この原稿は救急医療ジャーナル'93第1巻第1号(通巻第1号)「TOPICSトピックス」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

心臓停止の80歳の女性、救急救命士の処置で回復

名古屋 5月14日、名古屋市千種区に住む80歳の女性が、自宅で心筋梗塞のため倒れ一時は心 停止状態になったが、千種消防署救急救命士の処置によって救急車の中で意識を回復した。 現在は心筋梗塞の症状はほとんどなくなり、経過は良好という。

家族からの第一報が入ったのは14日午後1時22分、救急車はその約7分後に到着した。

名古屋市消防局によると到着直後は患者の意識はまだあり、「胸が痛い」とうわごとを言 っていた。しかし、救急救命士の伊串直久消防第一課救急係主任(40)が心電図をとっていた ところ1時37分に心臓停止、意識不明の危険な状態に陥った。

すぐに救急車に乗せ、心臓マッサージや人工呼吸を開始するとともに、専用の自動車電 話で愛知医科大学の医師の指示を受けながら、心臓への亀気ショックを2度施したところ 再び心臓が動き出した。

さらに点滴などの処置で血圧もあがって危険な状態を脱し、愛知医大病院救命救急セン ター到着直前には、意識が回復した。

昨年8月の救急救命士制度発足以来、救急救命士が実際に電気ショックや気道確保など の医療行為を行ったケースは全国では400件余りあるが、「今回のように搬送中に意識が回 復したのは極めて珍しい」と、収容先の同病院で治療にあたった野口宏教授は救急隊の的 確な処置を評価した。

伊串さんは昨年4月の第一回の国家試験に合格して誕生した救急救命士第一号の一人。

名古屋市では31ある救急隊のうち、7隊20人の救急救命士がおり、将来はすべての隊 に救急救命士を置く方針である。


空港での急病人に素早い対応

成田空港 海外との行き来が盛んな現在、空港でも救急業務の高度化が必要な時代であるが、成田 空港内に来年4月、成田市消防本部の空港出張所(仮称)が置かれることになった。

成田空港で急患が発生した場合、救急車が現場に到着するまでに現状では約11分かかる。 これは現場に到着する目標時間の5分からすると2倍以上で、搬送方法の改善が求められ ていた。

出張所には救急車1台を常駐し、10人で24時間体制をとる。第2ターミナルビルが開 業したこともあり、出張所開設が待たれるが、着工は今年7月ごろの予定。鉄筋コンクリ ート2階建て、延べ床面杖約400m2となり、場所は空港内・日本航空オペレーションセン ターそばの通過道路高架下である。

一方、来年夏の開港を予定している関西新空港を訪れる外国人のための「外国人救急ノ ート」(A4判、38ページ)を、和歌山県那賀郡消防組合消防本部が作った。

那賀郡は、新空港から約15kmに位置し、各国の人々がやって来ることが予想される。そ のため救急患者が発生した際、素早い対応ができるよう製作に乗り出した。英語、ドイツ 語、タイ語、アラビア語など16か国語で書かれており、平成元年から神戸市消防局が製作 しているものを参考にしたとのこと。

痛むところや出血などについての質問やそれが体のどの部分かを図を使いながら説明し て答えてもらったり、「息苦しい」などの該当個所を指し示してもらうなどして、言葉が通 じない場合でも相手の容体や状況を迅速につかめることになる。できあがったノートは、 消防車に積み込まれる。


臓器提供承諾カードの所持に関する最悪の法律

カリフォルニア 今年1月1日から施行されたカリフォルニア州の新しい法律によると、EMS隊員は、患 者が成人で明らかに瀕死の場合、臓器提供承諾カードを所持しているかどうかを調べなけ ればならない。この法律には、州のEMSの役人も大変に驚いている。

カリフォルニア州EMS部長代理のダン・スマイリー氏は、「我々は何の相談も受けませ んでした。法制化が決定した後で新聞で読んだ誰かが電話で知らせてくれたのです」と言 っている。州のEMS局は本法律に準じた方針を確立するよう、各地のEMS行政官に要請 する文書を急遽作成した。そこにはサンディエゴ郡のEMSで作成されたプロトコールが例 として載せてある。このプロトコールではEMS隊員は、誰か、できれば公安官の立ち会い のもとに、患者の所持品を“道義上許される程度に捜索"するように求められている。患者 の治療や搬送はこのような捜索に優先しなければならない。

サンディエゴ郡EMS医療部長メル・オクス医師は、「最悪の法律です。EMSに携わるわ れわれにとって大きな問題を生み出すだけです。このようなプロトコールが実施されれば、 患者の財布を調べるEMS隊員を見て、盗んでいるのではないかと人は思うでしょう。また 患者のポケットを調べている内に、中に入っている注射針が刺さってしまうかもしれませ ん」とまで述べている。オクス医師はカリフォルニア州の全EMSに対し、この法律の廃止 に向けて戦おうと呼びかけている。


