この原稿は救急医療ジャーナル'94第2巻第3号(通巻第7号)「救急救命法律講座」のページ を収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 7


「自動充電ができないときのために半自動式除細動器にマニュアル操作モードを。」  救急救命士は医師の指示のもとに、半自動式除細動器を使用し、除細動を行うことができますが、現在の半自動式除細動器に備わっている機能は十分でないように思います。たとえば、心室細動波形の問題もその一つです。傷病者に心室細動波形がみられる場合、半自動式除細動器から医師に伝送される心電図では明らかに心室細動波形がみられ、医師からは除細動の指示がきます。ところが、現在使われている半自動式除細動器では、機器の性能上、心室細動波形と認識できず、すぐには自動充電できないため除細動ができません。

 しかし、半自動式除細動器にマニュアル操作モード機能を備えることができれば、医師の指示のもとに救急救命士がマニュアル操作に切り替え、充電・放電を実施することができます。このような機器が開発された場合、救急救命士は使用可能でしょうか。

 救急救命士は、医師の具体的指示のもとに、いわゆる特定行為を行うことができますが、この特定行為の内容については、以前にも申し上げた通り、有識者からなる検討会(救急医療体制検討会及び同小委員会)での議論の結果に基づいて決められます。小委員会の報告書では、新たな資格制度の創設を提言するにあたり、その資格者が行うことができる特定行為を具体的に示しています。

 その中で、「心肺機能停止状態にある患者に対して、心室細動状態のとき、半自動式除細動器を使用することにより心室細動を除去し正常のリズムに戻す」ことが、救急救命士が行うことができる行為の一つとされています。

 このように、救急救命士が行うことができる処置の範囲は、極めて限定的に規定されていますが、これは救急救命士の養成課程が医師の養成課程に比べて、期間がかなり短いことに起因しています。 p> つまり、救急救命処置を適切に行うためには一定水準以上の医学的知識が要求されるため、原則として6年間の養成課程を経て国家試験に合格した医師が行うべきですが、救急救命士については、2年間(一定の要件に適合する救急隊員については6か月間または1年間)の養成課程により、このような限定的な範囲の処置のみを行うことができるように措置されています。

 とくに、救急救命処置のうち特定行為については、医学的判断が必要であり、かつ、処置による二次的障害発生の危険性もあり、総合的な医学的知識および技能が要求されるものであることから、医師の具体的な指示がなければ救急救命士は行うことができません。たとえば、特定行為を行う前提となる心肺機能停止状態の判定についても、医師が救急救命士と密接に連絡をとって、心臓機能停止および呼吸機能停止の状態を判断することになり、医師の具体的指示が必要となります。

 除細動を行う場合、医師の具体的指示には除細動の適否、除細動のエネルギー量、除細動が不成功の場合の対応方法などが含まれると考えられます。半自動式除細動器では、医師の具体的指示の確認だけですみますが、手動式の除細動器を用いた場合、心電図伝送がうまくいかず、心室細動の判断が難しい場合や具体的指示が確実に実行できない場合など、かえって患者の生命を危険な状態に陥れる可能性が大きくなるなどの問題があります。


「大都市の救命救急センターで病院研修を受けたい。他県からの参加はできるか。」  地方都市の消防署に勤務する救急救命士です。救急救命研修所で研修を受け、現場に出て約2年。実地での経験を重ねるごとに病院研修を受けたいという思いを強くしています。できれば大都市の救命救急センターの研修を受けてみたいのですが、他県からでも希望の医療機関に行くことは可能でしょうか。

 制度の発足以来、救急救命士の受験資格を得るために必要な課程を実施する養成所が年々増加していますが、その一方で、資格取得後の救急救命士に対し、医療技術の進歩に伴って新たな知識の普及を推進するとともに、日常の搬送業務を行っている際には経験できない救急医療施設内の見学や、救急医療の担当医師等との触れ合いの機会が得られるよう、厚生省では、平成4年度より救急救命士実地練習事業を実施してい ます。

 具体的には、都道府県を経由して受講参加希望者を募り、(財)日本救急医療研修財団に委託して数日の集合研修を講義形式で行ったあと、各地の救命救急センターにおいて数週間の臨床実習が行われます。

 現在、全国で16の救命救急センターで研修生を受け入れていただいていますが、各実習施設では、日常の業務と並行して研修を行っているため、受け入れることができる研修生の数には限度があります。

 このため、募集にあたって、各研修生から実習施設の希望を間いており、できるだけこれに沿えるように努力しています。実習を希望する施設に偏りがあるため、実際に研修生がどの施設で実習を受けるかを決めるにあたり、希望のすべてに応じることは、現実ノは不可能です。

 また、都市部での研修をご希望とのことですが、現在研修生の受け入れをお願いしている救命救急センターのうち半数近くが首都圏にあり、大部分が関東または関西の都市部にありますから、結果的に希望どおりになる可能性は高いと思います。

 ただ、この研修の目的の一つとして、救急隊員の方が普段接する機会のない救急医療担当医師との接触の機会を設けることがあります。この趣旨からみると、むしろ現在救急業務を行っている地域の救命救急センターで実習を受けるのが最も望ましいと考えられます。

 とくに、医療施設は地域医療の確保という観点から、都道府県の医療計画により増床などに一定の制約を受けており、また、救命救急センターについても、人ロ100万人につき1か所または人口30万人以上の二次医療圏に1か所といった基準で整備が進められています。

 地域における救急医療の充実を図るという観点からは、このような枠組みの中で消防機関と医療機関が一層の連携を図っていくことが重要と考えられます。


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