この原稿は救急医療ジャーナル'96第4巻第5号(通巻第21号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

自主防災組織の担い手としての救急ボランティアを育成

−熊本市消防局、10月より救急ボランティアカレッジを開講  熊本市消防局は、災害時において応 急救護の知識と技術を駆使して、自主 的に活動することができる救急ボラン ティアを育成するための「救急ボラン ティアカレッジ」を、この10月から開 講する。

 同消防局はこれまでも、「一世帯一 救急員」を合言葉に、救急講習や「普 通救命講習」、「上級救命講習」を開催 するなど、さまざまな応急手当の普及・ 啓発活動を行ってきた。同カレッジは、 これらをさらに一歩進めた取り組みと して注目されている。

 同カレッジ誕生のいきさつについ て、同消防局救急救助課の後藤達広さ んは、次のように話している。 「まず、私どもがいままでに開催して きた講習会に参加してくださった人た ちにアンケート調査を実施したとこ ろ、多くの受講生が講習で身につけた 知識と技術を実際に役立てたいと望ん でいることが明らかになったことが挙 げられます。

 次に阪神・淡路大震災では、被災地 の交通網がいたるところで寸断され、 消防機関などによる初期救出・救助活 動が十分に行えず、多くの人命が失わ れるという不幸な事態が起こりました が、被災地の住民が自主的に初期救 出・救助活動や応急手当活動を行い、 多くの成果を上げました。

 そこで私どもは、このような教訓を 踏まえ、救急ボランティアを育成する ことを検討し、救急ボランティア養成 講座(救急ボランティアカレッジ)を 開講することにしたのです」

 同消防局では、救急ボランティアの 育成が地域における初動救援体制の強 化につながることはもちろん、市民が 現在すでに身につけている応急救護の 知識や技術にさらなる磨きをかけ、有 効に活用するための手助けとなると考 えている。

 同カレッジのカリキュラムは、救急 ボランティア活動を行うための目的や 心得を学ぶ概論のほか、テコやスコッ プ等を用いての救出・救助法、地域の 被災状況や住民の安否の確認等の情報 収集や情報伝達の方法などを学ぶ「基 礎講座」が4時間、救命観察の手順、 心肺蘇生法、止血法など「救命に必要 な応急手当のための講座」が4時間、 傷病者管理法、外傷の手当、搬送法な ど「その他の応急手当のための講座」 が4時間となっている(表)。

 また受講については、市民が各人の 都合に合わせて参加できるよう、コー スがいくつか用意されている。たとえ ば、集中的に受講できる人には1日4 時間の「3日間コース」、あまり時間的 なゆとりがない人には1日2時間の 「6日間コース」、昼間はなかなか時間 の都合がつかない社会人や学生のため には、週末や平日の夜間を利用して長 期間に渡って受講することができる単 位制コースという具合である。

 募集対象は、18歳以上の健康な市民 で、今後5年間で650人を育成する のが目標である。熊本市の人口は現在 約65万人であることから、1000人 に1人の割合で救急ボランティアが誕 生することになる。すでに学生をはじ めとして、医師、看護婦、教員などの 社会人から70歳代のお年寄りまで、幅 広い層から約60人の申し込みが寄せら れている(8月末現在)。

 講座修了後は、本人の申請により消 防局の救急ボランティア名簿に登録さ れる。登録について、本人の申請とし たのは、「救急ボランティアの活動は 行政指導によるものではなく、ボラン ティアとして自分の意志と責任で行動 することを重視したい」という同消防 局の意向によるものである。

 同消防局は、救急ボランティアの育 成には、長い期間をかけてじっくり取 り組む予定で、事業計画の初年度にあ たる1996年度は、救急ボランティ ア育成の呼び掛け、登録、講習、訓練 を重点的に行う。 「このような試みは全国に例がなく、 現在は手探りの状態ですが、将来的に は救急ボランティアを自主防災組織の 担い手として位置づけたいと考えてい ます。そのための今後の課題としては、 救急ボランティアのリーダーやコーデ ィネーターをどのように育て、ネット ワークを構築していくかなどが挙げら れますが、詳細についてはさらに、検 討を加えていきたいと思っています」 (後藤さん)。

