この原稿は救急医療ジャーナル'93第1巻第2号(通巻第2号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

「セコム」社員用にCPRビデオ教材製作

セコム セコムはCPR(心肺蘇生法)を社員全員がいつでも実践できるように社員向けビデオ教材 を製作した。全国の事業所800か所に配付し、社内研修で習得した蘇生技術のフォローア ップに役立てようというもの。

同社ではCPRの技術習得は警備員けでなく、営業、技術部門の中堅社員研修、新入社員 研修などでも必修科目としている。研修の成果を生きたものにするため、定期的に実践的 練習ができる体制を整えたい、とビデオ教材「セコム心肺蘇生法」を製作した。

人工呼吸・心臓マッサージなど、救急車が到着するまでの数分間に、周囲の人たちがな すべき救急法を18分の映像で解説している。

またビデオの補足教材として、社内報にCPR専門のページも新設した。日常生活の中で 遭遇する機会の多そうな突然の事故・病気などを想定し、実践のポイントをわかりやすく 説明する。

セコムでは2年前から社員数名をアメリカに派遣し、同国のEMT(救急隊員)の資格を取 得させる短期留学1年間)制度を新設した。短期留学生はEMT取得後、同社がアメリカに 創設した救急医療会社「ライフフリート」で実地訓練を積み、帰国後、講師となって社員 研修を実施している。


救急現場でHIV感染者と知らずに搬送―東北救急医学会で発表―

宮城県仙台市で5月15日、「東北救急医学会」が開かれた。この席上、同県内の消防本 部から「交通事故によるHIV感染症患者の搬送について」と題する発表があった。事故は 大量の出血を伴う救急患者を、HIV感染者と知らずに搬送し、病院からの報告後、搬送に 当たった救急隊が事後処理を行ったというもので、救急現場でのエイズ対策に一石を投じ ることになりそうである。

この事故があったのは平成2年4月。宮城県内に住む男性の乗用車がトラックに追突さ れ、男性が頭部を強打し出血していたため、救急隊が止血後、患者を病院に搬送した。翌 日、搬送先の病院からこの患者がHIV感染者であるとの連絡を受け、(1)隊員に着衣などの 汚れを確認させたうえ焼却処分 (2)救急車内部の24時間密閉消毒 (3)資器材の消毒 (4)出 動した各隊員の血液検査などの処置を施したという。

東北救急医学会代表の吉成道夫教授(東北大学医学部)によると、この患者は血友病で、血 液製剤使用によりHIVに感染し、長い間東北大学医学部附属病院に通院しており、搬送先 の病院から、同附属病院に問い合わせがあり、感染者だとわかった。

「救急医療に携わるものは、危険と隣合わせの状態であるにもかかわらず、感染防止の 具体策が追いつきません。手袋さえ保険申請できないような現状で、知らずにキャリアを 運ぶ可能性は十分にあるのです」と、吉成教授は安全性の確保の必要性を語った。

同医学会では、救急患者がHIV感染者と判明した事例が、東北各地の救急現場でほかに も4件あったという報告があり、日本救急医学会の理事会で近く取り上げられることとな った。


米国女性救急隊員、電磁波障害の不安

NYC・EMS(ニューヨーク市EMS)の女性パラメディックや女性EMTたちが、無線通信 や救急車内のコンピュータが婦人科系統の障害を起こす原因ではないかという不安を抱え ながら勤務していると、3月にアメリカで報道され話題になっている。たまたまその数週間 前に、FDA(厚生教育省食品医薬品局)が消費者に対して、「電磁波の影響が心配であり、無 制限に携帯電話を利用することはやめよう」という注意を促したばかりだった。

「400メガヘルツの無線を使っているときには誰にも問題はなく、1989年に800メガヘ ルツを導入後すぐ、女性隊員たちの間に問題が出てきました」と語るのは、NYC・EMS の女性連合会会長を務めるアン・コラゾ(EMT-P)氏。無線機は顔の近く、すなわち、ホル モンを制御する脳下垂体の近くで使用するため害を及ぼしているという訴えで、さらに、 旧モデルの救急車は、コンピュータがフロントシートの間にあり、腰の位置で電磁波の放 射を受けることを恐れているという。

