この原稿は救急医療ジャーナル'95第3巻第1号(通巻第11号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

主役登場

心肺停止となった傷病者が再び絵筆を持てるようになるまで

堺市 浦川 廣さん(堺市高石市消防本部鳳消防署) ○○○市に住む○○○○さん(無 職、66歳)は、急性心筋梗塞のために 心肺停止の状態になったが、鳳消防署 の救急隊による的確な処置と迅速な搬 送により、2度の手術を乗り越えて、 社会復帰を果たした。

朝風呂に入っていたら 気分か悪くなった

○○年○月○日、○○さんは、 友人と絵の展覧会を見に行く予定だっ た。約束の時間は午前10時。出かける 前に風呂に入る習慣のある○○さん は、いつものように風呂に入ったが、 途中で気分が悪くなり、風呂から出て 1階の座椅子で休んだ。2階にいた息 子の○○さん(○○歳)が1階に降りる と、○○さんが「胸のあたりが苦しい」 といいながら、胸をなでていた。午前 9時ころだった。

○○さんは自分で布団を敷き、横に なった。○○さんが医学書を開いてい ろうちに、○○さんが苦しそうな息を し始めたので、○○さんは119番通 報。○○さんのそばに戻ると呼吸をし ていないようだった。そこで本を見な がら、人工呼吸を行った。

9時21分に覚知した堺市高石市消防 本部鳳消防署の救急隊(浦川廣隊長(45 歳)と勝昭男隊員(45歳)の両救急救 命士、山本龍司機関員(42歳))は、9 時26分に○○さん宅に到着した(消防 署から○○さんの家まで、直線で約 2.2km)。浦川さんは、○○さんから 話を聞きながら、○○さんを観察。
(1)意識レベル‥300(JCS)
(2)呼吸‥感じず
(3)脈拍‥触れす(聴診器による心音確認ならびに総頸動脈)
(4)顔貌等‥無表情、唇に軽度のチアノ ーゼを認める
(5)瞳孔‥散大(左右7mm)、対光反射消 失
(6)持病等‥持病とくになし。ただし、 5日前に胸痛があったことを確認。

浦川さんは勝さんらに状況を伝え、 バッグマスクで人工呼吸を開始、胸骨 圧迫による心マッサージなどを行い、 CPRを継続しながら9時32分、救急 車内に収容。1分後、近畿大学医学部 救命救急センターに心電図伝送を開始 し、医師の指示を受けつつラリンゲア ルマスクによる気道確保を実施した。

心室細動があることが判明したが、 搬送先に決まった馬場記念病院は○○ さん宅から約0.8km、車で2-3分 の場所にあるため、除細動をせずCP Rをしながら病院に急行するよう、医 師から指示された。9時37分、現場を 出発。同40分、病院に到着。自宅での 処置開始から約5分後に は、呼吸と心臓の動きが わずかに回復していた。

病院収容後、急性心筋 梗塞と診断きれ、ただち に手術が実施きれた。入 院以来、○○さんの意識 は戻らず、入院5日めの 昼ごろ、○○さんら家族 は、医師から「99%、意 識の回復は難しい」とい われた。しかし、その日の夕方、痛み の反応が出、一転「助かる可能性があ る」と知らされた。7日めに意識が戻 り始め、その後、11月15日に行われた 検査で血管の狭窄が認められたことか ら、2日後にパルーン・パンピング方 式で再手術を受けたが、○○さんは快 方に向かい、12月3日に退院した。

早い手当、適切な処置、短い搬送時間

○○さんの事例は、好条件がそろっ たことが社会復帰につながったと、関 係者間でいわれている。
(1)発見が早いうえ、第1発見者の息子 さんによる人工呼吸が行われた。
(2)現場が鳳消防署から近かった。
(3)指示を出す医師が救急隊との通信に 慣れており、短時間に適切な指示をも らうことができた。
(4)現場から収容先の病院が近かった。
(5)胸の痛みは慢性ではなく、初めての ものだった。

など、救命のための好条件が重なっ たのだ。さらにもう一つ。堺市高石市 消防本部の救急救助課長、藤野三亀雄 さんが、後に馬場記念病院の担当医か ら聞いたところでは、救急隊によるラ リンゲアルマスクの装着が非常に的確 で、気道確保が効果的になされたこと が大きな要因だったという。

