この原稿は救急医療ジャーナル'95第3巻第3号(通巻第13号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

ペットボトルで手軽につくれる簡易ポケットマスク

滋賀県・甲賀郡消防本部 甲賀郡消防本部ではこのほど、ペットボトルを利用して、人工呼吸の際に使用する簡易 ポケットマスクと、嘔吐物などを処理する汚物処理器具を考案した。これらは「家庭でで きる応急処置器具」として、(財)全国消防協会主催の消防機器の改良・開発選考会で会 長賞を受賞した。

考案したのは、同消防本部の藤井昭広さん、菊田和広さん、安田昌之さんの3人。CPR講 習会の際、人形を使っていても、受講者がマウス・ツー・マウスに対して抵抗感を抱いて しまうという経験から、安価で簡単につくれる人工呼吸の道具はないかと考えた。そこ で、身近で、どの家庭でもすぐ手に入るペットボトルを有効利用することを思いついたと いう。

簡易ポケットマスクは、1.5Lのペツトボトルの注ぎ口から5cmのところを斜めに切った もの(タイプA)と、まっすぐに輸切りにしたもの(タイプB)の切り口にビニールテープ を巻き付けただけの簡単なもの。タイプAは通常の人工呼吸の際に口と鼻に当てて注ぎ口 から鼻に送気して使用し、タイプBは口だけに当てて使用する。マスクは簡単に作成で き、持ち運びが容易であるうえ、汚物や血液などとの接触がないことから感染防止に優 れ、顔面損傷の場合にもためらいなく利用ができる。また、従来のゴム製のマスクの場 合、弾力性が強いため両手できちんと押さえなければ漏気が生じることがあったが、こち らはプラスチック製ということで、皮膚への密着性が優れ、片手での試技が可能になっ た。

また、一人で行うCPRの際、輪ゴムを6本つないで注ぎ口に装着し、傷病者の頭部にバン ド固定すれば、ずれることなく確実に使用できる。

一方、汚物処理器具は、ペットボトルを真ん中から下方に斜めに切り、注ぎ口にビニー ル袋を輸ゴムでとめたもの。簡易マスク同様、切り口にはビニールテープを巻き付けて顔 面を保護するようにしている。

従来の洗面器や膿盆といった汚物処理の道具に比べて、漏れや飛散が少なく、ビニール 袋に入れたまま廃棄することができるので、感染防止に役立つ。また、汚物が透明のビ ニール袋に収納され、ペットボトルからの取り外しが自由なことから、医師等にそのまま の状態で汚物を提示でき、内容物の確認も容易であることから、救急隊にとっては優れた 一品であるといえる。

同消防本部では、これらの道具を救命講習会で紹介したり、実際に作成したりしてい る。受講者には、人工呼吸よりも嘔吐の方が身近な出来事のうえ、車に乗っていて渋滞に 巻き込まれたときに簡易トイレとしても使用できるということから、汚物処理器具の方が 好評であるという。

講習会でペットボトルという身近な素材を使うようになってからは、応急処置そのもの が受講者にとって身近なものになり、受請する態度も能動的なものに変わってきたとい う。

考案者の一人、藤井昭広さんは、「阪神・淡路大震災で多くの人が窒息死や圧迫死をし たことから、バイスタンダーによるCPRが大変重要だということを再確認したのですが、 日本人の場合、マウス・ツー・マウスに抵抗を抱く人が多いようです。そのような抵抗感 を取り除いて、救命率が少しでも上がればと思い、簡易マスクを考案しました。これから は、ペットボトルをみたら、心肺蘇生法を思い出したという人がどんどん増えることを期 待していますし、将来的には"一家に一個の簡易ポケットマスク"というふうになってく れれば、と思っています」 と話している。


安心の証明書 マル救マークが誕生

東京・東久留米市消防本部 東久留米市消防本部は、ホテル、大型スーパー、駅など、不特定多数の人が出入りする 事業所等で、規模に応じて、同消防本部が認定する市民救命士を規定以上擁する施設に対 して、「救急救命実施事業所の章(マル救マーク)」を4月1日から交付することになっ た。

消防署が、防火基準をクりアした施設に対して「マル適マーク」を交付していることは よく知られているが、救急救命に関して、このような章が交付されるのは全国で初めてで ある。

章は縦35cm、横23.5cmの大きさで、パール色の地にライトグリーンの縁どりがされてい る。マークは、淡いグリーンのマル救マークを金色の消防マークが囲んでいる。