 「安全で安心して暮らせるまちづく り=人づくり」という熊本市政の基本 理念を支える取り組みとして、救急ボ ランティアの育成に大きな期待が寄せ られている。


救急医療ドラマにおいてCPRはいかに描写されているか

視聴者に誤解を与えていることも・・・  今年の6月30日号の『The Net England Journal of Medicine』に、救急医 療を扱ったテレビ番組に関する論文が 掲載された。

 この論文は、日本でもおなじみの『E R』(NHK衛星放送)、『シカゴホー プ』、そして日本ではまだ放映されてい ない『Rescue9-1-1』の合計三つの人気 テレビ番組の中で、CPRがどのよう に描写されているのかを分析したもの である。

 著者らが、1994年〜95年に放映 された『ER』と『シカゴホープ』の すべてと、95年の3か月間に放映され た『Rescue9-1-1』の50回分のエピソー ドを見て分析した結果、これらの番組 が、CPRに関して次のような誤った 印象を与えていることがわかった。

・番組中、CPRを受けるのは、たい ていが10歳代の子どもか若年成人 である。しかし現実には、CPRを受ける傷病者 は、ほとんどが高齢者である。

・番組中に起きる心停止は、ほとんどが外傷によるものである。 しかし現実には、75%〜95%の心停止は心臓病 が原因である。

・番組中CPRを受けた人のほとんど (75%)が意識を回復し、そのうちの 67%が退院できるまでに回復している ようである。しかし、現実の長期生存 率はきわめて低く、病院外では2〜3 %、病院内でも6.5〜15%である。

・番組では、CPRの結果は通常、死 か完全な回復のどちらかである。しか し現実には、実際の救急医療に携わっ ている人なら誰でも知っている通り、 CPRによって蘇生できても、脳に障 害を残す場合が多い。

 以上の結果から、患者およびその家 族とCPRの適用について議論すると き、医師は、テレビで描かれているC PRのイメージがどのようなものか、 そして、そのイメージが作りかねない 誤解について、よく理解しておかねば ならないと著者らは結論している。 (訳/三上 斉)


水上バイク隊による水難事故防止活動

徳島北警察署  徳島北警察署(板野郡北島町)は、 7月10日、海水浴シーズンの水難事故 を防ぐため、水上バイクを利用した海 上救助隊「SST(Sea Saving Team)」 を発足した。

 同署では、毎年7月10日〜8月20日 までの土・日曜日に、海水浴場雑踏警 備員として警察官1人を月見ケ丘海水 浴場(板野郡松茂町)に派遣している が、今夏、PW(パーソナル・ウォー タークラフト)安全協会徳島支部の協 力を得てSSTを結成し、水上バイク による水難事故防止および安全指導を 実施した。

 SST隊長の薄墨和夫・同署地域課 長は、SST発足に至る経緯について、 「マリンスポーツを楽しむ人が増え、 混雑が予想される日曜日の警備体制を 憂慮していたところ、PW安全協会か らボランティアとして協力の申し出が ありました。警察では砂浜からの警備 しかできませんが、水上バイクならば 海上での安全指導も可能です。そこで、 協会の申し出を受け、SSTを結成し て協力体制をとることにしました」

 と語る。

 水上バイクの愛好者で作るPW安全 協会は、水上バイクの事故防止や無免 許操縦等の取り締まりを目的として、 指導員を養成し、海上パトロールや安 全指導を行っている。

 徳島支部でも、海や河川で行われる イベントの際や海水浴シーズンには、 水上パトロールを実施してきた。とく にここ数年は、マナーをわきまえない 水上バイクやプレジャーボートが海水 浴場に乗り入れるなど非常に危険な場 面が増えており、指導員は海水浴場等 での安全指導に力を注いできた。