「ラリンゲアルマスクは3秒ほどで 装着できました。処置については、ラ リンゲアルマスクのこと以上に、"AB C"にのっとってCPRを継続してい たことがとくによかったのではないか と思います」(浦川さん〉

同消防本部では、 社会復帰に至った最初の事例

堺市高石市消防本部の管内で救急救 命士制度および高規格救急車を導入し たのは、1993年10月。同消防本部 では、救急救命士が特定行為をしなが ら搬送するようになって以来、同年10 月から'94年11月末日までの14か月間、 全救急隊11隊の活動状況を調査した。 その結果、救急救命士が乗務する救急 隊4隊において、心肺停止状態の傷病 者の取り扱い件数は70回。そのうち、 医師の指示を受けながらの特定行為は 39件であるが、意識を回復した人は9 人、3日間以上の生存となると、○○ さん1人だけ。○○さんが元気を取り 戻せたことが浦川さんをはじめ、救急 関係者にとっても、大きな自信につな がったことはいうまでもない。

現在、鳳消防署には、救急救命士が 現在4人おり、一隊につき2人の救急 救命士が乗務することになっている。 その1人である浦川さんは、消防署職 員になって以来、ほとんどを救急隊で 過ごしてきた。

「救急車に乗ることが好きでしたし、 同じ救急車に乗るなら救急救命士の資 格を取りたいと思い、大阪府立消防学 校に2期生として入校し、第3回救急 救命士国家試験に合格しました」

資格を取得するまでの出場では、泥 酔した人にタクシー代わりに救急車を 呼ばれるなどして(現場での緊張感が 薄れ)、「このままでは自分の活動がマ ンネリになってしまう」と考えること もあった。自分の気を引き締め直し、 初心に戻って勉強してみたい、このよ うなこともきっかけとなったという。

浦川さんは救急救命士になったこと で、これまで以上に"責任の重さ"を 感じるようになった。疲れもこれまで より感じてい る。しかし、救 急救命士として 活動を重ねるう ちに、医師や市 民が救急救命士 の活動を少しず つ理解してくれ るようになって いることを実感してもいる。

今後の活動としては、病院研修を定 期的に受けることと、救急現場で静脈 路の確保を行い、輪液の経験をもっと 積みたいと考えている。さらに、鳳消 防署の担当区域は高齢者の比率が高 く、事例として脳卒中や心筋梗塞、交 通事故等が多い。そのようなとき、周 囲にいる人間が何の応急手当も行って いないケースがよくみられることか ら、一般の人への救命講習を開き、応 急手当の大切さを広めていくことが、 今後の課題だと話す。

自転車に乗って週4回のリハビリ

一方、○○さんは、倒れたときに受 けた処置のお礼を述べるために、12月 16日、鳳消防署を一人で訪れるまでに 回復した。

「いまは、薬を10種類ほと飲んでい ますし、左足の踵が上がりにくいとい う後遺症があり、週4回リハビリに通 っていますが、心臓については一切、 問題がありません。病 院へは、大人用自転車では倒れると危 ないと思い、子ども用の自転車に乗っ て通っています」(○○さん)

また、本を見ながら見よう見まねで 初めて人工呼吸を行った○○さんは、 「自分のできることをやろうと努めま した。気が動転して何をしたかわから ないということはありませんでした。 ただ、父の胸に耳をあてたとき、心臓 の鼓動がかすかに聞こえたように思っ て、心臓マッサージはしなかったので すが、これはやるべきだったと思いま す」と当日のことを、振り返る。

○○さんには○○の趣味があり、 退院してからは、絵のコンクールに合 わせ、作品を描きあげて出品した。

救急救命士の活躍と的確な手術によ り一命をとりとめた○○さんと、その 救命活動を通して自信を得た救急隊 員。確かな救命の事例は、救われた者 にとっても救った者にとっても、この 上なくうれしい結果をもたらした。


