この原稿は救急医療ジャーナル'94第2巻第4号(通巻第8号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

主役登場

所属を超えた連携プレーJR東京駅で倒れた男性を救う

大槻充司さん(東京消防庁蒲田消防署空港出張所)
深見宣昭さん(東京消防庁丸の内消防署有楽町出張所) さる4月23日午前9時すぎ、JR東京駅で78歳の男性が意識不明で倒れた。幸い なことに、その場には偶然、医師と救急救命士が居合わせ、的確な応急処置が施さ れ、その男性は一命をとりとめた。

お手柄の救急救命士は、東京消防庁蒲田消防署空港出張所勤務の大槻充司さん(3 0)。大槻さんは、その日、24時問勤務を終え帰途についていた。

居合わせた医師と2人でCPRを実施

大槻さんは、たまたま乗っていた電車が東京駅で止まった際、ド アの前で男性が倒れていて、別の男性が心臓マッサージを施しているのを目にした。 日頃から、救急救命士としての業務の中で、バイスタンダーの重要性を痛感してい た大槻さんは、このとき何の迷いもなく電車を飛びおりて救急救命士であることを告 げ、救急活動に加わった。心臓マッサージを行っていた男性は兵庫県芦屋市の医師池 谷知格さんであった。

倒れた男性は心肺停止状態にあり、非常に危険な状態だったが、医師は心臓マッサー ジを、大槻さんは人工呼吸を受け持ち、救急隊の到着を待った。その後すぐ丸の内消 防署有楽町出張所の救急隊(深見宣昭隊長、篠原真平隊員、黒木良一隊員)が到着 し、深見隊長が人工呼吸、篠原隊員が心臓マッサージを引き継ぎ、傷病者は救急車へ 搬送された。

このとき、救急車内で除細動器を使った治療が必要になることが予想さ れたため、深見隊員は医師に救急車への同乗を依頼。快諾を得て、心強く思っていた とにろに、さらに大槻さんから協カの申し出があった。

「心肺停止という緊急事態の 中で、救急の大変さを知っているがゆえの申し出だと思いますし、私どもにとっては 応急処置のできる仲間が手助けをしてくれるということは頼もしいことですから、喜 んで申し出を受けました。」と深見隊長は話している。

救急車内での作業分担とし て、当初、大槻さんは、心電図モニターのパットを装着し、モニターの監視を受け 持つことになっていたが、救急車搬送時から人工呼吸を行っていた黒木隊員が車の運 転に移ったため、合わせて人工呼吸も継続することとなった。

深見隊長は、総合指令 室の救急指導医に、特定行為に関して現場医師の指示に従う旨を連絡した。心電図モ ニターには心室細動がみられたため、池谷医師の指示に基づき、除細動を実施した。 その結果、心拍が回復し、心臓マッサージは中止された。続いて、静脈路確保を実施 し、現場を出発した。搬送途上、自発呼吸もみられたが、微弱なため、人工呼吸は救 命救急センター到着まで継続した。

現場で大切なのは勇気

今回のケースは幸運が重なった大変珍しいケースといえるだろう。傷病者が倒れたと ころに偶然、医師と救急救命士が居含わせ早期段階でのCPRが行われたこと、現場 が巨大な東京駅の中でも有楽町出張所に近い丸の内口寄りの在来線のホームであった こと。さらに、階段を登ったすぐのところであったことなどから、救急隊の到着、救 急車への搬送が速やかに行われたこと、医師の同乗により、特定行為実施の指示をそ の場ですぐに受けることができた、などである。

しかし、肝心なことはそれだけではない。今回の応援劇で大槻さんは「非番で、しか も他の隊に加わっているという意識はほとんどありませんでした」というぐらい他の 隊の中での共同作業に対して何の抵抗もなく臨めたという。どこの隊で活動しよう と、救急救命士においてなすベきことは同じなんだということである。

大槻充司さん は1993年10月、救急救命士試験に合格したばかりのフレッシュマン。消防隊員 として救急の大変さ、大切さを目の当たりにし、自分も一員となってやってみたいと の思いから救急隊員を志望した。そして今後さらにその重要性が増し、急速に進歩し ていくであろう救急医療の最先端で活躍するために、救急救命士の資格を取ったとい う。

