この原稿は救急医療ジャーナル'98第6巻第4号(通巻第32号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

地震の疑似体験から防災知識を学ぶ「地震の学習館」がオープン

(東京都目黒区) さる6月1日、東京都・目黒区防災センター内に「地震の学習館」がオープンし た。

目黒区防災センターは、災害時には災害対策活動の拠点となる施設であると位置づ けられているが、今回、日頃から地震に対する心構えや地震対策など、防災に関する 知識を来館者に身につけてもらうために、同学習館を施設内にオープンした。

テーマは、「大地震の恐ろしさの再認識」「都市で間題となる、さまざまな地震に よる被害と影響の認識」「住民一人ひとりの事前対策ならびに、地震発生時の対応に ついての実体験」の三つ。来館者自らが地震による被害状況をイメージしたり、疑似 体験することによって、地震に対する危機意識を高め、地震が発生したときの対処能 力を向上させることを目的としている。

そのため、「見る」「聞く」だけの展示ではなく、「体を動かして学ベる」しつら えとなっており、それが同学習館の大きな特徴となっている。同学習館は、過去の大 地震や地震発生のメ力ニズムを学ぶことができる1階の学習コーナーと、地下1階の 防災体験コーナーから構成されている。防災体験コーナーは、大地震を実際に体験す ることからスタート、地震の際に発生することの多い火災への対処の仕方や、避難、 応急救護などを、一連の流れに沿つて体験・学習することができるようになってい る。

まず、地震体験コーナーでは円形の起震台に座つて震度5強から6程度の揺れを体 感することができる。その際、スクリーンの映像で、場所別に家の中、ビルの中、路 上等の被害状況を見ることができるので、より臨場感あふれる地震体験をすることが できる。次に、地震の2次災害として発生する火災を最小眼にくい止めるための初期 消火体験コーナーがある。ここでは圧縮水道水が入つた消火器を使用して、燃え広が る火災の映像をスクリーンで見ながら消火するという訓練を行う。

また、火災発生時の死亡原因の多くが煙に巻かれて二酸化炭素中毒であることか ら、充満した煙の中での避難訓練も行つている。

このほか、救護体験コーナーでは、訓練用人形を使つて人工呼吸や心臓マッサージ の方法を学習。人命救護の重要性と難しさを体験し、学ぶことができるようになつて いる。

大地震発生時のさまざまな出来事を、一連の流れに沿つて体験学習するという演出 について、目黒区防災課では「災害は、さまざまな要因がからみ含って二次災害へつ ながります。そのことを来館者にきちんと理解していただくためには、災害発生の一 連の流れを明確にすることが大切だと考えたのです。ただ写真を見たり、人の話を聞 くだけでは本当に地震の恐ろしさを認識することはできません。ですから、来館者に は、実際に地震被害の恐ろしさを体験した上で、自主的に防災知識を身につけてほし いと思っています。お陰様で、オープン以来、多くの方々に来ていただいています が、私たちが一番心配しているのは、災害に対する人々の関心が次第に薄れていって しまうことです。今後は、区民だけでなく他地域の方々にも繰り返し来館していただ くために、たとえば救護体験コーナーにおいては、人工呼吸や心臓マッサージの方法 だけでなく、止血法などのさまざまな応急手当法を学ぶことができるよう、内容を少 しずつ変えるなどの工夫をして、実際の災害発生時に生かせるような情報を提供して いきたいと考えています」と話している。

同学習館では、来館者にしっかりと防災体験をしてほしいとの考えから、防災知識 が豊豊富な指導員が常駐して指導に当たっている。

開館時問は9時から17時。休館日は毎週水曜、第2木曜、第4土曜、祝日の翌 日、年末年始で、入館料は無料。今後、同学習館としては、さらに多くの人々に防災 知識を高めてもらうため、館内の見学を年中行事の一つとして検討してもらうよう学 校に呼び掛けるほか、企業の研修テーマとしても積極的に取り込んでほしいとしてい る。


救急車到着までに時問がかかる屋外の救急事故に消防車が出動

(北九州市消防局) 北九州市消防局は、さる6月1日より、屋外の救急事故で救急車の到着までにおお むね10分以上の時問を要すると判断される場含に、消防車が出動して応急処置を行 う新システムを導入した。東京消防庁に次ぐ試みだが、政令指定都市としては初めて のことである。

同消防局では、救急隊19隊、救急車23台で救急活動に当たっているが、出動件 数は年々増加しており、年間約3万件に上る。しかも、そのうち600件近くが到着 までに10分以上の時間を要している。このため、同消防局では、咋年11月に新、 救急システム検討委員会を設置し、救急需要の増加に伴うさまざまな問題について協 議を進めた結果、救急隊の増隊とともに、必要に応じて消防隊も出動するという新シ ステムの導入を決定した。

