この原稿は救急医療ジャーナル'94第2巻第5号(通巻第9号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 9


「救急救命士は勤務外に特定行為を行えるか。」  救急救命士が家族と旅行中(他県)、宿泊していたホテルで急病人が発生しました。まもなく高規格救急車が到着しましたが、あいにく救急救命士が公休のため乗車していませんでした。患者さんは心肺停止状態でした。

 そこで4点ほど質問いたします。・旅行中の救急救命士が、管轄外で、医師の指示を受けて救急救命士法第44条の特定行為ができるか、・救急救命処置を実施した場合、救急救命士法第46条の救急救命処置録の記載はどこで行うのか(救急車の出場した消防本部か、旅行中の救急救命士の所属する消防本部か)、・救急救命士の行った特定行為に対する責任の所在は、・救急救命士に指示する「医師」とは、歯科医師も含まれるのか。

 救急医療については、受け入れ側の医療機関の体制はおおむね整備されてきていますが、病院または診療所に搬送されるまでの間の、傷病者に対する救急救命処置については必ずしも十分ではなく、処置の確保が重要な課題となってきています。

 そのため、医師が救急車等に同乗して必要な処置を行っていく体制を確保するとともに、医師の指示の下に、搬送途上において必要性の高い救急救命処置を行うことができる新たな資格制度を設ける必要性が、生じてきました。このような現状から、創設されたのが、救急救命士制度です。

 救急救命士は、救急救命士法第43条第1項により、「救急救命処置を行うことができる」とされています。これは逆にいうと、救急救命士が診療の補助として行える行為が、救急救命処置のみであることを表します。

 さらに、厚生省令で定める救急救命処置(いわゆる特定行為)については、救急救命士法第44条第1項により、医師の具体的な指示を受けなければ行ってはならないと、規定されています。これは、これらの行為がいかなる状況においてなされるべきかについて、高度かつ専門的な知識が必要であることから、医師の適切な判断を待つことによって、患者の生命の安全をより確実なものにする、という趣旨です。なお、救急救命士法施行規則第21条に、特定行為として・半自動式除細動器による除細動、・乳酸加リンゲル液を用いた静脈路の確保のための輸液、・食道閉鎖式エアウェイ又はラリンゲアルマスクによる気道確保が定められています。

 ご質問のケースについてお答えします。

 ・救急救命士の管轄は、行政上の便宣を目的として設けられている制度にすぎません。したがって、たとえ管轄外であっても、救急救命士が医師の指示を受けて特定行為を行うのである限り、救急救命士法第荷44第1項の趣旨に反するものではないので、可能です。

 ・救急救命処置録については、救急救命止法第46条第2項(および規則第24条)において、(イ)病院又は診療所に勤務する救急救命士の救急救命処置に関する救急救命処置録については、当該病院又は診療所の管理者、(ロ)消防機関に勤務する救急救命士の救急救命処置に関する救急救命処置録については当該消防機関の長、(ハ)その他の救急救命処置に関する救急救命処置録については、その救急救命士が記載の日から5年間保存することを義務づけられています。

 このケースは、通常の勤務時間外であり、(ハ)に当たると考えられますので、救急救命処置録の記載は、救急救命士自身が行い、みずから保有します。

 ・救急救命士の行った特定行為によって、患者の症状がかえって悪化したり後遺症が残った場合、症状の悪化や後遺症と救急救命士の行った救急救命処置との間に因果関孫はあるか、また、その救急救命処置を行うに当たり、診断や処置内容に誤りがなかったか、などについて明確にする必要があります。

 このような具体的な行為内容等については、行政庁の調査権が及ぶ範囲外であり、実際に事故が発生し、救急救命処置を受けた傷病者に被害が発生したときに、賠償請求の訴訟などを通じ、法廷において個別具体例ごとに明らかになる性格のものです。

 また、被害者に賠償請求権が認められた場合の医師と救急救命士の負担割合についても、一概には決められません。

 ・通常、法律上”医師”というときは、医療法上の「医師」を意味します。したがって、救急救命士に指示する「医師」の中には、歯科医師は含まれません。


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