この原稿は救急医療ジャーナル'98第6巻第6号(通巻第34号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

全国初, 救急へリコプ夕ーの運用を開始

 東京消防庁

 東京消防庁はさる 10 月 30 日, 救急へリコプターの運用を開始した。

 今年 3 月 25 日, 消防法施行令第 44 条(救急隊の編成及び装備の基準)が改正さ れ, へリコプターによる救急隊の編成が可能になったことに伴うもので, 高度救命処 置対応可能な救急へリコプターの運用は, 全国で初めてのことである。

 運用開始当日には, 東京消防庁豊洲訓練場(江東区)で運用開始式が開かれ, 救急 ヘリコプターの展示, 説明に加えて, 交通事故を想定した一連の訓練も行われた。

 欧米諸国では, 30 年以上も前から救急へリコプターが活躍しており, 災害時だけ でなく日常の救急搬送においても, 陸上手段より搬送時間を短縮できると判断された 場合には, 積極的にへリコプターが活用されている。

 また, 先の阪神・淡路大震災での経験から, 平時の救急医療体制にヘリコプターが 組み込まれていなければ, 災害時に有効にヘリコプターを活用することは難しいとの 反省が生まれ, わが国においても, 消防・防災ヘりコプターの配備が全国的に進めら れるようになった。

 現在, 救急活動にも使用できる消防・防災ヘリコプターの数は全国で 63 機で, 救 急活動件数も年々増加している。

 しかし, 従来の体制では, 資器材の積み換え等のために, 要請から出動までに最低 でも 30 分はかかるという問題があり, 関係者からは, 常に高規格救急資器材を搭載 して待機することができるヘリコプターの導入が求められていた。

 東京消防庁においても, 1967 年に島しょ部からの消防ヘリコプターによる救急 搬送を開始して以来, 延ベ 3500 人以上の傷病者を搬送している。

 92 年以降は, 島しょ部だけでなく山間地域などで発生した傷病者の搬送にも活用 しているが, 交通渋滞時や山間部で傷病者が発生した場合等に, へリコプターの機動 力を十分に生かし, より効果的な救急活動を実施するため, 今回, 高規格救急資器材 を搭載した救急ヘリコプターを導入することになった。

 救急へリコプターは, 6 機ある消防へリコプターのうち 2 機に, 従来よりへリポー トに配備していた高規格救急資器材一式に加えて, 新たに航空機電話, 患者監視装置 (脈拍, 血圧, 心電図, 血中酸素飽和度を監視), 輸液ポンプを搭載して運用するも のである。

 配置場所は, 東京消防庁航空隊(江東区新木場)と多摩航空センター(立川市)の 2 か所で, 対象救急事案は, (1)現場到着時間または医療機関への搬送時間を著しく短 縮できる場合, (2)現場の救急隊長からの要請がある場合, (3)119 番通報内容等から 救急ヘリコプターの運用が必要である場合, (4)早期に医師, 救急救命士および救急資 器材等を災害現場に搬送することにより救命が期待できる場合, (5)多数傷病者の発生 が予想される場合, (6)応援協定等に基づく救急へリコプターの要請に対して, とくに 必要と認める場含, となっている。

 救急活動時には, 常に救急救命士を含む救急隊員 2 人が搭乗するが, 傷病の程度に 応じて医師も同乗する。医師の同乗は当面, 屋上に緊急離着陸場を有する救命救急セ ンターと協定を取り交わすが, 今後, 状況によって協定医療機関を拡大する方針であ る。

 へリコプターによる救急搬送件数は年々増加しているが, そのほとんどは, へき地 や離島の医療椴関から高次医療機関への搬送であり, 災害現場等からの救急搬送は, まだ少ないのが現状である。このような状況において, 日常的な救急活動の中でへリ コプターを有効に活用するためには, 常に高規格救急資器材を搭載して, 緊急時には すぐに飛び立っことができる運用体制の導入が, 一つの課題となるだろう。全国初の 救急へリコプターの活躍に期待したい。


脳梗塞や脳内出血など脳血管障害患者に対して, “救急から在宅まで"の継続的口 腔ケアを実施, 成果を上げる

長崎市歯科医師会・長崎実地救急医療連絡会  長崎市歯科医師会(山田康生会長)と長崎実地救急医療連絡会は, 昨年 4 月より, 脳 梗塞や脳内出血などの脳血管障害患者に対して, 救急医療にまでさかのぼる形で口腔 ケアを実施, 大きな成果を上げている。

