この原稿は救急医療ジャーナル'96第4巻第4号(通巻第20号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

不要電波問題対策協議会、携帯電話使用に関する暫定指針を発表

 携帯電話が急速に普及している一方 で、携帯電話から発射された電磁波が 医用電気機器に影響を及ぼすという事 例が国内外で報告され、問題となって いる。電気機器からの不要電磁波によ る機器の誤動作は、オートマチック車 の急発進、急加速の問題が以前から知 られているが、医用電気機器の誤動作 は、人命に直接かかわる事故につなが る恐れがあるだけに、対応が急がれて いる。

 平成7年には、携帯電話の電磁波が 医用電気機器に影響を与える恐れがあ ると海外で報じられたのを契機に、郵 政省が所管する「不要電波問題対策協 議会」において、「医用電気機器作業部 会」が設置された。

 関係省庁(郵政省、厚生省)、学識経 験者、通信事業者、関連メーカー、関 連団体で構成される同部会では、(1)医 用電気機器の誤動作の実態調査、再現 実験等による情報収集、(2)病院内での 携帯電話等使用にあたっての提言の検 討を軸に調査研究を実施。今年3月、 「医用電気機器への電波の影響を防止 するための携帯電話等の使用に関する 暫定指針」を発表した。

 同部会では、携帯電話が、どのよう な医用電気機器の動作に影響を与える のか、またどの程度の距離で電磁的干 渉が発生するのか等を、実験によって 明らかにした。

 調査に使用した携帯電話は、
 (1)800MHz帯アナログ携帯機、
 (2)800MHz帯デジタル携帯機、
 (3)1500MHz帯デジタル携帯機、
 (4)800MHz帯ショルダーホン(肩掛け型携帯電話)、
 (5)1900MHz帯PHS携帯機 の5種類である。

 医用電気機器については、輸液ポン プ、シリンジポンプ、人工呼吸器、ベッ ドサイドモニタ、携帯型救急モニタ等、 200機種以上の各種医療機器と約60 機種の植込み型心臓ぺ−スメーカを実 験の対象とした。

 また、携帯電話の電磁波により障害 が生じた医用電気機器については、そ の障害の程度を、
 (1)致命的状態:患者の生命にかかわる重篤な病態に移行する恐れがある状態、
 (2)誤診療状態:患者に致命的障害は及ぼさないが誤診を招く恐れがある状態、
 (3)診察擾乱(雑音)状態:医用電気機器の本来の診療目的は維持されているが、診療が円滑に行えない状態(微少な基線の動揺、不快音の発生等)、

 などの段階に分け、個別にさらに詳 細な分析を行った。

 以上のような実験の結果、携帯電話 の場合は約60%の医療機器に、またP HS端末の場合は約4%の医療機器 に、何らかの影響が現れたというデー タが得られた。

 同部会の実験はまだ継続中だが、よ り迅速な対応策が必要とされているこ とから、平成7年度までの調査結果を 取りまとめた中間報告として、暫定指 針が発表された。指針の内容は、別表 の通りである。

 同部会では、今後、携帯電話の機種 ごと、あるいは医用電気機器の機種ご との実験データを充実させ、干渉距離 等を明確化していく方針であるが、と くにPHS端末や屋内設置型PHS基 地局、コードレス電話、小型無線機等 について、実験を進めていく計画であ る。今年度中に、さらに詳しい指針が 出されるものと期待される。

 今回の指針は、病院内での携帯電話 等の利用を制限する等の対処が提案さ れた形であるが、海外でもこの問題に 関する関心は高く、医療機関に対して、 さまざまな勧告や警告が出されてい る。とくにオランダの健康監査局から は、使用制限と併せて、「携帯電話が 病院の機器に干渉しうる」ことや、院 内の一部の領域には「携帯電話の電源 を切る」ことを示すサインを掲示する 等、かなり具体的な内容の勧告が出さ れている。


医療機関での携帯電話の使用禁止を呼び掛けるポスターを作製

−北九州市医師会  北九州市医師会では、医療機関内で の携帯電話の使用禁止を呼び掛けるポ スターを作製し、市民に対する啓発活 動を開始した。

 同医師会では、かねてから携帯電話 が医療機器に及ばす影響について議論 を重ねてきたが、今年3月に発表され た郵政省の暫定指針(前項)を受け、 医療機関内での携帯電話の使用禁止措 置を決定した。しかし、不特定多数の 市民が来院する病院等では、禁止措置 がなかなか徹底しないのが現状であっ た。そこで、携帯電話の電磁波によっ て事故が起こる可能性があるというこ とを、より多くの人に知ってもらい、 理解を促すために、ポスターを作製、 掲示することにした。

