この原稿は救急医療ジャーナル'93第1巻第2号(通巻第2号)「救急救命法律講座」のページを収載したものです。本シリーズのホームページ収載にご協力をいただきました厚生省健康制作局に深謝申し上げます。

救急救命法律講座 2


「業務拡大によって、救急隊員が医療行為をできないか。」  救急救命士制度を設けず、救急隊員が医療行為をすることはできないのでしょうか。これまで行って きた応急手当の範囲を拡大することで可能ではないかと思うのですが。

 救急隊員の方々は、以前より重篤な傷病者の搬送にあたって緊急に必要な場合に、一定の範囲で応急手当を行ってきました。

 しかし、近年の交通事故の増加などを背景として、心肺機能停止状態で医療機関に 搬入される傷病者が 増えるにしたがって、このような傷病者に対しては一刻も早く気道確保などの処置を 行うことが必要であ ることから、救急隊員もこのような処置が行えるようにすべきであるとの声が高まり ました。

 しかし、器具を用いた気道確保などの処置は、傷病者の生命に重大な影響を及ぼす ものであり、十分な 知識や技能を持たないものが行った場合、その傷病者の生命は重大なリスクにさらさ れます。

 一方、わが国では法令上、「医行為」を業として行う(反復・継続して行う)こと ができるのは医師の み(医師法第17条)ですが、医行為のなかでも危険性が比較的小さい行為について は、「診療の補助」 として看護婦等が行うことができることとされています。

 医行為および診療の補助は患者の生命に重大な影響を与えるため、これらを業とし て行うには、一定の 知識および技能を有することが必要であり、そのような知識および技能を有すること が証明された者のみ が行えるよう、法的に規制されているのです。

 このことを、医業は医師の、そして診療の補助は看護婦および準看護婦の業務独占 であるといいます。

 また、歯科医業は歯科医師の業務独占とされています。理学療法士など、その他の ほとんどの医療関係 の資格については、そのような資格を規定した法律で、保健婦助産婦看護婦法の規定 にかかわらず、一定 範囲の業務を診療の補助として行うことができるとされています。

 このような法体系の下で、救急隊員の方々が器具を用いた気道確保などの救急救命 処置を行えるように するためには、他の医療関係の資格と同様、そのような処置を行うことができる資格 を法律で定める必要 があります。

 同法第43条第1項では、他の医療関係の資格と同様、保健婦助産婦看護婦法の規 定にかかわらず、「診 療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができる」旨が規定されてい ます。

 なお、「業務独占」に対し「名称独占」という概念があり、救急救命士についても 、法第47条で「救 急救命士でない者は、救急救命士又はこれに紛らわしい名称を使用してはならない。 」と規定されていま す。

 救急救命士など医療関係の資格の場合、厳密には名称独占のみの資格ですが、前述 の通り看護婦等の業 務独占を解除することで、実質的に業務独占となっています。


「准看護婦。救急救命士の国家試験を受けたい。」  准看護婦で勤続5年目、救急救命士国家試験を受けたいと思っています。私にも 受験資格はあるでし ょうか。

 救急隊員ばかりでなく、看護婦(士)等の医療関係の資格をお持ちの方々の間で も、救急救命士に対 する関心は高く、とくに救急医療機関に勤務している看護婦の方々からは、救急救命 士の資格を取得した いとの声がよく聞かれます。

 救急救命士をはじめ、医療従事者の国家資格を取得するには、国家試験に合格する ことが必要ですが、 資格を付与することができるかどうかを試験のみで判断するのは困難であるため、受 験資格として一定の 学習課程や実務経験等が条件とされています。

 救急救命士の場合、救急救命士法第34条に受験資格として5つの項目が列挙され ていますが、それぞ れについて具体的に例示すると、・高校を卒業して2年間の救急救命士養成課程を修 了した方、・看護婦 養成所等で一定科目を修め、1年間の救急救命士養成課程を修了した方、・医科大学 で一定科目を修めて 卒業した方、・消防隊員として一定の経験と講習を終了し、1年(または6か月)の 救急救命士養成課程 を修了した方、・海外で医療関係の資格を取得し、厚生大臣の認定を受けた方、など がそれぞれ該当する ことになります。

 なお、・、・および・の救急救命士養成課程が行われる養成所等については、救急 救命士学校養成所指 定規則で、施設や設備、カリキュラム等について詳細に規定されているほか、厚生省 告示により、・で修 得する必要のある科目は、公衆衛生学、医学概論、解剖学、生理学、薬理学、病理学 、生化学、微生物学、 看護学概論、内科学、外科学、小児科学、産婦人科学、整形外科学、脳外科学、精神 医学および放射線医 学の17科目のうちの13科目、・で修得する必要のある科目は、公衆衛生学、解剖 学、生理学、薬理学、 病理学、生化学、微生物学、内科学、外科学、小児科学、産婦人科学、整形外科学、 脳外科学、精神医学、 放射線医学および臨床実習の全16科目と規定されています。

 以上のほか、法附則第2条により、法施行の際(平成3年8月15日)「現に救急 救命士として必要な 知識及び技能の修得を終えている者又は現に救急救命士として必要な知識及び技能を 修得中であり、その 修得を法施行後に終えた者」で、厚生大臣の認定を受けた者に対しては、特例として 受験資格が与えられ ます。具体的には、たとえば、平成3年8月15日の時点で正看護婦の養成課程を修 了していたか、また は修得中でその養成課程を修了した方がこれに該当し、厚生大臣の認定を受ければ救 急救命士国家試験を 受験することができます。

 さて、ご質問のケースのように、准看護婦の資格をお持ちの方が一定の実務経験を 経た場合につきまし ても、それだけでは前述の受験資格の・〜・のいずれにも該当しないことから、改め て2年間の救急救命 士養成課程を修了する必要があります。

 救急救命士は、診療の補助として救急救命処置を行うことを業とすることができま すが、一方、准看護 婦は診療の補助行為一般を業とすることができるので、准看護婦の資格があれば、救 急救命処置を行って も法令に違反することになりません。しかし、病院内で医師の管理下に行われる診療 の補助と異なり、救 急救命士の場合は、救急車等による患者の搬送途上において、無線などによる医師の 指示の下に救急救命 処置を行うわけですから、やはり救急救命士としての訓練を受けた者が行った方がよ り適切に行えるでし ょうし、看護婦等にあっても救急救命処置を業として行う場合には、原則として救急 救命士の資格を取得 するような能力を持つことが望ましいとされています。

 なお、救急救命士養成所では、2年間の講習および実習を修了することが必要です が、看護婦等養成所 においても履修している科目については履修免除を受けることができます。


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