この原稿は救急医療ジャーナル'99第7巻第2号(通巻第36号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

医療資機材を搭載した航空搬送用ストレッチャーで 迅速なヘリコプター搬送を実現

 阪神・淡路大震災以降、全国的に消 防・防災ヘリコプターの配備が進めら れているが、消防・防災ヘリコプター は要請を受けてから、消火、救助、救 急などの業務に合わせて必要な資器材 を搭載するのが一般的であり、資器材 の積み替えに時間を要するという問題 がある。この問題を解決する一つの手 段として、香川医科大学の小栗顕二教 授(麻酔・救急医学講座)は、医療資 器材を搭載した自己完結型航空搬送用 ストレッチヤーを開発、すでに昨年10 月に模擬テストを終え、実用化を進め ている。

 自己完結型航空 搬送用ストレッチ ャーは、フレーム とベッドから成る 本体に、モニターや人工呼吸器、酸素 ボンベなどの医療資機材が収納されて いる(別表)。したがって、このスト レッチヤーを用いれば、消防・防災ヘ リコプターが救急出動する際に、資器 材の積み替えに要する時間を短縮する ことができる。

 また、従来の方法では、ヘリコプタ ーに傷病者を収容した後、救急車への 引き継ぎ時や医療機関収容時に、モ二 夕ーや人工呼吸器を付け替えなければ ならないが、このストレッチャーを用 いた場合は、傷病者を収容した現場か ら医療機関まで、資器材を付け替える 必要がなく処置を継続して行うことが できるという利点もある。

 このほか、従来のストレッチヤーよ り大きめに設 計されている ことも、特長 の一つとして 挙げることが できる。小栗 教授はこの点 について、

 「ヘリコプタ ー搬送用とし て一般に使用 されているス トレッチヤー は、長さ180cm、幅50cm ですが、日本 人の体格が工場していることを考慮す ると、これではサイズが小さく、また 救急処置も施しにくいと考えられま す。そのため、このストレッチヤーは 長さ2m、幅65cm、高さ約30cmとしま した」

 と話す。サイズは従来のものより大 きいが、事前に各種のヘリコプターの 積載空間を調査した上で設計されてい るので、各自治体で使用されているど の機種のヘリコプターにも積載可能で あり、総重量も約43kgまで軽量化され ている。

 このストレッチャーは、消防・防災 ヘリコプターに搭載することを目的に 開発されたものだが、その運用に当た っては、「消防・防災ヘリだけに配備 するのではなく、ヘリがカバーする地 域の基幹病院やその他の救急医療関係 施設等に配置し、傷病者引き継ぎ時に ストレッチヤーごと交換するような体 制をつくることが重要である」と、小 栗教授は話している。

 「たとえば、離島やへき地などの現 場では、ストレッチャーに傷病者を収 容し、治療をしながらヘリコプターを 待ちます。要請を受けたヘリもまた、 ヘリポートに配備してあるストレッチ ャーを載せて現場に向かい、現場で傷 病者を収容したストレッチャーと、ヘ リに載せてあったストレッチャーを交 換します。

 さらに、基幹病院へ収容する際にも、 傷病者を載せたストレッチャーと病院 に配備されているストレッチャーを交 換する。このような形で、ストレッチ ャーを分散配置し、次々に交換しなが ら運用することが、自己完結型航空搬 送用ストレッチャーの利点を十分に生 かすための条件となるのです」

 実際、コストの面でも、消防・防災 ヘリコプターに救急医療設備を装備し た場合、約3千500万円かかるのに 対し、このストレッチャーは1基約400万円であり、 「ヘリコプター1機分の装備で8〜9 基のストレッチャーを購入できますか ら、たとえば、ある地域でこのストレ ッチャーを8基用意した場合、ヘリポ ートに1基、基幹病院に1基、離島や へき地の救急関連機関やヘリポートに 各1基ずつ6か所に設置すれば、有効 に活用できると考えています」

 と、小栗教授は話している。

 昨年10月8日には、香川県防災航空 隊、讃岐地区広域消防本部、小豆地区 消防本部の救急隊員が参加して、小豆 島から同大学附属病院まで、県防災ヘ リコプターに自己完結型航空搬送用ス トレッチャーを持ち込んで、傷病者を 搬送する模擬テストを実施した。テス ト搬送はスムーズに行われ、参加した 隊員からも好評を得たという。また同 日夜には、実際に、小豆島内海町で発 生した気管内異物の10歳の男児を、同 大学附属病院まで搬送している。

 香川県では、5〜6月頃、同大学、 県防災ヘリコプターがある高松空港、 小豆島の3か所に配備する予定だが、 小栗教授は実際に運用する3基につい て、

 「すでに完成して いますが、運用に 向けて再整備中で あり、とくに軽量 化について検討を 重ねています。た とえば、モニター は航空機に搭載可 能で視認性のよい ものを選んでいま すが、今後、さら に軽量の製品が認 可されれば、それ に変更するかもし れません」

