この原稿は救急医療ジャーナル'96第4巻第1号(通巻第17号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 17


「リドカイン製剤の使用について。」  現在、救急救命士には、食道閉鎖式エアウェイやラリンゲアルマスクによる気道 確保が認められています。当初は、これらの器具を使用する際に、リドカイン製剤の ゼリーを塗布するように指導されましたが、最近では、雑誌等で他の潤滑剤を使用す ることが言われています。そこで、以下の質問にお答えください。

(1) リドカイン製剤のゼリーの取扱説明書には、副作用によりショックや中毒症状が 現れることがあると書かれてあります。そのため最近では、活動時において心肺停止 状態の傷病者に対してはリドカイン製剤のゼリーを使用し、その他の傷病者に対して 経鼻エアウェイを使用する場合には、他の潤滑ゼリーを使用しています。
 リドカイン製剤のゼリーの使用について、何らかの法的な問題がなければ、すべて の場合にリドカイン製剤のゼリーを常用したいと考えていますが、その点はいかがで しようか。

(2) リドカイン製剤のスプレーにも潤滑作用があるということですが、同製品を使用 した場合、法的に問題はあるのでしょうか。

(3) 救急II課程修了者が経鼻エアウェイによる気道確保を行う場合に、リドカイン製 剤のゼリーを使用してもよいのでしょうか。

医療は、国民の生命、健康に直接関係するきわめて重要なものであり、わが国におい ては一定の条件を課した医師の資格を定め、医師法第17条により医師以外の者が医業 (医行為を反復継続の意思をもって行うこと)を行うことを禁止するとともに、医師 の補助者として医療に従事する看護婦等についても、個別の法によりその資格を定め ています。

 医師法では医業を医師の独占業務として位置づけていますが、医療技術の高度化、 専門化等に対応するため、医療を行うに際し医師の補助業務を行う人々が必要となり 、そのためにさまざまな医療関係職種の資格の法制化が行われてきています。

 そのような中で、救急救命士に関しては救急救命士法(以下、「法」という)によ り、保健婦助産婦看護婦法(詳細は第16号を参照)で医師と看護婦が業として行うこ とができるとされた診療の補助行為の一部である救急救命処置を、業として行い得る こととされたものです。

 さて、ご質問のリドカイン製剤は医療用医薬品ですが、薬事法第49条第1項による 厚生大臣の指定する要指示医薬品に含まれていないため、医師の処方せんの交付又は 指示を受けなくても購入することができるものです。

 これらはリドカインで組成された表面麻酔剤で、塗布又は噴霧により比較的簡単に 投与できますが、血圧降下、脈拍異常、呼吸抑制等のショック又は中毒症状を起こす ことがあり、使用の際には常時直ちに救急処置を行えるよう準備をすることが望まし いとされており、リドカイン製剤のスプレーについては薬事法第44条第2項により劇 薬とされています。

 このような重篤な副作用を起こす可能性のある医薬品を投与する行為(与葉)は、 医行為(判例通説によれば、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人 体に危害を及ぼし、又は危害を及ぼすおそれのある行為)に該当すると考えられ、こ れを業とすることはすなわち医業を行うことであり、結局は医師又は医師の指示を受 けた看護婦及び准看護婦が診療の補助行為として行い得るものです。

 救急救命士は、法第44条の定めにより、半自動式除細動器による除細動、乳酸加リ ンゲル液を用いた静脈路確保のための輸液、食道閉鎖式エアウェイ及びラリンゲアル マスクによる気道確保のみを特定行為として限定的に行うことができるとされている のですから、業として当該医薬品を投与することは認められません。これを行うこと は医師法又は保健婦助産婦看護婦法違反に問われる可能性があると考えます。したが って救急救命士又は救急隊員(救急標準課程又は救急II課程修了者)が経鼻エアウェ イを使用する際、鼻腔挿入をスムーズに行おうとする場合には身体に対する危険性の 小さいもの、例えば水道水等を使用することが好ましいと言えます。

 また、ご質問の医薬品は前述のとおり麻酔剤であり、これを使用することは麻酔行 為に該当すると考えられますが、麻酔行為に間する疑義については、「麻酔行為につ いて(昭和40年7月1日医事第48号」において、概ね次のとおりの見解が示されてい ます。

一、麻酔行為は医行為であるので医師、看護婦、准看護婦でない者が、医師の指示の 下に、業として麻酔行為の全課程に徒事することは、医師法又は保健婦助産婦看護婦 法に違反するものと解される。

二、看護婦が診療の補助の範囲を超えて、業として麻酔行為を行うことは、医師法違 反になるものと解される。

三、吸入法による麻酔の下に患者を手術する場合、実態上医師の指示がないか、又は 医師が指示することが通常不可能と考えられる状態において、医師でない者が麻酔行 為を行うことは医師法又は保健婦助産婦看護婦法に違反するものと考えられる。


救急医療ジャーナルホームページに戻る目次リストへもどる