この原稿は救急医療ジャーナル'97第5巻第5号(通巻第27号)「NETWORK救急救命士ならびに救急隊員の会から」のページを収載したものです。もしホームページを希望されない記事や訂正を希望される部分がありましたら、 web担当者までご連絡下さい。

兵庫県下救急救命士会ニューヨーク・シカゴ突撃訪問記

正井 潔(兵庫県下救急救命士会)

 兵庫県下救急救命士会では、昨年6月の「シアトル・ロサンゼルス救急視察研修」に引 き続き、今年も6月にニューヨーク・シカゴの視察研修を行いましたので、ご紹介しま す。と言っても、咋年は英会話に堪能な先生方に同行していただいたため、視察先での説 明に苦労はありませんでした。しかし、今回は英語をほとんど話せない私たち救急救命士 だけのツアー。見たまま、感じたままの突撃訪問記を報告します。

 今回は、ニューヨーク近郊で消防・救急車両と関連資器材の展示会があると聞き及び、 この展示会を第一の目的にした関係上、6月6日出発という夏期休暇前の日程になったた め、参加者は6人と少人数になりました。しかし、そのうち昨年の参加者が4人もおり、視 察先での質問、要領も心得たもので、みんな視察研修が癖になったかなという感じです。

 初日はまず、展示会の見学にいきました。展示会は、ニューヨークから車で約3時間ほ どのKIAMESHA LAKEというところにあるCONCROD RESORT HOTELで開催されていました。私 たち一行は、事前に予約しておいたレンタカーでマンハッタンにあるホテルを出発した訳 ですが、いくら土曜日と言えども天下のニューヨーク。さすがに運転は緊張の連続で、同 乗していたメンバーは、運転していた私より数倍緊張したそうです。しかしそれは、私の 運転のせいばかりでなく、ニューヨークの道路が意外と悪く凸凹だらけで、しかも制限速 度55マイル(約88km)の道を、運転がうまい人も下手な人も、高級車も廃車寸前の車も、 75マイルくらい(約120km)でぶっ飛ばしていたためだと思います。

 私は今春、次女と旅行をした際にアトランタからサウスカロライナまで同じくレンタ カーで走っていたので、少しは慣れていましたが、やはりそこはニューヨーク、車の流れ るスピードが違っていました。しかし、激しい交通事情で鍛えられている日本のドライ バーなら、右と左の感覚さえ慣れれば十分走れるといった感じでした。

 会場のホテルには、「F.I.R.E.97 FIRE,INDUSTRY,RESCUE AND EMS EXPO」と書かれてお り、つまり下線の頭文宇でFIREになっているようです。また、周辺には、サイドボディに 「○○F.D.」(F.D.=Fire Department:消防署)と書かれた全米各州の消防関係者の車 がすでに数百台駐車しており、展示会の規模のすごさが予想できました。

 私たちは、事前に展示会についてのFAXを頂いていたファーノ・ワシントンのスタッフ に「NEW YORK STATE 1997 ASSOCIATION OF FIRE CHIEFS KOBE F.D.」と書かれたネーム タッグを付けてもらい、会場に入りました。会場は、格納庫のような巨大な屋内展示場が 2棟あり、あまりにも広いため、帰りの待ち合わせ時間を決めて、各自自由に見学に散ら ばっていきました。

 会場の屋内、屋外に赤、黄、白の消防車、カラフルな配色の救急車が150台以上あり、 救急、救助等のあらゆる資器材も展示されていました。最初はビデオで丁寧に撮影してい ましたが、あまりの規模の大きさに全部見学しきれないと思い、撮影はそこそこにパンフ レット収集に徹した結果、バッグはパンフレットでいっぱいになっていました。

 これらの展示車両を見学した感想は、まず消防車は車両自体が大きく、美しいと思った のが第一印象です。また、ポンプ車には必ずと言っていいほど、救助資器材が積載できる ようになっていました。救急車は救急資器材だけを積載したものから、大型救急車まで多 種多様ありました。車内は、照明や救急資器材の収納スペースが効率よく配置されてお り、高度な救命処置を行うパラメディックと日本の救急救命士の歴史の差を痛感させられ ました。ちなみに普通タイプの救急車の値技は約8万ドル(約950万円)とのことで、意外 に安いと思いました。

 翌日は、ニューヨーク消防の見学を予定していましたが、連絡がうまくいかず、旅行会 社仕立ての市内観光を行いました。しかし、そこは昨年も経験済みの「突撃救急救命士 隊」、木村拓哉そっくりなガイド兼運転手さんに「途中消防署があれば止めて下さい」と お願いし、マンハッタンの一角の消防署に飛び込み突撃訪問を敢行しました。そこは消防 車2台の署で、突然押しかけた私たちに、快く対応してくれました。聞いたところによる と、ニユーヨークでは、1台か2台の小隊単位の署が多いとのことでした。