女性のEMTおよびパラメディックに子宮頸部腫瘍、前癌状態の形成異常、流産、月経異 常が高率で発生しているとの報告を受け、市の健康局は,1989年末にこの問題について調査 を開始した。しかし、市行政の改革途中にうやむやになったようで、現在に至るまで報告 はなされていない。

組合のリーダーは、EMSディレクターのデイピッド・ディッグス氏に要求書を提出し、 「電磁波の放射とその生体への影響についての調査期間中、800メガヘルツ無線機をすべて 取り去ること」を求めている。さらに、コンピュータの位置が低い旧型の救急車について は、安全性がはっきりするまで予備車両として使うよう申請した。

NYC・EMSの広報担当者であるリン・シェルマン氏は「この問題は科学的に検討する必 要がある」と述べた。現在の状況については「統計やデータ類は一切なく、当局は研究調 査を始める計画すらないようだ」と語り、「健康上の問題を持つ隊員は自分で名乗りをあげ てほしい」と呼びかけている。

女性連合会側は、NYC・EMSの男女全隊員に調査票を配付し、健康状態、生活態度、800 または400メガヘルツの無線機の使用の有無を調べるなどの活動を始めた。

問題がEMSに必要不可欠な装備そのものだけに、女性隊員にとってはストレス、あるい は力仕事といったハンディ以上の難問が待ち受けていたことになる。


救急医療情報システム―福島、愛知などで稼働開始―

救急医療情報のシステム化は、東京消防庁の災害救急情報センターを先頭に、ここ数年 全国的に急ピッチで進められている。

福島県は県内の各医療機関と各地の消防本部、県赤十字血液センターとをオンラインで 結ぶ、「救急医療情報システム」を4月22日、開始した。

システムは、県医師会館内にある県救急医療情報センター(福島市中町)を中核とし、県内 の救急病院、休日・夜間急患センター、僻地診療所、消防本部、血液センターなど163か 所をパソコンで結ぶ。

システムの最大の特徴は、休日・夜間診療の空きベッド数、医師の勤務体制、医療機器 の設置状況などを、医療機関自身が入力する点で、スムーズな情報交換が可能となった。 県内の医療機関は、これらの情報を朝・夕2回、変更があった場合は逐一入力する。さら に、このシステムを活用して、県民が電話で休日・夜間診療をどこの病院で受けられるか がわかる「救急医療情報案内サービス」も開始した。同県では、案内サービスの電話番号 を記したチラシを各市町村の広報雑誌に折り込むなど、普及に努めている。

また、4月1日、愛知県でも県救急医療情報センター(名古屋市中区、県医師会館内)で「救 急医療情報システム」がスタートした。

同システムの稼働内容は、病院間で受け入れ体制のチェックができる、住民からの問い 合わせに対応できるなど、福島県の場合とほぼ同じ。加えて、愛知県内のどの地域から電 話がかかっているか、診療科ごとに受け入れ可能な病院はどこかなどが、大型画面でひ と目でわかるようになった。

同センターには1日約290件、年末年始には1日千件近くの照会が寄せられるといい、 情報の充実、対応のスピードアップが望まれていた。新システムの導入で、最適治療を受 けられる環境が、より整備されたといえそうである。


「赤バイ隊」正式導入― 7月1日から東京都東久留米市で―

全国に先駆けて今年3月から東京都東久留米市でスタートした救急の赤バイ隊「消防・ 救急オートバイ隊」が、6月11日、道路交通法一部改正の閣議決定により正式に認知され た。

排気量400cc、真っ赤な車体のオートバイに乗った救急救命士らは救急用器具を搭載し、 通常の救急車とペアで同時に出動する。

機動性に勝る赤バイは、渋滞した道路でも4輪救急車より現場到着が確実に1〜2分早い。 この間に応急処置を施し、後着の4輪救急車で患者を病院に搬送する。

東久留米市の赤バイ隊は、3月10日の運用開始から5月23日までの間に15回出動した が、現場到着時間は工事中で妨害があったケースを除くといずれも3分以内で、8人の命を 救った。

世界保健機関(WHO)によれば、心肺停止状態での応急処置による蘇生率は、3分以内な ら75%、5分以内なら25%だが、10分以上ではまず絶望とされている。119番通報から救 急車が現場に到着する時間は全国平均5.9分。交通渋滞が深刻化する都市部では、年々時間 がかかる傾向になっており、赤バイ隊の存在意義は大きい。

