この原稿は救急医療ジャーナル'95第3巻第5号(通巻第15号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

大規模災害時に4000人規模の人員を投入--広域緊急援助隊の発足・警察庁

警察庁では、阪神・淡路大震災の際の災害警備の教訓を踏まえ、大規模災害発生時に都 道府県の枠を越えて広域的に即応できる「広域緊急援助隊」(以下「援助隊」という)を 6月1日に発足した。

8月8日には、警察庁において隊旗の授与式が行われ、隊員の士気と部隊の一体性の高揚 が図られた。援助隊は、総勢4000人規模であり、災害発生後すぐに被災地入りし、情報収 集・伝達、交通規制、救出救助などの活動を行う。

援助隊は、全国の機動隊員、管区機動隊員、交通機動隊員、高速道路交通警察隊の中か ら選ばれた隊員で編成される。その内訳は、先行情報班、救出救助班、活動支援班から成 る約2500人の警備部隊と、先行情報班を含む交通対策班の約1500人に分けられる。

先行情報班は、災害発生後すぐにへリコプター、オフロードニ輪車等で被災地に入り、 被害状況、交通に関する情報収集・伝達を行う。救出救助班は、援助隊の中心部隊であ り、被災者の救出救助等を担当する。活動支援班は、資器材や給水車、キッチンカー等を 供給し、援助隊各班の活動を支援する。

交通対策班は交通機動隊員、高速道路交通警察隊員という交通対策のスペシャリストで 編成され、緊急交通路を確保し、緊急通行車両を先導する等の任務を担う。阪神・淡路大 震災における災害警備上の大きな問題点の一つは、交通路の確保であった。緊急交通路が 完全に確保されないために、緊急車両の通行が阻害され、救出救助活動への影響があった ことは記憶に新しい。

そのため6月に行われた災害対策基本法の改正に際し、いままでは被災した都道府県警 察および隣接の都道府県において公安委員会による交通規制を行うことができるとされて いたが、さらに近接する都道府県においても交通規制ができ、広域的に対応できるように なった。そのため交通対策班は、これらの規制を確実に行うための部隊としても大きな力 となることと思われる。

援助隊は、各管区警察局、北海道警察、警視庁を単位として設置され活動することとさ れている。警視庁などの大規模な組織の場合は、一つの大隊として約300人程度の部隊と なる。また、管区警察局の部隊は、管区内の府県警察の援助隊がまとまり、部隊を編成し て活動する。

その中で、北海道警察、警視庁、神奈川県警察、愛知県警察、大阪府警察、福岡県警察 という規模の大きい、都道府県警察を「特定都道府県警察」として指定し(約1500人の隊 員を有する)、災害発生に備えて待機態勢をとり、発災直後の対応を行っている。

援助隊の要請基準は、たとえば震度5以上の地震、大規模な被害が予想される津波警報 の発令など、大規模災害の発生、または発生が予想される場合である。

出動の要請は、被災した、あるいは被災する可能性のある都道府県の公安委員会が、他 の公安委員会に対して行うが、出動準備を行っている間に、要請の確認を行うこととして いる。また、管区警察局、警察庁においても調整が行われるという。

援助隊は出動に際し、先行情報班が、警察ヘリコプター、オフロードニ輪車等を利用し て被災地へ急行する。また、救出救助班等も引き続き急行し、一番救命の可能性が高いと いわれている72時間を目途にフル活動する。もちろん援助隊以外の警察の部隊も派遣され ることとなれば、一体となった活動を開始する。また、交通対策班については、被災地お よび周辺における交通対策の重要性にかんがみ、-週間程度の活動を目途としている。

大規模災害が発生した場合、初動態勢がその後の被害状況を大きく左右する。そのため 災害発生後ただちに、人員および資器材を大量投入することは大変有効である。阪神・淡 路大震災でも、警察庁の部隊に協力した自衛隊機で搬送した事実もある。

また、この9月1日の防災訓練では、東京、千葉等において自衛隊と警察の協力による訓 練も行われている。今後は、さらに緊密な連携が行われる必要があると思われる。

本誌第13号でも紹介したように、自治省消防庁は本年度中に「緊急消防援助隊(仮 称)」を創設することを決めている。各省庁が、大規模災害の発生に向けての警戒準備体 制づくりを進めているわけだが、今後は各省庁間の速やかな協力体制の確立が期待され る。


