この原稿は救急医療ジャーナル'97第5巻第3号(通巻第25号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

インターネットで救急医療情報を提供

広島県 広島県では、今年10月から、インターネットを使って、医療関係 者や一般県民に救急医療情輯を提供する「広島県救急医療情報ネッ トワーク」の運用を開始する。現在運用されている「広島県救急医 療情報システム」は、消防機関の搬送支援が中心だが、これを見直 し、インターネットを利用することで、より多くの医療関係者や一 般県民が自由に利用することができるネットワークを構築しようと いうことで、多くの関心を集めている。

同救急医療情報ネットワークは、医療関係者向けと一般県民向け に分けられており、医療関係者の場合は、パスワード等を使って必 要な情報に自由にアクセスできるようになっている。これに対して 、一般県民の場合、アクセス可能な情報の範囲は限られるが、その 範囲内であれば誰でも自由にアクセスできるようになっている。

医療関係者向けのホームぺ-ジには、県内約200の病院、診療所の 空きベッド情報や手術の可否などの応需情報のほか、県内全医療機 関のデータぺ-スとして、ICUや特殊な医療機器の有無なと、さまざ まな情報が網羅される予定。

医療機関側の情報はそれぞれの機関で入力するが、従来使用して いた端末では対応できないため、市販のパソコンを広島県が提供す る。広島県内には現在歯科診療所を含め約4千の医療機関があるが、 応需情報の入力は、当面24時間態勢で救急患者を受け入れている 「救急告示医療機関」が対象となる。同救急医療情報ネットワーク への参加を募り、協力してもらえる機関についてパソコンが提供さ れる。

一般県民に対しては、県内の全医療機関の名称、所在地、診療科 目、時間外診療や往診の可否などの基礎情報のほか、休日夜間急患 センター、休日夜間当番医等の当番医の情報も提供される予定であ る。

同救急医療情報ネットワークの運用について、広島県福祉保健部 医療対策課の徳光重雄さんは、 「ネットワークの構築に当たって、医療機関にアンケート調査を行 うと同時に、協力をお願いしました.現在、広島県内には195の 救急告示医療機関がありますが、できるだけ多くの機関にご参加い ただければと思っています。

また、このネットワークで提供される応需情報は、各医療機関で 入力される情報が基になるため、ネットワークがいかに充実したも のになるかは、医療機関にどれだけ積極的に情報を入力していただ けるかにかかっています。

現在運用されている広島県救急医療情報システムの場合、入力率 が低いという問題を抱えています.今回のネットワークでは、でき るだけ簡単な操作で入力ができるシステムを開発中です。情報の入 力率が上がり、充実した内容になることを期待しています」

と話す。

実際、同救急医療情報ネットワークの入力方法は従来のシステム に比べて、かなり簡素化されている。たとえ ぱ、ホームページの入力画面を選択すると、診療科目ことに「入院 の可否」「手術の応需」などの項目が出てくるので、該当する欄に ○×を入力すれば完了するという具合である。

また、インターネットを使った情報ネットワークでは、情報を検 索し利用するだけでなく、双方向で情報交換ができるという利点も ある。たとえば、医療関係者や自主研究グループなどによる経験症 例等の検討、新しい医学情報などについて、電子メールを通じて情 報交換をすることもできる。

さらには、県内ばかりでなく、他の地域の医療関係者やネットワ ークとの交流も可能で、救急医療の向上に大いに役立つものと期待 されている。 「今回のネットワークでは、情報提供だけでなく、厚生省の広域災 害・救急医療情報ネットワークや、全国保健福祉情報提供システム 、大学など、他のさまざまなネットワークとの連携を深め、さらに 充実した内容にしていきたいと思っています」(徳光さん)。

インターネットの活用については、同救急医療情報ネッーワーク のサブシステムとして、NICU(新生児集中治療管理室)ネットワー クの構築も同時に進められている。現在は、今年10月の運用開始 に向けて、各医療機関との調整やシステムづくりが進められている が、今後の展開に期待したい。


日本初の子ども事故予防センターがオープン

東京・池袋保健所 ふろ場でおぼれる、ボタンを飲み込む、たばこを食べるなど、小 さな子どもの事故にはさまざまなものがあるが、これらは保護者が 十分に注意することで予防することができる。にもかかわらず、わ が国における家庭内の事故による乳幼児の死亡率は、先進国の中で も高い方に入ると言われている。