 同歯科医師会では, 1990 年から, 長崎市内の在宅寝たきりの高齢者を対象に訪 問診療を始めたが, 摂食, 燕下障害を持つ患者が多いことに気づき, 救急医療にまで さかのぼる早い段階での口腔ケアが必要と判断。

 救急医療関係者でつくる長崎実地救急医療達絡会と協議の上, 「救急から在宅ま で」の継続的口腔ケア支援を行う目的で, 救急病院の医師や看護婦, リハビリスタッ フなどと連携し, 脳血管障害患者に対する口腔ケア支援システムを構築, 運用するこ とになった。

 この点について, 長崎実地救急医療連絡会代表で十善会病院脳神経外科・リハビリ テーション科の栗原正紀部長は「脳梗塞, 脳内出血, クモ膜下出血など, 脳血管障害 の患者さんの QOL の向上のためには, 救命後できるだけ早い段階で, リハビリテー ションを開始することが望まれます。なかでも, 上半身を起こして座るなどの訓練に 加えて, 積極的な摂食・燕下訓練を含む口腔ケアを早い段階から始めることが大切 で, 長崎市歯科医師会の試みは大変有意義だと思っています」と話している。

 同口腔ケア支援システムでは, 救急病院を始め, 一般病院, 高齢者福祉施設, 在宅 介護などで, 担当医が, 患者に対する口腔ケアが必要と判断した場合, 同歯科医師会 に協力を依頼。これを受けた同歯科医師会は, 直ちに協力歯科医に運絡し, 摂食・燕 下リハビリテーションを含めた口腔ケアをスタートさせる。まず, 歯科医が患者の摂 食, 燕下障害について的確な評価を行い, 歯科衛生士, 看護婦, およびリハビリス タッフとともにカンファレンスを行いながら, 日常のケアを実施していく。

 また, 患者が救急病院を退院した後は, 一般病院, リハビリテーション専門病院, 老人病院, 老人保健医療施設, 特別養護老人ホームおよび在宅に至るまでの一運の流 れの中で, 原則として, 同じ歯科医ならびに歯科衛生士が, 継続して口腔ケアを実施 する。

 昨年 4 月から今年 9 月までの依頼件数は 75 件で, 救急病院からが 43 件となって おり, 疾患別では, 脳梗塞が 30 件, 脳内出血が 15 件, クモ膜下出血が 7 件などと なっている。

 また, 介入時期とその予後については, 発症から 1 か月未満の介入を 「急性期」, 1 か月以降の介入を「慢性期」とした場合, 改善は慢性期の介入では 5 2%, 急性期の介入では 69%となっており, 急性期に介入した方が好結果が得られ ることが明らかになった。

 この点について, 長崎市歯科医師会地域歯科医療福祉担当理事の田口英章医師は, 「拘縮・廃用性萎縮等が起こると, 顎が開かなくなるなどして, リハビリの効果が現 れにくくなりますから, 救命後はなるベく早く, 口腔ケアを開始することが大切で す。口腔ケアを適切に行い, できるだけ早期に摂食・燕下障害の軽滅を図り, 上半身 を起こした姿勢で食事をすることができるようになると, 患者さんの予後は明らかに よくなります」と話している。

 どのような口腔ケアを行うかは, 患者の症状によって異なるが, 同歯科医師会が作 成した「脳卒中患者等の口腔ケア支援マニュアル」には, 唇を大きくつまむ, 唇を縮 める, 頬をゆっくりもみほぐす, 歯茎を前歯から奥歯の方向へ少し強くこする, 舌を 歯.ブラシでマッサージする, 咽頭をアイスマッサージする, 煩をふくらませたりす ぼめたりするなど, 38 の手技が具体的に記されている。患者一人ひとりの状態に合 わせて手技を組み合わせ, 唇や舌, 口腔内の粘膜などを適切に刺激することで, 麻痺 によって低下した燕下反射などを呼び起こし回復を促していくのである。

 好結果を得ることで, 救急医療の現場からの要請も高まっている同口腔ケア支援シ ステムの今後について, 栗原医師は, 「このシステムでは, 患者が救急病院から他の 病院へ転院した後も, 同じ歯科医あるいは歯科衛生士が継続してケアに当たってくれ ます。そのため, 救急で搬送されてきた患者が, 転院した後どうなったかについて, その後もみんなで情報交換することができます。