市民救命士とは、東久留米市消防本部が行う上級救命講習会を受講した人をいう。通 常、上級救命講習を終えた人に対しては、講習実施機関が修了証を発行しているが、東久 留米市では、これに加えて、市民救命士証と呼ばれる登録証を発行する。

上級救命請習会は、年2回(2月、9月)開催されることになっており、昨年の9月からス タートした。一人でも多くの人が参加できるよう、開催時間については、2月は土日の午 後(3時間×6日、2時間はサービス)、9月は夜間講習(2時間×8日)、というふうに工夫 されている。受講料は無料で、原則として東久留米市に在住、在勤、もしくは在学の人に 限っている。ただし、少数ではあるが、遠方から受講しに来る人もいるという。

受講内容は、通常の上級救命講習会と同じだが、講習時間は通常の倍の16時間をとって おり、身につけた技術の反復を大切にすると同時に、「市民救命士」という名前に恥じな いような技術の持ち主を育てている。1回の定員は50人で、現在までに100人の市民救命士 が誕生している。また、他の自治体や機関で上級講習を受けた人でも、同消防本部が認め た場合は、講習を受けなくても、市民救命士として登録される。

同消防本部の千葉弘さんは「救命率の向上と、救急救命に対する市民の理解と関心を高 めることを目的として、市民救命士を育て、マル救マークを交付することにしました。ホ テル、大手スーパーなど、民間の事業所が救急救命に関して努力負担をすることは、大変 重要であると思います」と話している。


EMS TODAY '95 成功裡に終わる

去る3月11日から14日まで、アメリカ・メリーランド州ボルティモアで同国最大のパラ メディックスの会議〈第13回EMS会議〉が開催され、大成功のうちに幕を閉じた。

今年は、本誌と提携関係にある「JEMS」誌が創刊されて15年目の記念すべき年にあたる が、本会議においても、JEMS誌上で話題となっているもっともアップツーデートないくつ かのトピックスがプ口グラムとして取り上げられ、好評であった。

また、開催場所であるボルティモアは、北アメリカ・東海岸に位置し、全米のEMSサー ビスのうち80%以上が、車ならばおよそ1日以内の運転で参加可能な場所にあたり、4日間 の開催期間中にアメリカ国内を中心に、アジア、ヨーロッパなど世界中から3千261人もの 参加者が集まった。

会議は77のワークショップとセッションに分かれ、68人の医師、看護婦、EMS専門家に より構成された講師陣により活発な討議や演習がなされた。

内容はプレホスピタル・ケアにかかわる研究、現場事例、教育訓練、組織管理、広報な ど多岐にわたっており、二ーズに合わせた選択ができるが、今年は、すべてのプログラム やイベントを通して参加可能な「ゴールド・パスポート」(参加費365ドル)の人気がと りわけ高かった。

また、昨年はアメリカ・運輸省(Department of Transportation)----国のEMTに関す るカリキュラムを策定する機関----により10年ぶりにEMT-B向け標準教育課程が改定され た年でもある(本誌第9号、第10号JEMSレポートSpecial「10年ぶりに改定されたEMT-B向 け標準教育課程(概要)その1、2参照」)。そのため、会期中、多くのEMTやCPRインスト ラクターのカリキュラムを反映させるための新たな組織づくりが提案され、全国EMS講師 協会(National Association of Educators〈仮称〉)のための61人のワーキンググルー プが組織されたことは特筆すべきことであった。

なお、このグループのインターネットE-メイルアドレスは、 naemse@bupkis.Mankato.msu.eduである。

また併設展示は、約1万5千平方メートルの展示ホールに救急車、通信機器、救急医療機 器、医学教育関連会社など148社が参加し、約1000人の展示関係者により熱心な商品説明 やデモンストレーションが行われ、たいへん盛況であった。会議終了後、オンラインサー ビスにより、次のようないくつかの参加者の感想が寄せられた。

「会議が楽しめ、多くの知識を得ることができた。EMSに15年携わっているが、心が開 かれた」
「展示がすばらしかった。また、新しい商品のアイデアもひらめいた」
「自分にとって初めての大きな会議だった。来年もニューメキシコへ行けるようにボス に頼むつもりだ」

なお、〈第14回EMS会議〉は、来年3月13日から16日までニューメキシコ州アルバカー キーで開催される予定である。 (取材/悳 秀彦)