このような状況の中、昨年11月26日、子どもの事故を減らす ための指導・啓発を専門に行う、「子ども事故予防センター;kidsa fe」が東京・池袋保健所にオープンした。この種の専門センター の開設は日本で初めてのことである。

子ども事故予防センターは、池袋保健所の2階、診療室前の待合室 にある。 壁面には、家庭内での事故の種類、誤飲しやすい家庭製品、人工呼 吸や心臓マッサージの方法などが、約70枚のパネルでわかりやす く説明されているほか、小物については実物も展示されている。パ ネルは、すべて同保健所職員の手作りで、写真やイラストを豊富に 使用、理解しやすいようさまざまな工夫がされている。

また、誤飲時の処置方法や、事故を防ぐ工夫などが紹介されてい るほか、年齢別の注意事項が記載されたチェックシートが用意され ており、保護者の意識の向上に大いに役立っている。コーナーの一 角には、「ひやっとした体験」や「センターを訪れての感想」な と、実際の保護者からのコメントも紹介されている。

同保健所では来年の10月に新築・移転し、本格的にセンターを 始動させる予定だが、その前に、展示だけでも早く実現しようとの ことで、今回のオープンとなった。同センター設置の経緯について 、同保健所健康推進課の浅井雅之さんは次のように指している。

「厚生省の統計では、1歳から14歳までの子どもの死因の第ー 位は「不慮の事故」で、豊島区の調査でも約80%のお子さんが事 故を経験するという数字が出ています。そのため保健所としても、 乳幼児健診や出張育児相談の際に事故予防を呼び掛けていましたが 、なかなか実感してもらえませんでした。

そこで、保健所のスタッフと保護者が共に、具体的な事例を基に 子どもの事故予防について考え、それを広く普及啓発する場を作り たいと考えたのが始まりです」

同保健所では、昨年7月に12人のスタッフでプロジェクトチー ムを作り、センター役置の準備を開始した。設置に当たっては海外 視察も行い、内容や組織、環境等から見てわが国の実情に近いオー ストラリアの事例を参考にした。

「オーストラリアは、過去20年に渡り国レベルで子どもの事故予 防に取り組んでいますが、パネルの展示方法やパンフレットの作り 方など、学ぷべきことがたくさんありました」(浅井さん)。

また同保健所では、家庭内での事故予防を呼び掛けるビデオも作 製し、健診の際などに保護者に見せている。今後は、児童館や講習 会などで利用していくことも検討している。

来年秋の移転後は、保健所内にモデルルーム(約45平方メートル) が設置され、実際の家庭を模した台所や居間、トイレ、ふろ場、ベ ランダなどで、どのような事故が起こりやすいかが具体的に展示さ れることになっている.むろん事故の予防策も同時に展示されるが 、このモデルルームは安全設計の特別な家というイメージではなく 、ごく普通の家庭ですぐに実行できることを提案していくものにな る、とのことである。

このような事故予防センターの設置は日本で初めてということも あり、他府県からの視察の申し込みや、資料請求なども多く、昨年 のオープン以来、すでに40〜50件の問い合わせが来ていると言う。 「特別なものを用意しなくても、ちょっとした工夫で子どもの事故 は十分に予防することができるということをアピールするために、 あえて手作りにこだわったという部分もあります。こうした手作り の予防活動が、全国的に広がっていくことを期待しています」 と、浅井さんは話している。


ファーストレスポンダ用の自動除細動器を特殊パトカー等に装備

アメリカボストン市 アメリカ・ボストン市は、さる1月22日に、ファーストレスボンダ 用の新しい自動除細動器(AED)100台を、フィジオコントロール社 から購入したと発表した。

同市では、すでにEMTや消防隊が除細動を実施しているが、この たびの新しいAEDは特殊パトカーに装備することになっている.ま た、同市にある二つの高層ピルにも装備し、AEDの訓練を受けた警 備員が利用することになる。

ボストン市における心不全の蘇生率は24%であるが、すでにシア トル市の34%に次ぐ成績となっている。
(訳/三上 斉)


緊急ではない救急車による搬送要請は711コールを

アメリカ・フロリダ州 ライフ・フリー卜・アトランティック社は、昨年10月より、アメ リカ・フロリダ州ブロワード郡のナーシングホ-ム、医師のオフィ ス、マネージドケア各社に対して、緊急ではない救急車による搬送 の要請は711コールを使うように依頼を始めた。

