この原稿は救急医療ジャーナル'93第1巻第3号(通巻第3号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

女性や若年層に急性アルコール中毒が増加

東京消防庁 東京消防庁がまとめた「平成4年救急活動の実態」で、昨年1年間の都内の救急出場は40万8 千864件で、1分17砂に1回、都民28人1人が利用した計算になることがわかった。

出場件数は毎年記録を更新しているが、顕著な傾向としてあげられるのは、65歳以上の高齢 者が増えていることと、若者や女性の急性アルコール中毒の症例が増えていることである。

高齢者については、前年比約6千人増の9万2千736人で、全体に占める割合も22.4%と増え続け ている。

また、急性アルコール中毒の搬送人数は、前年比1149人増の1万271人(男7:女3)で、その65% を10歳代20歳代が占め、20歳代の女性の増加がとくに目立った。

日本のアルコール消費量は戦後一貫して増え続け、1992年度には1960年当時の約4倍の969万5 千300kリットルにのぼった。その背景として指摘されているのが、一人当たりの消費量の増加とと もに、若年層や女性にみられる飲酒人口の広がりである。若者、とくに女性の飲酒人口の増加 の背景には、飲酒のファッション化を指摘する声が強い。かつて存在した女性とアルコールと の垣根が取り払われ、すぐ手の届くところに酒類がある環境も見逃せない。

また、日本人の約4割は、アセトアルデヒドを分解する酵素を持っていない、いわゆる「飲め ない体質」といわれている。しかし、自分の体質や酒の致死量を知らない若者が、コンパの席 で「一気飲み」と称して無理して飲んだり飲ませたりするケースも後を絶たない。

かつてアルコールに縁の薄かったはずの女性や若年層が、急性アルコール中毒で搬送される ことが急増しているとすれば、飲酒事故についての意識を高める方法が必要といえそうだ。


中高生ばかりでなく、小学生や幼稚園児もCPRの練習にチャレンジ

CPR教育が全国的な広がりをみせてきた中、夏休み前に各地の小中高校や幼稚園で熱心なCPR 講習会が開かれた。

たとえば、茨城県笠間市立東中学校(村上武校長)では、3年生43人が「ゆとりの時間」を利用 して、応急手当の講習会を受けた。

指導にあたったのは生徒の父兄であり、日本赤十字社茨城支部の蘇生法・救急法指導員の植 木敏夫氏。「ゆとりの時間」に適切な応急処置の講習を組み込んではどうかという提案も、父兄 と先生との懇談会の席で持ち上がり、今回の開催につながったという。

生徒には事前に「どのような応急手当を知りたいか」のアンケートを取り、その結果、上位 だった「骨折・捻挫時」「大量出血時」、また土地柄を反映した「まむしに噛まれた時」などに 加え、訓練人形を使った人工呼吸法などが指導された。

同校3年の学年主任、小池三郎教諭は、「ゆとりの時間は50分ですが、放課後まで延長して2 時間行いました。技術の習得には十分とはいえませんが、実際に訓練に参加したことで人命の 尊さ、応急手当の重要性は体得できたようです」と、話している。

生徒たちの反応は、「真剣そのもので、もっと知りたいという希望が多かった」とのこと。同 校では、今後も保護者同伴の講習会や、他学年にも対象を広げるなど検討を重ね、意義のある 講習会を続けていきたいとしている。

夏休み期間は水難事故が多い。そのため水難者の救急処置講習会も各地で盛んに行われた。 山口市の2つの小学校のPTAでは、7月8日、合同の「救急法講習会」を実施した。両校合わせて 約80が参加し、水難事故が発生したときの人工呼吸法など緊急時の救急法を学んだ。

また、徳島市の城南高校(森通男校長)では、全校生徒が徳島東消防署員から水難事故に対す る心構えの説明を聞いた後、人工呼吸法や心臓マッサージなどを二人一組になって練習した。 さらに、同市・内町幼稚園(中山昌子園長)では、徳島東消防署員が、園児にわかりやすいよう に14枚の絵を使い、プールで泳ぐときに気を付けることなどを説明した。


