霞が関通信

救急業務研究会小委員会中間報告

自治省消防庁救急救助課

(プレホスピタルケア 3:2 5号 63-64, 1990)


 今回は、去る8月21日、救急業務研究会に対して同小委員会から報告された中間報告についてお知らせいたします。

 なお、同研究会においては、引き続き、拡大する応急処置の範囲及び、教育訓練内容等について鋭意検討中であることを付記しておきます。

 

 救急業務研究会小委員会中間報告

 一救命率向上のための方策について一

1 現状と課題

 消防機関の救急自動車により搬送された傷病者は、昭和 63年中、約 250万人に達しているが、最近の交通事故の増加傾向、高齢化の進展、疾病構造の変化等により、救急現場及び搬送途上において呼吸・循環不全に陥る傷病者が一層増加することが予想される。

 我が国の医療及び救急搬送体制は、世界的水準にあると言われているが、プレホスピタル・ケア(救急現場及び搬送途上における応急処置をいう。以下同じ。)については、欧米諸国に比べ未だ不十分な状態にある。

 欧米諸国では、医師が救急現場へ出場するシステムや医師以外の者に特別の教育と資格を与え、高度な応急処置を行うシステム等プレホスピタル・ケアの充実が図られている国が多い。他方、我が国のプレホスピタル・ケアの現状は、医師が関与することが少なく、また、救急隊員が行う応急処置の内容は、比較的簡単に行えるものに限られている。このため、我が国では、救急隊員により心肺そ生処置が施された傷病者のうち、社会復帰した者の割合は、欧米諸国と比べ極めて低いことが指摘されている。

 こうした状況を改善し、救急に対する国民のニーズの高まりに的確に対応するとともに、最近の医療機器の進歩等も踏まえつつ、プレホスピタル・ケアを充実し、傷病者の救命率の向上を図っていくことが、我が国の緊急の課題となっている。

 

2 プレホスピタル・ケア充実のための目標と方策

 プレホスピタル・ケアの充実にあたっては、高い救命効果を実現している欧米諸国の例を参考として、救命率の向上に対する国民のニーズに的確に応えうるシステムを構築する必要がある。

 プレホスピタル・ケアを充実させる主な方策としては、

(1)医師又は看護婦(士)が救急自動車に同乗し、救急現場に出動する方式

(2)救急隊員の行う応急処置の範囲の拡大が考えられる。

 しかしながら、(1)の方式のうち、特に医師が救急車に同乗し、救急現場に出動する方式(ドクターカー)は、救命率向上のため望ましいものであるが、現実には、医師の確保が困難である等の事情により、これを全国的に展開するには限界がある。

 消防機関による救急業務が、24時間体制のもと全国的に普及している現状を踏まえると、救急隊員の行う応急処置の範囲を拡大することによってプレホスピタル・ケアの充実を図ることが、現実的かつ効果的な方策である。

 

3 救急隊員の行う応急処置の範囲の拡大

 救急に対する国民のニーズの高まり、医療機器の進歩に対応し、救命率の向上を図るためには、救急隊員の行う応急処置の範囲を拡大する必要がある。

 救急現場や搬送途上において、心肺停止状態に陥った傷病者について十分に救命効果をあげるためには、気管内挿管、輸液、除細動などの高度な応急処置が必要であり、今後早急に、具体的に検討を行うこととする。国民の要請に的確に応え、傷病者の生命を維持確保するために必要なものは、拡大する応急処置の範囲に含まれることが望ましい。

 高度な応急処置については、救急自動車に搭載した自動車電話や心電図伝送装置等により、医師に傷病者の情報を直接伝送し、医師の指導のもとにこれを行うこととする必要がある。

 救急隊員の応急処置の範囲を拡大する場合、これにあわせて、隊員の資質の向上のための教育訓練とともに、高規格救急自動車や最新救急資器材等の導入、傷病者情報の伝送等を行うための情報通信資器材の整備等を行っていく必要がある。

 

4 救急隊員に対する教育訓練と認定システム

 応急処置の範囲を拡大するにあたっては、これに対応した救急隊員に求められる高度かつ専門的な知識・技能の修得のための新たな教育訓練が必要であるので、その実施に必要な標準的なカリキュラムを欧米のシステムを参考に、病院実習及び、救急現場実習を含め開発すべきである。

 応急処置の範囲の拡大に伴い、救急隊員に必要とされる教育訓練は、その内容が高度かつ専門的なものであること、救急医療関係の講師の確保を図ることが必要であること、教育訓練の効率性を考慮する必要があること等から、全ての都道府県の消防学校で行うことには限界があるので、都道府県域を越えた全国の救急隊員を対象とする新たな教育訓練機関を設置する必要がある。