本番さながらの災害訓練-災害現場から病室まで

金沢市 第42回日本災害医学会が11月18日、 19日の2日間にわたり、金沢市文化ホ ールで開かれ、医師、看護婦ら多数が 参加した。

今回は特別企画として、「災害現場か ら病室まで」をテーマに大がかりな災 害医療模擬訓練と公開講座が催され、 反響を呼んだ。

前半は6人のパネラーにより、わが 国の主たる易災害性の検証や医療救護 対応等経験に基づいた総論から、最近 の釧路沖地震や雲仙・普賢岳噴火災害 当時の生々しい医療救護活動や行政対 応の報告、また災害時の被害状況の正 確な情報の重要性等についての発表が 行われた。後半は、河北潟干拓地特設 会場に場所を移し、金沢医料大学を中 心に消防、警察、自衝隊、日本赤十字 社等関係機関との共同企画による大災 害模擬訓練が実施された。

今回の訓練は、集団災害の中でも局 地的な人為災害を想定し、災害現場で のトリアージから応急救護活動、さら に移送先の受け入れ病院での対応や、 入退院に至るまでの全経過にわたる全 国的にも珍しい訓練となった。

災害現場の想定は交通事故で、金沢 市湖南町の河北潟周辺道路で大型観光 バスを含む乗用車7台の多重衝突事故 により乗用車が炎上、多数の重軽傷者 が発生、うち約60人を金沢医科大学附 属病院に搬送し、医師、看護婦、事務 員等が一体となって処理にあたるとい った内容だった。

学会出席の医師や消防関係者、報道 関係者等約400人が見守る中、模擬 患者に扮した医科大学生約80人により 本番さながらの臨場感あふれる災害現 場が再現された。救急隊員等により重 症度の選別と応急処置が行われ、それ ぞれの状態に応じてヘリコプター、高 規格救急車、病院車、バス等で迅速に 同大学附属病院へと搬送された。

収容先の病院では、再びトリアージ が行われ、外国人患者、聾唖者、さら には混乱に乗じた泥棒 までが出現し、緊迫し た雰囲気の中にも笑い が起こった。

すべての病院は、有 事の際の災害時運営計 画の策定が重要であ る。今回のように現場 から病院対応に至るま での模擬訓練を、平時の診療活動を行 いながら実施した例はきわめて珍し く、学会関係者から高い評価の声があ がった。


運転中に心臓発作を起こした男性が警察官のCPRで蘇生

秋田県田沢湖町 昨年11月15日午前9時15分ころ、秋 田県田沢湖町卒田地内の国道46号線 で、近くに住む58歳の男性が普通トラ ックを運転中、心臓発作を起こした。 トラックは、道路近くの商店に激突し、 前部を大破。男性は事故直後に心肺停 止状態に陥ったが、偶然、後続する自 動車に乗っていた警察官2人の的確な CPRにより蘇生した。男性は額にか すり傷を負ったものの、命に別状はな く、12月中旬に無事退院した。一方、 警察官の2人は、11月16日に署長表彰、 12月17日には本部長表彰を受けた。

お手柄の警察官は角館警察署の高橋 幸雄巡査部長と、小笠原将一巡査部長。 同日、2人は別件の捜査に向かう途中、 事故現場に遭遇した。現場は、道路が 右へゆるいカーブを描いている場所 で、カーブ沿いには商店、その隣には 空き地があった。男性はまるでトラッ クを駐車するかのように空き地に入 り、商店に激突して止まったという。

異変に気づいて高橋さんらが近づく と、トラックは前部が大破し、男性は ハンドルと座席の間に挟まれて、ぐっ たりとしていた。喉が詰まったような うめき声をあげ、目、口ともに開いた 状態で、問いかけにも反応しなかった。 高橋さんらは、この男性をあわてて車 外に引っ張りだしたが、グッという声 をあげたまま顔面蒼白になり、心肺停 止状態に陥った。

高橋さんらは、無線で署に連絡する と同時に、救急車の出場を要請。集ま ってきた近所の人には、毛布と布団を 持ってくるように指示をした。その後、 男性を毛布で包み、仰向けにした状態 で、首の後ろにタオルを当てて気道を 確保し、CPRを施した。3-4分間 のCPRの後、男性はうなり声ととも に息を吹き返し、顔には多少の赤みが 戻り、目もわずかながら動いた。その 後、間もなく救急隊が到着した。

