この原稿は救急医療ジャーナル'97第5巻第2号(通巻第24号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

体育の授業の一環として普通救命講習を実施

東京都立晴海総合高等学校 東京都立晴海総合高等学校(東京都 中央区)では、今年1月10日と17日の 2日間に渡り、東京消防庁、(財)東京救 急協会等の協力を得て、全校生徒251 人を対象にした普通救命講習を実施 した。平成6年度から、高等学校の保 健体育には応急処置の項目が組み込ま れているが、その指導方法については 各学校の裁量に任されており、授業の 一環として全校生徒に普通救命講習を 実施するという同校の試みは全国でも 珍しい。

東京都立晴海総合高等学校は、都立 では初めての総合学科高等学校とし て、昨年4月に創設された。総合学科 とは、普通料目、専門料目を含めて幅 広く選択料目を開設し、それぞれの生 徒が個別のカリキュラムを組むことが できるシステムである。それにより、 各人の能力や個性を活かした教育が実 施できる学科として期待されている。

同校は新設の総合学料高等学校とし て、地域美化活動やボランティア体験 学習などのユニークな取り組みを行っ ているが、中でも防災活動に関しては とくに力を注いでいる。

たとえば、全校生徒を居住区ごとに 20の組に分け、災害発生時に集団で下 校させる防災班の編成や、学校裁量時 間(各学校の裁量で授業の内容が決め られる時間)に、起震車を使った大が かりな防火・防災訓練を行うなどして いる。

このような中、今回、普通救命講習 が実施された訳だが、講習実施につい ての具体的な案が出たのは、同校保健 体育科と東京消防庁臨港消防署が防 火・防災訓練の内容について協議して いる席上でのことであった。

防火・防災訓練によって喚起された 生徒の防災意識をさらに高め、自分や 周囲の人々の生命を守るという意識を 芽生えさせるためには、普通救命講習 を実施するのが望ましいという意見 が、臨港消防署と保健体育科の双方か ら出たのである。

しかし同校内では、テキスト代がか かることや、生徒全員が受講する必要 性の有無等の問題点が、数回に渡って 検討された。その結果、テキスト代に ついては学年積立金から支出するこ と、また生徒全員が受講することが望 ましいということで合意し、全生徒必 修の保健体育の時間を利用して、普通 救命講習を行うこととなった。

校内で合意が得られた理由につい て、保健体育科の武蔵史朗教諭は、 「教科書による知識の習得のみではな く、救命講習を実施することで的確な 応急処置方法を身につけることができ る、またその結果として、万が一の場 合に、生徒の自主的な救命活動が期待 できることが挙げられます」 と話す。

講習は、2日間に渡り各2時間ずつ 延ベ4時間をかけて行われ、東京消防 庁の委託で応急手当の普及啓発活動な どを行う(財)東京救急協会会員ら4人 と、東京消防庁臨港消防署から救急隊 員など10人の計14人が来校し指導に当 たった。また指導に際しては、臨港消 防署が持参したCPR訓練用人形10体 が使用された。

講習の内容は、一般的な普通救命講 習とまったく同じく座学と実技で、1 日目前半に応急手当の重要性などにつ いての講義、1日目後半と2日目に観 察、気道確保、人工呼吸、心臓マッサ ージ、止血法の実技指導が行われた。

実技は、生徒一人ひとりが確実に技 術を身につけられるようにとの配慮か ら、251人を3つのグループに分け 1日に3回実施した。さらに、1グル ープを10班に分け、生徒8人で1体の 人形を利用できるようにした。そのた め、誰もが的確な救命処置を覚えるま で繰り返し練習を行うことができ、生 徒たちは、「今後は、いざというときに 救命処置を行うことができそうだ」と いう感想を述べていたという。

また同校では、生徒の救急に対する 理解をさらに深めるために、救命講習 実施後の保健の授業でテキストを教材 にして復習を行い、知識面での裏付け を図った。現在は、講習で得た興味や 関心を持続させるために、生徒に救急 に関する標語を作成させている。

「今後は、救命講習当日に休んだ生 徒を対象に再度、普通救命講習を実施 し、最終的には全校生徒が救命技能認 定証を取得することを目標としていま す。資格を取得することで生徒の自覚 も新たになり、万一救急場面に遭遇し たときにも、何らかの処置を行うこと ができるのでは、と期待しています。