 と話している。

 今後は、さらなる普及を図る方針だ が、すでに、昨年11月に高松市で開か れた第26回日本救急医学会総会で本体 を展示し、模擬テストの様子をビデオ で供覧した。関係者からの問い合わせ も多く、他の自治体等から要請があれ ば受注生産の形で対応できるよう準備 を進めているとのことである。


EMTが監察医のアシスタントに

アメリカ・バーモント州  バーモント州では、EMSデイレク ターであるダン・マンツ氏ら4人のE MTが、州最大の都市バーリントンに おけるすペての検視の手助けを行って いる。

 この3人のEMT−1と一人のパラ メディックは、解剖に立ち会い、主任 監察医と一緒に働いて、検視の方法や 報告書の書き方を学んでいる。

 マンツ氏は、 「われわれは現場に赴き、検視を行っ て写真を撮り、監察医に調査報告書を 提出します。われわれ救急医療サービ スに携わる人間が医師とともに、検視 を行ったり、解剖に回すペきか、地域 の監察医による検視が必要かどうかな どについて、判断したりしているので す」

 と話している。

 このプログラムが成功していること から、州の保健衛生部門では、パラメ ディックやEMT−1、看護婦らが、 監察医のアシスタントになることを許 可するよう、州議会に働きかけている。
(「EMS INSIDER」1999年1月号より、 訳/林 香代子)


電力なしで使用できる足踏み式人工呼吸器を考案

 帝京大学医学部附属市原病院集中治 療センターの福家伸夫教授らが、アン ビユーバッグと、アウトドア用品とし て市販されている足踏み式空気ポンプ を利用して作る足踏み式人工呼吸器を 考案した。足でポンプを踏むことによ って空気を送り、換気を行う装置で、 電力を必要としないこと、またハンズ フリーになることから、医療資源が不 足する大規模災害、集団災害時におけ る活用が期待されている。

 福家教授は、足踏み式であることの メリットについて、 「大規模災害時には、ライフラインの 切断や急激な医療需要の増加により、 高圧ガスやバッテリーで駆動する人工 呼吸器の使用に限界が生じる可能性が あります。このような場合には、空気 だけでも換気を行うことができるアン ビユーバッグが有用ですが、片手ある いは両手がふさがってしまうため、ほ かの処置を行うには、さらに人手が必 要になります。

 これに対して、足踏み式人工呼吸器 は、アンビユーバッグと同様に換気を しながら両手を自由に使うことができ るので、大量の傷病者の処置、治療に 当たらねばならない災害現場等では、 スタッフが効率よく活動するために有 効だと思います」
 と語る。

 装置は、アンピユーバッグの弁と足 踏み式空気 ポンプをホ ースでつな ぐという単 純な仕組み で、誰でも 簡単に作る ことができ る。もとも とは、笑気 ガスのない 発展途上国において、麻酔時に純酸素 換気を避けるために考案されたもので あるが、アイデアそのものは古くから あり、1898年のアメリカの文献で も、同様の装置に関する論文が見られ るという。

 この足踏み式人工呼吸器に必要な部 品はマスク、吸気と呼気を区別する弁、 足踏み式空気ポンプと、これらをつな ぐためのホースやコネクタ類だが、福 家教授らは今回の試作品を作るに当た って、一番手軽に手に入る弁としてア ンビユーバッグを用いた。足踏み式空 気ポンプは、ゴムボートやエアーテン トを膨らませるためのアウトドアグッ ズとして、スポーツ用品店等で市販さ れており、2千円程度で購入すること ができる。

 酸素が必要なときには、アンビユー バッグの酸素接続口に酸素ホースを接 続すれば、高濃度の酸素を投与するこ とも可能である。また、コネクタを変 えれば、麻酔器にも接続が可能で、麻 酔時の人工呼吸にも使うことができる という。

 電力を必要としないことやハンズフ リーであることから、救急現場での応 用が考えられるが、福家教授はこの点 について、 「わが国では、平時には一般的な人工 呼吸器を使用すればよく、このような 機器はとくに必要ないと思いますが、 もし救急隊員が救急車内等で使用すれ ば、ハンズフリーであることが大きな 利点になるかもしれません。アンビユ ーバッグは片手でマスク、片手でバッ グを持つため、マスクを傷病者の顔面 に密着させることが困難ですが、足踏 み式人工呼吸器ならば、マスクを両手 でしっかり押さえることができるから です。

 ただし、救急現場で日常的に使用す るには、踏みやすい形状に改良するな ど、装置や使い方について、さらに工 夫を重ねる必要があると思います」
 と話している。


独自のテキストとビデオを使って、全救急隊員の手話修得をめざす

福岡市消防局  福岡市消防局では、救急現 場で必要な手話のテキストと ビデオを作成、4月から、救 急隊員168人全員で手話修 得に取り組む。現場での聴覚 障害者とのやりとりを円滑に 行うための試みで、全救急隊 員を対象に手話の訓練を実施 するのは、全国でも初めてのことであ る。