現場に出場した大曲仙北広域市町村 圏組合角館消防署救急隊の茂木優さん は次のように話す。

「救急隊が到着したときには、男性 はすでに蘇生していて、もうろうとし ながらも、話せるぐらいの意識はあり ました。やはり、心肺停止状態に陥っ てすぐにCPRを施したことが有効だ ったのでしょう」

この男性は心筋梗塞の持病があり、 いつもニ卜ログリセリンを持ち歩いて いたという。事故現場でも、高橋さん らは近所の人の話からこのことを知 り、薬を探したが、この日は持ってい なかった。事故当日はトラックの荷台 に荷物を積んで自宅に向かったところ までは覚えているが、事故当時のこと はまったく覚えていないという。

高橋さんは国家潜水士の有資格者 で、以前からCPRの知識はもってい たが、改めて昨年8月に雫石高校の田 沢湖地区PTAが開催した親子の交通 安全教室に参加した。そこで新たに救 急隊による講習を受けることで、心臓 マッサージの回数が以前習ったときよ りも増えていたりなど、多少変更され ているところがわかり、大変参考にな ったという。


ストレッチャー引き上げ装置を搭載した高規格救急車登場

北九州市消防局 北九州市浦防局では、昨年11月1日 から、電動式のストレッチャー引き上 げ装置を設置した高規格救急車〈オプ チィマ:三菱自動車(株)、帝国繊維 (株)〉を導入、運用を開始した。この引き上 げ装置は、北九州市消防局と帝国繊維 (株)が協力して開発したもので、現在、 特許を申請中である。

ストレッチャー引き上げ装置は、ビ ンツ社製の防振ストレッチャー台に付 けられたもので、モーターを使ってベ ルトを巻き上げる方式をとっている。 搬入の手順としては、
(1)ストレッチャー台にストレッチャー をひっかける
(2)モーターのスイッチを入れ、ベルト を巻き上げて、ストレッチャーをロッ クの10cm手前まで引き上げる
(3)人間の手でロックする となっている。

ストレッチャーの搬出も、ストレッ チャー台を車外に押し出した後、ボタ ン一つで容易にできる。搬出、搬入に 要する時間は10秒未満、人力で収容す る場合と大差ない。

オプティマの導入を図った北九州市 消防局警防部救急課の担当者は、 「ストレッチャーを押し上げて、傷 病者を救急車内に収容する大変さは、 以前から、隊員の意見として聞いてい ました。また、高齢化による労力の負 担も懸念されるため、もっとも負担が かかるストレッチャー収容作業を軽減 する目的で、今回、帝国繊維(株)と協力 して、電動式引き上げ装置を設置した のです」 と話している。

北九州市消防局には、ベンツ、日産 バラメディックなど、3台の高規格救 急車があり、オプティマは4台目であ る。オプティマを採用した理由には、 第1が道路事情の問題から、比較的回 転半径の小さなものが必要であったこ と、第2がストレッチャー引き上げ装 置の開発を引き受けた帝国繊維(株)の高 規格救急車が、オプティマだったこと などがあげられる。

引き上げ装置以外にも、スクープス トレッチャーの収納場所を回転式にし て、デッドスぺ-スを活用したり、収 納棚の組み合わせを考える際に、スラ イドトレイを患者の頭部にちょうど位 正するように設置したりなどして、北 九州市消防局らしさをだした。

スライドトレイを患者の頭部に設置 するというのは、救急救命士からの提 案であり、ラリンゲアルマスクの空気 を抜いたり、気道確保の際にチューブ に潤滑剤を塗ったりする作業台とし て、大変役立っているという。

「完成までには、帝国繊維(株)と現場 の救急救命士と相談しながら、作業を 進めました。引き上げ装置以外の仕様 についても、隊員の意見を大いに取り 入れています。運用開始後の評価とし ては、隊員の評判も大変よく、非常に うれしく思っています。しかし、まだ 改良すべき点は、たくさんあると思い ますので、今後も隊員のアイデアを取 り入れて、より使いやすい救急車の導 入を図っていこうと思っています」(担 当者)

