この原稿は救急医療ジャーナル'97第5巻第6号(通巻第28号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

寸劇を通して応急手当の普及を図る

神奈川県・愛川町消防本部、三重県・伊勢市消防本部 救急車が現場に到盾するまでの空白の5分間を埋めるために、全国の各消防本部では、パイスタンダーによる応急手当普及啓発活動を盛んに行っている。普通救命講習会において応急手当の実技を指導 するほか、応急手当の大切さ、必要性をより身近に感じてもらおうと、各消防本部とも趣向を凝らした催しを行っている。

そんな中、応急手当の普及活動に寸劇を取り入れる消防本部が増えている。今回は、神奈川県・愛川町消防本部と、三重県・伊勢市消防本部が行った寸劇を紹介する。

神奈川県・愛川町消防本部では、"私もわが家の救急隊員"をキャッチフレーズに従来から普通救命辞習会を行っているが、パイスタンダーによる救命の輪をさらに広げるために、さる10月1日、 。初めて大規模な応急手当普及講演会を開催した。

応急手当普及講演会は、消防職員が演じる寸劇で幕を開けた。一幕目は、家族が適切な応急手当をすることができず救命できなかった例、2幕目は、家族が心肺蘇生法を実施して救命に成功した例 がそれぞれ紹介された。

同町消防本部の荻田康也さんは、「応急手当のよい例と悪い例を取り上げることで、救命講習会の重要性、パイスタンダーの役割を訴えるのが目的でした。寸劇を通して、笑いを誘いながら観衆を引 き込むことができたと思います。

寸劇は、台本作りから配役まですべて消防職員が担当し、非番の日を利用して練習するなど、約1か月間かけて準備しました」と話す。

寸劇の後、東海大学医学部救急医学講座の澤田祐介教授が「覚えてほしいとっさの手当」と題する講演を行い、家庭内でのさまざまな事故の予防策と、実際に事故が起きた場合の対処法について、 スライドを交えてわかりやすく説明した。

同講演会には、事業所職員、救命講習修了者、PTA関係者のほか、町の広報紙を見た一般市民など約550人が参加した。会場は立ち見が出るほどの盛況ぶりで、参加者からは「家族に高齢者がいるため 、救命講習の大切さを痛感した」「応急手当は思いがけない事故のときなどに尊い生命を救うことにつながるので、大勢の人が学ぷべきだ

などの感想が聞かれたという。

愛川町消防署長の斎藤増雄さんは、「私たちは小さな消防本部ですが,今回の寸劇のように創意工夫を心掛け,地道な応急手当の普及活動を行っています。当面は、普通救命講習会の修了者を、人口 の10%に当たる4千人程度まで増やすことを目標にしています」と話す。

一方、8月31日には、三重県伊勢市で救急医療週間の-環として、「市民の救急を考える集い」が開催された。作家の渡辺淳ー氏による救急文化講演会の前に行われたのが、伊勢市消防署救急係の出演による「救急を考える小劇場」。寸劇は初めての試みだったという。

寸劇は「急病人あなたならどうする」、「急病人おちついて119番」、「急病人応急手当できますか」の3幕から成り、医療情報センターと休日応急診療所の利用法、救急車の正しい利用法、急病人が 出たときの応急手当の仕方などが紹介された。救急係長の大西邦生さんは、「救急医療週間の際は毎年違う催しを考え、マンネリにならないように工夫しています。今年は、従来から行っている救急実 技にさらに手を加え、寸劇形式で普及啓発を図りました。

寸劇を演じるに当たっては、事前に他の消防本部が行った寸劇のビデオを見て研究しました.衣装や音響などすべてを救急隊員が担当したのですが、寸劇の効果音として、病院での赤ん坊の泣き声や 、救急車のサイレン音、指令室での音声テープなどを録音して流すなど、できるだけ現場の状況に近い状態を再現するように工夫しました」と話す。

寸劇の背景には、救急隊の出動風景や医療情報センターの様子、救急救命士の特定行為の様子などをスライドで映写し、遠くの席の観客にも見えるよう配慮した。セリフは地元の伊勢弁を使い、住民 になじみやすいようにしたという。 「演技については皆素人なので、出演者の声を吹き替えにしようという話もありましたが、リハーサルでも緊張することなく、本番も吹き替えなしで通すことができました。初めての挑戦でしたが、予 想以上の出来で、参加者にもとても好評でした.寸劇を通して、私たち救急隊員の思いが住民の方に少しでも伝わればと期待しています」(大西さん)。