普段の大槻さんは、救急活動のほかに東京都民に対する啓蒙活動を行っている が、心臓マッサージや人工呼吸などの理論を教えるときはいつも、「現場で大切なの は勇気です。処置をマニュアル通りに行うことばかりに固執せず、とにかく行動を起 こしてみること、それが一番大切です」と強調していると話してくれた。

大槻さん は、救急事態で現場に駆け付けたときも傷病者の家族に対して、救急救命士とは何 か、特定行為とは何かなど、折りにふれてその場で説明をする。このような説明に よって傷病者の家族も安心するし、救急活動に対しての関心が高まるからである。現 在、大槻さんは今度新しく救急車に搭載される心電図モニターを操作するため勉強中 である。多様化する救急医療資器材や日々進歩する医療に対して、知識や技術がさ ぴつかないよう日夜努カしているとのことである。

所属を超えた連帯プレーの大切さ

いつも前向きな大槻さんだが、今回のことに関し ては、「自分が加わることでかえって周りの人に迷惑をかけることにはならないか、 自分だけが一人走りしているのではないかという不安な気持ちも多少ありました」と も語っている。私服で、所属隊を超えて協カするということに対して一抹の不安が あったのだろう。だがこの不安な気持ちを一蹴したのは深見隊長の「手伝ってくれ」と いう快い返事であった。この言葉で大槻さんは安心して思う存分の応援ができたとい う。

一方の深見隊長も「私服を着た救急救命士が名乗り出てきてくれたうえ、最後ま で傷病者搬送に協カしてくれたことは大変大きな戦カとしてありがたかった」とい う。

深見宣昭隊長(52)は2年前に救急救命士資格を取得した。50歳になってか らの勉強、それまでの活動とは比ベものにならないほど複雑化した業務内容、新しい 資器材への対応等いろいろなことを乗り越えて現在に至っている。それでもまだ学ば なければならないことは多くあり、これからも学習の日々は続くだろうという。とっ とつと話すその言葉の中に深見さんの謹厳実直な人柄がしのばれた。

若くハツラツとした大槻さんとベテランの味のある深見隊長・・・それぞれがその個 性を生かして活動を続けている。そんな彼らを支えているのは、ほんのささいなこと である。「救急救命士にとってうれしいことは自分が処置をした傷病者の方が元気に なることです。一番うれしいことはその方が社会復帰することです」そういった2人 の顔はまぎれもない救急救命士の顔だった。


救急現場での経験生かし人工呼吸器を改良

金沢市 金沢市広坂消防署泉野出張所の高多虎男消防士長は、「重たい」「いざというとき両 手を使うことができない」など、いくつかの問題点があった人工呼吸器セットを現場 サイドから改良、「背負い型携行式人工呼吸器セット」を考案して、このほど全国消 防協会長賞を受貸した。

同消防本部などで従来使われていたセットは、酸素ボンベや吸入器をジュラルミン ケースに収めた手下げ式で、総重量は13kg。長時間持つにはかなりの重さだし、い ざ使うとなると片手がふさがってしまう。これを傷病者の搬送時に使用するには、隊 員1名が呼吸器専門の役割を果たさなければならない。このような状態では応急処置 を継続しながらの傷病者搬送は容易でなく、さらに一般住宅などの狭い通路や階段な どでは処置を中断せざるを得ないこともあった。

また、加湿器についても、従来のも のは、傾きや揺れ等があった場合、約2秒ほどで中の水が酸素マスク側へ容易に流れ 出し、気道に流れ込むことが懸念されていた。そのため、使用中は常に水平に保たな ければならず、傾斜地等での搬送は難しいものだった。

高多消防士長は、現場での体験を通じ、日ごろから多種多様な救急現場(とくに一般 住宅向け)に速やかに対応できる救急資器材の必要を感じていた。そこで今回、人工 呼吸器セットについて、先に述ベたような課題の解決に取り組んだという。

思いつい たのが昨年の4月、それから3〜4か月を費やして、泉野出張所の当時の救急隊員や 救急救命士など、現場で活躍する人々の生の声を取り入れ、討論を重ねながら改良を 進めた。