また今後は、生徒が、各家庭や地域 の中で、講習で学んだことを自主的に 伝えていくなど、救命法の普及にも努 めてほしいと思います」(武蔵教諭)。

同校では、来年度も新入生を対象に 普通救命講習を実施し、引き続き救命 法の普及を図っていくほか、希望者を 対象にして上級救命講習も行う方針で ある。


高齢者の外出中の緊急事態に対応

高齢者救急医療情報システム・京都府医師会 昨年12月12日、京都府医師会は、高 齢者の外出中の緊急事態に対応するた めに、「高齢者救急医療情報システム」 のモデル運用を開始した。同システム は、高齢者が外出先で事故や急病で倒 れたときなどに、所持している緊急ブ ザーの登録番号からその人の救急医療 情報を検索することができるようにな っており、高齢者の安全を確保し、よ り効率的な救急医療の実現を可能にす る試みとして注目を集めている。

以前から京都府を含む全国の各自治 体では、在宅中の高齢者の緊急事態に 対応するため電話回線を利用した高齢 者緊急通報システムの導入を図ってき た。

しかし、生活様式の変化などから高 齢者が外出する機会が増えている現状 では、屋内だけでなく屋外における緊 急事態に対応することも必要となる。 そこで今回、京都府医師会では高齢者 の外出時の緊急事態に対応することを 目的として、高齢者救急医療情報シス テムを運用したのである。

今回、同システムがモデル運用され たのは、西京医師会(京都市西京区)、 宇治久世医師会(宇治市、城陽市、久 御山町)、相楽郡医師会(山城町、木津 町、加茂町、笠置町、和束町、精華町、 南山城村)がカバーする三つのエリア である。

対象は65歳以上の高齢者で、各エリ アから200人ずつ計600人が選ば れた。選考基準はペースメーカー使用 者や心筋梗塞に対する手術後の患者な ど、とくにハイリスクの高齢者で、同 システムに同意した人となっている。

同システムでは、まず対象者の住所、 氏名、年齢、電話番号、現病歴、既応 歴、かかりつけ医師の名前と電話番号 などの個人情報を書き込んだ登録カー ドを作成し、それぞれに登録番号を付 ける。この登録番号がいわゆるID番 号となり、これを元にして患者情報の 検索が行われる。

患者情報の検索ができるのは、府下 の全消防指令センター17か所と全救急 指定病院99機関。消防指令センターに は、ノー卜型パソコンとともにデータ ベース化されたデータ、救急指定病院 には、登録カードのコピーがそれぞれ 配布されている。これにより、京都府 下ならばどこで倒れてもすぐ患者情報 の取得ができるようになっている。

登録者にはあらかじめ登録番号を明 記した緊急ブザー(市販されている痴 漢防止用のブザー)が配布されており、 ブザーの音に気づいたパイスタンダー (発見者)が119番通報とともにこ の番号を伝えれば、消防と医療機関の いずれにおいても患者情報を迅速に取 得できるというシステムになってい る。

このシステムの仕組みをまとめると 以下のようになる。 (1)外出中に緊急事態が発生した場合、 登録者はブザーのひもを引いて鳴らし 周囲に異変を知らせる。 (2)ブザーの音を聞きつけたパイスタン ダーは119番通報とともに登録番号 を告げる。 (3)消防指令センターが患者検索を行 い、その結果を救急隊および救急指定 病院に伝える。 (4)救急隊は、現場到着までの間に患者 情報の分析を行い、患者の状態に即し たプレホスピタル・ケアを実施する。 (5)救急指定病院は、登録番号から登録 カードを検索し患者情報を得るととも に、かかりつけ医に連絡をするなどし てさらに詳細な情報を手に入れ、万全 の受け入れ体制を整える。

同システムの運用の目的は、各医療 機関が患者を受け入れる前にその人に 関する救急医療情報を取得しておくこ とにあり、これが速やかに実現すれば、 救命率の向上に大きく寄与するものと 期待されている。

この点について、京都府医師会の油 谷桂朗理事は、 「高齢化が進み疾病構造が変化するに 伴い、高齢者が救急医療を必要とする 機会が増えています。高齢者の緊急事 態はいつ何時起こるともしれません。 その不測の事態に備えてシステムを運 用し、高齢者が安心できるネットワー クをつくることが、地域住民のニーズ にこたえることであり、地域医療を充 実させることでもあります。