パイスタンダーによる応急手当の重要性は、誰もが認識している。今後は一般市民が応急手当をより身近に感じ、関心を持つことができるように、各消防本部が何を題材にし、どのような方法で普及 させていくかが問われるであろう。


テロによる襲撃の犠牲者のための大都市医療チームがアメリカの25都市で発足

アメリカの保健・福祉省は9月5日、全米25都市に対する、大都市医療チーム(Metropolitan Medical Strike Team:MMST)の設立および核兵器もしくは化学・生物兵器によるテロリストの襲撃への対応教育についての補助金として、9千200万ドルをあてることを明らかにした。

すでに300万ドルはニューヨークなど7都市に与えられており、残りの補助金は9月末までに支払われる予定である。アメリカでは、最初のMMSTが1996年のアトランタオリンピックの際に組織され、 その後はワシントンDCでも組織されている。

MMSTは、テロによる襲撃の犠牲者に対して、迅速な医療処置と搬送を施すことを目的としている。特別な訓練を受けたレスボンダには、化学・生物兵器の浄化や汚染除去のための装具や解毒剤が与え られる。

保健・福祉省長官は、最初のMMST設立補助金についての会見のとき、「MMSTは、人々の平和に尽力すべく高度な教育を受けたチームであり、有事の際には十分な装備の上、直ちに配置につくことが可 能なものとする」と述べている。

また、「国家災害医療システム(National Disaster Medical Sysytem)のアシスタントチームが公衆衛生総局によって組織・運営されているのに対して、MMSTは各都市が独自に展開し、配備されるという構想である」と、連邦緊急事態管理庁(Federal Emergency Management Agency:FEMA)報道官は述べている。

一方、対テロ活動のファーストレスポンダ教育のための補助金はすでに26都市に与えられており、2000年までには合計120都市に与えられる予定である。「ある程度の装備が整いつつあるが、すべ ての都市や消防署が十分な装備を持っている訳ではない。各州・都市は将来的には各々で資金を集める必要があるだろう」とFEMA報道官は話している。

FEMA報道官によれば、補助金給付の対象となる都市の代表者はワシントンで指示を受け、その際、各都市の要望が審査されるが、都市によりニーズも組織も異なるため、個々に合った対応がなされているとのことである。 さらに、FEMAでは迅速な対応ができる情報システムを設立しつつある。

また、ファーストレスボンダ教育は、今年の夏、全米消防学校(National Fire Academy)で、指導者育成の授業と同時に開始された。現在、FEMAの教育者はより多数のレスボンタヘの訓練を行って いる。例を挙げればフィラデルフィアでの最近の訓練には約400人もの参加があった。参加者たちはそれぞれの州や都市に戻り、他の人々の教育に当たることになっている。 (「EMS INSIDER」1997年10月号より,訳/林 香代子)


住民の救命に対する意識調査を実施

兵庫県・猪名川町消防本部 傷病者の救命率の向上を目指し、1993年に自治省消防庁の「応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱が制定され,猪名川町消防本部においても従来の救急講習会に加え、応急手当指導員を 認定して普通救命講習等を実施するなど、積極的な普及啓発活動を展開している。当消防本部の普及啓発活動のテーマは「もっと知りたい、助けたい」であり、住民が自ら応急手当の必要性に気づくよ う意識改革を行うことによって、より住みやすい安全な町づくりを目指している。

そこで、住民の救命に対する意識を調査するため、9月7日に開催した救急フェアでアンケートを実施した。アンケートは、救命講習を修了した2人の女性が一日救急隊長として、会場(大型スーパーの 買い物客に協力を求め、実施した。これは、とくに救命に関して興味のある救命講習受講者等でなく、ごく一般の住民の救命に対する意識を調査するためである。内容およぴ結果は別掲の通りである。

問1・2の結果を見ると、救急の日、救命講習会の普及啓発がいまだ不十分であることがわかる。今後は、新たな広報媒体を確保するなどして、広報の拡大・充実を図る必要がある。