現在、電動引き上げ装置を設置した オプティマは北九州市消防局以外で は、兵庫県の中播消防署と茨城県の那 珂瓜連東消防署に導入されており、今 後、りんくうタウンの大阪府立泉州救 命救急センターにも導入される予定で ある。


高規格救急車の愛称を一般公募-神戸市消防局

神戸市消防局は、救急医療週間行事 の一環として、高規格救急車の愛称を 一般公募した。厳正な審査の結果、最 優秀賞である高規格救急車賞には、神 戸市須磨区の主婦、岩井ますみさん(30 歳) の作品「愛 MEDIC KOBE」が選ばれた。救急の原点である人 間愛、ヒューマンな心を表現し、それ をベースに命名していることなどが選 考理由という。

岩井さんの作品以外にも、優秀賞が 3点、佳作が10点選ばれ、昨年11月9 日の「119番の日」に神戸市消防局 の会議室で表彰式が行われた。

神戸市消防局が愛称を募集したのに は、以下の4つの理由がある。 (1)市内全区への高規格救急車の配備を 記念、(2)救急制度およぴ救急車の適正 利用についての一般市民へのPR、(3) 車体側面の車名を消防局として統一す るため、(4)「HIMEDIC」(トヨタ 自動車(株)製の高規格救急車の商品名) という表示を、口-マ字統みして、「な ぜ、神戸市内を"姫路"という名前の 入った救急車が走っているのか」とい う問い合わせがあったためである。

(4)の場合は信じられないような話だ が、実話である。

これらを受けて同消防局は、「公募 ガイド」、神戸市市政ガイド、ダイヤ ル119の広報ラジオ局の放送などを 使って全国に愛称募集を行った。応募 総数は3千878点、締切日以降も応 募は続き、最終的には5千点ほどの作 品が集まった。

応募者の中には、北海道や東京など 全国各地の人がおり、年齢層も中学生 から高齢者まで、幅広いものだったと いう。

同消防局救急救助課の大西康弘課長 は、「公募当初は、1000点ぐらいの 応募があればよいほうだと思っていま したので、こんなにたくさんの方から 反応があったことに、大変驚いていま す」と話している。

現在、神戸市内を走るすべての高規 格救急車の側面に「愛 MEDIC KOBE」が表示されている。

新しい愛称に対する市民の反応はよ く、港町神戸らしいハイカラなネーミ ングで好感がもてる、という意見が寄 せられているという。


胸部に穿通性の外傷を負った患者の場合、いつ輸液処置を行うのがベストか。

胴体部に穿通性の外傷を負った成人 患者およそ600人を対象とした輸液 処置に関する研究が発表され(The New England journal of Medicine,27 October 1994)、 このような患者に対し てただちに静脈輪液を行うことは有害 となる可能性があることが示された。

37か月何に及ぷ研究において、それ ぞれの患者は、現場あるいは外傷セン ターで、標準のIV処置を受けるか、 または、IVアクセスだけは確保する が手術室まで輸液を行わない、という 二つのグループに無作為に分けられ た。

結果は、輪液処置を遅らせた289 人の患者のうち202人(70%)は命 が助かり退院したが、ただちに輪液を 受けた309人については、183人 (62%)しか助からなかった。また輪 液処置を遅らせた患者の方が退院まで の時間が早く、また感染や腎不全、肺 炎といった合併症の率も低かった。

この研究では、胸部に穿通性の外傷 を負った患者に対して止血前に血圧を 上げることは危険であると仮定した。

IV処置は血圧を上げるため、実際 には損傷を受けた動脈あるいは静脈か らの出血を増加させたり、せっかく形 成しつつある血塊を流してしまう可能 性があるとしている。

「問題は輪液による蘇生が有効かど うかではなく、その量、タイミング、 そしてどのような患者へ適用するかと いうことである」と、同論文は述べて いる。

しかし同時に、今回の結果だけから 別の種類の外傷患者の場合を推測すべ きではないとし、異なるカテゴリーの 患者と創傷を含めた同様の研究の必要 性も述べられている。