しかし地域住民のためのシステム も、住民一人ひとりの理解と協力がな ければうまく機能しません。このシス テムもまた、住民、かかりつけ医、受 け入れ医療機関、消防機関等、さまざ まな人々に支えられて初めてうまく運 用することができるのです」

と話す。

同システムのモデル運 用は来春までだが、京都 府医師会では、それまで にデータの更新方法や、 県境に在住していて隣県 の医療機関にか かっている人へ の対応などの問 題点を検討しな がら、府下全域 への普及・整備 を目指していく としている。


ノルウェーの災害・救急医療のノウハウを日本へ

ノルウェーで開発され、現在、世界 各国で災害時の救急医療施設として広 く使用されているノルウェーの野外移 動医療施設が、わが国でも紹介され、 関心を集めている。

この野外移動医療施設は、被災地や 紛争地等で外傷の応急処置を行うため の施設として、1980年代にノルウ ェーの陸軍が中心となり開発したもの である。

収納時は、20フィートのISO規格 (縦6m×横6m×高さ3m)のコン テナとなり、ヘリコプターやトレーラ ーによる搬送が可能であるばかりでな く、使用時には、手術室やICU等と して高度な医療を提供できることから 高い評価を得て、国連、NATO、赤 十字社等の医療活動に採用されるよう になった。これまでに、約90か所の被 災地、紛争地のNGO活動に使用され た実績を持っている。

数年前には、販売会社としてノルメ カ社(本社:ノルウェー・スカアレル) が指名され、各国に紹介されるように なった。現在、イギリスやベネズエラ、 インドネシア、マレーシア等において、 導入あるいは導入が検討されている が、わが国においては、昨年12月に設 立された(株)ノルメカエイシア(東京都 千代田区)を通じて、全国展開される ことになった。

この野外移動医療施設は、使用時に 拡張すると約3倍の広さとなり、手術 室、ICU、感染治療室等として、外 傷の処置を中心に高度な医療を提供す ることができる。また、ライフライン の崩壊を想定し、自家発電装置、給水 湯排水、空調、冷暖房施設、トイレシ ャワー等を完備しているため、医療施 設としてだけでなく、生活施設として 使用することも可能である。

これに併用する器材には、外科・手 術用セット、看護器材セット、医薬品 セット、レントゲンセット等があり、 ケースに収納された各セットを必要に 応じて備蓄・使用することができる。 これらの器材および薬品については、 ノルウェーの製品をそのまま使用する のではなく、災害・救急医療に携わる 国内の医師の協力を得て、日本の医療 従事者が使い慣れた器材や薬品に変更 するように検討が重ねられている。

このほか、野外移動医療施設は、紛 争地等における核兵器や細菌兵器によ る被災を想定し、外気が入らないよう に設計されているため、シェルターと しても利用できる。有毒ガスの発生が 心配されるような災害現場においても 安全に使用できるという利点は、関係 者の問で注目を集めているという。

(株)ノルメカエイシアでは、今後の展 開について、「ノルェーの災害・救 急医療システムのノウハウや器材を導 入するだけでなく、わが国の実情に合 わせた形で、運用システムや災害救助 訓練の計画・実施システム等を完成さ せ、防災システム全体を提案していき たい」(千田良社長)としている。


第1回米国災害予防・救援物資展/セミナー開催される

USトレードセンター(東京都・池袋) さる2月13日、14日の両日、USト レードセンターにおいて、「第1回米国 災害予防・救援物資展/セミナー」 (主催:アメリカ大使館商務部)が通産 省、郵政省、自治省消防庁、(財)製品輸 入促進協会(ミプロ)、アメリカ連邦 緊急管理庁(FEMA)、アメリカ商 務省の後援により開催された。

2日間の来場者は、1200人を数 え、会場は両日とも熱気に包まれてい た。

米国災害予防・救援物資展/セミナ ーは、今回が第1回目の開催で、災害 対策におけるアメリカの最新技術とサ ービスの紹介とともに、災害対策に対 する意見などが論じられた。

展示会には、災害予防および災害救 助に関連するアメリカ企業35社が、緊 急搬送機器、緊急通信機器、緊急救助 機器・衣服、緊急対策管理・教育プロ グラム、緊急医療機器・非常持ち出し 品、災害復旧用品、緊急食品・飲料水 等のカテゴリー別に最先端の技術やサ ービスを出展した。