同社によると、「一般の人にこの番号を使ってもらおうと考えて いる訳ではなく、まして既存の911コールに取って代わろうとする ものでもない。むしろ競争相手を考えてのことである」とのこと。 この郡では、三つの民間の搬送サービス会社と、消防署をぺ-ス としたEMS局が競争している。「非緊急の搬送ビジネスがますます 増加するであろうと見ています。いままでのところ、911と混乱す るようなことはまったくありません」と同社の担当者は述べている 。
(訳/三上 斉)


長野オリンピックに向け、滑降競技会場で救急医データ通信実験を実施

長野県信州大学医学部など さる2月、長野オリンピックの滑降競技会場として整備が進めら れている白馬村で開催されたアルペンスキーのワールドカップ大 会会場で、遠隔医療診断のための通信実験が行われた。

この実験は、山間部や冬期のスポーツ競技会場などで大規模な災 害や事故が発生した場合、現場と医療施投を人工衝星などで結び、 検査データや患部の画像等を高速伝送することで、迅速かつ的確な 救急医療を実現しようとするもので、長野県で従来から進められ てきた「遠隔医療支援移動体衝星通信システム」の研究開発の一環 として位置づけられている。

同システムの研究開発のため、郵政省の関連特珠法人である「放 送・通信機構」は1996年3月、信州大学医学部附属病院内に「松本 リサーチセンター」を設置し、さまざまな実験を行っている。今回の実験は、同機構と「遠隔医療支援衛星通信システ ム実験推進連絡会」(座長・森達夫長野県医師会長)が中心となっ て行った。

同システムの研究開発プロジェクトのサブリーダーである信州大 学医学部放射線科の滝沢正臣講師は、今回の実験について、「最終 的には、今年8月に打ち上げられる通信・放送実験衝星(COMETS) の新しい周波数帯(ka帯)を使ったデータ通信技術の開発が目的 なのですが、それが使用できるまでは、地上回線を使った通信実験 を行っています。まず1996年9月に塩尻市と松本リサーチセンター 間(20キロメートル)で、1500kbpsの地上回線(23B+D)を使っ てCT読影とテレビ会議を試み、このシステムが地上回線でも安定に 作動することが確認されました。

そして今年2月のワールドカップ大会では、高速の1500kbps専用 回線を白馬村まで引き、厳冬期に屋外からのCT画像伝送の実験を行 った訳です。撮影車や衝星通信車の駐車場所、夜間の気温低下を防 ぐ暖房装置の設置、雷よけや凍結の対策など、いろいろ課題はあり ますが、来年の長野オリンピックでの利用を目標に順調に準備を進 めています」と、話している.

今回の実験では、会場のゴール付近にCT撮影車を配置して松本リ サーチセンターと高速デジタル回線で結び、CT検査1回分、31枚のC T画像を送信したが、5〜6分で松本リサーチセンターに伝送するこ とができたと言う。

こうして伝送された画像を基に、同センターに待機する専門医と 現地の担当医師がテレビ会議システムを通じて総合的な診断をし、 適切な処置方法や搬送手段、搬送先施設等を決定した。

今年8月にはCOMETSが打ち上げられるため、医療データの通信は、 7月まではINS1500(24B)地上回線で、8月以降はCOMETSによって行 われることになっているが、衛星通信が可能になった後も、衛星通 信が使えない場合や、衛星通信伝送のバックアップのためにも、CR ・CT画像はISDN(24B)地上回線で並列伝送を行う必要があると言う。

今後の課題について、滝沢講師は、「冬期の降雪時や、気温が低 下する状況下でもCT撮影車を使用できるようにさまざまな工夫をし ています。たとえば、大型の撮影車が作動するように温めるには通 常3時間ほどかかりますが、オイルヒーターを使うことで時間を短 縮したり、撮影車のドアを吹雪を遮断するように2重ドアにするな どして対応しています。また燃料の補給ルートを確保することも 重要です。

充実したシステムを完成させるには課題が山積していますが、す べてを予測しながら実験を行うのには限界があります。そのため、 実験の結果を基に問題を一つひとつ解決して実用化を図りたいと 考えています」と話している.