とくに難しかったのは、既存の資器材を使用しつつ新たな付属品を加えて、 いかに機能的に現場に即した改良を行うか、だったという。

既存の器材の中で改良が 一番必要だったのは加湿器である。揺れや傾きに弱い点にっいては次のような3種類 の手作り付属品を付けることで解決した。

(1)飲料水のぺットボトルにアルミの筒を 付けて作られた内防水板、外防水板、

(2)加湿器内の水量を有効量のみ確保し、その 量を調整するために器具の底部に設置するゴム製の水量調整板、

(3)吸入マスク側の 吹き出しロに付けられた金属メッシュ、

以上の小道具を使用することで加湿器は傾け たりひっくり返したりしても水が流れ出ないようになった。その結果、酸素ボンべを 背負う形にし、その他の資器材をウェストバッグ(サイクリングバッグを改良)に収 納するという新しいスタイルをとることが可能になり、両手を自由に使えるように なった。ウエストバッグは両端を腰べルト上部のバックルに取り付け、着脱可能に し、ふらつき、ねじれを防止している。さらに、バッグの中の器具の配置を工夫した ことで、従来必要だった、ジュラルミンケースから器具を取り出したり、組み立てた りするといったロスタイムもなくなったという。

たとえば、バッグの一部は透明のビ ニールの窓になっており、外部から加湿状態が容易に確認できるようになっている。 バルブはバッグの外に出ているレイアウトなので人工呼吸か、酸素吸入かの選択は瞬 時に行える。流量計のメモリを0にしておけば、人工呼吸ならマスクをかぶせ、ボン ベのフタを開けるだけで十分である。

この新しい呼吸器は、現在までに数回使用され ているが、使用期間がまだ短いため、有効なデータを得るまでには至っていない。し かし昨冬に行われた雪中訓練で酸素吸入しながら同セットを使用したところ、処置も スムーズに行われ、歩行も容易であったという。

一分一秒を争う救急の現場で可能な限りの処置を行おうという努カとそれを実行する ための創意工夫、これからもいろいろな方面でどんどん試みてほしい。


フェリーなど長距離航路の旅客船にも救急用医薬品を装備

この4月、運輸省は、外洋を航行し、片道300Km以上の長距離航路を走る旅客 船に、救急用医薬品と医療用具を備え付けることを決定した。国際線の全旅客機で は、すでに昨年から救急用医薬品が搭載されており、今回の決定は、空についで海で も救急医療体制を整備するための第一歩となる。

これまで旅客船の中で急病人が出た場含、医師が同乗しているときは医師に救急処置 を依頼する、もし医師がいなければ、最も近くの陸上の医療機関に無線連絡絡を取 り、緊急入港して治療を受けるなど、いくつかの方法で対処してきた。

しかし、長距離航路の場合、旅客船は沖を走っているので、緊急入港するまでに時 間がかかり、救急車で病院施設に搬送しても、時によっては処置が間に合わず不幸な 結果となることもある。このようなとき、もし適切な医薬品が船内に備え付けられて いて、しかも医師が同乗しており、適切な救急処置が行われていれば、一命を取りと めることができたかもしれない。

近年、旅客船内で年間に発生する急病人の数は平均 して300人前後と、かなりの数を示している。このうち死亡者数は平成3年では2 人、平成4年は5人となっている。死亡原因となる疾息は心臓疾患が最も多く、平成 4年度の死亡者5人のうち心不全が3人、心筋梗塞が1人、脳内出血が1人となって いる。

今回、旅客船に備え付けが認められた救急用医薬品は〈利尿降圧剤〉、〈冠動脈拡 張剤〉、〈血圧上昇剤〉、〈副腎皮質ステロイド剤〉、〈抗アレルギー剤〉、〈ブ ドウ糖溶液〉など合わせて11種類。

医療用具は、〈聴診器〉、〈血圧計〉、〈注射器〉をはじめ として〈点滴セット〉、〈エアウェイ〉、〈バイトブロック〉、〈エアーバック〉など15種類となって いる。

遅くとも9月には東京ー釧路、東京ー沖縄、新潟ー小樽、大阪ー宮崎など46航路を 走行する長距離フェリーの旅客船に装備される予定である。


アメリカでCPR用器具を規制するガイドライン作りが進行中

米食品医薬品局(FDA)は、ポケットマスクやフェイスシールドといったCPR用 の器具を規制するガイドライン作りを進めている。詳しい内容のつめはこれからのよ うだが、一部の器具は処方箋がなければ購入できなくなるとのことである。

FDAがこれらの器具の規制を計画していることが明らかになったのは、3月にFD Aの役人があるCPR器具メーカーにあてた手紙がきっかけである。その手紙による と、すでにガイドラインの草案は作成済みで、この種の器具は必ず一方弁を持たねば ならず、また、「救急用CPRおよび本器具の使用について正しくトレーニングを受 けた人が使用してください」とのラべルを貼らなければならなくなる。