標準のCPRとACD-CPRの効果はあまり変わらない--JAMA誌の論説から

JAMA誌の1995年4月26日号に、病院外での心肺停止患者に対するACD(アクティブ・コン プレッション・ディコンプレッション:Active Compression-Decompression)-CPRと標準 のCPRを比較した研究結果が発表された。結論はACD-CPRでも標準のCPRでも結果は変わら ないとのものであった。

昨年、同誌は、ACD-CPRについての別の研究を掲載したが、それによると、ACD-CPRの方 が、標準のCPRよりも救命率が高いことを示峻していた(本誌第9号、66ページ参照)。

今回、4月26日号のJAMA誌の論説ページでは、両者の研究結果を取り上げて分析し、 「ACD-CPRを行うことによるコスト、トレーニング、携帯品のそれぞれの増加を考えれ ば、標準のCPRに比較して重要な改善が臨床上明らかに示されない限り、ACD-CPRを採用す べきではない」との意見を述べている。 (訳/三上 斉)


救助隊長のアイデアを取り入れ、保温担架を開発

福島県 患者管理において、救急搬送時の傷病者の体温保持は、重要なテーマの一つである。一 般に体温保持のためには毛布が用いられているが、この方法は保温性や簡便性が十分とは いえなかった。そこで今年2月、福島県の救助隊長の提案と協力により、航空救命装備品 メーカーが保温担架を開発した。

開発に協力した根本文孝救助隊長は、船引消防署(福島県)に勤務。同消防署は、阿武 隈高地に位置し山間部に集落が点在している地域を管轄しているが、この地域は狭くて急 な山道が多く、救急章を途中で停め、歩いて傷病者のところへ行くことも多い。

しかも朝タは冷え込み、冬期における室内外の温度差は20度Cにもなる。温度差は脳血管 障害や循環器障害等の傷病者に悪影響を及ぼすことから、救急隊員は、毛布を何枚ももっ て駆けつけるが、毛布での体温保持は難しいうえに重くてかさばる。また急な坂道や風の 強いところなどを搬送する際は、転落防止のために傷病者を担架に固定することに時間を とられることも多い。

そこで根本さんは、昨年11月、航空救命装備品メーカー・藤倉航装(株)(本社・東京 都品川区)船引工場に相談。同社は、パラシュートやフライトジャケットなど、航空用救 命資器材を製造しているメーカー。基本的な素材の知識、製作の技術などはあるものの、 実際に使用する人々の意見を参考にしないと、開発のしようもない。根本さんらのアドバ イスは願ってもない申し出で、開発に着手。2つの試作品を経て、今年2月に完成をみた。

「試作品は、私の想像よりもよい出来映えでした。しかし、傷病者を固定する際の操作 が複雑だったり、枕の形が現場で使いづらいものであったりしたため、現場の人間が使い やすいものにしてもらいました。完成品は、通常の救急現場のみならず、大災害時や山岳 救助等の搬送用具としても十分活用できると思いました」(根本さん)

完成した保温担架は、表布がポリエステル繊維、内布がキルティング布でできており、 総重量約4.5Kg、抗菌、消臭、吸汗性に優れている。使用する際には、保温マットの中心 に傷病者を寝かせ、左右および足元の布をマジックテープで止める。また、転落防止のた めに、随所にマジックテープを付けている。備え付けのドーナツ型の空気枕は、左右対に なっていて、通常は両方に空気を入れて使用。気道確保等の際には片方だけを傷病者の首 の下に入れて使用することができる。

既存の担架と組み合わせて、もしくは布担架として単独での使用も可能だ。既存のもの に固定するときは、3本のベルトとマジックテープで簡単に取り付けられ、使用しないと きは、折りたたんでリュックに入れて背負うこともできる。現在、販売の準備中である が、今年2月に同社から郡山地方広域消防本部に寄贈された3台を使用している隊員らによ ると、従来の担架に比べて柔軟性に優れ、階段や狭い廊下等での搬送に大変役立ち、隊員 の負担も軽減されたということである。