「緊急消防援助隊」を創設---大災害時の広域支援に向けて

自治省消防庁は、今年2月23日、阪神・淡路大震災を教訓に、大災害の際の初期救助活 動を迅速に行うことを目的として、1000人規模の「緊急消防援助隊(仮称)」を本年度中 に創設することを決めた。

隊員は、各都道府県ごとに選定され、同庁に要員として登録されたレスキュー隊員、救 急専門医、看護婦、救急隊員などから成り、大規模災害発生時には、同庁長官の要請によ り、被災地に急行し、自給自足で救助活動に当たる。

緊急消防援助隊は、被災地と派遣元との連絡調整を行う本部調整要員と救助チーム、救 急医療チーム、それに隊員らの宿泊施設の確保や、食事の調達などを行う後方支援チーム で編成される。

本部調整要員は、現地の状況を把握し、被災地と広域応援の要請についての連絡調整を 行うほか、自衛隊、警察などの応援部隊との調整も行う。災害の発生場所に応じて、近隣 の大都市の消防本部2か所から各5人、計10人がヘリコプターで現地に急行することになっ ている。

救助チームは、都道府県ごとに各消防本部のレスキュー隊2〜4隊(1隊5人編成)を選定 し、消防庁に登録する。通常は1都道府県2隊だが、政令都市が1市あるところは3隊、2市 あるところは4隊の登録となっている。チームは阪神・淡路大震災でも使用されたファイ バースコープや工ンジンカッターなどの救助用資器材を積んだ救助工作車で現地入りす る。

救急医療チームは、都道府県ごとに救急専門医1人、看護婦2人、救急隊員4人の計7人を 選定し、消防庁に登録しておく。1チーム当たり救急車2台が配備され、救助チームと連携 して応急医療活動にあたる。

救助隊は、本部調整要員10人、救助チーム約600人(交代要員を含めると約1800人)、 救急医療チーム約300人、このほか、後方支援チームを合わせると約1000人という大規模 なものになるという。

隊員たちは普段は通常の業務についているが、消防庁長官の要請があった場合、各都道 府県単位で緊急消防援助隊として、まとまって被災地に入ることになっている。また、各 県援助隊の連携を強化するため、合同訓練も実施する予定であるという。


FDA、「救急医療における臨床研究の方法」についての公聴会を開催

米食品医薬品局(FDA)は事前の同意(インフォームド・コンセント)を得ることが難 しい救急医療における臨床研究の方法について、新しい指針を近く発表する。

FDAは、昨年、アンブ社のカーディオポンプの臨床試験を、患者からインフォームド・ コンセントを得ていないとして中止させた(本誌第9号66ぺージ参照)が、この措置に対 する抗議が出たため、方針の見直しを迫られていた。

この見直しのため、今年1月、FDAとNIH(米国立衛生研究所)は、研究者、医療関係 者、一般からの意見を聞くための公聴会を2日間にわたり開いている。

「私たちの規制は、インフォームド・コンセントなしの臨床研究が許されるほど融通の きく規制ではありません。今回は、各方面の意見を聞くために公聴会を開くことにしまし た。公聴会で目立った意見は、『たとえそれぞれの患者から同意が得られないとしても、 研究のためには時と場所を選べない場合がある。ただし、患者を守るための十分な保障は 必要だろう』というものです。また一般の人たちは、患者の同意がない研究に対して大変 神経質になっています。これは非常に難しい問題です。救急蘇生の新しい方法を開発する ことは必要ですが、そのような救急処置の多くは時間が勝負だからです。

できるだけ早く新しい指針の提案をまとめ、官報に発表したいと思っています。それに 対して多くの人から意見がいただければと思います」

とFDAでは述べている。(訳/三上斉)


運転手が好判断-タクシーから救急車への連携プレー

--秋田県秋田市 2月27日夜、心臓に持病がある主婦が秋田市内の自宅からタクシーで病院に向かう途 中、症状が悪化したが、運転手の好判断により、即座に救急車が手配され、救急隊が到着 するまでの間も励まし続けるなどの適切な処置がとられた。

お手柄の運転手は、秋田港交通(株)の福地清司さん(53歳)で、「走り始めてしばらくす ると、お客さんが"喉が乾くような感じがするので急いでほしい"といってきました。急 いで病院へ向かったのですが、みるみるうちに顔面蒼白になり、体を動かすことも、言葉 を発することもつらそうになったので、すぐに無線で救急車を呼び、その場でタクシーを 止め、救急隊の到着を待ちました」