さらに、患者 のロ腔内に器具の一部が入る場合や酸素が使用できるようにデザインされている場合 には、購入にあたって処方箋が必要、としている。

しかし、その後のFDAの話では、ガイドラインはまだ最終のものではなく、ロ腔内 に入る部分が短い器具については、処方箋がなくても販売できるように変更される可 能性が高いという。

では処方箋不要の器具はどれだけロ腔内に入ってもよいのか、ま だ結論は出ていないようだが、ロ腔内に入る長さが2cmまでということになるので は、とFDAは述ベている。

ガイドラインの発表はまだ数か月先のようであるが、市民によるCPR器具の入手を 困難にするような今回のFDAのガイドラインに対しては、各方面に心配が広がって いるようである。


救急車到着まで5分 人命を救うためにだれが何をするか

(財)東京救急協会設立 東京都では平成5年ほ月に、すベての救急車に救急救命士が搭乗する体制が整うな ど、プレホスピタル・ケアへの取り組みが積極的になされてきた。

しかし、さらに救命率を高めるためには、救急車が現場に到着するまでの間に、その 場に居合わせた人が傷病者に対して的確な救命手当を施すことが不可欠である。この ため東京では、この6月1日、都民に緊急の際に必要な技術の普及や情報の提供を行 おうと、財団法人「東京救急協会」が設立された。

東京の場合、119番通報から救急車の現場到着までに、平均5分12秒の時間を要 している。通報時に呼吸が停止したと仮定すると、ドリンカーの生存曲線によれば、 5分後に救急救命士が応急手当を始めても、蘇生率は25%にとどまってしまう。倒 れている患者を発見するのに時間がかかったり、通報までに間が空けば、この数字は さらに低いものになる。

救命率を上げるためにどうしても必要なのは、その付近に居 合わせた人(バイスタンダー)が一刻も早く人工呼吸や心肺蘇生、止血を行うことで ある。しかし、欧米などに比ベると、実際に応急手当を実施したケースはまだ少ない のが現状である。

東京消防庁では昭和48年の救急条例の制定から、応急手当の講習会を継続して行っ てきた。1人でも多くの都民に、知識と技術を身につけてもらおうというのが狙いで ある。しかし、年間41万件の救急出場件数を抱える現場の救急隊には、講習会の実 施は業務上、大きな負担となっていた。

また昨年、自治省消防庁から応急手当の普及 啓発活動の推進に関する通達が出されたこともあり、この部門の業務を専門に行う機 関の設置の必要性が高いとして、今回の(財)東京救急協会設立が実現した。これに よって救急隊の負担を軽くすると同時に、技術集団として救急隊長経験者や応急手当 指導の専門家などの人材を活用することによって、講習会の回数の飛躍的な増加が可 能となった。

東京消防庁は平成5年度中に44万人を超える都民に講習を行っている。この中で、 一定技能が修得でき、認定証等が交付される講習を受けたのは約1万6000人。同 協会ではこの認定証の交付対象となる講習会を平成6年度に4万人を対象に実施する としている。

内容としては、一般コース、救急指導者コース、救急事業従事者コース と、大きく分けて3つのコースが用意され、家庭内の応急手当から救急サービスの専 門家まで、幅広くカバーしている。

講習会への参加呼びかけは市町村の広報誌などを通じて公募するほか、各消防署で事 業所や町会に働きかけをしていく。同協会でも駅やデパートなどを対象に、社員教育 の一環として受講をすすめている。こうした講習の必要性は認識していても、なかな か行動に移せない事業所にとっては、よいきっかけとなるだろう。

同協会の主な業務のうち東京消防庁から委託されたもう一つの活動に、東京都民を対 象にした「救急テレホンサービス」がある。休日および夜間の診療施設や救急医療機 関の案内、救急に関する相談などを24時間体制で受け付けているものだ。これは、 以前は東京消防庁が行っていた業務だったが、年間30万件におよぶ相談を同協会へ 委託することによって人手不足も解消され、よりきめの細かいサービスが提供される ようになった。