血液を介しての感染の危険にされされているEMSワーカーたち

「Annals of Emergency Medicine」誌6月号に、パラメディックやEMTといった米国の EMSワーカーがいかに血液を介しての感染の危険にさらされているかをまとめた研究が発 表された。

米国のある3つのメディカル・センターでの集計結果では、年平均12.1回、EMSワーカー の皮膚に患者の血液が触れ、0.2回の針刺し事故があることがわかった。

これら3つのセンターではEMSによって搬送されてきた100人の患者あたり、それぞれ8.3 人、7.7人、4人がHIV感染の患者だった。

しかし、血液接触があった場合の93.5%において、EMSワーカーは患者のHIV感染の有無 について知らなかった。 (訳/三上 斉)


都道府県の枠を越え救急医療情報を共有--大阪府、奈良県、和歌山県

今年2月、大阪府は救急医療情報システムを奈良県、和歌山県のシステムと結び、医療 機関情報等を両県と交換しあうことを決めた。

これは、救急医療情報の広域化の一環であり、平時はもちろんのこと、阪神・淡路大震 災のような大災害時のネットワークとしての活用も期待されている。

大阪府では、救急医療情報の収集と提供を行う専門機関として、1969年に全国で初めて 救急医療情報センターを設立した。その後'79年にはコンピュータを導入、昨年4月1日か らはシステムを更新し、11月1日からは救急救命士への指示業務や府民への救急医療情報 の案内も開始した。

現在、同システムの情報は、府下の349の医療機関(救急病院等338か所、救命救急セン ター等11か所)と36消防機関、情報処理センター、救急医療情報センターによって共有さ れている。

ただし、救命救急センター等を除く医療機関は情報入力、消防機関は情報照会のみに 限っており、入力・照会の双方ができるのは救急医療情報センターおよび救命救急セン ター等となっている。

しかし、システムがどんなに進んだとしても、これらはすべて各都道府県単位で独自に 運用されているため、たとえば県境で傷病者が発生し、隣接県の医療機関に搬送した方が 早いと判断した場合は、直接その医療機関に電話で問い合わせるという方法に頼らざるを 得なかった。

今回の3府県の救急医療情報の共有に際して、奈良、和歌山の両県は、すでに昨年度か ら大阪府の情報を取り寄せており、実質的な運用に関する懸念はないといえる。

3府県での情報交換が可能になった理由として、それぞれが使用しているシステムが同 一メーカーで同種のものであったということが挙げられる。

3府県としては、近隣の他府県とも情報交換を行いたいとしているが、現段階では、相 互のシステム間の互換性がなく、また新たにシステムを導入するには、それぞれの更新の 時期が異なっているなど、問題は多い。

しかし、災害時の情報ネットワーク構築のモデルケースとして3府県に寄せられる期待 は大きい。そのため、段階的にでも同一システムへの移行を図り、近隣府県との広域的な 救急医療情報を構築することが望まれる。


子どもの心停止のほとんどは呼吸障害が引き金に--。

「Pediatrics」誌の6月8日号に、サンフランシスコ総合病院における研究が発表された が、それによると、心停止を起こした小児患者で、病院到着までに蘇生できなかった患者 はまず助からない、という。したがって、救急部で小児患者を蘇生するために使う資源 を、より有効に使う方法があるのではないかと結論している。また、子どもの心停止はほ とんどの場合、呼吸障害が引き金になっていることから、親に対しては、子どもの呼吸の トラブルがいかに重大であるかを教えなければならないとしている。(訳/三上 斉)

災害救助犬の地位確立を目指して--災害救助犬協会富山・富山県

災害救助犬協会富山は、阪神・淡路大震災に3頭の災害救助犬を派遣したが、日本にお ける救助犬の認知度の低さ、現場の情報の混乱等から思ったほどの成果をあげることがで きなかった。そこで、災害時における救助犬の初期出動の態勢や、警察、消防などの公的 機関との連携、救助犬登用のためのシステムづくり等を学ぶため、9月中旬に、以前から 交流のあるスイス災害救助犬協会に調査団を派遣した。

