この原稿は救急医療ジャーナル'95第3巻第3号(通巻第13号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 13


「乳酸加リンゲル液を輸液目的以外の目的で使用できないか。」  救急救命士になるにあたり、薬理学を学びました。 しかし現在、高規格救急車 に積み込まれ、救急救命士が使用できる薬剤は、静脈路確保の際に輸液剤として使わ れる乳酸加リンゲル液のみです。

 そこで質問ですが、別の目的、たとえば、腸管脱出などの事故で、乳酸加リンゲル 液をガーゼに湿らせ腸管の乾燥防止として使用することは、薬事法に触れるのでしょ うか。車内での清潔な水といえば、とりあえず乳酸加リンゲル液しかありません。

 また、傷病者の創傷部が泥だらけになっていても、水で洗い流すことぐらいしかで きません。消毒剤を用いて、泥を除去することが望ましいと思いますが、乳酸加リン ゲル液で消毒することは、法律上認められないのでしょうか。実施可能なら、どのよ うな消毒剤を用いればよいでしょうか。

 救急救命士の業務は、

 (1) 救急隊員であれば行うことができる応急処置、
 (2) 医師の包括的な指示の下に行うことのできる処置、
 (3) 医師の具体的な指示の下に行う

ことのできる処置の三つに大別されています。

 そこでご質問にあります、乾燥防止の目的で湿ガーゼにより腸管を覆う行為や創傷 の泥を洗う行為は、「救急隊員の行う応急処置等の基準」の第6条第1項(七)その 他「傷病者の生命の維持又は症状の悪化の防止に必要と認められる処置」にあたりま すから、(1) の救急隊員であれば行うことができる応急処置に含まれ、これらの行為 を救急救命士が行うことは法的には問題はないものと思われます。

 次に、これらの処置に際して乳酸加リンゲル液を使用することについてですが、薬 事法は、医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療用具の品質、有効性及び安全性の確保 のために必要な規制を行うこと等を目的としており、使用すること自体は、薬事法違 反かどうかという問題には直接つながらないものです。むしろ、本末静脈路を確保す るための輸液である乳酸加リンゲル液を、洗浄や保湿に使用することが医学的に適切 か否かの判断が必要になってくると思われます。

 腸管の保湿を、あえてガーゼを湿らすのには使用しにくい乳酸加リンゲル液を使っ てまで急がなければならないかどうかは、腸管脱出の状況や、搬送に要する時間など の諸条件を考慮する必要があり、一律にいうことはできません。

 また、創傷の消毒については、乳酸加リンゲル液には消毒効果はありませんので、 消毒の目的で使用するのは不適切です。しかし、汚染した創傷を洗浄する目的であれ ば、創傷の部位にもよりますが、有効な場合もあるでしょう。

 ただし、これも一般に乳酸加リンゲル液のボトルは洗浄に使用されるようにはでき ていませんから、あえて使いにくい乳酸加リンゲル液を使用してまで洗浄しなければ ならないほどの状況か否かは、創傷の部位、状況、搬送に要する時間などの諸般の事 情を考慮して判断すべきものと思われます。

 なお、これらの処置にはいずれも洗浄用の生埋食塩水を使用するのが一般的であり 、このような処置の必要な場面が度々あるのであれば、洗浄用生埋食塩水を救急車内 に常備しておかれた方が好ましいのではないでしょうか。


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