 これこそまさに, 「救急から在宅まで」という医療の実践であり, 大きな意味があ ると思います。今後はさらに, 救急以外の医師や看護婦にも, 口腔ケアを含めた早期 リハビリの重要性を認識していただき, 成果を上げていきたいと考えています」と話 し, 田口医師は, 「このシステムは, 医師, 看護婦, 歯科医, 歯科衛生士など, さま ざまな人々のチームワークで成り立っています。

 今後は, システムにかかわる歯科医や歯科衛生士のさらなる資質向上を図ると同時 に, 誰がどこまでのケアを担うのかなどについてもお互いによく話し含い, より多く の人々の協力を得られるようにしていきたいと思っています」と話している。

 本格的な高齢化社会を見据えた, 救急医療の段階からの早期リハビリのさらなる成 果を期待したい。


大きく変わることが予想される EMT-I 向けの新カリキュラム

 アメリカ  アメリカ運輸省のパラメディックならびに EMT-I 向けの新カリキュラムは, こ れから 2 から 3 年の間, 救急医療サービス組織, 教育者およびプロバイダーにとって の課題となりそうだ。

 このカリキュラムの発表は, 1999 年の初めとされており, 2000 年を待たず に, それに基づいた指導を始めることもありうる。

 パラメディック向けの新カリキュラムと現在のカリキュラムとの根本的な違いは, 病理学, 神経学, 感染症に関する教育の内容が, より深くなっているという点であ る。

 EMT 登録部門のエグゼクティブディレクターであるビル, ブラウン氏によれば, これまでパラメディックはあまり多くのことを教わりずにきたため, 現場でのきびし い経験を通して学ばなければならなかったという。

 新カリキュラムによってパラメディックの知識が増えれば, 傷病者の処置時により 適切な判断を下すことができるようになるだろう。

 ブラウン氏はまた, 「新カリキュラムでは, これまでの EMS 教育にはなかった題 材を扱うことになるので, 多くの指導者は外部の助けを借りたり, 自分自身がさらに 教育を受けなければならなくなるかもしれない」とも述ベている。

 EMT-I 向けのカリキュラムは, パラメディック向けのものよりも, 大きく変わ ることになりそうだ。

 「 EMT-I 向けの新カリキュラムは.「深く広く」をカバーしているので, 現行 のものとは明らかに違うことが, 多くの州でわかるだろう」と語るのは, 交通安全局 (NHTSA)EMS プログラムのチーフ・ジェフ・ミッチェル博士である。

 新 EMT-I カリキュラムでは, 2 次救命処置における薬剤投与や, ネブラィザー による気管支拡張剤の吸入などの薬物治療についても学ぶ。したがって, 多くの州で は, EMT-I の処置拡大を認めるよう法律を制定するか, あるいは州法や郡法など を変える必要がある。

 現在, EMT-I に許されている処置範囲は各州で著しく異なっており, 州によっ ては EMT-I がいないこともある。

 ブラウン氏は, 「 EMT-I が新カリキュラムに基づいて訓練を受けるようになる と, 多くの自治体で, パラメディックがいなくても 2 次救命処置を施すことができる ようになるだろう」と語る。

 さらに彼は, 「そうなると, EMT-I がパラメディックを追いやってしまうので はないか, と心配する声も聞かれる。しかし, すでにメリーランド州やコロラド州な どでは, EMT-I が多くの処置を実施しているが, そのようなことは起こっていな い」とも述ベている。

 さる 7 月 31 日, ブラウン氏とミッチェル博士は, 全米 EMS 指導者協会(NAE MSE), 全米 EMS ディレクター協会, 全米 EMS トレーニングコーディネーター 協会(NCSEMSTC)の代表者と, 新カリキュラム発表計画会議を行った。 NH TSA の認可によって設立された NAEMSE と NCSEMSTC は, 新カリキュラ ム発表において, それぞれ異なる側面を扱うことになっている。

 暫定的な計画によれば, 1999 年 3 月に全米規模のテレビ会謙を開催, とくに新 カリキュラムに関する管理上, および教育上の問題について取り上げる予定である。

 また, 同年 5 月より, 地域的な指導者教育会議や EMS 指導者協会によるワーク ショップを始めることになっている。このようなワークショップでは, まず最初に, 州の EMS ディレクターや EMS トレーニングコーディネー夕ーに, 新カリキュラム を伝達することになるだろう。