全米を統轄する新しいEMS組織全米救急医療サービス連合誕生

今春、新しいEMSの組織、NEMSA(National Emergency Medical Services Alliance:全米救急 医療サービス連合)が設立された。

本組織の誕生は、さまざまなEMSの組合や団体、連合、協会などの組織に分断され、長い間意 見が対立してきたアメリカの救急医療サービスの転換期を意味する歴史的な出来事だといわれ ている。

本年4月、EMS関連の33の団体代表者がバージニア州アーリントンに集合し、EMSの連合体を組 織し、所属団体間の協力や共同研究を推進し、一般市民への指導、専門家や行政向けの教育を 奨励していこうというNEMSA設立のための目的について検討した。この集まりには、主要なEMS の団体はむろんのこと、米国小児科学会、米国呼吸療法学会などの参加もあっNEMSAの運営委員 会会長に選ばれたのは、メイン州のEMSディレクターであるマクギニス氏。当日、NEMSAの設立 は満場一致で決定、組織の主旨や目的、運営委員も選出された。運営委員は現在、会則づくり や組織構成などの準備に追われている、という。

ノースキャロライナ州のEMSディレクターで、全米EMSディレクター協会会長でもあるベイリ ー氏は、「自分たちの総意を代弁する組織を作り、EMSの声を一つにまとめる必要があることを、 多くの団体が認識したことが、今回のNEMSA設立の最大の理由である」と述べている。

NEMSA設立に至る前にはさまざまな経過があった。たとえば、ベイリー氏は昨秋、全米EMSデ ィレクター協会と全米救急医協会のリーダーたちを集めて会議を開き、アメリカ全体の意志統 一グループの結成の可能性について議論した。全米EMT協会と米国救急医協会はすぐにこの案に 賛同し、これら4団体はこれまで数回検討を続けてきた。

マクギニス氏はこの4月の会議に招待された団体は100以上であり、代表を送ってこなかった 団体がかなりあったが、それらの団体もまたNEMSA加盟には興味を示している、と話している。

また同氏は連合の資金面に関して、「組織を管理・運営していくための援助が必要である」と し、順調なスタートを切るために、各メンバー団体から500ドルの寄付を募っていると説明した。 加えて、NEMSA本部が置かれ、専任スタッフが採用できるまで、全米EMSディレクター協会が人 員面でのサポートをする、としている。

「重要な目標の一つは、法的知識を充実させ、団体間の情報を共有することです」と語るの は全米救急医協会のEMTディレクターでNEMS Aの運営委員会副会長のカーンス氏。「NEMSAの利 点は派閥を超えた活動が期待できること」と特定団体がリードするのでなく、組織が平等に機 能することの重要性を語った。

NEMSAは今後、連合に関するスライドなどの媒体資料を使って、未加入の団体に対して、加入 と協力のお願いを積極的に展開する予定である。


殉職した6人のEMS隊員に名誉の称号を授与

4月3日、バージニア州・ロアノークで、殉職した6人のEMSの功労者に名誉の称号を与えるた めの追悼会が開かれ、400人以上もの出席者があった。

この式典は、VAVRS(Virginia Association of Volunteer Rescue Squads:バージニア篤志 救助隊連合)と"To the Rescue"(合衆国のレスキューの歴史とEMSの勲功を称賛するための展示 場)の後援で、年1回開催されているが、来年の3月26日にロアノークで予定されている式典は、 さらに大規模になるだろうと予想されている。というのも、来年この名誉の称号を与えられる 者として、すでに11人がリストにのぼっているからである。

今年の式典で、遺族たちに、合衆国の国会議事堂や白いバラ、大メダルが描かれているアメ リカ国旗が贈呈された。名誉の称号を与えられた救急救命士やパラメディック隊員の名前は"To the Rescue" の展示室の壁に永遠に表示されることになる。