また同時に開催されたセミナーで は、FEMAの国際協力部長であるク レア・ブロング博士が「災害予防及び 応急対策に関する国際協力について」 と題した基調講演を2日間に 渡って行い、FEMAの活動 内容や災害管理における日米 の協力関係のあり方等につい て熱っぽく語った。

また、横浜国立大学大学院 工学研究科の村上虞直教授に よる「災害対策の日米比較」 や、ニューヨーク市消防局の レスキユーの専門家による 「建物倒壊時の救助技術」な どの講演が行われた。


特殊車両を配備し、大規模災害、特殊災害に対応

ハイパーレスキューの発足・東京消防庁 東京消防庁は、昨年12月17日より、 「東京消防庁消防救助機動部隊(ハイ パーレスキュー)」の運用を開始した。 これは、阪神・淡路大震災時の救助・ 救急活動における教訓を踏まえて創設 されたもので、通常の消防体制では対 応が難しい大規模災害や特殊な災害に 対応するための部隊として、今後の活 躍が期待されている。

ハイパーレスキューの特徴は、ブル ドーザーやパワーショベルなどの重機 や大型水槽車、震災対策用救助車、特 殊救急車などの特殊車両、各種資器材、 およびそれらを使いこなす特殊な技 術・能力を有する隊員の三つを配備す ることで、大規模災害現場において、 救助・消火・救急活動を同時に迅速に 行うことができる点にある。

ハイパーレスキューは約15台の車両 と63人の隊員から成り、機動救助隊、 機動特科隊、機動救急救援隊の3隊で 構成されている(表参照)。

車両としては、救助車のほかに、道 路啓開(進路をきりひらくこと)や救 助のための重機(ブルドーザー、クレ ーン車、パワーショベル)、消火のため の10t水槽車、送水車およびホース延 長車で構成され河川・海などの水を大 量に送水することができる遠距離大量 送水装備、救急現場で応急救護所とし ても活用できる特殊救急車、化学災害 や航空機事故などに対応するための化 学車、屈折放水塔車、無人走行放水車 などが配備されている。

各車両には、それぞれの特殊性に応 じた賛器材が搭載されている。たとえ ば、救助車にはファイバースコープ、 音響検知機等の高度救助用賛器材やハ ンマー、無人走行放水車には、可燃性 ガス測定装置、 温度測定装置な どとなっている。

63人の隊員に は、これらの車 両や資器材を使 いこなす技術や 能力が必要とさ れ、隊員任用の 基本として、特 別救助技術、特 別操作機関員、 移動式クレーン 等の資格取得者 を優先するほ か、救急救命士 有資格者を必ず 配置することに なっている。実 際、現在任用されている隊員が有する 資格は一人平均14で、中には火薬類取 扱保安責任者、コンクリー卜破砕器作 業主任者などの特殊な資格を持った隊 員もいるという。

ハイパーレスキューは元来、大震災 などの大規模災害のほか、高層ビルや 地下街の災害、航空機災害などの特殊 な災害へ対応するために創設された。 しかし全部隊が投入されるような大規 模災害、特殊災害はそうそう起こるも のではない。そこで実際の運用に関し ては、災害の実態に合わせた形で配置 車両を組み合わせて対応するという方 式を取っており、日常的な事故や火災 の現場に出場している車両も多い。

現在、ハイパーレスキーは特別区 (23区)と多摩地区の2か所に配置さ れ、両地区の災害に迅速に対応するこ とになっているが、もし今後、要請が あれば、1995年6月に発足した「緊 急消防援助隊」(大規模災害時の初期 救助活動を迅速に行うことを目的とし て自治省消防庁が創設した隊で、全国 の消防職員1000人が参加してい る)への参加や、海外への災害派遣も あるとしている。


漁網を活用した水難救助網を開発

釧路市消防本部 昨年11月、釧路市消防本部は、水難 救助の際の救助資器材として、職員が 開発した水難救助網を新たに採用し た。水難救助網は漁網を利用して作ら れており水中の要救助者をその中に巻 き込んだ状態で救助ポート等に引き上 げることから、同消防本部では、従来 の救助法に比べてより安全で迅速な救 助活動が行えるものと期待している。

釧路市消防本部の管内には、およそ 32kmに及ぶ海岸線があるが、それらの 海域で起きた水難事故については、同 消防本部の水難救助隊が対応してい る。水難救助隊は、1994年に釧路 市消防本部内に発足した隊で、現在、 釧路市の中央に位置する釧路市中央消 防署新橋支署に配置され、市全域の水 難救助活動に当たっている。