 しかし、指導員としての活動には限 界があり、危険な行為をする人々に安 全指導をしても聞き入れてもらえない などの新たな問題が出てきた。

 そんなとき、警察からPW安全協会 に、ある水難事故の救助活動への協力 依頼があった。幸いにも救助活動は成 功し、この事件をきっかけに、同協会 では何らかの形で警察との協力体制が とれないかという声が上がった。そこ で、岸博志・徳島支部長が徳島北署に、 同協会のパトロールの現状や問題点に ついて相談し、話し合いを重ねた結果、 SSTの結成が実現したのである。

 SSTは、徳島北署の地域課を中心 とした署員20人、PW安全協会の指導 員20人の計40人と、水上バイク10台で 構成。今夏は、7月10日〜8月20日の 土曜・日曜の昼間、月見ケ丘海水浴場 で活動した。指導員は、常時4〜5人 が出動してパトロールにあたり、署員 は、通常1〜2人、水難事故防止パト ロール強化期間中は7〜8人が海水浴 場に派遣され、指導員の操縦するパイ クに同乗して、安全指導や無免許操縦 等の取り締まりを実施した。

 今夏のSSTの活動について、薄墨 地域課長と岸支部長は「互いの協力に より、それぞれの限界を補い合って、 大きな成果を上げることができた」と 語る。

 「水上バイクやプレジャーボートに 海水浴場へ入らないように指導するな ど、マナーの向上を海上で直接呼び掛 けることは、事故防止に大いに役立っ たと思います。また、実際に、沖に流 されていた水上バイクや遊泳者を救助 し、事なきを得たという報告も受けて います。

 しかし残念ながら、死亡事故が2件 発生してしまいました。いずれもSS Tが一日の活動を終えてから発生した 事故でした。水上バイク隊はあくまで もボランティアで活動していますか ら、時間や経費の面で限界があります。

 反省点については、今後協会と十分 検討して体制を強化し、来年の夏には よりよい形で活動したいと考えていま す」(薄墨地域課長)。

 岸支部長も 「警察の方に水上バイクに同乗してい ただくことで、多くの人に安全指導が 受け入れられるようになりました。

 今回、警察に協力体制をとっていた だいたことは、私たちにとって大きな 一歩になりました。今後も、公的機関 に積極的にアプローチして、より効果 的な安全指導を実現させていきたいと 考えています」

 と話している。

 警察とボランティアグループの協力 体制は、全国的に見ても珍しい。この 夏の活動を成功させたSSTの今後の 展開に期待したい。


首都の救急出場件数は19年連続で増加

東京消防庁  この8月、東京消防庁は1995年 中の救急活動についての報告をまとめ た。報告によると、救急出場件数は大 幅に増加し、高齢者の搬送例の増加が 目立っている。その一方、パイスタン ダーによるCPRで救命できた事例も 見られたことから、一般市民に対する CPR普及・啓発活動の重要性を考え させる結果となった。

 同庁の昨年の救急出場件数は、前年 に比べて5.9%(2万4千886件) 増の44万8千450件。1977年以 来19年連続で増え続けている。1日平 均1229件で、1分10秒に1度出場 している計算になり、都民25人に1人 が救急車で搬送されたことになる。

 なかでも、65歳以上の高齢者の搬送 人員は、11万7千643人と全搬送人 員の28.3%を占め、前年比で12.5 %(1万3千113人)増となった。 初診時の程度別でも、高齢者の場合、 それ以外の人と比較して中等症以上の 割合が高いという結果も出ている。

 また、CPR処置対象者は昨年1年 間で7千649人、そのうち現場で死 亡が判断された220人を除いた搬送 人員は7千429人(前年比8%増) となっているが、その大半は65歳以上 の高齢者で、61.3%に当たる4千5 51人を占めていた。