全国各地で高規格救急車を購入

救急救命士制度の成立による救急車内での応急処置の範囲拡大に伴い、豊川市や倉敷市 をはじめとする各地の消防署は、高度な応急処置ができる11種類の機材を積んだ高規格救 急車を導入した。

高規格救急車は国産で、患者室が従来のものより大きく、血圧計、聴診器など観察用の 機材が4種類、心肺停止状態に陥った患者の気道確保のための器具や、電気ショックをあ たえて蘇生させる除細動器など、応急処置用の機材が5種類、自動車電話、心電図伝送装 置などが装備されている。心電図伝送装置は電話回線を利用して収容先の病院に患者の心 電図や血圧、心拍数などを送ることができ、指示を与える医師は患者の状態を把握しやす い。

これらの高機能を生かすためには救急隊員がII課程」といわれる資格やさらに上の「救 急救命士」の資格が必要である。しかし、豊川市では「II課程」の資格を持つ隊員は4名、 「救急救命士」はゼロという状況である。せっかくの高規格救急車を十分に活用するため には1人でも多くの救急救命士が誕生することが望まれる。


国際線全機に救急医療品搭載

運輸省 旅客機内での急病人発生に備えて、運輸省が国内航空会社に対し、10月1日から国際線 全機に救急医療器具や医薬品の積み込みを義務付けた。飛行距離の増加や旅客機自体の大 型化などから、急病人が多くなってきたためという。

搭載を義務付けられるのは、注射器、気道確保のための医療器具や狭心症の治療に使う 冠動脈拡張剤、じんましん用の抗ヒスタミン剤といったものである。

従来からスチュワーデスでも取り扱える簡単な心肺蘇生の器具は積み込まれていたが、 今回は点滴をはじめとする高度な救急医療処置用の器具や医薬品があるため、乗り合わせ た医師が使用することになっている。

同省によると、機内で急病人が発生し、乗客である医師に協力を依頼するケースは年間 約100件で、緊急着陸する場合もその10分の1ほどあり、毎年死亡する人もあるとのこと だ。

日本航空ではこれまで、薬に関しては薬事法の規定で一般の市販薬くらいしか用意して いなかったが、4月15日から成田発ニューヨーク、ロンドン、パリ、フランクフルトの4 路線の直行便で救急医療品の搭載を開始した。

なお同社によると、特に急患が多い国際線で、急病人発生時に医師が乗り合わせる確率 は約90%とのことである。


救命率向上に向けて"街の救急隊員"養成

自治省消防庁 全国の自治体の消防署、警察や医療施設が一般の人を対象にした救急救命処置に関する 講習会を開いている。消防庁でも今年3月、急病や交通事故などで傷病者が出たとき、周 囲の人が救急車が到着するまでの間に人工呼吸や止血などが行えるよう、応急手当の方法 を身に付けてもらおうと、住民に対する応急手当の普及啓発活動の推進に関する実施要綱 を作り、各都道府県に通達した。

119番通報してから救急車が現場に到着するまでには平均5.8分(平成3年度)かかってい る。しかしけがや急病で脈がなく、心停止が起こって血液が流れなくなると、脳は約4分 で重大な障害を受けるといわれる。周囲の人が患者の状態を確認して直ちに心臓マッサー ジを施す、気道を確保するなど適切な処置をすれば救命や回復後の社会復帰につながって いく。

そこで、地域や家庭で応急手当のできる人を養成し、万一の場合に備えてもらおうとい うのが、これらの活動である。各地の警察では、「春の交通安全運動」に合わせて一般ドラ イバーや、事故の関与率が高くなっている女性ドライバーを対象に「負傷者の意識の確認」 「骨折の措置」「気道の確保」「止血法」などを、事故を想定し、ダミー人形を使って指導 した。

道路交通法改正案にもドライバーに対する救急蘇生法の教育が加えられており、緊急時 の対応の重要性が確認されてきている。

一方各地の消防署でも、新社会人向けに職場での事故防止や防火のほか、緊急時の人工 呼吸法、心臓マッサージの仕方、三角巾の使い方などの講習会が次々に開催されている。

たとえば熊本市では4月から「一世帯一救急員」講習会を始めており、少人数単位にし て密度の濃い指導を心掛けている。また、北海道の日赤道支部では母親向けの子供のけが の応急手当の方法や、夜間の救急法講習会を催した。さらに日赤新潟県支部では、5月 中旬から約1か月間、週2回救急法講習会を開いてテストを実施、合格者には「赤十字救 急法救急員」の資格が与えられるなどの試みが実施されている。


エイズ患者の手術でHIV感染、裁判へ

カリフォルニア 2月にカリフォルニアで行われた裁判で、陪審員は、エイズウイルスに感染していること を病院側に知らせずに美容外科の手術を受けた女性患者を、詐欺罪で有罪とした。訴えを 起こしたのはロサンゼルスの医療技師で、彼女は外科医が縫合糸を抜糸するのを補助して いるときに、患者の血液がついたメスで小さな傷を負ったというものである。10万2千ド ルの賠償金を勝ち取ったこの技師は、エイズ検査の結果は陰性であることが判った。