 NAEMSE 会長であり, 新カリキュラム発表プロジェクトのリーダーでもあるデ ボラ・カーソン氏は, 「新カリキュラムにはどのようなことが含まれているのか, 何 が変わったのか, 何を知る必要があるのか, どのように実施すればよいのかといった 情報を指導者に提供していきたい」と語る。

 また, NAEMSE では, 新しい題材の教授方法についても指導者に伝えていくと のことである。

 一方, NHTSA は, 各州がそれぞれに会合を開いて, 実施計画を練ることができ るようサポートしていく。「各州のトレーニングコーディネーターには, カリキュラ ム実施についてのガイドラインの文書化も進めてもらう」とミッチェル博士は述ベ る。

 ガイドラインは, 各州・地方においてカリキュラムを実施する上で, 着手しなけれ ばならない問題を重要項目として取り上げ, その間題解決の助けとなるものになるだ ろう。

 ミッチェル博士によれば, パラメディック向けの新カリキュラムは 8 月末までに NHTSA の認可を受け, 運輸省のホームぺージに掲載されるとのことである (http://www.nhtsa.dot.gov/people/injury/ems)。 EMT-I 向けの新カリキュラ ムも, 9 月末にはホームぺージに掲載される予定である。

 EMT 登録部門では, 2000 年 7 月までに新カリキュラムに基づく試験を開始す るとしているが, 現行のカリキュラムの試験がいつまで実施されるかは決まっていな い。 (EMSINSIDER 1998 年 9 月号より, 訳/林香代子)


乳幼児突然死症候群の電話相談窓口を開設

東京都, 保健医療従事者向けのパンフレットも作成 東京都は, 乳幼児突然死症候群(SIDS)対策に取り組むため, 今年 5 月に「東京 都 SIDS(乳幼児突然死症候群)検討委員会」を設置して検討を進めてきたが, 7 月, これまでの検討内容を中間報告としてまとめ, 加えて, 電話相談窓口の設置や保 健医療従事者向けのパンフレット作成など, 具体的な事業をスタートさせた。

 SIDS とは, それまで健康であった乳幼児が, ある日突然, 主に睡眠中に死亡 し, 死後の詳綱な病理解剖によっても死因となるベき所見が見いだされない疾患であ る。

 厚生省の定義では, 「それまでの健康状態, および既往歴からその死亡が予測でき ず, しかも死亡状況, および剖検によってもその原因が不詳である, 乳幼児に突然の 死をもたらした症候群」とされている。

 わが国では欧米より発症率は低いものの, 2000 人に 1 人, 年間で約 600 人の 乳幼児が SIDS で死亡するといわれている。

 かって乳児死亡の大きな原因となっていた感染症などの疾患が大幅に減少したため に, 現在, SIDS は乳児死亡原因の第 3 位となっており, 原因の究明が急がれてい る。

 また, 元気に育っていた子どもが突然に死亡し, しかも原因が明らかでないことか ら, 親は激しく自分を責めることが多いため, 残された家族をサポートするシステム も必要とされている。

 そこで, 東京都では, 同検討委員会の中間報告に基づき, (1)意識調査ならびに知識 の普及・啓発, (2)相談体制の整備, (3)保健医療従事者研修を三つの柱とする施策を打 ち出し, 具体的な事業をスタートさせた。

 まず, 意識調査については, 9 から 10 月, 保健所等の医師, 保健婦, 保育施設・ 乳児院の保母, 看護婦, 救急隊員, 約 7600 人を対象にアンケート調査を実施し た。

 アンケートはすでに回収されており, 来年 3 月, 検討を加えた上で結果が報告され る予定である。

 また, アンケート用紙を送る際, 調査と同時に知識の普及・啓発を図るため, パン フレット「 SIDS を理解するために」が配布された。

 このパンフレットは, 都が今回の SIDS 対策事業の一環として作成したもので, 約 1 万部を印刷, すでにアンケート対象者に配布済みである。

 医師・保健婦用, 保育従事者用, 救急隊員用の 3 種類で, 基礎知識に関する部分は 共通だが, 医師・保健婦用には「残された家族を地域で支えるために」, 保育従事者 用には「赤ちゃんを寝かせる時の注意点」, 救急隊員用には「救急隊員としての家族 へのサポート」の項目があり, それぞれの業務に合わせた内容となっている。

