この原稿は救急医療ジャーナル'97第5巻第4号(通巻第26号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

喘息患者に対する胸郭外胸部圧迫法の救急隊員向け教材ビデオを制作

船橋市医師会 船橋市医師会(会長・高木恒雄)と船橋市立医療センター救命救 急センター(センター長・金弘)は、救急隊員向けの教材として、 救急現場における喘息発作患者に対する呼吸補助法についてのビデ オ「重症喘息発作のプレホスピタルケア」を制作した。ビデオで 紹介されている呼吸補助法は、オーストラリアで10年ほど前から実 施され、効果を上げている胸郭外胸部圧迫法である。

近年、喘息による死亡患者数は増加傾向にあり、全国で年間約6 千人が死亡していると言われている。しかも、現場や搬送途上で呼 吸困難、さらには低酸素血症による心停止に陥り、死亡するケース が増加している.

院外で起こる喘息死の要因として、しばしば発作を起こすために 、患者や家族が家庭で治療しようとし、重症化するまでみすごして しまうことや、発症から急激に窒息に至る発作があることなどが挙 げられるが、現場で適切な処置を行い、医療機関に収容すれば救 命可能な場合も多い。そのため、プレホスピタル・ケアにおいて、 低酸素血症を予防し喘息死を防ぐことが大きな問題となりつつある 。

この点について、同市医師会の救急担当理事の青山賀茂医師(青 山病院院長)は、「わが国の救急隊員が喘息発作患者に対して実施 できる処置は、体位管理と酸素投与のみです。そこで当市では、約 2年前から、医師会が中心となって、特別な器具を必要とせず、換 気を補助し低酸素血症を効果的に予防することのできる胸郭外的部 圧迫法を、救急隊員に指導するようになりました」

と語る。

胸郭外胸部圧迫法は、胸壁を圧迫して呼気を補助することにより 、吸気を可能にする換気補助法である。喘息発作による気管支の攣 縮、浮腫、粘液分泌は気道狭窄を引き起こすが、狭窄は吸気よりも 呼気で強く起こり、吸い込んだ空気を排出し切ることができなくな る。その結果、吸気が十分に行われず、呼吸困難に陥る。そこで、 胸郭の下部に手のひらを当て、呼気に合わせて胸壁を圧迫し、肺に たまった空気をしぼり出すように排出することによって、次の吸気 がスムーズに行われるよう補助するのが、この方法である。

胸郭外胸部圧迫法は、日本ではあまり普及していなかったが、特 別な器具を必要としない簡便かつ有効な方法であることから、同市 立医療センター救命救急センターの医師らが注目し、普及を始めた 。 同市の救急隊員も、ほとんどが研修を受けるまでこの方法を知らな かったが、同市消防局救急課の狩野良文さんは、「2年間、研修を行 ってまいりましたので、市内の救急隊員は、胸郭外胸部圧迫法を習 得し、救急現場においての処置が可能になりました」 と話す。

実際に実施した救急隊員から、「SPO2の値が改善した」「(傷病 者の)呼吸がとても楽になった」などの報告を受けています。昨年 は、喘息患者の搬送が209件ありましたが、そのうち39件に対し、胸 郭外胸部圧迫法を実施し、効果を上げています」

このような結果を得て、同市医師会では、この方法を全国に普及さ せるべく、ビデオを制作するに至った。

約15分間に渡るビデオでは、喘息死の要因や対処のポイントなどの 説明に加えて、講師の宮川哲夫氏(昭和大学医療短期大学)と同市消 防局の2人の救急救命士が、圧迫の部位や方法、気管支拡張剤や酸素 を投与しながらの圧迫法などを実演している。

ビデオは救急隊員向けであるため、申し込みのあった関係機関や医 療関係者に対し、2千500円(送料等込み)で送付しているが、一般の 患者やその家族からの問い合わせもあるという。 同市医師会では今後、患者やその家族向けのビデオを作る予定だが、 青山医師は、この点について、次のように語っている。 「この方法の絶対適応は大発作以上、相対適応は中発作であり、喘息 発作の対処でもっとも大切なのは、発作の重症度を的確に判断するこ とです。当市の救急隊員も、研修会を通して、単に手技のみでなく、 喘息についての基礎知識や症状、処置を詳しく勉強しています。

ですから、全国の救急隊員や患者・家族に対しても、今後はビデオ を配布するだけでなく、ビデオを使って医師が指導する場を持つよう にしなければならないと考えています」