救急出動に当たる消防隊は、警防小隊36隊のうち22隊。来年度には36隊すベ てが稼働する予定である。出動した消防隊は、救急隊が到着するまでの間、傷病者の 安全管理、応急処置、無線による救急車の誘導などを行う。消防隊が実施できる応急 処置の範囲は、

(1)意識・呼吸・循環障害に対する処置(気道確保、人工呼吸、心臓マッサージ)
(2)外出血の止血に対する処置
(3)創傷に対する処置
(4)骨折に対する処置
(5)体位管理、保温
(6)その他必要な処置、となっている。

応急処置に必要な救急資器材については、救急バッグを各隊に1袋ずつ配り、消防 車に積載した。救急バッグには、手動式人工呼吸器、手動式吸引器、シーネ、経ロ エァウェィ、包帯、滅菌ガーゼ、三角巾などが収められている。

現在、同消防局の救急有資格者数は、救急救命士51人、2課程修了者221人、 1課程修了者630人となっているが、新システムの導入に先立ち主に1課程修了者 を対象に、応急処置の研修を実施した。とくに実際に活動に当たる消防隊員は、救急 救命士が講師を務める研修を受講、応急処置等の実務に加えて、救急病院の位置など 市内の救急医療体制の概要についても学んだ。

救急課の大田謙二さんは、今回、多くの署員に対して研修を実施した理由につい て、「災害時には、職員全員で対応するという意識の向上を図るため」とし、「あら ゆる緊急事態に迅速に対応し、また市民に安心感を与えるためには、消防職員一人ひ とりが、火事、救急事故と区別することなく、何か起こった場合には常に市民の安全 を守るという意識を持つことが大切です。

新システムについても、迅速に応急手当を実施するという目的のほかに、救急隊員 であれ消防隊員であれ、救助者が少しでも早く現場に到着することによって、傷病者 を安心させ、痛みを和らげることができるという効果も期待しています」と話してい る。

同消防局では、新システムの導入をきっかけに、災害時なども想定しつつ、消防 隊、救急隊というセクションを超え、職員全員でさまざまな緊急事態に対応できる体 制を徐々に整備していきたいとしている。


DAN「潜水事故における酸素供給法」実施のための人材育成を開始

(DANJAPAN) ダイバーのための緊急医療援助組織であるDANJAPANは、さる2月16日、 東京医科歯科大学において、DAN「潜水事故における酸素供給法」普及のための第 1回「DAN酸素インストラクタートレーナーコース」を開催した。

DAN「潜水事故における酸素供給法」は、ダイビング中またはダイビング後に発 生した緊急を要する事故において、意識のある事故者が希望した場合に限り、応急手 当の延長上として、事故現場または病院等に搬送中に酸素供給を行うことができる、 というものである。

減圧症や空気塞栓症など、スキューバダイビング事故に特有の症状には、酸素投与 が有効な応急処置であるが、日本の法律では高濃度酸素は医薬品であり、投与は医師 あるいは医療従事者しか行うことができないとされている。

このため、潜水事故にあったダイバーに意識がある場合に限り、自分で酸素を吸っ たり、あるいは事故ダイバーの同意を得た救助者が酸素を供給することが応急手当と して認められていることを知る人は意外に少なく、医療機関に搬送するまでに症状が 悪化、手遅れになるケースが少なくなかつた。

そこで、応急手当としての酸素供給の範囲を明示するとともに、安全かつ有効な酸 素供給を行うことができる人材の育成が急務となり、DAN「潜水事故における酸素 供給法」のための講習会がスタートしたのである。

この点について、(株)日本海洋レジャー安全・振興協会安全事業部主査の新浜潔さん は、「潜水事故者に対する応急手当として、酸素供給が有効なことは明らかですが、 酸素は日本の法律上、またその特性上、取り扱いには細心の注意が必要であり、何の 知識もなしに、簡単に扱ってもらっては困ります。そのため、DANJAPANでは コースを設定し、それに基づいて各認定指導団体が普及を進めていくことになりまし た」と話している。

人材育成のシステムは三段階になつており、まず第一段階として、DANJAPA Nが各認定指導団体の教育担当者を対象に、DAN酸素インストラクタートレーナー を養成する。

次に、DAN酸素インストラクタートレーナーが、DANJAPANが作成したマ ニュァルに基づき、各認定指導団体においてDAN酸素インストラクターを育成。さ らに次の段階として、このDAN酸素インストラクターが、DANJAPANの会員 である一般のレジャーダイバーを対象に、講習を行い育成するのがDAN酸素。フロ バイダーである。

