この原稿は救急医療ジャーナル'93第1巻第3号(通巻第3号)「救急救命法律講座」のページを収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただ きました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 3


「会社員。救急救命士の受験資格を得るため学校に行きたい。」  工業高校を卒業後、医療福祉機器の会社に入り2年目ですが、会社をやめて救急救命士になりたいと 思っています。消防署の職員以外は、特別な学校で勉強してからでなければ受験する ことができないとい うことですが、学校はどこにあるのか、どのような基準で学校を選べばよいのか、ま た就職状況はどうな のかなどを教えて下さい。

 救急救命士国家試験は筆記試験のみですから、かれだけでは救急救命士として必 要な知識及び技能を 有するかどうかを判断することは困難です。このため、一定の養成課程を修了するこ となどの条件を満た す者でなければ、救急救命士国家試験を受験できないとされています。

 受験資格にはいくつかあって、たとえば救急隊員の方であれば、いわゆる救急「課 程を修了し、5年ま たは2千時間以上救急業務に従事し、かつ厚生大臣が指定した救急救命士養成所等で 1年間または6か月 間必要な技能・知識を修得すれば、受験資格を得ることができます(救急救命士法第 34条第4号、同施 行規則第14〜16条)。

 救急隊員や、医師、看護婦以外の一般の方々の場合は、大学に入学することができ る者(高校を卒業し ていればよい)であれば、救急救命士養成所等で2年間必要な技能・知識を修得すれ ば救急救命士国家試 験の受験資格を得ることができます。

 さて、このような救急救命士養成所等を開設するには、学校の場合は文部大臣の、 養成所の場合は厚生 大臣の指定を受ける必要がありますが(救急救命士法第34条)、そのための条件は 、救急救命士学校養 成所指定規則と救急救命士養成所指導要領に規定されています。

 現在のところ、全国で13の養成所が厚生大臣の指定を受けていますが、そのうち 10か所は自治体の 消防学校内に設けられたものなので、救急隊員を対象とした6か月の課程となってい ます。

 一般の方を対象とした2年課程の養成所は、次の3か所です。
●北海道ハイテクノロジー専門学校救急救命士学科(定員40人)
 住所:北海道恵庭市恵み野北2-12-1
●熊本総合医療福祉学院救急救命学科学科(定員40人)
 住所:熊本県熊本市小山町920-2
●湘央生命科学技術専門学校救急救命学科学科(定員40人)
 住所:神奈川県綾瀬市小園1424-4

 これらのうち、どの養成所が優れているかということは一概にはいえません。いず れも救急救命士養成 所として指定される条件を満たしており、修了すれば救急救命士の受験資格を得られ ますので、最寄りの 養成所を選べばよいでしょう。そのほか、周辺の環境など詳細については、直接これ らの養成所にお問い 合わせください。

 救急救命士の資格取得後の就職先については、今までの実績がないためお答えする のが難しいのですが、 ドクターカーを導入している救急医療機関などが考えられます。


「救急救命士法で定める特定行為の対象傷病者について。」  心肺停止状態と判断され心肺蘇生処置を実施中、特定行為を実施する前に、脈拍または呼吸(あるいは両方とも)が回復する徴候を認めた場合においても、確実な気道確保のための器具を使用した気道確保、あるいは静脈路確保のための輸液などの特定行為を実施する対象者と考えてよいのでしょうか。それとも、 このような場合は特定行為の対象者とせず、従来の処置のままで搬送する方がよいの でしょうか。

 また、回復徴候が認められる場合でも実施可能な特定行為があればご指導をお願い いたします。

 救急救命士は、医師の指示の下に、診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができます。これは逆にいうと、救急救命士が診療の補助として行うことができる行為は、 救急救命処置のみであることを表します(救急救命士法第43条第1項)。

 救急救命士の業務については、このような業務内容のほかにもいくつかの制限があ ります。

 一つは場所に関する制限で、救急救命士は通信設備などを備えた救急用自動車等お よび救急現場以外の 場所で救急救命処置を行うことができません(法第44条第2項、同施行規則第22 条)。医師、看護婦 をはじめ診療放射線技師、臨床検査技師など他の医療関係職種で、資格法上で業務を 行う場所が制限され ているものはなく、救急救命士の大きな特徴の一つとなっています。

 また、救急救命処置のうちいわゆる特定行為は、医師の具体的指示に基づき、心肺 機能停止状態の患者 に対して行う場合しか認められていません。つまり、個別ケースごとに医師が診断し 、指示する必要があ ります。

 以上からわかりますように、実際に救急救命士が特定行為を行う前に、まず医師が 、患者が心肺機能停 止状態にあり、緊急に特定行為を行う必要があると判断しなければなりません。

 このような判断を行うために必要な情報は、救急現場から救急救命士を通じ、無線 機や電話、心電図電 送装置などで医師に伝えられます。

 具体的にはA血圧、体温などの全身状態、心電図、聴診器により観察した呼吸状態 などが医師に伝えら れます。

 医師は、これらの情報に基づき、心機能停止状態については、心室細動、心静止、 電導収縮解離である か、または意識の有無や頸動脈、大腿動脈の拍動の有無などにより判断し、肺機能停 止状態については、 自発呼吸の有無により判断します。

 さて、ご質問のケースですが、一度心肺機能停止状態に陥った患者が自発的に回復 に向かうことはまず 考えられないと思いますが、医師がいったん心肺機能停止状態にあると判断し、特定 行為を施すよう指示 した後に脈拍または呼吸の状態が悪化した場合、再び心肺機能停止状態に陥る可能性 があるなど、危険な 状態であることは変わりません。回復する方向にあるかどうか、引き続き、または再 び特定行為などの処 置を行う必要があるかどうかといったことは、密接に医師と連絡を取り、十分な情報 を送った上で医師の 判断を得る必要があります。

 救急救命士が、患者が回復傾向にあると自ら判断し、必要な処置を行わない、ある いは中止することは 危険ですから、その都度医師に状況を報告し、指示を仰がねばなりません。


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