 同消防局では、現場で聴覚障害者と やりとりする際、筆談を用いるのが一 般的だが、以前から、「聴覚に障害のあ る傷病看で、症状の聴取に手間取り、 迅速な対応ができなかった」「筆談は 時間がかかるので、手話を取り入れて はどうか」などの声が上がっていた。 同消防局警防部救急救助課主査の安達 健治さんは、手話教育に取り組むこと になった経緯について、

「当消防局の1998年中の救急搬送 状況を見ると、全搬送人員の3万7千 238人のうち、228人が身体障害 者となっています。私たち救急隊員の 業務は、市民の皆さん一人ひとりのニ ーズにきめ細かくこたえることですか ら、障害を持つ方への迅速かつ的確な 対応は、きわめて重要な課題だと考え ています。

 そこで今回、手話を使えば、よりス ムーズなコミュニケーションが可能に なるのではないかという現場の隊員の 提案を取り上げ、全員で手話修得に取 り組むことにしました」
 と話す。

 手話修得に当たっては、独自のテキ ストとビデオを作成した。

 「既存のテキストでは、あいさつな ど一般的な日常会話しか取り上げられ ていないため、福岡県聴覚障害者協会 と福岡市聴力障害者福祉協会の協力を 得て、救急隊員だけでなく聴覚障害者 にも役立つように、救急や防災にかか わる単語や表現をまとめることにしま した」(安達さん)。

 テキスト『消防職員および聴力障害 者のための防災用語手話マニュアル集』 は、まず手話表現の基本的なポイント やあいさつを説明した上で、救急現場 でよく使用される「意識」「血圧」 「脈拍」「健康保険証」などの単語や、 「胸が苦しいですか?」「大丈夫ですか ら安心してください」などの例文、さ らには「火事」「発見」などの防災に かかわる用語が掲載されている。細か な手の動きもわかるようにと、同じ内 容のビデオ(36分)も作った。

 同市消防局では、昨年末、テキスト 1000部、ビデオ60本を用意し、管 内の7署23出張所や障害者団体に配布 した。

 新年度から手話を通常の訓練項目に 取り入れることになっているが、一部 の救急隊員はすでに、これらの教材を 使って、出動待機中や非番などの空き 時間に、自主的に学習を進めている。 覚えた手話を現場で使っている隊員も おり、「聴覚障害を持つ傷病者の方に、 手話を使って問い掛けたところ、すぐ に表情が和らぎ、とても安心した様子 だった」などの報告もあるという。

 また、12月7日には、テキストやビ デオで講師を務める福岡市聴力障害者 福祉協会会員の金子真美さんを迎え、 約3時間に渡る手話講習会も開催し た。自由参加としたが、金子さんの指 導を直接受けられるとあって、非番の 隊員も含め約60人が集まった。安達さ んは講習会の成果について、
「金子さんに、ビデオやテキストでは よくわからなかったことを教えてもら おうと、口の動きや身振りも入れて、 一生懸命質問する姿が見られました。

 隊員は皆、手話の学習を通して、相 手の表情や身振りなど、全身でコミュ ニケーンョンすることの大切さを再認 識していると思います」

 と語る。指導に当たった金子さんも また、 「手話でやりとりするときには、手の 動きはもちろん、表情や身振りもしっ かり見ていただきたい。身振り、手振 りや表情も、大切なコミュニケーショ ンです。救急隊員の方が手話を学ぷこ とは、聴覚障害者だけでなく、健聴の 患者の方に対応するときにも役立つと 思います。

 私たちにとって、手話は言葉であり、 意思疎通を図る手段です。一人でも多 くの救急隊員の方が手話を身につけ て、私たちとスムーズに会話ができる ようになることを期待しています」

 と話している。

 なお、テキストとビデオは、福岡市 防災協会を通して、一セット2千円で 販売されている。問い合わせは 電話想092−847−5990、 FAX 092−847−5970まで。


ハイウェイパトロールに除細動器を導入

−アメリカ・ユタ州  ユタ州ハイウェイパトロールでは、 デヴィス郡のパトカーに、除細動器 (LIFEPAK500)を導入することに決定 した。同時に、もう一つの"武器"で あるフィジオ社のソフトウェア(CODE-STAT) と、車載用のラップトップコン ピュータも導入する予定だ。その端末 で情報収集を行い、ユタ州公共安全部 門EMSコーディネーターのT・J・ ケネディ氏に、情報を送信するためで ある。

 「ユタ州の人口は、急激な勢いで増 加しています。また、2002年に開 催されるソルトレークシティーオリン ピックの準備も進んでいます。われわ れは、このような地域の発展に合わせ て、緊急時の対応能力を強化している のです」

 と、ケネディ氏は語る。

 デヴィス郡では、38台のパトカーに 除細動器を搭載することになっている が、ユタ州の公的機関における除細動 器導入は、今回が初めてではない。す でに州議会議事堂には除細動器が設置 されており、州知事のマイク・レヴィ ツト氏は、そのうちの一つを携行して いる。また、郊外のカチェ郡やボック スエルダー郡のパトカーにも装備され ている。

 1999年の春までに、ユタ州の全 警官が、除細動器使用について訓練を 受ける予定である。 (「JEMS」1999年1月号より、訳/林香代子)


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