衛星通信を用いたデータの通信実験は日本各地で行われているが 、移動CT撮影車と大学病院などを結ぷ移動型通信実験というのは、 他に例がないと言う。機動性を重視した救急医療システムの実現は 、長野オリンピックではむろんのことその後も、災害地域での医療 支援や、在宅ケアなどに広く応用され、救急医療体制の一層の充実 につながるだろう。


防振ベッドの空気を安定させる自動加圧装置を開発

津市消防本部 (財)全国消防協会が募集した「平成8年度消防機器の改良・開 発及び消防に関する論文」で、津市消防本部が開発した「防振ベッ ド用タンク自動加圧装置」が会長賞に選ばれた。

今回この部門には、全国から320点の応募があり、17点が会長賞 に選ばれたが、自動加圧装置は最優秀賞に次ぐ秀賞を受賞した。

受賞したのは、同本部消防総務課装備係の竹村義明さん、谷中毅さん、山路武典さんの3人で、日頃から 消防機器の整備や改良に熱心に取り組み、救急隊員の活動を陰から 支えてきた。

この装置は、従来の防振ぺツドを改良したもので、使用中に圧力 が低下する防振ベッド内のエアタンクに自動的に空気を送り込むこ とで、ベッドの安定性を確保しようというものである。

さて、現在、高規格救急車に搭載されている防振ベッドは、エア スプリング、小型多段積層ゴム、ショックアブソーバー等で構成さ れており、搬送中に生じる振動を吸収して、傷病者を安静な状態に 保つことができるような構造になっている。また、防振ぺッド内に はエアタンクが内蔵されており、ここに圧縮空気が満たされている ことで振動を効率よく吸収することができるようになっている。

しかし、このエアタンクは、一定時間以上使用すると中の圧縮空 気が減少し、それにつれて上下・前後・左右方向の振動を効率よく 吸収できなくなるとともに、ぺッド自体が横にスライドできなくな り、傷病者搬送中の救急処置に支障を来す恐れがあるという悩みが あった。

このような場合、従来は、給油取扱所に設置されているエアイン フレータ」(自動車タイヤ用エア充てん機)で、また、給油取扱所 の営業時間外にはタイヤポンプ(自転車タイヤ用空気入れ)で圧縮 空気を充てんしていた。これでは、長時間に及ぷ救急出動や救急出 動が重なった場合は、ベッドの安定性を確保し、傷病者の安静を保 つことが難しくなる。そこで、これらの問題点を解決し、高規格救 急車内で自動的に圧縮空気が充てんできるように、と開発されたの が自動加圧装置である。

この自動加圧醤置は、市販のコンプレッサーに改良を加えたもの で、エアタンク内の圧力が6・キログラム/平方センチ以下に低下す ると自動的に作動し、8・5キログラム/平方センチに上昇すると停 止するように設定されている。

また、防振ベッドのエアフィルターにY型ジョイントを取り付け、 自動加圧装置とエア注入ロのそれぞれにエアチューブを配管し、自 動加圧装置だけでなく、必要に応じてエア注入口からも圧縮空気を 充てんすることができるようにした。 エアチューブは、救急処置中にぺッドを左右にスライドさせても折 れ曲がらないようにするため、プロテクターを使用して患者室左側 収納ボックス下部からベッド左右移動の中心部まで固定させ、そこ からベッド側に持ち上げるようにした。

また加圧装置は、タンク内の圧力が6・5キログラム/平方センチ以 下に低下すると自動的に作動するようになっているため、搬送中に 装置が作動して、騒音や振動が生じることがあるが、この騒音や振 動が傷病者に悪影響を及ぽすと考えられる場合は、加圧装置を切る ことができるようボタンスイッチを取り付けてある。このスイッチ は、患者室内に取り付けられていた100V用コンセントのプレー卜を 改造し、ボタンスイッチを取り付けたもので、これを使うことで、 場合によっては手動で入・切の操作が行えるようになっている。

また加圧装置本体は、患者室の美観を損なわないようにするため 、大型資器材箱下部の空間に防振対策を施した上で固定した。

この加圧装置は、同消防本部にある2台の高規格救急車にすでに 搭載されているが、長時間に及ぷ救急出動や、救急出動が重なった 場合でも、圧縮空気の確保を心配する必要がなくなり、作業は格段 に軽減されたと言う。

今回の受賞について竹村さんは、「開発当時、津市内では24時間 営業のガソリンスタンドがなかったため、エアの充てんには大変苦 労しており、圧力が不足するたぴに自転車の空気入れなどを使って 調節していました。よりよい方法について検討を重ね、器具を自分 たちでそろえて実験するなど、試行錯誤の末に装置が出来上がった のが2年前です。安い費用で取り付けることができるので、同じよ うな苦労をしているところがあれば、ぜひ活用してほしいですね」