 夕方からは、自由の女神見学のナイト・クルージングに行く者、子どもの土産に「たま ごっち」を買い求めにいく者など自由行動となりました。私は、もう一人のメンバーと二 人でブラリとニューヨークの街を歩いていましたが、「第18分署」の消防車が停車してい たので、知っている限りの英語で話しかけたところ、「近くに署があるから来なさい」と のこと。二人で押しかけ、一通りの署内見学をした後、WEST 43st.にある「RESCUE Co.I」の署を訪問するように勧められました。そして、かの有名なニューヨークの地下 鉄に乗り、突撃訪問を開始しました。ここでは訪問中に火災出動の指令が入り、私たちに も一緒に行けと言う。千載一遇のチャンスと思い、胸を踊らせ出動に同行しました。先ほ どまで私たちと陽気にはしゃいでいた隊員たちも、ブロードウェーを走る消防車内で防火 服、呼吸器を着装する顔つきはすばらしいプロ消防士の顔であり、感激せずにはいられま せんでした(前ぺージ写真)。

 翌日はシカゴへ移動しました。シカゴは想像していた以上に美しい街で、アル・カポ ネ、アンタッチャブルといった暗いイメージを持っていた私たちのシカゴ感が払拭されま した。ここでの市内観光のガイドは日本語の話せるアメリカ人男性。日本にいたときはト レンディドラマにも出演していたというだけあって、なかなかハンサムな人でした。その 彼に、事前にシカゴ・ファイア・アカデミーより頂いたFAXを見せ、コンタクトを取って もらったところ、「明日の朝、9時過ぎにシカゴ・ファイア・アカデミーのMiss Allenを 訪ねていきなさい」との返事を頂きました。

 翌日、レンタカーでMiss Allenを訪ねると、出てきた彼女は、白い半袖シャツに黒いス ラックスというパラメディックの制服を着た身長170cmのすらりとした黒人の美人。これ は後で彼女に聞いた話ですが、TVドラマ「ER」にも2回出演したそうです。

 彼女の案内でアカデミーから200mほど離れた救急部門の校舎に行き、シカゴ消防の概要 を聞きました。私たちが理解できた範囲内では、職員数4千500人、パラメディック716 人、救急車59台、1987年から採用している女性のファイア・ファイターは75人。勤務体制 は、消防士が1 ON 2 OFFを3回して5 OFF、パラメディックは1 ON 3 OFFを3回して5 OFFと のことで、何ともうらやましい限りでした。そして、パラメディックは毎年、救命救急セ ンターで実習20時間、講義20時間の継続研修があるそうです。また、シカゴもロサンぜル スと同様に救急車は有料制で、何も処置をしなくても200ドル(約2万4千円)、距離は1マ イルにつき5ドル(1km当たり約368円)、処置は酸素投与で25ドル(約3千円)とのことで した。

 そのほか、教室、実習室などを彼女に案内してもらいました。そのテキパキとした仕事 ぶりに一同感心していましたが、それもそのはず、彼女はパラメディックのイストラク ターつまり主任教官だったようです。

 彼女と昼食を済ませてから、アカデミーで初任科生が行っている消火訓練で、日本式と シカゴ式のホースの巻き方の競争を初任科生と楽しんだ後、彼女の運転する指揮車で911 を受けるディスパッチセンターの見学に行きました。ここは最近できた真新しいセンター で、管制台が50〜60台あり、3分の2を警察、残りを消防が使用していました。システムと しては、神戸市消防局と同じで、衛星を使用した動態管理システムを採用していました。 また、シカゴではパラメディックヘの指示は看護婦が行っているとのことで、ロサンぜル スと同じでした。このセンターを撮影したいと思ったのですが、残念ながら入館に際して の管理がきびしく撮影禁止で、パスポートの提示を求められたほどでした。

 この後、消防署での救急車の見学など、午後4時半頃までずっとお世話になりました。 アメリカの消防署を何度か訪れ、そのつど思いますが、たとえ言葉が通じない日本人の突 然の訪問も快く受け入れ、自分たちの消防、救急という仕事の誇りと自信を語り、また現 場にも同行させる寛大さ。これは単に国民性でしょうか。国の大きさ、豊かさでしよう か。私はいつも、日本のしゃくし定規な体制と比べてしまいます。

 皆さんも一度、私たちのように「突撃訪問」を試みてはいかがでしようか。もちろん、 先方には迷惑をかけることもあるでしょうが、きっと自分の消防、救急人生に大きな刺激 になると思います。


東播磨内陸地域救急救命士運用連絡協議会第1回研修会開催

兵庫県加西市消防本部  東播磨内陸地城は、兵庫県のほぼ中央部に位置し、西脇市、三木市、小野市、加西市と 吉川町、社町、東条町、滝野町、中町、八千代町、黒田庄町、加美町の4市8町から成る地 域です。当協議会は、東播磨内陸地域における救急救命土等による救急救命活動が広域的 にかつ円滑に実施され、もって当地域内で発生した傷病者の救命率を向上させることを目 的として、1996年4月1日から運用開始されたものです。