 一方, SIDS で子どもを亡くした家族をサポートするため, 10 月から電話相談 窓口を設置した。窓口では, 同じような経験を持ち, 心理的なサポートを行うための 研修を受けている「ビフレンダー(助力者)」が対応, 内容によって心理相談員, 保 健婦, 医師が専門的な立場からアドバイスを行う。

 長く苦しみ続ける家族も多いため, 実施に当たっては, 以前より活動を続けている 「 SIDS 家族の会」等との連携を取りながら行うこととしている。

 電話相談窓口は, 都立大塚病院(豊島区)内の東京都母子保健サービスセンターに あり, 毎週金曜日の 10 から 15 時, 相談を受け付けている。

 電話番号は, 03(3947)4903 。

 最近では, SIDS にっいて新聞やテレビでもよく取り上げられるようになった が, 原因が解明されていないことから, その理解はいまだ十分とはいえず, SIDS で子どもを亡くした親が, 周囲の人から過失ではないかと責められるケースもあると いう。

 また, SIDS に対して恐れや不安を抱く親も増えている。 このため, 都では来年度以降, 現在の事業に加えて, 一般住民に対する啓蒙活動も展 開していきたいとしている。


心臓マッサージ用チョッキを開発

国立循環器病センター研究所  国立循環器病センター研究所の辻隆之実験治療開発部長らのグループが, 救急車で 搬送中も, 安定した有効な心臓マッサージを行うことができる心臓マッサージ用 チョッキを開発した。

 内側にエアバッグの付いた前胸部板と背板を, 固定ベルトによって傷病者にチョッ キ状に着せ, エアバッグを高圧ガスで作動させることで心臓マッサージを行う装置で ある。

 辻部長は, 開発のきっかけについて, 「私は以前, 心臓外科医として大学病院に勤 めていたことがあり, 臨床現場で心臓マッサージを行うことが少なからずありまし た。その後, 臨床を離れて研究所に移ったのですが, あるときケプラーという強靭な 繊維が開発されたことを知り, ケプラー製のチョッキと, 自動車衝突時の事故予防に 使われているエアバッグを応用した心臓マッサージ装置を作ることを思いっいたので す」と語る。

 装置は, チョッキ部分, エアバッグ部分, 高圧ガス駆動部分から成る。チョッキ本 体は, 軽量な前胸部板と背板より成り, いずれもケプラー織布を熱硬化性樹脂で固め た厚さ 7mm のプラスチック板でできている。

 仰臥位をとったとき, 背面に圧迫痛がないように, 脊柱部にはクッション材とし て, ポリエチレン発泡体シートが取り付けられている。

 前胸部板と背板は, 帯状のマジックテープで包むように, また上部(肩)と下部 (股)の固定用べルトによって, 傷病者の体幹にしっかりと固定することができる仕 組みとなっている。

 エアバッグ部分はケプラー繊維入りの厚さ 18mm のゴム製バッグで, 最大で 8cm まで ふくらむ。このエアバッグを傷病者の前胸壁と前胸部板の間に置き, コンプレッサか ら送られてくる高圧ガスにより収縮, 拡張させることで, 自動的に心臓マッサージが 行われるようになっている。 コンプレッサは 100v で駆動する。また短時間であれば, 高圧ガスボンベでも駆動 することができる。

 この心臓マッサージ用チョッキの大きな特長は, 傷病者の体幹を包み込む形でしっ かりと固定するため, 揺れる救急車内でも安定した心臓マッサージを実施できること と, 傷病者の体位に関係なく, 持続して有効な心臓マッサージを行うことができるこ とにある。

 辻部長はこの点について, 「救急現場で使用する場含, 用手的な心臓マッサージや 自動式心マッサージ器と比較してこのチョッキが有効なのは, 嘔吐時に側臥位をとら せたような場合も, 心臓マッサージを継続することができることです。また, 軽量で コンパクト, 装着時の不快感が少ない, 装着したまま体位を変換することができるな どの利点もあります」と語る。

 心臓マッサージ用チョッキはすでに, 訓練用人形による実験で蘇生効果が確認され ている。

 「現在は, チョッキに対応する心電図兼用除細動用電極も開発中です。これが実現 すれば, 心臓マッサージと除細動を自動的に行うことができるようになりますから, 救急車内において, より的確で高度な救命処置が可能になるものと考えています」今 後はさらに, 実用化に向けて, 関係施設や救急車内での臨床実験を実施する方針で, 辻部長は「 2001 年頃の実用化を目指して, さらに検討を重ねていきたい」として いる。


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