問3では、講習会を「是非受けてみたい」という人が約11%と非常に少ない反面,「機会があれば受けたい」「どちらでも良い」が合わせて約84%と大半を占めている。したがって、普及啓発活動 を推進するためには、応急手当の必要性を訴え、「万が一の緊急事態に備えて応急手当を修得する」という動機づけを図るような展開を考えなければならない。

年代別に見ると、「是非受けてみたい」と回答した人は、小さな子どもを持つ人が多い30歳代が14.6%、50歳代が13.0%、60歳代が12.9%で、ほかの年代が10%未満であるのに 比べ、高い傾向を示している。性別では、男性が14.5%、女性が7・9%と微妙に差が生じている。また、「機会があれば受けたい」という人は、性別ではそれぞれ約半数で差は見られないが,年代 別では40歳代と50歳代が60%を上回っている。したがって,男性の40歳代、50歳代の受講意欲の割合が高い傾向にある。

次に、救急救命士等の用語については、知名度に比べて関心度が非常に低い(問4)。今後は普通救命講習会の中でも、パイスタンダーによるCPRや特定行為等のリレーが救命につながることを意識 させ、応急手当の重要性を説明する必要があると考える。

問5では、目の前で倒れた人あるいは家族を助けたい(回答1〜3)と回答した人が約92%と非常に多く、われわれにとっては心強い結果となった。年代別に見ると、「勇気を出して手を差し伸べよう と思う」と回答した人は10歳代、50歳代が60%を超えているが、ほかは40%前後にとどまっている。

問6の特定行為については、希望すると回答した人(回答1〜3)が約77%と高い割合であるが、「その場になってみないと判らない」という人も20%近くいた。救命処置に関するインフォームド ・コンセントが十分でなければ住民の不安を招くことになるので、救急現場での活動接遇要領については、シミュレーションを通じて訓練しておく必要がある。 「是非希望する」という人の割合は、60歳代以上が58.1%と高く、若い年代になるにつれ低くなる傾向がある。性別では、男性53.6%、女性44.9%であるが、「処置の必要性に納得したら希望する」では女性16.9%、男性10.1%であることから、女性の方が事態に対して、若干冷静な姿勢を示す傾向にあると思われる。

結果を見ると全体的に、自分の周りで突然人が倒れた場合、助けたい、助けてもらいたいという感情を持っていることを示す回答が非常に多い。しかし、プレホスピタル・ケアの重要性を認識しているかどうかというとあいまいな回答が多い感があり,これらの回答を「ぜひ助けたい,助けてあげてもらいたい」と変化させるよう努力する必要がある。

このアンケートは住民のごく一部に対して実施したものであり、これだけですべてを判断することはできないが、年代別、性別により異なる傾向があるのは否定し難く、普及啓発活動を推進するため の「資料としたい。また目標としては、今回、救命率向上という観点からは十分でなかった項目にターゲットを絞り,住民全体が同じ意識を持って救命率向上を目指せるよう努力していきたい。
(文責/猪名川町消防本部)

回答者数

性別/男性69(43.7) 女性89(56.3)
年代/10歳代13(8.2) 20歳代16(10.1)
30歳代41(26.0)40歳代34(21.5)
50歳代23(14.6)60歳代以上31(19.6)

問1 9月9日が救急の日であることを知っていますか
1 以前から知っている 93(58.9)
2 知らなかった 65(41.1)

問2消防本部では,尊い生命を守るために"もっと知りたい助けたい "をキャッチフレーズに普通救命講習会を開催していますがご存じですか
1 以前から知っている 46(29.1)
2 知らなかった 112(70.9)

問3住民の皆さんによる事故現場での心肺蘇生法が救命率を高める のに最も重要だと言われていますが心肺蘇生法を中心とする普通 救命講習を受けてみたいと思いますか
(1)是非受けてみたい 17(10.8)
(2)機会があれば受けたい 86(54.4)
(3)どちらでも良い 47(29.7)
(4)受けたくない 8(5.1)

間4 今日、救急フェアに参加する以前に「救急救命士」「高規格救急車」 「心肺蘇生法」という言葉を知っていましたか

救急救命士
(1)言葉だけは知っている 115(72.8)
(2)関心を持っている 26(16.5)
(3)全く知らない 17(10.7)