ビデオの問い合わせ、申し込みは、船橋市医師会(0474-2-47 71)まで。


メンタルヘルス関連の出動要請にこたえる消防署

アメリカ・アリゾナ州 アメリカ・アリゾナ州フェニックス市の消防署(PFD)は、通常 の出動に加えてもう一つの出動プログラムを行っている。このプロ グラムを実施することで、市は経費を削減できるばかりでなく、メ ンタルヘルスケアやソーシャルサービスを必要としている人々に、 それらのサービスを受けるきっかけを与えることができる。 危機回避対応努力(Crisis Avoidance Response Effort:CARE) )と呼ばれるこのプログラムは、1995年7月に運用が開始され、以来 、病気とは言えない「行動上の健康」に関する出動要請に対応して いる。

CAREの車には、PFD所属のEMTと、アリゾナ州立大学のソーシャル ワーク専攻の大学院生が乗り込み、自殺を企てようとしている、気 が動転している、うつ状態、あるいは何らかの感情的危機状態にあ る人がいるという通報を受けたときに出動する。

アリゾナ州では、ここ数年メンタルヘルスの患者のほとんどを施 設から退院させたが、その多くが退院後薬の服用を止めており、そ の結果CAREの必要性が非常に高くなったと言われている。

PFDでは、現在三つの専任CARE部隊が出動しているが、ピーク時 にはさらに二つの部隊を追加する。CAREのEMTは傷病者の基本評価 を行い、緊急の対応が必要な医療問題があれば、BLSかALS部隊を呼 ぷ。単に問題が行動上の二とであると判断される場合は、傷病者を メンタルヘルスクリニック、教会、保護施設等に搬送する。また、 自分自身で責任が持てるような傷病者であればその場に残す。 アシスタントチーフのストーメン氏は、「傷病者たちは、ソーシャ ルサービスや精神面での支援、社会的関係を必要としています。私 たちがすることのほとんどは聞くことです。診断はしません」と語 る。

CAREの車に乗ることを志願するEMTは、「行動上の健康」に関し て、さらに40〜60時間の訓練を受け、傷病者のどのようなことに 耳を傾けるべきかを勉強しなければならない。

このプログラムは、救急車を出動させるより経費が節約できると あって、大変注目されている。
(訳/三上 斉)


阪神・淡路大震災をきっかけに尺取り虫型の人命探索ロボットを試作

兵庫県立姫路工業大学 この5月、兵庫県立姫路工業大学工学部機械知能工学科の長谷川素由 教授らによって、尺取り虫のような動きで、倒壊した家屋内やがれ きの中に入って状況を把捉し、人命を探索する「多関節型移動ロボ ット」が試作された。阪神・淡路大震災を契機に兵庫県が助成した 「震災復興特別研究」の予算を利用して2年がかりで試作したもの で、関節を巧みに動かし、尺取り虫のような動きをすることで、旋 回したり階段を上るなど、さまざまな動きができるとう特徴がある。

今回試作されたロボットは5関節、6アームから構成されており、 頭部に赤外線カメラを搭載している.6本のアームは、それぞれ モーターと歯車により屈曲し、尺取り虫のような動きで障害物の 間をぬって進んでいき、赤外線カメラで現場の状況を映し出すこと で、中にいる生存者を察知する仕組みになっている.

開発に当たった長谷川教授は、試作までの経緯について、「震災 直後に神戸を訪れ、多くの人が倒壊した建物の中なとに埋もれたま ま亡くなったのを目の当たりにしました。そのとき、倒壊家屋やが れきの中など狭いところにも入っていくことができる、効率のよい 人命探索手段の必要性を痛感しました。

一人でも多くの人を助けるために機械工学に携わる者としてでき ることは何か、大学としてできることは何かを考え、人命探索ロボ ットの開発に着手手したのです」

と、話している.

試作されたロボットはジュラルミン製で、アームを伸ばしたとき には長さ150センチ、幅8センチ、高さ5センチになるが、折り畳む と長さ38センチ、幅8センチ、高さ35センチのサイズに収まる。重 さは3.7キログラムと軽量である。

頭部に赤外線カメラと制御装置、最後部にバッテリーが搭載され ている。 ロボットの操作はパソコンで行うが、赤外線カメラが把捉した状況 は、パソコンの画面に取り込んで判別することができるほか、テレ ビに接続すればテレビ画面で確認することもできる。

現在は赤外線カメラで映し出した画像で生存者の判別をするが、 今後は、一定の温度以上のものを察知する温度センサーを取り付 けることで、生存者の判別をより正確なものにしたいとのことで ある。

この人命探索ロボットの特徴の1つは、小型で関節が少ないにもかかわらず、さまざまな動きができる ことにある。各関節には、安定した姿勢を保持するためのセンサー が付いており、移動中に体勢を崩したような場合は、センサーがそ れを察知し、すぐに安定した姿勢に戻ることができる。また、中央 部分の関節は方向転換のための機能を持っており、この関節を中心 に旋回することができるようになっている。

