この原稿は救急医療ジャーナル'94第2巻第4号(通巻第8号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 8


「救急救命処置を行う場所および気管内挿管について」  救急救命士の資格を持つ看護士です。現在ほとんどの医療機関では、看護婦(士)には除細動や気管内挿管は認められておらず、医師による医行為と認識されています。

 そこで質問ですが、救急救命士の業務は、やはり医療機関へ向かう救急用自動車内だけでしか認められないのでしょうか。また、救急救命士による医行為として現在は認められていない気管内挿管を、今後、認めるという動きはありますか。

 わが国では法令上、「医行為」を業(反復・継続して行う)として行うことができるのは医師のみ(医師法第17条)ですが、医行為の中でも比較的患者に対して影響の小さい行為については、「診療の補助」として看護婦等が行うことができるとされています。

 これは、医行為および診療の補助は患者の生命に重大な影響を与えるため、これらを業として行うには一定の知識および技能を有することが必要であり、そうした知識および技能を有することが証明された者のみが行えるよう、法的に現制されているのです。

 同様に「救急救命処置」は、対象が重度傷病者(その症状が著しく悪化するおそれがあり、またはその生命が危険な状態にある傷病者)のうち心肺機能停止状態の患者であり、危険を伴うものであることから、救急救命士法により資格を定め、その業務が適正に運用されるよう規律を定めてあうます。

 この中で、救急救命士の業務について「診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができる」(第43条)とし、さらに同44条第1項「医師の具体的な指示を受けなけれぱ、厚生省令で定める救急救命処置を行ってはならない」(「厚生省令で定める救急救命処置」とは、・半自動式除細動器による除細動・乳酸加リンゲル液を用いた静脈路の確保のための輸液、・食道閉鎖式エアウェイまたはラリンゲアルマスクによる気道確保の3つの処置{救急救命士法施行規則第21条}をいう)と、行いうる処置を制限したうえで、同第2項で、場所について、通信設備などを備えた救急用自動車等および救急現場以外の場所で救急救命処置を行うことを禁じています。

 したがって、緊急避難的にやむなく行ったと判断される場合を除いて(たとえば、駅でたまたま救急患者にでくわしたなど)、救急救命士が救急用自動車および救急現場以外の場所で救急救命処置を行うことは現行制度の下では認められないわけです。また、医師の具体的な指示なしに救急処置を行うことは認められていません。

 気管内挿管については早い時期から検討されていますが、気管内挿管を適切に行うには一定の訓練を要することや、気管内チューブを誤って食道に挿入した場合、患者を極めて危険な状態に陥れることになることなどから、2千時間の養成課程を前提とすると、救急救命士がこれを行うことは困難であるとされました。

 わが国では救急救命士制度が発足して間もないため、当面制度改正が行われることはないと思われますが、制度が普及し、救急救命士の方々が現行制度の枠内で実績を積み重ねていったうえで、議論されるべきでしょう。


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