この原稿は救急医療ジャーナル'97第5巻第3号(通巻第25号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただきました厚生省健康制作局に深 謝申し上げます。

救急救命法律講座 25


「歯科医師の指示による特定行為は認められるか。」  救急救命士が電気的除細動などの特定3項目を行うに当たり、 「医師の具体的な指示」が必要ですが、この指示は歯科医師から得た場合でも有効でしょうか。歯科治療 の一連の経過のうちに生じた心停止(あるいは心室細動)の場合と、歯科治療とは直接関係のない発病や 受傷による心停止、心室細動の現場に歯科医師が居合わせた場合のニつに分けて、ご教授いただけれぱ幸 いに存じます。また、仮に歯科医師の指示による処置が規定上合法でないとして、緊急避難的に歯科医師 の指示で救急救命士がこれらの処置を施行することは、許されないでしょうか。
(愛媛大学医学部救急医学・越智元郎)

 救急救命士は救急救命士法により、「医師」の指示の下に救急救 命処置を行うことを業とする者とされています。したがって、救急救命士が「医師」の指示なしに救急救 命処置を行うことはできません。わが国の法令上、「診療の補助」は看護婦等の独占業務とされています が、救急救命士は、その独占業務の一部を解除し、「医師」の指示の下で、「診療の補助」として救急救 命処置を行うことができ、とくに「医師」の具体的な指示を受けた場合には、半自動式除細動器を用いた 除細動、乳酸加リンゲル液を用いた静脈路の確保のための輸液ならびに食道開鎖式エアウェイまたはラリ ンゲアルマスクによる気道確保の三つの処置を行うことができるとされています。

 ご質問のありました歯科医師が行う歯科治療の一連の経過のうちに生じた心停止等の患者を医療機関 に搬送する際に、救急救命士が除細動等の処置を行う場合でも、「医師」の指示が不可欠であり、これは 歯科治療と直接関連のない場合と同様です。

 なお、緊急避難的な場合の取り扱いについては、救急救命士が独自に当該患者に対して除細勲等の処 置を行ったとしても、緊急避難として違法件が阻却される場合も考えられるため、個別具体的なケースの 状況に照らして判断されるべきものです。

<参考>
◇医師法第一七条
 第一七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。
◇歯科医師法第一七条
 第一七条 歯科医師でなければ、歯科医業をなしてはならない。
◇保健婦助産婦看護婦法第五条、第三一条第一項
 第五条 この法律において、「看護婦」とは、、厚生大臣の免許を受けて、傷病者若しくはじよく婦に対する療養上の世話又は診療の補助をなすことを業とする女子をいう。
 第三一条 看護婦でなければ、第五条に規定する業をしてはならない。但し、医師法又は歯科医師法(昭和二十三年法律第二百二号)の規定に基いてなす場合は、この限りでない。
◇救急救命士法第二条第二項、第四三条第一項、第四四条
 第二条2 この法律で「救急救命士」とは、厚生大臣の免許を受けて、救急救命士の名称を用いて、医師の指示の下に、救急救命処置を行うことを業とする者をいう。
 第四三条 救急救命士は、保健婦助産婦看護婦法(昭和二十三年法律第二百三号)第三十一条第一項及び第三十二条の規定にかかわらず、診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができる。
 第四四条 救急救命士は、医師の具体的な指示を受けなければ、厚生省令で定める救急救命処置を行ってはならない。
2 救急救命士は、救急用自動車その他の重度傷病者を搬送するためのものであって厚生省令で定めるもの(以下この項及び第五十三条第三号において「救急用自動車等」という。)以外の場所においてその業務を行ってはならない。ただし、病院又は診療所への搬送のため
重度傷病者を救急用自動車等に乗せるまでの間において救急救命処置を行うことが必要と認められる場合は、この限りでない。


救急医療ジャーナルホームページに戻る目次リストへもどる