同協会は、1991年10月、富山市に発足した。阪神・淡路大震災のような大規模災害はも ちろんのこと、山菜採りやハイキングに出かけて山で遣難してしまった人を捜索するよう な場合にも対応する。

現春、同協会には実働できる7頭と養成中の5頭の救助犬がいる。犬種としては、シエ パードとラブラドール・リトリバーである。協会の運営は、80人の一般会員の年会費に よってまかなわれ、犬の訓練も訓練士のボランティアにより成り立っている。

救助犬の養成には、大変な労力と時間が必要である。救助犬は、行方不明者の臭気を嗅 ぎ分けると、吠えたり、物を引っかくなどして、周囲の人にその発見を知らせる。しか し、子犬をそこまで育て上げるには最低1年間の訓練期間が必要である。

災害時、救助犬は3頭1チームで行動する。2頭が捜索をし、1頭が休息をとる。2頭のう ちどちらかが反応すればもう1頭に確認をさせ、もし反応がなければ休んでいる別の犬に もう一度確認をさせるというシステムである。3頭のうち2頭が反応すれば、そこに行方不 明者がいるという判断がくだされる。

救助犬の捜索に対する集中力は、気候や状況によって変わるが、おおむね20分程度。右 記のシステムで、3頭が捜索と休息をローテーションで繰り返す。しかし、それでも1チー ムの活動は4時間が限界という。

阪神・淡路大震災では、同協会からシェパード3頭(1チーム)、隊員6人が出動した。 震災当日に富山県警察を通じて、兵庫県警察へ出動の打診をしたが返答はなく、見切り発 車の形での出動だった。公的な派遣でないため、緊急車両指定を受けられず、現地に入る のも容易ではなかったが、なんとか1月18日タ方、現地入りをした。

受け入れ体制ができていない、救助犬の何たるかが認識されていないとの問題から、実 際の活動は19日午後からになった。現場の混乱、レスキュー隊の人員不足などの問題も あったが、翌20日夜までの1日半の捜索で4遺体を発見した。

同協会の捜索と時を同じくして、スイスからも救助犬が派遣されてきていたことはテレ ビの報道などでもよく知られているが、スイスチームの布陣は、救助犬12頭(4チー ム)、隊員25人で、16遺体を発見した。

これらの救助犬と隊員が所属するのが、先に述べたスイス災害救助犬協会である。会員 数560人、スイスの各所にグループがあり、安全保障団体や軍隊、民間保護との相互協力 を図っている。国からの財政援助は受けず、会員が訓練および費用のすべてをまかなって いる。

しかし、政府のバックアップにより、飛行機をチャーターするなどして、災害発生約2 時間後には世界中のどこへでも出動できる態勢が整っている。アルメニア、メキシコ、ト ルコで起きた大地震の際にも出動し、活躍する姿をテレビの放送などで目にした人も少な くないであろう。今回の災害救助犬協会富山の調査団派遣も、このようなスイスのシステ ムを学び、災害救助犬とそれにかかわる人々の地位の確立を目指すためのものであった。

同協会では、昨年10月から、救助犬認定試験を実施している。これは、まったく白紙の 状態に近い日本の救助犬の世界に、基準を設けることで救助犬およびそれを育成する人の レベルを一定に保とうというものである。

試験の内客は、(1)服従訓練、(2)障害物(シーソー、ビニールシート、トンネルな ど)の通過訓練、(3)作業内容(通常時の平地と、地震、雪崩、土砂崩れなど災害現場 を想定したもの)の3点。これらをすべてクリアして初めて災害救助犬として登録され る。派遺団はスイスでも認定審査会を見学し、さらに有効な試験基準等を検討している。

同協会の坂井貞雄専務理事によると、スイスでは災害救助犬が公的に認知され、登録制 度や保険制度、訓練土の認定システムなども整っているという。現在、富山県警察では災 害救助犬が捜索等のシステムに組み込まれている。同協会では、自治省消防庁など関係各 機関に対して救助犬が公的システムへ導入されるよう働きかけている。

また必ずどこかで起こるであろう大災害の現場で、災害救助犬が一人でも多くの生存者 を発見できるよう、早急な体制の整備が待たれる。


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