実際の事故現場においては、DAN酸素インストラクタートレーナー、DAN酸素 インストラクター、DAN酸素プロバイダーとも区別なく、応急手当としての酸素供 給を実施することができる。

しかし、これはあくまでも応急手当の延長上の手法であるため、受講希望者は、酸 素供給法の講習を受ける前に、応急手当とCPRの講習を受けていなければならな い。

これら一連の講習は、DANアメリカのに基づいてDANJAPANが実施するも ので、その手法は世界的に標準化されたものであり、講習の内容、認定基準は国際的 に統一されたものである。

DAN「潜水事故における酸素供給法」を広くダイバーに普及させるためには、ま ずDAN酸素インストラクタートレーナーの育成をすることが急務であり、その第一 歩として冒頭で紹介したDAN酸素インストラクタートレーナーコースが開催された 訳である。

同講習への反響について新浜さんは、「これまでは、医療機関に搬送するまでの 間、救助者は何もすることができず、症状を悪化させたり、手遅れになるケースがあ る一方、ケースによってはやむを得ず、応急手当の範囲を超えて、救助者が酸素供給 を行っていたこともあったようです。しかし今回、DAN.潜水事故における酸秦供 給法がスタートし、事故ダイバーの意識が確認できれば医師でなくても酸秦供給を行 うことができると明示したことで、ダイバーでも実施可能な応急手当の範囲をはっき りと確認することができた、との声を頂いております。

また、酸素ボンベの正しい使用法をきちんとマスターしてもらうことができた点に おいても、成果があったと思います」とし、さらに今後の展開について、「これまで に、DAN酸素インストラクタートレーナーコースを3回開催し、19の認定指導団 体等から推薦された105人が、DAN酸素インストラクタートレーナーに認定され ています。

また、私たちが把握している限りでも、すでにこの認定指導団体が、DAN酸乗イ ンストラクターコースの講習会を行っています。今後は、これらのDAN酸素インス トラクターによって、多くのDAN酸素プロダイバーが育成されることを期待してい ます」と話している。


聴聞でファーストレスポンダに対するテロ事件対応訓練について審議

(アメリカ、インディアナ州) さる3月21日、国内で起きたテロ行為に対応できるようファーストレスポンダを 訓練することについて審議する聴聞会において、消防サービス8団体の代表者が証言 した。

この聴聞会は、下院の国家安全保障委員会の軍事研究開発小委員会議長であるカー ト・ウェルダン氏によって企画され、消防庁の指導者の年次総会と同時に、インディ アナ州インディアナポリスで開催されたものである。

聴聞会には、4人の政府機関代表者も出席した。聴聞会開催の目的について、ウェ ルダン氏のスポークスマン、ピート・ピーターソン氏は、「現時点までの活動の経過 を知り、将来の方向性を検討するためである」と述ベている。

司法省および国防省は、国内120の大都市で、テロ事件に対応できるように ファーストレスポンダを訓練する準備を始めており、すでに2日間の指導者養成コー スが実施されている。

メリーランド州モントゴメリー郡の消防・レスキューサービスの副署長テッド・ ジャービー氏は、「このトレーニングはファーストレスポンダ、消防、レスキュー 隊、救急隊、公安関係者、医療関係者全員を一様に教育できるものだが、われわれ は、消防・救急・レスキュー隊に対する国内危機対応訓練の方法を明らかにしなけれ ばならない」と話す。

彼はさらに、ボランティアを含めたすベての救急レスポンダが、この2日間の講習 を受けられるようにするとともに、訓練プログラムを各地方のニーズに含わせて変え ることを提案した。

地方の消防隊やボランティアを代弁して、インディアナ州ウェインタウンシプ消防 署長のラリー・力ール氏は、軍人よりもむしろ、救急管理と有害物質処理の専門家に 訓練を任せることを提案。さらに、州兵はあくまでも補助的なレスポンダであるベき だとし、テロ事件が起こつた場合に直ちに現場に駆けつけるのは、各地方の救急レス ポンダであることを強調した。

国際消防署長協会のリッチ・マリナッチ会長は、議会は消防隊員、救急隊員等のす ベてのレスポンダに対し、このような訓練を義務づけるベきであり、また、その訓練 を全米の消防学校が実施するベきだとの考えを示した。

さらに、同氏を含む何人かは、トレーニングの実施、汚染除去作業、保護具の装備 などのため、地方の消防署では資金が必要であることを強調、消防士、救急隊員に炭 疽菌に対するワクチンを接種すベきだと提案した。