「われわれは遺族たちと連絡をとりあい、彼らに写真を送り、その写真を集めて映画として 編集しました。われわれはこの映画を式典の会場で上映しますが、誰しも涙なくしては見られ ないでしょう」と、EMT-C(バージニア州・フレデリックスバーグの長官)で、National Memorial Service Committeeの委員長ケビン・ディラード氏は語る。

ディラード氏はまた、追悼会は、EMSやレスキューの任務を忠実に成し遂げ死んでいった志願 者と、仕事としてEMSの仕事をしている隊員の両者をたたえるためのものだと話しており、さら には数十年前に殉死したEMS隊員にもまた名誉の称号を与えることを考えているという。今年の 式典では、1960年に死んだある人物に名誉の称号を与えた。


神戸市の「市民救命士」養成講習で積極的な取り組み広がる

そごう神戸店の従業員約30人が8月2日、神戸・三宮の国際会館で心肺蘇生法(CPR)などの講 習を受けた。

これは、神戸市消防局が4月から実施している「市民救命士(人工呼吸、心臓マッサージ、止 血などの比較的簡単で効果の高い応急手当ができる市民)養成講座」の一環で、葺合消防署員が 指導にあたった。講習でCPR技術が認められると修了証書を授与しており、これまでに同市内で 5千115人(8月末現在)の「市民救命士」が誕生している。

年間約2千200万人の買物客が訪れる同店では、買物客に急患が発生するケースは月に4、5件 ある。これまでは健康管理室の医師や看護婦が対応してきたが、医師は常駐していない。

急患には一刻も早い応急手当が重要なことから、今後は売場係員を中心に「市民救命士」を 100人程度養成する予定である。

一方、兵庫県石油商業協同組合(稲鍵雄康理事長)でも、各サービスステーションに最低1人は 「市民救命士」がいる状態にしたいと、すでに3回講習会を開き、修了証書を手にした人は45 名にのぼる。

また同協同組合では、講習用に訓練人形3体を購入。CPR教育に積極的に取り組む姿勢をみせ ている。訓練用人形を同協同組合専用に購入したいきさつについて、同協同組合事業部の担当 者は「ガソリンスタンドは立地条件上、交通事故や急病人に遭遇する機会が多い。いざという とき対応できないようでは困る」と、今後も1回10〜15名程度の参加で講習会を開いていく予定 だと話している。


横浜市で「救命指導医制度」スタート

横浜市は8月1日から、救命指導医を市消防センターに配置する「救命指導医制度」をスター トさせた。市町村レベルでは全国初の試みである。

同制度は、救急患者搬送中の救急救命士への具体的指示をはじめ、傷病判定や医療機関の選 定などの面で、救急隊員や指令管制員に専門的な助言を与えるのが狙い。

救命指導医は地方公務員法に基づく特別職公務員で、横浜市立大学医学部附属浦舟病院、聖 マリアンナ医科大学、横浜市西部病院など11医療機関から99人が任命された。いずれも医師の 経験が5年以上あり、救命救急センターに1年以上勤務するなど、救急医療の経験豊かな勤務医 たちである。

勤務体制は、平日の夜間(午後6時〜翌午前8時)と日曜・祝祭日の1日で、これ以外の時間帯は、 今まで通り各医療機関の医師が指示にあたる。

横浜市では、現在14人の救急救命士が活躍しており、高規格救急車も今年中に24台から36台 に増える予定である。同制度の導入とあいまって、救急業務の円滑化、信頼性を高めると期待 されている。


B型肝炎ワクチンの持続性に疑問 米国救急医療基礎学術学会総会で発表

アメリカのカリフォルニア大学メディカルセンターの救急医であるバーンズ医師とアシュビ ー医師は、5月に開かれた救急医療基礎学術学会(Society for Academic Emergency Medicine,SAEM)の年次総会で、B型肝炎の予防接種に関する、EMS従事者を対象とした調査の結 果、ワクチンを接種しても、5、6年以内で効力はかなり失われると発表した。