同隊は1隊6人の3隊18人体制。隊 員は、火災・消防作業に当たる警備係 との兼務だが、水難という特殊な状況 に対応するため、小型船舶免許や潜水 の技術を有している。また救助用ゴム ボートやモーターボートのほか、潜水 資器材(ボンベ・レギュレーター)、ロープ 、うきなどの救助道具一式(水難 救助網を含む)を積載した水難救助車 (救急車を改造したもの)およびクレ ーン、発電機、空気呼吸器などを積載 した救助工作車を配備している。

同隊は、原則として特別救助隊とと もに活動することになっており、基本 的に119番通報があった事件に対し て出動している。また、それと同時に 海上保安部、民間ダイバーにも出動を 要請し、現場に一番早く到着したもの が救助活動に当たるなど、他組織との 連携も図っている。

通常の救助活動では、水中に4人、 ゴムボート上に2人を配し、水中の4 人が要救助者を水中から救助した後 に、ボート上の2人が引き上げるとい う方法を取っている。しかし、この方 法では、ボート上の2隊員がボートか ら身を乗り出して要救助者の腕や 首、衣服をつかんで引き上げるし かないため、ボー卜が傾いてバラ ンスが悪くなったり、引っ張った はずみで要救助者の衣服が脱げて しまうなどの問題があった。

このような課題を解消する手だ てとして今回、水難救助網が考案 された訳だが、考案者であり水難 救助隊2課のリーダーである檜森 政文さんは、次のように話す。

「救助方法の改善は、以前から水 難救助隊員全員の懸案事項でし た。今回の水難救助網の開発も、 当初はすだれ状のものを用いて要 救助者を巻き込みそのままボート上に 引き上げるという私の漠然とした思い つきから始まったのですが、2課のメ ンバー全員で話し合い、試行錯誤を繰 り返すことで完成させることができま した。

完成した水難救助網は、耐久性があ り、港町釧路で生活するわれわれにと っては身近な漁網を利用するなど、材 質や形状など細かい部分までできるだ け隊員の意見を反映することができた と思います」

水難救助網は、漁網の中でもとくに 強度のあるサケ・マス定置網を180 cm四方の正方形に切り、向かい合った 2辺の1組に塩化ビニール製の水道管 パイプ、もう1組にシートベルトをそ れぞれ取り付けたもので、2本のシー トベルトの金具の片側にはそれぞれカ ラビナと呼ばれる金属性の輪が付けら れ、そこにロープが通されている。

実際の救助方法は、まず水道管パイ プが付いている1辺を救助ボートに固 定しロープの先端をボート上に残した まま、水難救助網を水中に投下する。 次に水中の隊員が要救助者を水難救助 網の上に乗せ、ボート上の隊員がロープ をたぐりよせて要救助者を網に巻き 込みボートに収容する。

またカラビナが付いていない方のシ ートベルトの金具を逆側と同じカラビ ナに引っかければ水難救助網が袋状に なることから、岸壁に停めてある救助 工作車のクレーンの先にカラビナを付 けて引き上げれば、要救助者をボート から直接岸壁まで引き上げ、速やかに 救急車に収容することができる。

水難救助網は、昨年11月、釧路市消 防本部で独自に開催されている「消防 職・団員研究発表会」において発表さ れ、その有意性が認められたことから、 即、水難救助車に積載され現在に至っ ている。この点について、釧路市消防 本部訓練所所長の田村勝雄さんは、 「消防職・団員研究発表会は毎年行わ れており、数多くの作品が発表されま すが、実用化されるものはそう多くあ りません。今回の水難救助網の場合は、 水中からの救出、引き上げ、搬送の3 場面において、安全で迅速な活動が可 能となり、水難事故における救命率の 向上が図れるとの判断から採用となり ました」 と話す。

現在、水難救助網は1枚のみが水難 救助車に積載されるにとどまっている が、同消防本部では、今後さらに改良 を加えて3艇ある救助ボートそれぞれ に積載する考えである。その他、岸壁 から直接要救助者を引き上げることが できるような水難救助網なども作成し たいとしている。

また消防本部外でも水難救助網に対 する関心は高く、問い合わせのほか、 函館市内の漁網メーカーでは水難救助 網の商品化を検討中であるという。


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