前進渾動のほかにも、18センチの段差がある階段を1段につき 14秒の遺さで連続的に上ったり、10〜15センチ程度の幅の溝であれ ば、またいでいくこともできる。

「開発に当たっては、人間がなかなか立ち入ることのできない危 険なところや汚いところへも入っていくことができる昆虫などの生 体メカニズムが参考になるのではないかと考えました。それで尺取 り虫の動きをロボットに取り入れたのです」と話す長谷川教授の思 惑通り、尺取り虫型のロボットは、小型で小回りのきくものに仕上 がった。しかし、現在完成しているのはあくまでも試作品であり、 今後はさらに改良を加えて実用化を目指すという。 「今回の試作品はあらゆる可能性の基礎となる「初期設計Lですので 、さらに小型化・軽量化を進めると同時に、さまざまな環境下での 作業が可能になるように、それぞれのニーズに対応したプログラム を開発し、より充実したロボットにしていきたいと思っています」 (長谷川教授)。

応用の可能性としては、まず劣悪で危険な環境における作業への 適応が考えられる。たとえば、原子力関係の施設内で異常事態が発 生した場合や、有毒ガスが発生した場合などの作業用ロポット、あ るいは採鉱や採石用のロボット、雪山等での遭難に対するレスキュ ーロポットなどへの応用である。

長谷川教授は、今後の展開について、「今後は、ワイヤレスで遠 隔操作ができるようにするなどして、1日も早く実用化したいと思 っています」と話している。


災害時に担架やはしごとして使えるガードパイプを設置

東京・羽村市 羽桐市では、さる3月末、災害時に担架やはしごとして使用できる ガードレール用パイプを、緊急時災害対策用資器材として市立富士 見小学校前など市内10か所に設置した。

このガードパイプは、既設のガードパイプを利用して設置され たもので、日常は道路際のさくとしての役割を果たすが、災害時に は、スパナ等で取り外すと担架やはしごに変身するというアイデア 資器材である。パイプは担架・はしご用と障害物除去用の2種類が あり、セットで設置されている。

担架・はしご用のパイプは、はしご状になっており、20センチ間 隔で横さんが付いている。長さ3メートル、幅55センチだが、ジョイ ント方式になっているため、担架として使用する場合は、約2メート ルの長さに調節することができる。

取っ手の部分は、握りやすいように通常のパイプより細く、軽量 に作られている。また、載せた人の背中が痛くならないように横さ んにゆるやかなカーブを入れるなどの工夫もこらされている。けが 人のほか、物の運搬にも使うことができる。

一方、障害物除去用のパイプは、通常のパイプより肉厚になって いるため、てことしてがれきや道路上の障害物を除去したり、倒れ そうなものの支えとして使用できる。

羽村市防災安全課では、設置までの経緯について、「羽村市では 、1995年の阪神・淡路大震災を契機に市の防災計画を見直そうとい うことになり、七つの部会から成る地域防災計画検討委員会が発 足しました。このガードパイプは、検討委員会の中の防災アイデア部会で、昨年の3月に提案されたもの です。

大震災のとき、鉄パイプががれきなどを除去するのにとても役立 ったという話を聞き、ガードパイプを緊急時災害対策用賀器材とし てうまく活用できないかということで検討を重ね、実用化にこぎつ けました」 と話している。

ガードパイブには、「緊急時災害対策用資器材」の表示がされて いるほか、すでに設置されている一般のガードパイプが白の場合は 緑色のパイプを、緑色の場合は白のパイプを設置することで、一目 で判別できるようになっている。費用は1か所当たり10万円と安い。 これは、行政改革の折でもあり、できるだけ既設のものを利用し、 お金をかけない考えからとのことである。

「災害発生時には家が倒壊したり、道路が寸断されるなど、あら ゆる事態が想定されます。道路を確保したり、救護活動を迅速に行 うためにこのガードパイプがいろいろな形で活用されることを期待 しています」(防災安全課)。

今回の設置により効果が認められれば、さらに多くの場所に設置 する予定とのことである。


救急車等の小型車両用衛星通信システムの研究がスタート

郵政省 郵政省は、今年度より、マルチメディア衝星通信地球局システム の研究開発に着手した。このシステムは、人工衛星を利用し、辺地 や離島など医療環境の未整備な地域における遠隔医療や、救急車と 医療機関とを結んで、救急車内での迅速な救急医療を支援するもの である。

システムの概要は下図の通りで、救急車等の小型車両と医療機関 や災害復旧機関等の間で、画像やデータをやりとりすることになる 。

この際、衛星通信用の地球局システムは、多数の医療機器を積載 する救急車や消防用機材を積載する消防車等、限られたスぺースし かない小型車両内に設置しなければならない。そのため、システム としては、小型車両に設置可能なように小型化を図ることが不可欠 であり、今回のプロジェクトがスタートした。