これはオレンジ郡とガーデン・グローブ郡の115名(全員、予防接種前のB型肝炎感染歴は無し) のパラメディックと消防士兼EMTについて調査を行った結果で、ワクチンは注射により3回接種 された。

接種5年後の調査によると、被験者の25%の抗体レベルは、血液感染を防ぐのに必要な数値に はほど遠かった。さらに予防接種を受けた年齢が40歳を超えた被験者(39名)の場合、若い同僚 たちに比べて抗体を失いやすいという結果が出た。年齢による違いについては、調査の対象に なった人数が39名にすぎなかったこともあり、さらに研究が必要としている。

感染予防の専門家ウエスト氏の話によれば、疫病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention,CDCP)の血液感染性病原体に関するガイドラインには、B型肝炎のブー スター・ショット(追加抗原注射)については触れられていないとのこと。さらにウエスト氏は 「CDCPは予防接種の効果が7〜9年間持続しなければならないとしている」と解説している。

アシュビー医師は「十分な量の抗体を保持している被験者について、さらに研究を続け、将 来何が起こるかを確かめる計画を立てています」と述べている。しかし、同時に、アシュビー 医師たちは、被験者となったパラメディックたちに、「医師への連絡と相談を勧める手紙」を出 しており、今後はほとんどの被験者がブースター・ショットを受けることが予想される。した がって、今後も抗体レベルの研究を継続するという計画は実現しないかもしれない。

今回の研究は、EMS従事者を対象としたこの種の研究としては最初のものであるが、ウエスト 氏は「免疫力の喪失については他のいくつかの研究グルーフも確認しているが、それらの研究 結果が価値のあるものだとはいいにくい」と述べている。その理由として、「被験者が、すべて ワクチンに対して正常に反応したかどうかのデータがないからです。被験者の10%程度は最初の 3回の投与に対してまったく反応せず、抗体がきちんとできていないという報告もあります」と 説明している。

ウエスト氏は、今後はB型肝炎のワクチン投与(3回)後1〜6か月経過時点で全員が抗体検査を 受け、抗体ができていない場合は、速やかに4回目の接種を受けることを提案している。


救急ヘリの実用化を提言 総務庁懇談会で

総務庁長官の私的懇談会である「交通安全に関する懇談会」(座長・長山泰久大阪大学教授) は7月23日、最終会合を開き、鹿野道彦総務庁長官に報告書を提出した。報告書には、ヘリコプ ターの活用による救急体制の充実、シートベルトの着用の徹底など9項目が盛り込まれている。

救急医療ヘリコプターの活用に関しては、科学技術庁の外郭団体である「日本交通科学協議 会」が、昨年7月から半年間岡山県で試行し、救命効果が高いとの結論が出たため、実用化に向 けて具体的な体制づくりを求めたものである。

救急医療ヘリコプターが救命率の向上に欠かせないことは欧米諸国の例をみても明らかだが、 導入には多額の費用がかかる上、医療機関の協力も不可欠である。そのため厚生省や消防庁な ど関係省庁との協議を経て、早ければ5年後の実用化をめざすとしている。

傷病者搬送に救急医療ヘリコプター導入を望む意見は、青森救急医学会(会長・岩渕隆弘前大 学医学部附属病院救急部長)の第2回総会でも強く出された。青森県によると、自衛隊にヘリコ プターの出動を要請する場合は、現時点では救急性が高いか、ほかに搬送方法がないかといっ た点が判断の材料になるという。しかし、「ドイツ並みに常時救急へリを使える体制が必要だ」 などの意見も出され、今後の展開が期待されている。


救急医療ジャーナルホームページに戻る目次リストへもどる