と話している。 実際、市販のコンプレッサー、配線コード、スイッチなどを使用し たため、開発にかかった費用はわずか2万5千円程度だったという。

「開発に当たっては、救急隊員の作業の邪魔にならないような形にすることと、撒送される患者さんの ために、快適さ、清潔さを保つよう心掛けました」(竹村さん)。

他の消防本部から問い合わせが来ているほか、あるメーカーが同 様の装置を検討しているという話もある。 「救急現場で不便を感じている救急隊員も多いはず。そういった声 がメーカーなどに届き、新たな器具の開発につながっていってほし い」
と、竹村さんは話している。


使いやすく効果的な熱傷患部救急処置用の冷却用マットを考案

金沢市広坂消防署 金沢市広坂消防署の消防士長の吉村武久さんが考案した熱傷患部 等の冷却用マットが、「平成8年度消防機器の改良・開発及び消防 に関する論文」(全国消防協舎)で、最優秀賞に次ぐ秀賞を受賞し た。

救急現場における熱傷処置では、軽症例において、適切な冷却が 有効である。受傷直後に患部を冷却すると、室温に放置した場合に 比べて、疼痛の緩和、局所の浮腫の軽滅、炎症反応の抑制等を図る ことができるためである。 救急隊鼻は熱傷の傷病者に接することが多く、いかに有効に患部を 冷却させるかは身近な課題である.

吉村さんは、冷却用マットに注目した理由について、「熱傷患部 を冷却するために、金沢市消防本部ではこれまで、クーラーボック スで冷却したタオルなどを用いていましたが、タオルの冷湿布では すぐにタオルが温まつてしまい、数分間しか効果が持続しませんし 、衛生上も好ましくないという難点がありました。

そこで、体温管理をしながら効果的に冷却する方法はないかとあ れこれ検討した結果、冷却用マットの試作を思いついたのです」

と話している。

吉村さんが開発した冷却用マットは、クーラーボックス、電子温 度計、循環ポンプ、接続ホース、冷却用マットなどから成り、クー ラーボックス内に水と氷を入れて冷水を作り、それを循環ポンプで 冷却用マット全体に循環させて、患部を冷却する仕組みである。

作り方はまず、クーラーボックスと冷却用マットに2本のホースを 接続する。1本はクーラーボックスから冷却用マットヘ冷水を送り 込むホース、もう1本は、マットからクーラーボックスへ温まった 水を戻すホースである。

次に、クーラーボックスの中に入れた循環ポンプとホースを接続 する。ポンプの操作整はクーラーボックスの側面に設置されている。 また、クーラーボックスの上部には電子温度計を施し、冷水の温度 管理ができるようにする。

冷却用マットの材質は軟質ビニール製だが、これは吉村さんが考 案し、業者に特別に発注した。サイズは約30センチ四方で、熱傷 患部の面積が広い場合は、マット2枚を接続して使用することも できる。また、マットは2センチ間隔で仕切られており、マット全体 に冷水が循環するような構造になっている。

この冷却用マットがどの程度有用なのかを確認するために、吉村さ んはさまざまな実験を行った。その中の一つが、外気温30.5度、水道 水26.0度のとき、32.0度の熱傷患部をどの程度有効に冷却することが できるかという実験である。一般家庭にある冷蔵庫の製氷皿の氷2パ ックを、水道水と一緒にクーラーボックスに入れ、その冷水を冷却用 マットに循環させ、患部を冷やした.

その結果、冷却開始1分後には水温17.8度、熱傷患部28.5度、10分 後には水温17.3度、患部25.5度となリ、20分後には水温は18.9度と少 し上がったものの、患部は25.0度に冷やされたままだった。この冷却 用マットは、少なくとも20分間は有効であることが証明された訳であ る。なお、時間を20分間としたのは、通常救急現場から熱傷センター へ搬送するのに約20分かかるためとのことであった。

また、熱傷においては、患部に感染が起こりやすいが、この冷却用 マットは、熱傷患郎を滅菌ガーゼで被覆してニ次感染を防ぎ、その上 から冷却用マットで滅菌ガーゼを固定して冷却するため、患部を擦り 水泡膜等を破る恐れがなく、感染を防ぐ意味でも効果があると評価さ れている。

「各パーツがクーラーボックス内に収納できるので、狭い救急車内 でもスペースを取らずに積載できるという利点もあります。熱傷だけ でなく、保温が必要な場合は温水を入れて、保温効果を得るなど、幅 広く使うことができれば、よリ一層の救命率の向上にもつながると考 えています」(吉村さん)。

救急現場における熱傷処置では、的確に患部を冷却し、一刻も早く 専門施設へ搬送することが重要である。吉村さんの試作品が、現場で 大いに役立つことを期待したい。


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