この原稿は救急医療ジャーナル'98第6巻第1号(通巻第29号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただきました厚生省健康制作局に深 謝申し上げます。

救急救命法律講座 29


「看護婦(士)資格を持つ消防職の救急救命士に認められる救急救命処置 について。」 Q1:私は現在、岐阜県中濃消防組合にて救急救命士をしております。 以前は看護士として病院に勤務していましたが、救急救命士の資格を取得し、消防に転職しました。現在 、私のように看護婦(士)資格を持つ救急救命士のいる消防本部が全国に存在しますが、看護婦(士)資 格を持つ消防職の救急救命士に認められる救急救命処置について、以下の質問にお答え下さい。

(1) 看護婦(士)資格を持つ消防職の救急救命士は、医師の指示があれば、救急車内であっても、保健 婦助産婦看護婦法の範囲内で看護婦(士)の診療の補助行為を行うことができるのでしょうか。たとえ ば、救急車内で、医師の指示の下に採血などを行い、電解質や血糖値を測定することは可能でしょうか。

(2) 救急救命士法では、特定3項目の施行対象は心肺停止(CPA)患者に限定されていますが、 たとえば心肺停止状態ではないが、交通外傷などで救出に非常に時間がかかるような緊急の場合には、 看護婦(士)の資格があれば、医師の指示の下に末梢静脈路確保を行うことができるのでしょうか。
(中濃消防組合消防本部関消防署・曳田映二、愛媛大学医学部救急医学・越智元郎)

A1:ご質問の要点は、「看護婦(士)の資格を持つ消防職の救急救命 士が、医師の指示の下、診療の補助行為を行う場合、救急救命処置の範囲を超える行為(看護婦(士)の 独占業務)を行うことは可能か」と、「看護婦(士)の資格を持つ救急救命士であれば、心肺停止状態で ない患者に対しても特定行為を行うことが可能か」の二点であると思われます。

 まず、(1) のご質問についてですが、救急救命士であっても看護婦(士)の資格がある以上、保健婦助 産婦看護婦法(以下、「保助看法」という)の定めるところにより、看護婦(士)の業務独占行為として 診療の補助行為等を行うことは可能です。また、消防職の救急隊員として消防部局の指揮命令系統下にあ る救急救命士仁おいても、看護婦(士)資格があれば業務独占行為(保助看法第5条に規定されている業 務)を行う上で、消防部局の指揮命令が医師の指示に抵触しない限り、消防職であるが故に制約が課され ることはありません。したがって、採血および血糖・電解質等の簡単な検査を行うことは、保助看法第5 条における診療の補助行為の範囲内であり、可能です。

次に、(2) のご質問についてお答えします。心肺停止患者に対する末梢静脈路確保は救急救命士が行う ことのできる特定行為ですが、看護婦(士)資格があれば、心肺停止状態でなくても、たとえば交通外傷 などのため大量出血やショックに伴う血圧低下等の危険な状態にあり、救出に非常に時間がかかる場合な どの緊急事態のときは、保助看法第37条における「臨時応急の手当」として(医師の指示がなくても) 末梢静脈路確保を行うことが可能な場合があります。


「看護婦(士)免許所有者の救急救命士国家試験受験資格には、なぜ制限がある のか。」 Q2:私は、もともと救急救命士になりたいと思っていましたが、高 度な専門知識、技術を修得してから救急救命士になろうと考え、まず看護士の資格を取得することにしま した。そのため、看護学校もあえて働きながらのコースを選択し、循環器や外科専門の救急病院にも勤務 しました。

 そして、平成6年に看護士の資格を取得、念願の救急救命士の国家試験を受験しようと受験資格認 定について照会したところ、指定条件に該当しないとの返事があり、とてもショックを受けました。 以後、3年近く病院勤務をしていますが、救急救命士の夢はあきらめきれず、現在、消防官採用試験を受 験しようと考えています。そこで、次の二点の質問にお答え下さい。

(1) 救急救命士国家試験の受験資格について、「看護婦(士)免許所有者(平成3年8月15日以前の者 に限る。)という規定がありますが、なぜ、同じ看護婦免許所有者に対して、制限があるのですか。経験 年数などにより、受験資格を認めることはできないのでしょうか。

(2) 救急救命士の資格がない看護婦(士)が救急車に同乗していて、患者に静脈路確保や除細動が必要な 状況が発生した場合、責任医師から指示があれば、救急救命士に許されている特定行為を行うことはでき るでしょうか。

私は、看護婦(士)の診療の補助行為として許されるのではないかと思いますが、もしできないとすれ ば、どの範囲までなら許されるのでしょうか。(福岡県久留米市・合原則隆)

A2: まず、(1)については、救急隊員ばかりでなく看護婦(士)等の 医療関係の資格をお持ちの方々の問でも、救急救命士に対する関心は高く、とくに救急医療機関に勤務し ている看護婦(士)の方々からは、救急救命士の資格を取得したいとの声がよく聞かれます。

 救急救命士を始め、医療従事者の国家資格を取得するには、国家試験に合格することが必要ですが、そ の資格を付与することができるかどうかを試験のみで判断するのは困難であるため、受験資格として一定 の学習課程や実務経験等が条件とされています。看護婦(士)等の受験資格に関しましては、救急救命士 法(以下、「法」という)附則第2条で、法施行の際(平成3年8月15日)「現に救急救命士として必 要な知識及び技能の修得を終えている者又は現に救急救命士として必要な知識及び技能を修得中であり、 その修得を法施行後に終えた者」と規定されており、それに該当されている方は、厚生大臣の受験資格の 認定を受けることにより、受験が認められています。

 これは、法施行以前、救急救命士養成所がなく、救急救命士かあるいは看護婦(士)かという資格 を選択する余地がなかった方に対する特例として認められている措置です。

 救急救命士養成所が整 備され、資格の選択が可能になった現在は、それぞれの分野でその資格に合わせた教育が行われているた め、上記特例は適用されないことをご理解いただきたいと思います。

 本来、看護婦(士)は診療の 補助行為一般を業とすることができるので、看護婦(士)が救急救命処置を行っても法令に違反すること にはなりません。しかしながら、救急医療のような専門的な知識を要する分野について、医師の指示の下 に特定行為といった高度に専門的かつ危険性の高い処置を行うためには、やはり救急医療に関する技能・ 知識を修得することが望ましいとされています。そのために救急救命士養成所を設置し、その修了者に受 験資格を与えていることも併せてご理解下さい。

 貴殿の場合、平成6年に看護士免許を取得されたということですが、平成3年8月15日時点で正 看護婦の養成課程を修了していたか、または修得中でその後その課程を修了していれば、受験資格の認定 が可能ですので、再度、入学年月日をご確認下さい。もし該当されない場合で受験をご希望の場合は、民 間の養成所で2年間の課程を修了する必要があります(看護婦(士)の場合、すでに看護婦養成所で履修 された科目は免除を受けることができます)。

 次に、(2)のご質問についてお答えします。

保助看法では、看護婦(士)が業務を行う場の制限に関する規定はありませんので、看護婦(士)の 資格があれば、救急車内においても、医師の指示の下、診療の補助行為等の業務独占行為を行うことが可 能です。

 したがって、看護婦(士)は、救急車内で患者が静脈路確保や除細動が必要になった場合、医師の 指示の下、救急救命士に許されている特定行為を行うことは可能です(Qlに対する回答の前半部分を参 考にして下さい)。


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