高規格救急車
(1)言葉だけは知っている 64(40.5)
(2)関心を持っている 21(13.3)
(3)全く知らない 17(10.7)

心肺蘇生法
(1)言葉だけは知っている 102(64.6)
(2)関心を持っている 32(20.2)
(3)全く知らない 24(15.2)

問5もしあなたが、普通救命講習筆で心肺蘇生法を修得し生命の危機にさらされた人を見かけたら、どうしますか
(1)勇気を出して手を差し伸べようと思う 81(51.3)
(2)誰でもとは言えないが家族は救いたいと思う 43(27.2)
(3)ー人ではできないが他にする人が居たらする 22(13.9)
(4)症状が悪化すると怖いのでしたくない 10(6.3)
(5)やり方を知っていてもできるだけしたくない 2(1.3)
(6)必要以上に係わりたくないのでしない 0(0.0)

間6救急救命士は呼吸や脈が止まっている人に特に有効であるとい う「電気ショック」「空気の通り道をよくするチューブの挿入」「点 滴」等の救命処置を実施できますが、あなたが患者さんの家族で あればこれらの救命処置を希望しますか
(1)是非希望する 77(48.8)
(2)詳しいことは判らないが希望する 22(13.9)
(3)処置の必要性に納得したら希望する 22(13.9)
(4)その場になってみないと判らない 31(19.6)
(5)医師の診察の方が信頼できるので早く運んでもらいたい 5(3.2)
(6)とりあえず早く運んでもらいたい 1(0.6)


アネロイド血圧計用測定台の作製

寝屋川消防署明和救急隊 現在、寝屋川消防署明和救急隊(大阪府)では、救急車内における血圧測定に携帯型救急モニターを使用しているが、このモニターを使った場合、指先で血圧値を測定することになるため、傷病者の 体動や指先の位置、末梢循環不全等により、上腕部にマンシェットを巻く血圧計より誤差が生じやすい。そのためわれわれは、より正確な血圧値を測度するため、できるだけアネロイド血圧計を用いる よう心掛けている。

しかし、アネロイド血圧計による血王則定には、測定時にストレッチャーのサイドアームが傷病者の腕に触れる、腕が固定できず不安定である、車内が狭い等の支障があるのが現状である。そこで、 傷病者の腕を固定し血圧測定をしやすくするために、ストレッチャーのサイドアームに固定し、簡便で素早く使用できる脱着式のアネロイド血圧計用測定台を作製したので報告する。

当救急隊ではこの測定台を、アネロイド血圧計の名にちなんでアネロイダーと名付けた。アネロイダーは長さ64センチ、幅18センチ,厚さ1センチで、材質はステンレス製の板を加工、中にぺニ ヤ板を入れ強度を保つようにした。表面はスポンジを張った上に包帯を巻き、裏面は左右2か所にパイプ継ぎ手をネジ留めし、ストレッチヤーのサイドアームパイプに固定できるよう工夫した。

使用するときは、傷病者の体位を仰臥位とし、ストレッチャーのサイドアームを測定者側へ倒し、測定者のひざで支える。次に、傷病者の前腕部をアネロイダーに載せて腕全体を安定させる。すると 、マンシェットを巻きやすくなり、また聴診器と血圧計送気球のゴム管もサイドアームにかからず、測定がしやすくなる(次ページ写真)。

このアネロイダーは、脱着式なので、救急現場でのストレッチャー搬送時、または病院搬入時等には取り外すことができる。また、静脈路確保の際にも使用することができる。

救急車内における聴診による血圧測定は、車のエンジン音等の騒音で、聴診器によるコロトコフ音の聴取がなか なかうまくいかないのが現状だが、その場合はすぐ,触診による測定に移行するよう心掛けている。

今後の課題は、血圧測定時に、アネロイダーを載せたサイドアームを測定者側に90度倒したとき、測定者のひざでアネロイダーを支えなくてもすむよういかに固定させるかだが、これについては、ストレッチャーのサイドアームを90度倒した所で固定ができるよう、固定溝(現在は一か所)を改良することが必要であると考えている。
(文責:寝屋川消防署明和救急隊/土方隆夫、村上三四志、富田高志〉


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