同市消防本部ではスタートの際、消防活動用オートバイとして、都公安委員会から緊急 自動車の指定を受けた。しかし警察庁からは、赤バイは患者を搬送する車両でないため、 道路交通法上の救急自動車とは認められないとクレームがついていた。

しかし、救急医療は文字どおり「1分1秒を争う世界」であるだけに、自治省消防庁は「消 防法では救急活動も消防業務に含まれる」との見解を示し、「施行例の規定を著しく逸脱し ているとは思えず、法の範囲内」と判断し、運用に踏み切ってきた。

今回の閣議で道路交通法が改正され、同市の赤バイの先行導入は追認される形となった。

赤バイ隊の活躍に注目した大阪、京都、神戸、川崎などの都市圏の自治体から、実際の 運用状況と法令の解釈などの問い合わせが同消防本部に相次いでおり、施行令の改正待ち の自治体もあるという。


AMA(アメリカ医師会)、虐待老人患者に対する治療ガイドラインを発行

AMA(アメリカ医師会)は、虐待もしくは世話を受けずに放置された老人患者を治療する ための、医療従事者向けガイドラインを作成した。AMAの推計では、アメリカの100万か ら200万人の老人が虐待の犠牲になっており、これは、人種、民族、社会的経済的なグル ープにかかわらず起きているとしている。

ガイドラインの中でAMAは、「老人に対する虐待を発見し判断するためのプロトコール が、すべての臨床の場に存在すべきである」という立場を明確にし、このプロトコールを 使用することで、「医療従事者は老人虐待に速やかに対応でき、長期にわたりそのパターン を参照できるだろう」としている。

また、患者が老人虐待の犠牲者かどうかを見極める方法として、医療従事者は、必ず患 者を家族や世話人から離して診察するようにと教えている。

さらにガイドラインでは、老人虐待の様子、予防法を解説し、虐待を発見して報告する ことの倫理的、法医学的問題にも議論を展開している。


救急救命士各地で大活躍

東京消防庁 東京消防庁に所属する救急救命士は、第3回国家試験合格者128名を含め459名にのぼ る。同庁ではこの度、救急救命士が活動を始めた昨年7月から12月までの約半年間の活動 状況をまとめた。

同期間に、救急救命士が配属されている救急隊が病院に搬送した傷病者は7万7千244 人で、このうち650人がDOA患者だった。これらの傷病者に、救急救命士に認められた医 療行為を実施した結果、7日目の生存者は54人にのぼり、DOA患者の救命率は8.3%に達 した。救急救命士制度導入前の救命率が、6〜7%だったのに比べ、スタート半年で1〜2ポ イント上回ったことになる。

このような救急救命士の活躍が、各地で報じられている。

東京消防庁玉川消防署(世田谷区中町)の岡部重雄救急小隊長(43)=救急救命士=は昨年12 月、心肺停止状態にある患者の救急処置を行った。

一時退院中の腎臓病の男性が風呂上がりに倒れ、岡部さんの到着時には「呼吸感ぜず、 脈触れず」状態だった。さらに心電図モニターが心室細動を示したため、直ちに人工呼吸 と半自動式除細動器による除細動を実施し蘇生させることができた。

「この男性は過去に心筋梗塞にかかったこともあり、従来の救急活動では助からなかっ たケースだろう」と、岡部小隊長は話す。

また、今後救急救命士の存在を有効に生かすために、「現行では認められていない気管内 挿管もできれば、と希望する人が多いようだが、個人的にはもっと多くの薬剤が使えるよ うになればいいと思う。現在使用できるものは輸液の乳酸加リンゲル液だけ。将来的に心 臓マッサージとの相乗効果が期待できるような薬剤を使えるようになれば、救命率も上が ると思う。そのためにはもっと勉強しなければならない」と、現場で活躍しての感想を語 った。

一方、福島県郡山市では、4月28日、豆腐製造工場でパック詰めをしていた作業員が、 自動包装機に腕を挟まれ119番通報。市内の病院に運ばれたが、郡山消防署の丹伊田実消 防指令補(38)=救急救命士=らの適切な応急処置によって重傷を免れた。