米国オクラホマ州タルサにある聖フ ランシス病院の研究部長で、本研究を 指揮したビッケル医師は、 「基本的に今回わかったことは、積 極的な輪液による蘇生は遅らせるべき だということです。私たちが患者に処 置していることの多くには、まだ正式 な研究がなされていません。結果がよ りよくなることを示す確たる証拠に基 づいて、患者に何をすべきかを確立し ていかなくてはいけません」 と話している。(訳/三上 斉)


大規模災害に備え、連絡調整会議を設置-宮城県・仙台空港

昨年11月15日、仙台空港における医 療救護体制を整備するための連絡調整 会議が、宮城県庁で開かれた。

宮城県では「宮城県地域防災計画」 における「医療救護計画」を円滑に進 めるための手始めとして、同会議を設 置した。これは、昨年4月に名古屋空 港で起きた中華航空機事故を契機とし て、仙台空港での医療救護体制の整備 が急務となったためである。

仙台空港における事故に関しては、 同空港が位置する名取、岩沼の2市と それに隣接する仙台市、空港事務所の 間で「消火救難活動に関する協定」が 昨年9月に締結されている。

しかし、救急医療体制に関しては、 傷病者の受け入れ医療機関や、医療救 護班の編成・派遣の方法の基準が決め られていないなど、医療サイドとの調 整ができていないのが現状だった。

そこで、多岐にわたる関係機関を網 羅し、総合調整機能をもつ組織が必要 になったのである。

同会議は前述の県、空港事務所、3 市、各消防本部、宮城県医師会など、 20団体で組織され、医療救護、救急搬 送、総合調整の3部会から成る。

医療救護部会では医療救護班の派 遣、現地救護所の設置、救急搬送部会 では、出場体制の整備、現場の指揮命 令系統の確立などを行う。総合調整部 会では、各部会の連絡調整を行うほか、 医療従事者・負傷者の搬送手段の確保、 情報連絡網の整備などを協議する。

また、今年3月までに、(1)災害時の 医療救護に関するマニュアルづくり、 (2)連絡網の整備、(3)医師の費用弁償な ど医療救護班派遣に関する宮城県と宮 城県医師会の協定を作成する方針であ る。

宮城県では今後、同会議で協議した ことを地震や、台風、列車事故など、 他の大規模災害時にも応用できるよう にしていく方針であるという。


りんくうタウンに救命救急センター誕生

昨年10月3日、大阪府立泉州救命救 急センターが、関西国際空港の対岸、 りんくうタウンに開院した。通常の救 命救急センターとしての機能以外に、 航空機事故にも対応できるよう、救難 救護・消火訓練演習や、「航空機事故に かかわる連絡協議会」に参加するなど の活動を続けている。

同センターのある大阪府南部泉州地 域にはいままで三次救急医療施設はな く、重症患者は、医療圏の異なる大阪 狭山市の近畿大学医学部附属病院や、 和歌山県の医療機関など、遠方への搬 送を余儀なくされていた。しかし今回、 同センターができたことで、関西国際 空港を含む大阪府南部泉州地域の救急 医療の環境は整ったといえる。

鉄筋コンクリート4階建ての同セン ターには、一般病室が22床、ICUが 8床あり、最新鋭の医療機器が整備さ れている。1997年4月には市立泉 佐野病院が最上階に新築移転し、その 最上階にはヘリポートも設置される予 定だが、それまでの間にへり輪送が必 要となる可能性は高い。この点につい て、同センターの横田順一朗所長は、 「現在、りんくうタウンにある空き地 を、仮設のヘリポートとして使用でき るよう、関係各機関と調整中である」 と話している。

関西国際空港のお膝元に位置する同 センターは、同空港で航空機事故が起 こった場合、「航空機事故緊急計画」 に基づき、メディカルコマンダーとし て、トリアージを行う職具を派遣する とともに、最重症患者の受け入れを行 うことになっている。

開院前の6月末には、同空港で行わ れた救難救護・消火訓練演習にも同セ ンターの職員が参加した。現在も1か 月に1度は「航空機事故にかかわる連 絡協議会」を開いて、国際空港の安全 の一環を担う救急医療施設として、緊 急の事態に備えている。


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