 これとともに、救急隊員の教育訓練に必要な講師を確保する等のため、救急医療に携わる医師の養成と病院実習の施設等の充実を一層図るよう関係機関に要請していく必要がある。

 また、教育訓練を受けた救急隊員の知識・技能が高度な応急処置を行うのに十分であるかを確認する必要があることから、厚生省、日本医師会、日本救急医学会等の関係団体及び医療関係者の協力を得て、知識・技能の適切な認定システムを設けるべきである。なお、高度な応急処置を行う救急隊員の知識・技能を維持するための継続的な教育訓練のあり方についても検討する必要がある。

 

5 高規格救急自動車及び最新救急資器材等の導入・整備

 現在、消防機関に導入されている救急自動車の大部分は、搬送機能中心のものとなっており、応急処置の充実している欧米諸国の救急自動車に比較して、高度な応急処置を行うための機能は不十分なものとなっている。今後、応急処置の範囲の拡大に伴って、必要となる救急資器材の搭載や高度な応急処置の実施ができる高規格の救急自動車の導入を図るべきである。

 また、エレクトロニクス等科学技術の発展による医療機器の進歩等を踏まえ、最新の救急資器材を整備する必要がある。

 

6 救急隊と医療機関との連携強化

 医師の指導のもとに高度な応急処置を的確に実施するとともに医療機関における傷病者の受け入れの円滑化を図るため、救急自動車に自動車電話、心電図伝送装置等の情報通信資器材を整備し、救急隊から医療機関へバイタルサイン等の傷病者情報を迅速に伝送するシステムを構築し、医療機関との連携を強化すべきである。

 

7 救急業務の高度化を推進するため救急に講ずべき措置

 プレホスピタル・ケアの充実は緊急の課題である。 したがって、現行の救急業務の一層の充実を図り、あわせて今後応急処置の範囲の拡大にも円滑に対応できるようにするため、高規格救急自動車、最新救急資器材、医療機関へ傷病者情報を伝送するための情報通信資器材等の導入・整備を図り、これらを活用した応急処置を充実する事業を行うなど、救急業務の高度化を早急に推進すべきである。

 以上の事業等を市町村が計画的に推進することを支援するため、高規格の救急自動車、最新の救急資器材等の整備について国庫による財政援助措置を講ずる必要がある。

 

8 救急業務へのヘリコプターの活用

 救急業務にヘリコプターの活用が図られるならば、救命率の向上に効果的であるが、あらかじめ医療機関との連携体制あるいは臨時離着陸場が整備されていないとその機能は十分に発揮しえない。

 このため、救急患者の搬送時間の長い地域を中心として、搬送時間の短縮の観点から、救急業務におけるヘリコプター活用の促進を図るため、関係機関と連携し、救急搬送を試験的に実施する等により、ヘリコプターを救急搬送に利用するための課題を検討する必要がある。

 

9 住民に対する応急手当の普及啓発

 救急隊が現場に到着する前に、一般住民による応急手当が適切に実施されれば、救命率の向上に大きな効果がある。現在、消防機関等において、「救急の日」を含む「救急医療週間」を中心として、地域住民を対象とした応急手当に関する講習会等が開催されており、参加者も相当数にのぼっている。今後、さらにこれを効果的なものにするため、関係機関等の協力を得つつ、救急普及啓発広報車の活用、応急手当の実技指導の強化等、普及啓発に一層努力する必要がある。

 

  救急業務研究会委員名簿   (五十音順)

石田 詔治

兵庫医科大学救命救急センター助教授

大熊由紀子

朝日新聞論説委員

大塚 敏文

会 長

日本医科大学附属病院長

桂田 菊嗣

大阪府立病院救急診療科部長

小宮多喜次

東京消防庁救急部長

五島瑳智子

東邦大学医学部教授、東邦医療短期大学学長

佐々木宏一

全国消防長会救急委員長

篠崎 英夫

厚生省健康政策局指導課長

都築 正和

東京大学医学部附属病院救急部長

坪井 栄孝

日本医師会常任理事

唄  孝一

北里大学医学部教授

三井 香兒

東京大学医学部附属病院救急部講師

山越 芳男

(財)日本消防設備安全センター理事長

山本 保博

日本医村大学助教授

吉村 秀実

日本放送協会解説委員

 

救急業務研究会小委員会委員名簿 (五十音順)

飯田志農夫

消防庁救急救助課長

石田 詔治

兵庫医科大学救命救急センター助教授

篠崎 英夫

厚生省健康政策局指導課長

椿  隆助

大阪市消防局救急救助課長

中根 一也

東京消防庁救急管理課長

三井 香兒

座 長

東京大学医学部附属病院救急部講師

山本 保博

日本医村大学助教授