応急手当のレベルアップを図るための、救急に関する幅広い調査研究 も同協会の重要な事業である。平成6年度の研究テーマは、応急手当時の感染予防対 策。すでに同協会では応急手当用のサポートグッズを用意し、講習会の受講者には、 仕入値で販売している。このグッズには、手軽に身につけられるコンパクトなタイ プ、持ち運びタイプ、常備タイプなど5種類のセットがあり、どのタイプにも人工呼 吸用のマスク、使い捨て手袋が含まれている。感染防止などの衛生面を重視した内容 といえよう。今後の研究によって、さらに衛生的で使いやすい用具の開発が期待され る。

「感染防止用具の普及は、衛生面からも、手当の際の抵抗感を少しでもなくすために 必要だと思う。しかし、用具の問題と同時に非常に大切なのは、できるだけ多くの人 に講習を受けていただきたいということ。その次に大切なのは、実際の救急現場に遭 遇したときに、講習を受けた方に習得した技術を発揮してもらうこと。せっかく講習 を受けたのだから、尊い人命が失われることのないよう、素早い対応をお願いした い」(東京救急協会・中西総務課長)。

同協会では、これからも1人でもたくさんの人に受講を呼びかけ、講習の成果を救急 現場で活用してもらえるような環境作りを積極的に行っていきたいとしている。


母体・新生児の救急体制充実を目指して搬送マニュアル作成

山ロ県環境保健部 山ロ県環境保健部では「母体・新生児救急搬送マニュァル」を作成し、県内の医療施 設や消防本部に配布した。

母体と新生児の救急搬送体制を充実し乳児死亡率を改善するため、消防本部に一層の 協力を求めながら県内のシステムづくりに着手したものである。

「安心して生み、すこやかに育つ環境づくりを目指して」という副題を持つこのマ ニュアルは、搬送先施設の選定・連絡、搬送手段の選定、医師等の同乗、搬送時の処 置などの項目が設けられ、現行の搬送手段の基礎部分を標準化する方向でまとめられ ている。

中でもとくに力を入れているのが、ドクターカー機能の導入と救急搬送体制の広域化 である。母体・新生児の救急搬送は、搬送元施設の医師または、医師が不可能なとき は助産婦(看護婦)が原則として同乗するとしている。しかしながら、医師などの同 乗が困難な場含や専門医の応援が必要な場合に対応するため、搬送先施設が、搬送先 消防本部の救急車で出動できるドクターズカーの機能を導入した。これによって、従 来の2病院に加え、今回新たに2病院が取り組むことになった。

次に、搬送体制の広域化である。原則として、消防本部は管内の住民のみを搬送対象 者としている。しかしながら、母体・新生児医療の現場では、広域的な搬送体制を整 備する必要性が指摘されてきた。そこで、管外の搬送元施設からも転院搬送の要請を 受ければ、搬送先施設の消防本部が搬送先施設の医師搬送を搬送元に行い、含わせて 患者を収容搬送するなど、全県一区で救急車を運用できる体制を確保した。マニュア ルには、搬送元救急隊と搬送先救急隊の連絡方法や搬送方法もきめ細かく決められて おり、状況に応じた相互応援体制の整備を図っている。

県環境保健部では、県内の9か所の環境保健所と下関市立保健所に周産期救急搬送協 議会を設置し、地域の現状を踏まえマニュァルの活用を推進していく予定だ。7月1 日からシステムをスタートさせ、具体的な事例を通して改善、整備に努めていく方針 である。


EMT隊員によるエイズ患者差別事件への1つの解答

アメリカ・フィラデルフィア市 映画「フィラデルフィア」でHIVに感染した弁護士役を好演したトム・ハンクスが アカデミー賞を受賞した翌朝、全米の新聞はまさに映画の舞台フィラデルフィア市 で、あるエイズ患者差別事件が決着したことを報じた。

これは身体障害者条例(The Americans With Disabilities Act)によって訴えられた最初のエイズ関連のケースで、フィラデル フィア消防署(PFD)の2人のEMT隊員が告訴されていた。この2人の隊員は、 患者がAZT(アジドチミジン:抗HIV剤)を服用していることを知るや、その患者 はエイズであると大声で周りに知らせ、処置するどころか担架に乗せることすら拒否 したとされている。

和解の条件としてフィラデルフィア市は、PFDの隊員にHIV感染者を処置するよう指示すること、エイズ患者およびHIV感染者を差別した職 員を懲戒に処すること、また、エイズ問題への意識を高めるプログラムをPFDの消 防士、パラメディック、EMTのために設けること、に同意した。さらに、訴えを起 こした患者に対して、市が1万ドルの損害賠償を支払うこととなっている。