 当協議会では、今年度から、東播磨内陸地域の市・町立病院の医師、看護婦、その他医 療従事者および各消防署(西脇多可行政事務組合消防本部・三木市消防本部・小野市消防 本部・加東行政事務組合消防本部・加西市消防本部)の救急隊員のほか、関係地域の医療 関係者が、救急医療を的確に実施するための知識および技能を修得することを目的とした 研修会を、定期的に実施することとなりました。そして、さる7月4日、加西市で第1回目 の研修会を開催しました。

 当日の参加者は、当地域内の病院医師、看護婦、救急隊員はもとより、各医師会長、保 健所長を含めた総勢80人余りで、当地域の医療に携わる者が一堂に会し、ほかにあまり例 を見ないと思われるほど、充実した参集者でした。内容については、講師として神戸大学 医学部附属病院災害・救急医学講座講師・中山伸一氏と、神戸市消防局救急救命士・大禮 一成氏をお招きし、質疑応答形式を取り入れた講演を行いました。

 中山講師には、「救急救命体制の現状について(日本・米国を比較して)」と題し、日 本の救急救命士制度と救急医療では世界でもっとも進んでいると言われるアメリカのパラ メディック制度を比較し、現在のわが国の救急医療の問題点と今後の改正点についてご講 演いただきました。中山講師は自ら、l994年と'96年の2回に渡り、県下の救急救命士とと もにアメリカのパラメディックを視察されており、実際にMedic Oneに同乗したときにビ デオ撮影したパラメディックの救急活動を、液晶ビジョンで映しながらの講演であったた め、臨場感に満ちたものとなりました。

 講演の趣旨としては、現在のわが国の救急医療体制の充実の遅れを指摘し、とくに救急 救令士の養成課程から運用体制に至るまでの問題点、また一般市民のバイスタンダーとし ての認識不足を挙げ、今後、プレホスピタル・ケアとホスピタル・ケアの両方を充実させ るための時間をかけた教育を主体としたシステムづくりをすることにより、これらの課題 を解消していくべきであると言われています。

 大禮氏の講演では、当県においてもっとも救急救命士運用体制の整った都市である神戸 市の救急体制について、「神戸市における高規格救急車運用の現状と今後の課題」と題 し、運用体制のほか、救急救命士運用後における救命率の向上に関して、実際の救命事例 などを挙げながらお話しいただきました。

 本研修会において、参加者は先進地の救急医療体制の現状を目の当たりにしたことによ り、当地域における救急医療体制の問題点と今後の課題を再認識するとともに、医療従事 者同士としての信頼関係を深めることができました。今後、当協議会では定期的に研修会 を開催する予定ですが、回を重ねるごとに研修内容を充実させることにより、救急医療体 制を強化し、救命率の向上を図ることを目的に、研鑽していきたいと考えています。


第1回北関東救急隊員セミナー報告

岩崎定義(第1回同セミナー事務局代表・栃木県救急救命士会) さる7月19日、自治医科大学臨床講堂において、自治医科大学救急医学教室主催第1回北関 東救急隊員セミナーが、栃木、群馬、埼玉、福島の救急隊員135人の参加を得て開催され ました。当セミナーは、救急研修の場を模素していた栃木県救急救命士会が同大学救急医 学教室・鈴川正之教授に相談したところ、快くセミナー開催を承諾していただき、救急救 命士に限ることなく、すべての救急隊員を対象として開催されたものです。

 第1部の教育講演では、鈴川教授より、「救急体制、CPA及び各症例検討」と題して、救 急隊員が医師等と気軽に話し合える救急体制づくりについて、また、各症例ごとにスライ ドおよびレントゲン写真を見ながら、救急現場での観察および救急処置の留意事項につい て、数多くのポイントを教えていただきました。

 第2部の症例研究発表では、手技に関するものを含め、4例が救急隊員から発表され、そ れぞれ先生方よりご助言を頂きました。特殊な症例から通常頻繁に起こりうるであろう症 例まで、すべて異味深い内容のものであり、とくに「踏切遮断機による杙創」の発表の際 には、会場からも同様の体験談等の活発な意見が出て、盛況なものとなりました。

 第3部の特別講習では、同大学救急医学教室・河野正樹先生より、肝臓の生理、各肝炎 の病態・感染経路について、そして最後にアルコール中毒患者についての講義を頂きまし た。先生独特のユーモアを交えた講義で、会場からの質問にも笑顔でお答えいただきまし た。

 最後に、壇上に上がった鈴川教授から、「県や資格にとらわれず、すべての救急隊員に 勉強していただきたい。救急隊員のレベルアップに、われわれは協力を惜しみません」と いうお言葉を頂き、教授の熱き思いに触れた会場からは、盛んな拍手が送られました。研 修会終了後は、別室にて懇親会の時間が持たれ、参加者相互の親睦を深める楽しい時間と なりました。

 今回は第1回目の開催であり、事務局を担当した私どもの未熟さがあったにもかかわら ず、本セミナーが盛大に開催されたのも関係各位の皆様のご尽力のたまものと感謝を申し 上げます。次回開催は、来年1月頃を予定しています。お問い合わせは、第1回事務局・足 利市消防本部所属救急救命士(TEL:0284−41−3194)までお願い致します。


救急医療ジャーナルホームページに戻る目次リストへもどる