最近の危機管理の甘さを指摘する意見も聞かれた。ラスベガス消防署長であるマリ オ・トラヴィーノ氏は、自分の担当地区で2月に起きた事件を例に挙げ、「FBI は、炭疽菌感染の疑いのある2人の男性を民間の救急車で大学医療センターへ搬送さ せた。しかし、病院は彼らが搬送されてくることを事前に知らされていなかったの で、病院側も救急車も彼らを適切に取り扱う準備ができなかった。このため、病院の 救急プランに明記されているように感染防止策を取ることができず、地域で唯一の高 度外傷センター(レべル1)が汚染されてしまった」と述ベた。

聴聞会を終え、ピーターソン氏は、ファーストレスポンダの指導者養成コースにつ いて、第一段階として評価できるものであること、今後、政府はより多くの消防隊に 対して訓練を行うベきであることがはっきりした、との考えを示した。

(EMS INSIDER訳/林香代子)


10年目を迎えた障害者に対する防災指導

(京都市消防局伏見消防署) 京都市消防局伏見消防署が伏見区身体障害者団体連合会と共催で開催している障害 者向けの防災研修会が、今年で10年目を迎えた。

同署では、障害者を災害から守るため、防災研修会を始め住宅の防火診断、点字パ ンフレットの作成など、さまざまな防災対策・指導を積極的に展開しているが、すベ ての活動に一貫しているのは、一人ひとりの障害の状態に応じたきめ細かな指導を実 施するという方針である。

この点について、同署企画広報係の田中昭さんは、「たとえば防災研修会では、通 報・避難の方法を中心に、初期消火、応急手当などを、実習を交えて指導しますが、 障害者の場合、緊急時の対応策は一様ではありません。

通報の方法は、電話がよいのかファクスがよいのか。火災が発生した場含、初期消 火に努めた方がよいのか、すぐに逃げた方がよいのか、それぞれの事情により異なり ます。また指導の方法についても、手話通訳をつけるなどの配慮が必要です。

このため当署では、各人の障害の状態を把握した上で、その人にとってもっとも安 全な対策を、もっとも効果的な方法で指導するよう努めています」と語る。

防災研修会の対象者は、同連合会加盟の肢体障害者協会、肢体不自由児親の会、視 覚障害者協会、聴覚障害者協会の4団体の会員約600人、全会員を対象にした総会 も年に1回行われるが、より具体的な防災対策を指導するため、視覚障害、聴覚障 害、肢体障害のいずれかに対象者を絞り込んだ研修会を、それぞれ年1回程度ずつ開 催している。

たとえば、聴覚障害者を対象とした研修会では、一人ひとりが研修の内容を確実に 理解できるように、ボランティアの手話通訳や要約文を映すOHPを用意する。

また内容についても、緊急時にファクシミリで通報できる「消防ファクシミリ」の 使い方を実習したり、ランプ点滅で避難路を表示する装置を紹介するなど、より実践 的な防災対策を指導している。

実際に研修会を行ってみると、障害者にとって緊急時に何が問題となるのかを、改 めて考えさせられることも多く、「たとえば、避難経路は段差のないスロープがよい のではないかと思っても、視覚障害者の中には、スロープは不安定な感じがして、気 持ちが悪くなるので階段の方がよい、という人もいます。

障害者の方とのコミュニケーションを通して、障害者が何を不安に感じ、どのよう な情報を必要としているのかを知ることによって、一人ひとりの状態に応じた防災対 策を充実させていくことが大切だと思います」と、田中さんは語る。

同署では、できる限り多くの障害者とコミュニケーションを図るため、年に1回障 害者の住まいを訪れ、住宅の防火診断を行っている。また、前述の消防ファクシミリ では、緊急時だけでなく、いつでも防災に関する相談を受け付けている。

さらに今年2月、視覚障害者のための地震対応マニュァル「防災まめちしき、知っ ておこう、これだけは」を作成した。阪神・淡路大震災などの影響で、地震に対する 不安が高まっていることから作成されたもので、B5判ぼぺージ、点字のぺージと弱 視者用に大きな活字で印刷したぺージの2部構成となっている。

内容は、地震発生時の対応、避難法、広域避難場所の案内など。希望者に無料で配 布している。

田中さんは、今後の防災指導について、「障害者を災害から守るには、地域ぐるみ の防災対策に加えて、障害者自身に自衛手段を身につけてもらうことが大切です。こ れからも、研修会や訪間指導などを通して、障害者の防災知識の向上と緊急時の対応 力の強化を図りたいと思います」と話している。

同署の署員は、地域住民とのコミュニケーションを大切にしており、障害者がどこ に住んでいるか、また「ここのうちのおばあちゃんは耳がよく聞こえない」など、高 齢者や障害者の情報をよく把握している。加えて、京都市消防局内の手話サークル等 で手話を学んでいる署員も少なくないとのこと。

このようなきめ細かな対応を心掛ける署員の姿勢が、地域の防災対策にっながると いえるだろう。


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