 ポスターは、携帯電話の電磁波が医 療機器に影響を与 える可能性のある ことを説明し、事 故防止のために、
 (1)手術室、ICU、CCUなどに携帯電話を持ち込まないこと、
 (2)病棟内では携帯電話の電源を切ること、
 (3)ロビーなどで携帯電話を使用する場合、周囲の状況に十分注意を払い、もし付近で医療機器が使用されている場合には電源を切ること、

 の3点に協力してくれるよう呼び掛 ける内容となっている。

 同医師会ではポスターを約1600 枚作製し、6月上旬、市内約1000 か所の医療機関に配布したが、ポスタ ーの反響を検討した上で、今後も啓発 活動に取り組んでいく方針である。


約70%のバイスタンダーが911ディスパッチャーの指示に従い救命処置を実施

−バージニア州リッチモンド  アメリカ・パージニア州リッチモン ドのEMSデイレクターであるジェリー ー・オバートン氏は、5月にカナダの モントリオールで開かれた心停止患者 に対する救急処置に関する会議で、自 分たちが行った「都市部のEMSにお ける成人の心停止患者に対する救急隊 到着前のパイスタンダーによる処置の 実行に影響を与える要因について」の 研究の中間報告を行った。

 報告によると、オパートン氏らは、 リッチモンドで1994年1月から95 年12月の間に起きた病院外での心停止 376例を分析した。それぞれの例で は、911コールを受けたディスパッ チャーが、心停止患者に出くわし91 1コールをした人(パイスタンダー) に対して、救急隊到着前にすべき処置 を指示している。

 結果は、心停止患者と面識がない場 合も含め、全例のおよそ70%において、 パイスタンダーはデイスバッチヤーの 指示に従い、CPRまたはその他の救 命処置を施していた。すなわち、ほと んどの場合パイスタンダーは、ディス パッチャーの与える指示に従い、患者 に必要な処置をしながら救急隊の到着 を待つということがわかった。

 「われわれの研究によって、たとえ 公共の場でも、かなり高い率で人々は ディスパッチャーの指示に従うことが はっきりしてきました。大変勇気づけ られるのは、人種、年齢、性別を問わ ずこのような結果が出ていることで す。そして、この結果は、パイスタン ダーへの事前処置に関する指示を、デ ィスパッチャーに与えさせるべきであ るとの主張を支持しています。また、 パイスタンダーがCPRをしなかった 理由の第1位は、患者が苦しくて鳴い でいることに気づかず、ただ単に呼吸 しているものと勘違いしてしまったと いうものです」(オパートン氏)。

 研究チームは、CPRを受けた患者 と受けなかった患者の心電図も分析し ているが、最終結果はまだ出ていない。

 オバートン氏によると、このテーマ の研究は、いまのところ他の地域では 行われていないとのことである。これ らの研究結果は、データの分析が完了 したところで、査読のある論文誌に投 稿される予定である。またその後、た とえば出血といった他の救急症例にお いても、同様の研究が行われる予定で あるという。(訳/三上斉)


阪神・淡路大震災の教訓を工業デザインに活かして

'96インダストリアル・デザイン卒業制作展  阪神・淡路大震災の後、工業デザイ ンを学ぶ学生の間では、「災害」を研 究テーマの一つとして捉える新しい動 きが見られるようになった。

 東京ガス・銀座ポケットパーク(東 京都中央区・銀座)でこの程開催され た'96インダストリアル・デザイン卒業 制作展「都市生活のデザイニング」。 将来、工業デザイナーを目指す学生た ちの研究成果を発表する場として注目 されているこの展覧会においても、今 回は災害時の仮設貯水タンクや、避難 所で使う多機能椅子など、災害に目を 向けた作品が目を引いた。

 「都市生活のデザイニング」は、6 月13日〜7月16日にかけて開催され、 入場者は1346人を数えた。今年で 6回目となるが、災害をテーマにした 作品が出展されたのは今回が初めてだ という。