全体のスケジュールは、平成11年度末までの3か年計画となって おり、今年度は、車載用地球局設備等を調達して、アンテナ、送受 信機等のシステムの小型化の検討を行う予定である。その後、平成 11年度までに車載用地球局の技術基準を策定するとともに、実証実 験を行い、実用化を推進することとしている。

このシステムが実現し、移動中の救急車と医療横関との間で傷病 者の画像やデータをやりとりすることができるようになれば、救急 隊員は搬送中に、医師の的確な指示を受け、迅速な処置を実施する 二とが可能になる。

通常の携帯・自動車電話の電波が届かない地域の多い消防本部で は、すでに人工衛星による通信システムを採用しているところもあ るが、現在はまだ、通話および心電図等のデータ伝送のみに限られ ている。

これに対して郵政省では、音声やデータ伝送だけでなく、カラー動画を毎秒1.5メガビットで送受信でき るシステムの開発を目指すとしている。そのため、このシステムが 実用化されれば、傷病者の画像や音声、各種検査データなどさまざ まな医療情報を医療機関に送ることができるようになり、とくに搬 送時間が長くかかる地域や大規模災害の現場等での利用が期待でき るだろう。


災害時の救急医療の拠点となる総合医療会館がオーフン

神奈川県 さる4月、神奈川県、県医師会、県病院協会、県看護協会の4団体 が共同で建設を進めていた神奈川県総合医療会館(横浜市中区)が オープンした。 災害時の医療を担当する県の組織と医療関係諸国体が一つの建物に 同居して活動を行うのは全国でも初めての取り組みであり、多くの 注目を集めている。

同会館は、総工費(約36億7千330万円)の約半分を県が負担し、 1995年度から2年間かけて建殺された。県内における災害時の救急 医療体制の強化を目指すとともに、地域医療連携の推進、ナース センター機能の充実、各医療関係団体の活動の拠点づくりなどを 目指し、各機関が普段から連携を密にすることで、県民の多様な 医療ニーズにこたえることを目的としている。

地下1階、地上8階建てで、延べ床面積約6千770平方メートルの 建物に、県医師会、県病院協会、県看確協会、神奈川県がそれぞ れの拠点を構え、業務を行っている。共有部分の大講堂は、各種 学会や医療関係者を対象としたセミナーなどに利用されることに なっている。

また、県の組織としては、災害時医療対策室、救急医療中央情 報センター、ナースセンターが役置されている.いずれも災害時 の医療を含めた救急医療体制の強化と、地域医療への支援およぴ 保健医療人材の確保・育成などを目指している。

災害時医療対策室は、災害時の医療体制の整備充実を図るため に新たに設置された組織で、衛生部医療整備課の職員4人が常駐し ている。平常時は、災害時の医療救護本部の運用マニュアルなど の整備、医療救覆に関する訓練や研修の実施、災害拠点病院の整 備など、災害時に備えた事前対策に取り組んでいる.大地震など の災害が発生した場合には、県の医療救護本部として医療救護活 動が迅速かつ円滑に行われるよう、医療救建班の派遣、負傷者な どの医療機関への受け入れ、後方への搬送、医薬品等の確保など の調整を行うことになっている。

救急医療中央情報センターは、県医師会が県からの委託を受け 、運営を行っている。県内の医療機関における救急患者の受け入 れ準備の状況を24時間体制で把握し、各自治体の消防本部などに 情報提供している。

5階のナースセンターは、看護婦への再就職のあっせんを行う ほか、未就業者を対象とする最新医療機器や看護技術などに関す る講習会、訪問看護職員養成に関する研修会などを実施している 。

一つの建物の中で関連団体が業務を行うことのメリットについ て、災害時医療対策室の担当者は、「同じ建物の中にいれば、災 害時に電話などの通信手段が断たれることになっても、容易に連 絡を取ることができます。

また、同じ場所で働いていることで職員が顔見知りになり、普 投からお互いの仕事について理解し合うようになれば、いざとい うときの機動性が増します。災害時に迅速な活動を行うためには、 普段から「見えない部分での連携」を強めておくことが大切だと 思います」

と、これまで以上に関連団体隈の連携を深めていきたいとして いる。また今後の予定については、「関連団体と連携して、救護 班の派遣訓練や後方病院への搬送訓練、医師等を対象とした負傷 者のトリアージ研修などを行っていく予定です。

情報面では、全国の災害・救急医療情報ネットワークを利用で きるよう、従来の救急医療情報システムに、災害時にも応用でき るシステムを付加していく予定です。そうすれば、県内外の団体 への応援・協力要請も円滑に行うことができると思います」 と話している。


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