この原稿は救急医療ジャーナル'93第1巻第4号(通巻第4号) 「救急救命法律講座」のページを収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 4


「救急救命士が使用する指定資器材を搬送先の病院が使い慣れていないため混乱。」  救急救命士が使用する9項目指定資器材のうち、とくにショックパンツや自動心マッサージ器などは院内で使うことが少ないといわれているようです。私の地域でも受け入れ先の医療機関がショックパンツ の対応に手間取り、とまどったことがあります。スムーズに業務を引き継ぐために、 搬送と受け入れの双方共通のプロトコールなどが設けられる可能性はないでしょうか。

 救急救命士は、救急救命処置を専門に行う資格として、比較的短期間の養成課程で資格を取得できる一方、行うことのできる処置の範囲や使用することのできる機器が制限されていま す。しかし、養成課程や試験の内容は救急救命処置に関する知識・技能を集中的に修得できるものとなっており、この分野に 関わる専門の資格として「救急救命士」の名称を独占的に使用することができます。

 一方、医師や看護婦は医療全般に関わる資格ですが、とくに救急医療施設に勤める 場合は、さらに救急 医療に関する専門的な知識を修得する必要があります。同時に、実際に救急車から患 者を受け入れ、適切 な処置を迅速に施すためには、救急隊員との連携を十分に図る必要があることから、 救急救命士の業務や 使用する器具など、プレホスピタルケアに関する知識も身につけておく必要がありま す。

 このため、参加は任意ですが、救急医療実地研修などの研修が救急医療に携わる看 護婦等のために設け られています。種々の制約があり、希望者のすべてを受け入れるだけの体制は整って いませんが、救急医 療一般に関する知識・技能の修得のほか、最新の技術を身につける上でも有効である ことから、このよう な研修の拡充が求められています。同様に救急救命士の側からみても、受け入れる医 療施設との連携を図 るためには、救急医療に関する知識を身につけておくことが望ましいことから、救急 救命士に対する実地 修練も設けられています。

 また、救急隊員が用いるショックパンツなどの器具は、搬送途上や救急現場で医師 がいない場合など緊 急の場合に用いられるもので、通常医療機関には備え付けられておらず、一般の医療 機関では取り扱い方 法がわからない場合もあるようです。

 救急医療はその性質上緊急事態下に行われることが多く、また、救急救命士が医師 の指示の下に特定行 為などの救急救命処置を行うことなどからも、適切な救急医療の実施にあたっては、 関係者間の連携、と くに救急隊員と救急医療機関の従事者の間の連携が極めて重要で、日頃からこのよう な特殊な機器の取り 扱い方法も含め、相互の理解を深めることが必要と考えられます。


「アメリカのパラメディックの救急活動の内容を知りたい。」  アメリカでは、日本の救急救命士にあたるパラメディックが実施する医療行為の 範囲が日本と比べて 大きいと聞きました。たとえばどのような器具を使え、どのような処置ができるのか 、教えてください。

 また、パラメディックに合流して研修を受けることはできないでしょうか。

 救急救命士制度はプレホスピタルケアを担う医療資格として導入されましたが、 その際、アメリカの パラメディックの制度が参考にされています。

 しかし、アメリカの場合、救急体制自体が日本とはかなり異なっており、たとえば 、救急業務を担う主 体も自治体の消防機関のほか、州によっては警察や民間に委託することによって実施 されていますし、救 命率という概念についても州によって異なります。

 パラメディックの資格についても州法で定められており、養成課程や行うことので きる処置の範囲は州 によってかなり異なります。

 たとえば、養成期間についてみると、連邦政府のガイドラインでは723時間とな っていますが、実際 に各州で行っている養成課程は、百数十時間程度から、多いところでは3千時間近く に至るまで、広い範 囲でばらついています。

 また、行うことができる処置の範囲も州によって異なりますが、おおよそつぎのと おりです。

・気道確保:口腔内の清掃、口腔内の吸引、背部叩打法またはハイムリック法による 喉頭異物の除去、頭部後屈または下顎挙上による気道確保、気管内の吸引、気管内挿管
・人工呼吸:呼気吹き込み法、手動式人工呼吸、自動式人工呼吸、用手人工呼吸
・用手胸骨圧迫マッサージ
・酸素吸入
・止血:直接圧迫止血、間接圧迫止血、ショックパンツ
・創傷処置:ガーゼによる被覆包帯
・骨折処置:副子による固定
・体位:傷病者に適した体位変換
・保温
・その他:静脈路の確保と薬剤投与、除細動、聴診器・血圧計の使用など

 また、日本の救急隊員や救急救命士の制度は日本の国内においてのみ適用されるも ので、アメリカでパラメディックの行う処置を実施するためには現地で資格を取得する必要があります。


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