 これらの作品は、阪神・淡路大震災 後、現地で行われた調査、研究の結果 考案されたものや、綿密な情報収集と 分析の後にデザインに取り掛かったも のなどで、いずれも新鮮な発想の中に、 震災の経験から得たさまざまな教訓を 活かそうとする意欲がうかがわれるも のとなっている。

 多摩美術大学美術学部・デザイン学 科を卒業した小野泰弘さんの作品は、 「災害時の仮設タンク」。震災後、神 戸市街を歩き、ライフラインが寸断さ れた中で、飲料水を確保することの難 しさに直面したことから考え出された 作品である。

 タンクはドーム型で、給水車で運搬 した水を一気に注入し、必要に応じて 蛇口から給水する仕組みとなってい る。この方法においては、給水車は水 を運ぷことだけに専念できるため、緊 急時における給水車の使用回転率が高 まり、効率よく水を配給できるシステ ムが作られることになる。

 貯水タンクは発砲ウレタンなどの素 材を断熱材で覆ったもので、容量は5 00リットル。一日当たりの飲料水を1人3 リットルとすると、166人分を確保できる 計算になる。繊維強化プラスチック製 の土台とともに組み立て式なので、普 段は町内などの防災倉庫に保管し、必 要なときに組み立てて使用することが できる。

 小野さんは制作中にも、神戸市役所 などの公共機関に作品を持ち込み、現 地の人たちの意見や要望を取り入れつ つ作品を改良し、完成させている。こ のため、作品はかなり実用に即したも のとなっている。

 「体育館の新しい椅子の提案」をし たのは、日本大学芸術学部・美術学科 を卒業した六車紀子さん。

 災害時、被災した人々の避難場所と なる可能性が高いのは、学校の体育館 などである。六車さんは体育館の備品 である椅子を、平常時には普通に使用 しっつ、災害時には解体してさまざま な用途に使い回せるものにすることを 提案している。

 「MEASURING WORM(尺 取り虫)」と名付けられたこの椅子は、 背もたれ付きのサイコロ状をしてお り、全開すると、縦2m12cm、横40cm の平らな板状になる。これを床に敷く とベッド代わりに、また数枚つなぎ合 わせて立てれば、ついたてとしても使 用することができる。素材にはポリウ レタンやゴム等が使用され、燃えにく く、弾力性がある点も特徴として挙げ られる。

 作品の中で六車さんがテーマにした のは、避難所におけるプライバシー確 保の手段であると いう。とくに、同 級生が実際に現地 で撮影してきた避 難所のビデオや、 震災に関するさま ざまな記事に目を 通し、災害後、公 共施設に避難した 人々の生活を少し でも快適にしたい という考えから、 単位空間確保の方 法を探っている点 が評価できる。

 六車さんは、「阪 神・淡路大震災は 自分自身に起きた ことではなかった けれど、研究を進 めているうちに、 このような災害が いつ自分の身にふ りかかってきても おかしくないと思 うようになった」 と語っている。

 災害をどこにでも起こり得るものと 認識し、危機感を持ちつつ、他人の痛 みに共感し、作品の中に活かしていく。 工業デザインの中に生まれつつあるこ のような動きに、今後も注目していき たい。


「誤刺による感染防止に関するガイドライン」を発表

−職業感染対策委員会  日本医科器械学会の職業感染対策委 員会(委員長・小林寛伊(元東京大学 医学部感染制御学、現関東逓信病院院 長))は、この2月、医療従事者の職務 中における針刺し事故を防止するため に、「誤刺による感染防止に関するガイ ドライン」を作成した。

 日本医科器械学会とは、医療従事者 や医科器械工業の関係者などで構成さ れる学会であり、その中に作られた職 業感染対策委員会は、同学会の研究・ 開発の対象である医療用具や医療機器 によって引き起こされる感染事故の防 止を図る目的で昨年6月に発足した。

 現在、医療現場において比較的頻繁 に発生し、感染の危険性が高いのは針 刺し事故であり、血液を媒介とするB 型肝炎、C型肝炎、AIDSなどの血 中ウイルス感染症を引き起こす可能性 が高い。そのため、医療従事者は「血 液や体液はすべて感染の危険がある」 との考えに基づいて、感染防止対策を 講じなければならない。

