伝送装置の導入等を内容とする救急高度化推進計画を策定する市町村に対して補助を行い、救急高度化を推進することとしている。

 以上、昨年からの救急に関する議論を別表にまとめ、参考に供する。

 


別紙1  救急救命士法の概要

(1) 目的

 救急救命士の資格を定めるとともに、その業務が適正に運用されるように規律し、もって医療の普及及び向上に寄与することを目的とする。

(2)業務

 救急救命士は、厚生大臣の免許を受けて、医師の指示の下に、病院又は診療所に搬送されるまでの間に救急救命処置を行う。

(注)主たる救急救命処置としては、呼吸又は循環の機能が停止した傷病者に対する除細動、輸液、気道確保という高度な処置がある。

(3)免許

 救急救命士の資格は、国家試験(以下「試験」という。)に合格した者に対して厚生大臣が与える。

(4)試験

  1 試験は、厚生大臣が行う。

2 試験の受験資格は、次のとおりとする。

(5 >)施行期日

 公布の日から6 >月以内で政令で定める日から施行する。


別紙2  救急振興財団(仮称)構想について

l 設立目的

 救急に対する国民のニーズの高まり、医療機器の進歩等に対応して、救命率の向上を図るため、救急隊員の行う応急処置の範囲の拡大等救急現場及び傷病者の搬送途上における応急処置の充実強化を図ることが必要となっている。

 このような状況を踏まえ、救急隊員の行う応急処置の範囲の拡大に伴い必要となる高度かつ専門的な教育訓練を実施するとともに、高齢化・情報化の進展等に対応した救急業務に関する各種調査研究の実施、地方公共団体の行う住民に対する応急手当の普及啓発活動の支援等を行い、救急現場及び傷病者の搬送途上における応急処置の充実強化を推進するための財団を設立する。

2 主な事業の概要

(1)教育訓練

 救急隊員の行う応急処置の範囲の拡大に伴い必要となる高度かつ専門的な教育訓練を全国の救急隊員を対象に実施する。この教育訓練を実施するために必要となる教育訓練施設の建設を行う。

(2)調査研究

 救急業務及び救急隊員に対する教育訓練に関する調査研究等救急現場及び傷病者の搬送途上における応急処置の充実強化の推進に資するための調査研究を実施する。

(3)応急手当の普及啓発の支援

 地方公共団体が行う住民に対する応急手当の普及啓発を支援する。

3 教育訓練の事業

(1)教育訓練施設の建設計画

(2)教育訓練の実施

4 財 産

 財団の基本財産は2,000百万円とし、都道府県の出捐金を以て充てる。