本件はHIV陽性を知らせなかった患者を医療従事者が訴えた最初の裁判である。また、 治療費の支払い以外の件で医療従事者が患者を訴えた最初の裁判でもある。さらに判決に より、患者側に、医療従事者側に対して配慮の責任があることが初めて示された。

今回の裁決では、手術が何であったかは問題にされていない。また原告の技師が、手袋 着用といった一般的な注意を怠っていたという事実は、ほとんど裁決に影響しなかった。

被告側弁護士は、「エイズ患者にとって大変苦しい結果です。この判決は、すべての患者 を感染者として処置すべきとする考えの否定につながります。患者は、自分の感染を明ら かにするか―――この場合は治療を拒否される可能性がある―――、もしくは後で訴えら れる危険を冒すかです」と述べている。被告側は現在上告するかどうかを検討している。


医療機関との連携に課題が山積み―救急救命士へのアンケート調査より―

読売 「救急救命士」が誕生して1年。搬送途上での高度な応急処置が可能となり期待のかか るところだが、さる4月、読売新聞社が救急救命士1期生59人を対象に実施したアンケー ト調査の結果(44人から回答あり。回収率は75%)、医療機関との連携などに問題が山積し ていることが明らかになった。

質問項目は、「医師と連絡をとったとき、時間がかかったり等何か不都合なことが起きた ことはないか」「医師との連携体制で問題点はあるか」など6項目。具体的な回答を依頼し たところ、「医療機関との連絡がうまくいかない」との声が圧倒的に多く、60%を越える27 人が「医師との連絡が取れずに処置ができなかった」などと訴えている。

特に一刻を争う心肺停止患者の処置について、「医師が手術中だった」「救急救命士の仕 事を理解していない医師がいる」などの理由から手を出せなかった経験者が多く、うち5 人は「一刻を争う場合なので、できることならば医師の指示なしで処置をしたい」と回答 している。

また現行では認められていない気管内挿管を70%以上の32人が希望していることも明ら かになった。このほか医療機関との調整が難航し、せっかく救急救命士がいながら制度を スタートできない地域も4か所あった。

このような現状を少しでも改善するために、4月30日には1都10県の救急救命士が集 まり「救急救命士中央地区会」を発足させた。改善策を考えるには、現場での悩みを率直 に話し合うことが不可欠である。今後の展開に期待したい。


待たれる救急医療ヘリの本格始動

日本交通科学協議会 科学技術庁の外郭団体である日本交通科学協議会が、倉敷市松島の川崎医大救命救急セ ンターを拠点として行った「救急医療ヘリコプターの実用化研究」が交通事故患者の救命 などに大きな成果を上げている。

実用化研究は、国内初の本格的研究として川崎医科大の小濱啓次教授(救急医学)を現地委 員会委員長に、平成4年7月1日から12月31日までの半年間行われた。

実験実施区域は同医科大を中心とした半径50〜70km(岡山、香川県全域および広島、兵 庫県の一部)である。ヘリポートは、エリア内の公園やグラウンドなど55か所に設けられた。 使用したヘリは7人乗りで、操縦士、警備士、医師2人、看護婦1人が乗りこみ、患者を 搬送した。

実用化研究中出動した件数は91件、うち患者収容が88件、病院転送が3件、病状は外 傷患者が54例、急病37例で、外傷のうち交通事故が28例を占めた。搬送された患者のう ち緊急処置しなければ命に危険を生じる「緊急度1」が56例、体に障害が生じる「緊急度 2」が30例など緊急を要する患者がほとんどで、搬送後の死亡が14例あった。

しかし、右腕切断患者の再接着手術の成功、岡山県北から交通事故により意識不明の男 性を運び手術後患者の地元の病院に転送した例など交通事故での成果が大きかった。

とはいうもののいくつかの課題も明らかになった。たとえば救命救急センターとヘリポ ートが道路を隔てて約150メートル離れているため、この間はドクターカーで運ばなくて はならず、そのための専門の人員を確保しなければならないし、本格実施にあたっては24 時間体制を考慮に入れた照明付きのヘリポートの設置などが必要になってくる。

また、救急医療ヘリの運用には警察庁、総務庁、自治省、運輸省など関係機関が多岐に わたっており、実用化には省庁間の調整や県や市町村にまたがる広域行政の組織づくりな ども避けては通れない課題として残されている。


「応急手当の知識」日赤から出版

日赤 日赤が5月の赤十字運動月間の一環として小冊子「応急手当の知識」(A6判、37ページ) を製作した。

これは家庭の健康と安全を守る目的で、20年間にわたり毎年100万部出版しており、無 料で希望者に配付している。交通事故、やけどや切り傷などの基本的な応急手当の方法、 突然倒れたときの介抱の仕方、救急車の呼び方などがイラスト入りで解説されている。

希望者には93年度版を配付する。申し込みは7月10日消印分まで。あて先は〒105東 京都港区芝大門1の1の3日本赤十字社「応急手当の知識」申し込み係で、72円切手を同 封する。1人1冊まで。必ず送り先を明記のこと。


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