と、そのときを振り返る。

福地さんは、救急隊が到着するまでの4分間も、「救急車を頼みましたから大丈夫です よ」や「いま、サイレンの音が聞こえたからもうすぐ着きますよ」などと主婦の負担にな らない程度に励ましの言葉をかけ続け、到着した救急隊にもそれまでの主婦の症状の変化 をできるだけ詳細に伝えた。

管轄の土崎消防署の救急救命士・佐藤理さんは、 「福地さんは、適切に傷病者の症状を観察し、躊躇することなく119番通報しました。タ クシーをその場で止めて傷病者を楽な姿勢にし、励まし続けたことと合わせて好判断だっ たといえるでしょう」と、話す。

福地さんは1月13日に、会社が主催する普通救命講習会に参加したばかりで、その際に 学んだことが大いに役立ったという。

「普通救命講習会は全乗務員を対象に行われましたが、みんな真剣に受講しました。心 肺停止状態の人に出会うことは一生のうちに何度もあることではありませんが、機会があ ればもう1ランク上の講習も受けてみたいと思っています」(福地さん)

秋田港交通(株)では、今後も復習の意味を込めて、講習会を開く予定だという。これは、 高齢化社会に向けてさまざまな既往症をもつ乗客が増えるであろうという予測から、万が 一に備えることで地域に役立とうという同社の方針によるものだが、今回のことは、地道 な啓豪活動が実を結んだ好ケースといえるだろう。


「救急救命九州研修所」が開所〜1期生200人が入所式

東京都八王子市の東京研修所に続いて、福岡県北九州市に(財)救急振興財団救急救命 九州研修所〈ELSTA KYUSYU〉(稗田慶子所長)が3月28日に開所し、4月5日には、第1期生 200人を迎えて入学式が行われた。

関東以西(北海道、東北、東京都を除く39府県)を対象にした同研修所が完成したこと で、東の東京研修所、西の九州研修所というニつの要ができ、全国規模での救急救命士の 養成がまた一歩前進したといえる。

同研修所は、敷地面積1万5千717平方メートル、建築面積4千70平方メートル、延床面積 1万1千130平方メートルという広さを誇る。鉄筋コンクリート造りの6階建てで、総工費は 55億円。1階に講堂と実習室等、2階に視聴覚教室、図書室等、3階に教室等があり、2階の 一部から6階までは研修生の寮として個室205室を完備している。また、厚生施設としてレ ストランやラウンジ、アスレチックルームを併設し、緊張感の中にもリラックスしたムー ドがつくられるよう配慮されている。

教授陣は、県内の大学から派遣された専任教授7人と合わせて、専門内容に応じて全国 から招聘される予定。スタッフも所長、副所長をはじめ、総務部、研修部ならびに教授を 合わせて総勢31人で教育、運営にあたっている。

4月5日に行われた入学式には、各関係機関の代表者が参列し、盛大なものとなったが、 第1期生という責任の重さからか、終始、緊張感の漂うものだった。

「救急救命九州研修所は、関係者各位の多大なご支援の下、社会的な強い要請と国民的 な期待を担いつつ、東京研修所に次ぐ2番目の研修所として開校したものです。全国から 選抜された皆さんが、記念すべき第1期生として、充実した研修生活を送られ、ぜひとも 全員そろって救急救命士の資格を取得されるよう期待しています」

という稗田慶子九州研修所長からの式辞が読まれると、緊張感でいっぱいだった研修生 の表情が、責任感あるものに変わった。

式の最後には、沖縄県北谷町消防本部の金城俊昭さん(35)が、研修生を代表して宣誓 を行い、盛会のうちに入学式は閉会した。

研修生の一人、野村信一さん(茨城県茨城西南地方広域市町村圏事務組合 消防本部・48歳)は次のように話す。

「以前から救急救命士になりたいと考えており、今回のチャンスを活かそうと思いまし た。九州を訪れるのが初めてということと、年齢的な問題で多少の不安もありましたが、 がんばろうと決心してやって来ました。いざ入校してみると、自分が最年長と聞き、少し がっかりもしましたが、年下の仲間と勉強できるということで、かえって心強いものを感 じました。

いずれにしろブレッシャーを感じずにはいられませんが、硬くならず、自分、家族、そ して何よりも地域の方々のプレホスピタル・ケアのためにこの半年間は一生懸命がんばり ます」

第1期生200人は、9月まで研修を受けた後、各自治体に戻り、国家試験に臨む。しか し、試験ですべてが終わるのではなく、医療従事者としての彼らの道のりは、いま始まっ たばかりである。


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