郡山市内にある太田西ノ内病院救命救急センターで研修中だった丹伊田消防司令補は、 ドクターカーで現場に急行。搬送途上の約10分間、医師の指示のもとで酸素吸入や輸液な どの処置を施した。処置が遅れた場合、この患者は腕の神経に支障をきたし切断の可能性 もあったという。福島県内で救急救命士が搬送途上で医療行為をした初めてのケースだっ た。

一方、長野市消防局では、現在救急救命士は1人だけで、出動要請に対応しきれないの が実情である。しかし、今年1月11日〜4月10日までの3か月間で意識不明、呼吸停止 などの重症の患者18人中、6人の一命を取りとめることに成功し、病院に搬送できた。

同市消防局の重症患者における救命率は、救急救命士がいなかった昨年同期の3か月間 と比較すると、約7%から33%にアップしたということである。


救急セット常備のドライバー増える

トヨタ自動車 マイカーに応急処置用の“救急セット"を載せておくドライバーが増えている。

トヨタ自動車では平成元年に救急セットに関する企画を始め、3年に「ファーストエイド キット」の名でオリジナルのセットの販売をオプションで始めたところ、昨年1年間の売 り上げ数が20万個にのぼったという。内容は同じだが、8000円の高級タイプと5000円の 標準タイプがある。

手袋、清浄綿、傷口保護パッド(厚生省承認医療器具)、パッド付き絆創膏(同)、三角巾、 保温プランケット、包帯、テープ、テーピングテープ、はさみ・ピンセット、さらに東京 消防庁監修による応急手当の手順やキットの使い方をまとめた解説書が揃っている。

同社をはじめ各自動車メーカーが救急セットを手掛けているが、この背景には、昨年の 交通事故死者が1万1451人(警察庁調べ)と、近年最悪の数になったこと、市民の応急処置 に対する意識が高まっていることなどがある。

交通事故現場では、連絡を受けた救急車が到着するまでの平均5、6分の間に行う処置が 重要である。大けがで呼吸停止状態になった場合、5分経過すると救命率は25%以下にな ってしまう。この間に事故の当事者や周囲の人が患者に正しく止血や人工呼吸、心臓マッ サージ、気道確保を行えば助かる可能性が高まる。

そこで必要になってくるのが応急処置の知識、救急用の器具の装備と的確な使い方で、 警察庁交通局運転免許課でも、運転免許取得時のCPR教育にのり出した。これは、運転免 許を取得するときには必ずCPR教育を受けなくてはならないという制度で、来年春からス タートすることになっている。

同じクルマ社会のドイツでは、救急セットは標準装備。救急車を呼んでもなかなか来な いという実態が要因の一つにあるためといわれているが、日本でも最低限の自助努力とし て応急処置の備えが当然となりつつあるようだ。


短大の授業に救急講座登場

九州電機短期大学 福岡県北九州市小倉南区にある九州電機短期大学(中村文彦学長、学生数529人)で5月 12日から、必修の体育講義の中でCPRなどを教える「救急講座」が始まった。事故後、救 急車が現場に到着するまでの約5分で行うべき応急処置の重要性を知ってもらおうと、小 倉南消防署の協力を得て、救急隊員が救急実技や救急医療の大切さを講義する。

対象は1年生271人で、計4回講義が行われる。1回目は、開講式と救急講座の実技に ついて。2回目からは、救急隊の隊長と補助する隊員2人が3回に分けて応急担架の作り方 や、人形を使ったCPRや止血のしかたを教えていく。

大学で救急医療に関する講座が設けられるのは非常に稀である。同短大の教務部長・岡 本八郎さんは、「きっかけは近くの消防署から提案を受けたこと。こちらも、若者が交通事 故などに出合ったとき、早期に対応すれば救命率が上がるということで利害が一致し、授 業で取り組んでみることになりました。学生の反応は、現在アンケートを集めているとこ ろなので、まだはっきりとはわかりませんが、興味深くやっているようです。消防署では 来年度も続けたいとのことで、こちらも検討しています」

と話しており、学生たちが自ら事故に遭ったり、現場に通りがかったときの知識や的確 な対応を必修科目でしっかり身につけておけば、応急手当に一役買えるだろう。


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