PFDのメディカル・ディレクターは、「非常に残念な出来事です。しかし、市は前 向きに取り組んでいます。司法省は他の地域への前例としてこのケースを受け止めた と思います」と述ベている。

フィラデルフィア保健局エイズ・プロジェクトのディレクターであるスコット氏が率 いる対策グループが、新しいトレーニングプログラムの概略を司法省へ提出すること こなった。「何年もの間、消防隊員に対しエイズおよび患者を処置するときの一般的 注意についてトレーニングしてきました。今回は感染とその予防の問題のみならず、 患者への思いやりといったことまでも教えるカリキュラムを準備しています」とス コット氏は述ベている。(訳/三上斉)


パトカーに救急医療用具を装備

新潟県 群馬県大泉警察署では、この4月から、簡単な救急医療用具を入れた「セーフティ バッグ」を3台のバトカーこ装備した。バッグの中身は三角巾、湿布薬、包帯、消毒 液など9点で、医療行為に至らず、救急車が現場に到着するまでの間に簡単な応急処置 が施せるものを選定した。

これまではパトカーが救急車より早く、事故・事件現場こ到着していても、けが人に 対して医療用具を使用した応急処置をすることはままならなかった。このため現場の 警察署員らからパトカーヘの医療用具搭載の声があがった。おりしも、道路交通法の 改正に伴う免許取得時の応急救護処置講習義務化など、救急救護への関心の高まりも あり、パトカーへの「セーフティバッグ」の装備を実施することこなった。 同署内こおいて、この装備は住民サービスの一環として当然なされるベきもの、と認 知されているとのことだ。

救急用具をパトカーこ装備している警察署は全国では珍し くないかもしれないが、大泉署で使っているセーフティバッグは背負い式になってい る。これは手下げ式よりも両手が自由に使えるということのほか、河原や山間部、た んぼの中など車両の入れない所へも容易に持っていけるという利点がある。また手下 げ式だと、つい車中に置き忘れそうになることもあるがセーフティバッグだと必ず署 員が背負って現場に向かうことができる。

今回の搭載にあたり、大泉署ではバッグを装備する際に説明会を開いたが、各署員レ べルでは、元看護婦である同僚の妻に治療方法を聞いたり、巡回の医師に相談したり するなど、自主的な動きがみられ、救急救護への関心の高さをうかがわせたという。

同署では、道路交通法の改正にともない一般の人が救急現場で応急処置を施す機会が 増えることから、民間人の車両についても何らかの形で応急処置のできる道具の装備 を呼びかけていきたいとしている。また、応急処置については警察学校で署員全員が 学んではいるが、機会があれば応急処置要領についてさらに学ぶ場を設けたいとのこ とである。


救急蘇生法の講習に取り組む

〈星陵心臓病友の会〉 仙台市にある(星陵心臓病友の会)では、昨年から「救急蘇生法」の講習会を定例の 検診会で実施している。〈星陵心臓病友の会〉は心臓手術を受けた患者と家族で構成 される財団法人で、1971年から活動を続けている。

同会は「正しい知識があれば、心臓病は決して恐ろしい病気ではない」ことを多くの 人に知ってもらうことを目的に発足した。心臓手術の術後管理と心臓病に関するさま ざまな相談を受けているが、このほど仙台市に心臓病の検診や診察、術後管理を行う 診療所が開設されたばかりである。

同会では、さまざまな活動を行っているが、なかでも熱心に取り組んでいるのが「救 急蘇生法」の講習である。講習会が行われるのは、同会が以前より実施している地方 の検診会の会場で、白石、亘里、石巻、瀬峰、志津川、栗駒など宮城県内の7か所。 参加者は多いところで約100人前後になる。

訓練用の人形を使い〈マウス・トゥー・マウスによる人工呼吸法〉と〈心臓マッサー ジ〉の救急蘇生法を医師の指導の下に実施する。

万が一、心臓発作で倒れたとき、3〜5分以内に心臓が回復しなければ命が危ない。 〈星陵心臓病友の会〉の会員たちは、このような救急蘇生の重要さを極めて強く意識 している。〈星陵心臓病友の会〉の事務局では、「救急蘇生法が実際に役立った経験 はまだありませんが、この講習を通じて救急蘇生法を普及させることに少しでも役立 つことができればと思っています」と話している。


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