 救急救命士が特定行為を実施したの は、CPA傷病者の搬送人員7千42 9人のうち3千983人、CPR実施 回数は、延ベ5千150回となってい る。なかでも、除細動を実施した傷病 者675人中、医療機関収容時に呼吸、 脈拍のいずれかが再開していたのは88 人(13%)で、現場で行う除細動の有 効性を示している。 一方で、CPAに陥っていた傷病者 6千903人に対し、救急隊到着前に パイスタンダーがCPRなどの応急手 当を実施していたのは、675人(9.8%) であった。

 このうち、医療機関の医師引き継ぎ 時までに呼吸、脈拍のいずれかが再開 していたのは56例(8.3%)。パイス タンダーによる応急手当が行われなか った場合の再開率(6千228例中2 86例、4.6%)に比べて、3.7 ポイント高い。この数字は、救命率の 向上には、救急隊到着前のパイスタン ダーによる応急手当が重要な役割を果 たしていることを示している。

 東京消防庁の昨年の応急救護知識技 術の普及人員は、64万4千846人と 前年比で18万1769人(28・2%) 増ということだが、同庁では、今後さ らに市民に対するCPR普及・啓発活 動を推進していく方針である。


県下全域をカバ−する救急医療通信システムが完成

高知県  さる7月22日、高知県は、市町村お よび広域消防組合と協力し、県下のほ ば全域の救急車と医療機関を電話回線 で結ぶ「高知県広域救急医療無線通信 システム」の運用を開始した。本シス テムの完成により、山間部など、これ まで携帯電話や自動車電話が使用でき なかった地域でも通話が可能となり、 県下のほぽ全域で特定行為における医 師の指示が得られるようになった。

 高知県は、東西に細長く山間部が多 いという地形的特徴から、携帯電話等 の通話エリアが限られている。そのた め救急救命士が医師に特定行為の指示 を求める場合も、通信手段の確保が大 きな問題であった。そこで、同県が市 町村、広域消防組合と協力して同シス テムを構築することにしたのである。

 しかし、新たな設備を作るためには、 膨大な費用が必要となるため、既存の 防災行政無線を有効利用することが考 えられた。その結果、現在、同県下に 整備されている防災行政無線の中継局 18か所のうち10か所に同システムの中 継局を設置し、これに加えて、1か所 だけ新たな中継基地局を設けること で、県下の95%の地域で通話が可能で あるという結論が得られた。

 救急車から出された電波は、2CH・ MCA方式の救急医療無線を通じて中 継局に送られ、防災行政無線のマイク ロ回線で県庁の統括局に送られる。統 括局には有線無線交換接続装置が設置 されており、そのデジタル電子交換機 により無線回線とNTT加入回線が自 動的に接続される。つまり、相手先が NTTの回線さえ持っていれば、救急 車からの通話が可能という訳である。

 現在、救急隊からの心電図伝送を受 けられる(音声とデータを同時に受信 できる)装置を設置している医療機関 は県下にほか所あるが、24時間体制で 指示を出すことができるのは、三次医 療機関である高知赤十字病院の救命救 急センター1か所だけである。

 同県には21人の救急救命士と7台の 高規格救急車が配備されているが、医 師の指示体制はまだ整っていないのが 現状である。また、運用地域が広域な ため、指示医療機関と搬送先医療機関 が違うというケースも考えられ、救急 隊と医療機関だけでなく、医療機関同 士の連携も図らなければならない。

 これらの点について、高知県総務部 消防交通安全課の池田さんは、 「民間の医療機関からの指示について は、これから高知県医師会、高知市医 師会と協議をしていきたいと考えてい ます。また将来的には、県西部に24時 間体制で指示を出せる救命救急センタ ー的な機能を備えた県立病院が設置さ れる見込みです。しかし、実際の運用 は各消防本部の裁量の範囲ですので、 関係機関同士の連携などについては、 個別の対応に期待しています」

 と話している。

 7月22日から運用開始となった同シ ステムだが、各救急隊の賛器材のメー カーが違うなどの問題から、心電図伝 送については、9月末からの開始とな る見込みだ。東京都以外では、初の都 道府県レベルの救急医療通信システム として、同県によせられる期待は大き い。


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