 このガイドラインは、それらの考え に基づいて、業務中に発生しやすい誤 刺を予防し、万一事故が起きた場合の 対応策についてまとめたものである。

 ガイドラインは、3章から成ってい る。第1章は、誤刺による感染を防止 するために必要な事項を取りまとめて おり、誤刺の中でももっとも頻繁に起 こる注射針(中空針)によるものを中 心に述ペている。

 鋭利な医療用具等の取り扱い方か ら、誤刺した場合の対応までが細かく 書かれ、とくに注意が必要な注射針へ のリキャッピングの方法については、 写真入りで解説されるなど、わかりや すい構成になっている。

 第2章は、内外の誤刺に関する調査 研究について述べ、そのほかに国内に おける誤刺への取り組み事例や、情報 ネットワークなども紹介している。ま た第3章では、誤刺防止用の安全器具 の製造(輸入)販売元のリストを掲載 し、各製品の価格から特徴までが写真 入りで細かく解説されている。

 B型肝炎、C型肝炎、AIDSなど の感染症が問題となり、医療従事者の 感染防止対策が取り沙汰されている昨 今、誤刺を含む感染について学び、予 防策を講じることが重要である。そし て、常に「血液や体液はすべて感染の 危険がある」というユニバーサル・ブ リコーションの考えに基づいて、慎重 に行動することが大切であろう。


″住民に開かれた消防署″として注目を集める八代広域行政事務組合消防本部庁舎

 昨年4月に完成した熊本県の八代広 域行政事務組合消防本部庁舎(八代市 大村町)が、いま多くの関心を集めて いる。従来の消防署のイメージを一新、 市民に開かれた消防署として、新しい 時代の息吹を感じさせる作品となって いるためである。

 設計は、世界的にも有名な建築家の 伊東豊雄氏。完成以来、国の内外から 多くの見学者が訪れているとのことだ が、この一月には、熊本県内の優れた 景観に贈られる「くまもと景観賞」を 受賞した。

 「見学にいらした方々がおっしゃる のは、″官公庁の建物らしくない建物" ″消防車や救急車がなければ、とても 消防署とは思えない"ということです」

 と話すのは、同消防本部総務課の小 島秀昭さん。要するに、しやれている、 洗練されているということだろう。

 設計において重視されたのは、「機 能性に優れた建築」「環境をつくる建 築」「住民に開かれた消防庁舎」「職 員の快適な生活を保証する建築」とい う四つのポイントだった。

 いずれについても、斬新なアイデア が随所に見られるが、新しい試みとし てとくに注目を集めているのが、消防 車や救急車を格納するピロティ空間の 一部を、公園として地域住民に開放し たことである。

 消防車や救急車を格納しておく空間 は、車輌の緊急出場を容易にするため にかなりの広さを必要とするが、この 空間をピロティとして活かすために、 2階部分を円柱で支え、道路側から中 庭を見通すことができるように設計さ れている。

 さらに、芝生の中庭には、消防訓練 用の施設を配しており、市民は自由に 中庭に入り、訓練風景を見学すること ができるようになっている。まさに、 「開放された消防庁舎」の巧みな具体 化と言えるだろう。

 「消防署の役割が地域住民に十分理 解されるためには、一般住民がこの建 物を気楽に訪れることができ、消防隊 員や救急隊員とコミュニケーションで きることが重要です。この点、新しい 庁舎は、通りから中庭を見通すことが できますし、中庭には見学スぺースが あり、自由に中に入ることができます。 近くの人が散歩に来たり、子どもたち が訓練の様子を見学している風景もし ばしば目にするようになりました」(小 島さん)。

 また、「機能性に優れた建築」につい ては、(1)消防本部・通信指令および事 務活動スペース、(2)消防署の生活およ び事務活動スペース、(3)消火・救急出 場のためのスペース、(4)消防訓練スペー ス(体力練成室を含む)の四つのゾ ーンに大別し、それぞれの機能をもっ とも有効に発揮することができるよ う、スペース配分と配置がなされた。 「以前は手狭なところで働いていまし たから、職場環境は大きく改善された と思います。また廊下がすべてガラス 張りになっていますから、全体的にと ても明るくなったという印象ですし、 視界が大きく開けていますから、伸び やかな気分になります」(小島さん)。

 同庁舎の試みは、消防署のあり方を 考える上で多くの示唆に富んでいるよ うに思われる。


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